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#037 その問題、どこを押してみる?

仕事がなかなか前に進まないとき、私たちは目の前で止まっている場所を何とかしようとします。
でも、相談する相手や働きかける場所を少し変えただけで、急に話が動き出すことがあります。

今回は、そんな「どこに働きかけるか」について考えます。



仕事をしていると、同じくらい難しい問題に向き合っているはずなのに、なぜか話を前へ進めるのが早い人がいる。

何でも知っているわけではないし、すべてを自分で解決しているわけでもない。むしろ分からないことが出てきたとき、「これは自分で調べ続けるより、あの人に聞いた方が早い」「この話は担当者同士で詰めるより、先に決められる人へ持っていった方がいい」と、相談する相手や順番を迷わず変えていることがある。

一方で、仕事が動かないときほど、私たちは目の前にある場所で何とかしようとする。説明が足りないと思えば資料を詳しくし、回答が来なければ催促する。それでも動かなければ、さらに詳しく説明し、さらに強く催促する。

どれも、間違っているわけではない。

それでも動かなかった話が、相談する相手を一人変えただけで、急に前へ進むことがある。

問題そのものが変わったわけではない。新しい解決策が生まれたとも限らない。

変わったのは、問題に対して「どこを押したか」だった。


問題が見える場所を、私たちは押したくなる

問題が起きれば、まずその場所に目が向く。

会議が長ければ会議を改善し、購買で仕事が滞っていれば購買の処理を速くする。部下が動かなければ部下への指示を見直し、顧客からの問い合わせが増えれば顧客対応を強化する。

これは、とても自然な反応だと思う。

問題は、起きている場所で最もよく見える。だから、その場所に原因があり、そこを変えれば問題もなくなるように感じる。

けれど、仕事は一つの場所だけで完結しているわけではない。人から人へ情報が渡り、どこかで判断され、その判断を受けて別の人が動く。そこには仕事の順序やルールがあり、ときには評価の仕組みや過去の経緯まで影響している。

そうしたつながりの中で仕事が動いているなら、

問題が見えている場所と、変化を与える場所は、同じとは限らない。


止まっている場所と、押す場所

製造工程を考えると、この違いは分かりやすい。

いくつもの工程を通って製品がつくられているとき、ある工程の処理能力が足りなければ、そこに仕掛品が溜まり、全体の流れが遅くなる。ボトルネックを見つけることで、どこで流れが滞っているのかは見えるようになる。

ただ、流れが止まっている場所が、そのまま押すべき場所だとは限らない。

前工程から流れてくる品質が安定せず、手直しに時間がかかっているのかもしれない。頻繁に段取り替えが発生する生産計画になっているのかもしれないし、必要な情報が届くタイミングによって作業が止まっているのかもしれない。

止まっている工程をどれだけ急かしても、前から届くものが変わらなければ、同じことは繰り返される。逆に、別の場所を少し変えただけで、止まっていた場所まで動き始めることがある。

ここでは、そんな場所を「作用点」と呼んでみる。

作用点は、単に重要な場所という意味ではない。

そこに与えた変化が、人や情報、工程などのつながりを通じて、その先へ影響していく場所だ。

だから作用点を探すときには、その点だけを見るのではなく、そこから先に何がつながっているのかを見る必要がある。

作用点はどこ?

原因が分かっても、そこを押すとは限らない

さらに考えてみると、作用点は「原因がある場所」とも限らない。

たとえば、ある資料に毎回ミスが発生していて、その原因を調べた結果、担当者の知識不足だと分かったとする。原因が分かったのだから、研修によって知識を増やす。これは筋の通った解決策だ。

ただ、その知識を身につけるには半年かかる一方で、入力時に三つの確認項目を追加すれば、明日からミスの大半を防げるとしたらどうだろう。

原因は依然として知識不足かもしれない。それでも、いま変化を与える場所としては、入力の仕組みの方が有効かもしれない。

つまり、

「なぜ起きたのか」を知ることと、「どこを押すのか」を決めることは、同じではない。

原因を探す視線は、問題がどこから生まれたのかを辿っていく。一方で作用点を見る視線は、ここに変化を与えたら、その影響がどこまで伝わるのかを見ようとする。

問題を理解するだけでなく、そこからどう働きかけるのか。

構造を見る意味も、ここで少し変わってくる。


仕事が速い人は、どこを押すかを見ている

最初の話へ戻る。

相談先をうまく選べる人は、単に人脈が広いから仕事が速いわけではない。知り合いが多くても、その問題を誰に持っていけば動くのかが分からなければ、仕事は進まない。

「あの人なら、この判断ができる人につないでくれる」「この人なら、過去に似た問題を扱った経緯を知っている」「これは技術の話に見えるけれど、実は先に予算を決めてもらった方が動く」。

そんなふうに、問題そのものだけではなく、

どこへ働きかければ、その先に変化が伝わるのか

を見ている。

組織図に描かれた役割だけでは分からない、人と人、情報と判断、ルールと行動のつながり。その中にある「押しボタン」を、経験的に知っているとも言える。

そして、そのボタンは人とは限らない。

情報を渡すタイミングかもしれないし、仕事を始める順番かもしれない。承認のルールや評価指標、一つの入力項目を変えることで、その先にいる複数の人の行動が変わることもある。

問題が大きいからといって、大きなものを変えなければならないとは限らない。

小さなボタンの先に、思っていたより大きなつながりが隠れていることもある。


どこを押してみる?

もちろん、最初から正しい押しボタンが分かるとは限らない。

仕事の構造は、外から眺めただけですべてが見えるほど単純ではない。誰が実質的に判断しているのか、どの情報が流れを止めているのか、どんなルールが人の行動に影響しているのかは、実際に関わってみなければ分からないことも多い。

だから、いきなり大きく変える必要はない。

「ここかもしれない」と思った場所を、小さく押してみる。相談する相手を変えたり、質問の仕方を変えたり、情報を渡す順番を変えたりしながら、その先で何が起きるのかを見る。

想定した場所が動けば、そこには影響が伝わるつながりがあったことが分かる。思いがけないところが反応すれば、これまで見えていなかった関係があるのかもしれない。何も変わらなかったとしても、自分が想定していた構造とは違ったことが分かる。

構造は、眺めることだけで見えるものではない。

小さく触れて、その影響がどこへ伝わるのかを見ることで、初めて見えてくるつながりもある。

問題が目の前に現れたとき、私たちはつい「どう直そう」と考える。

けれど、問題が見えている場所と、変化を与える場所は、同じとは限らない。

目の前にある問題を強く押し続ける前に、その周りにある人、情報、判断、ルール、順序へ少し視野を広げてみる。その中に、小さく触れるだけで、その影響が先へ伝わっていく場所があるかもしれない。

最初から正解を当てなくてもいい。

人差し指で確かめるように、まず一つ。

まずは、どこを押してみる?

作用点は、押しボタン

次に読むなら

構造が見えれば、「どこを押すか」は考えられる。
でも、本当にそこが動くかどうかは、外から見ているだけでは分からないことがあります。

次は、その世界に自分も入ってみることで、初めて見えてくるものを考えます。

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