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#033 AIで1万時間削減した。その時間、どこへ行きましたか?

AIで仕事が速くなり、削減できた時間が数字で見えるようになってきました。

年間1万時間。
それだけの時間が生まれたとしたら、会社はその分、何ができるようになったのでしょうか。

時間を減らした先で、本当に見るべきものを考えます。


AI活用が進み、「どれだけ時間を削減できたか」という数字を目にする機会が増えてきた。

資料作成にかかる時間が半分になった。議事録の作成がほぼ自動化された。調査や情報整理も速くなり、年間で数千時間、数万時間の削減効果が見込まれる。積み上げれば、その数字はかなり大きくなる。

仮に100人が、一日30分ずつ仕事を短縮できたとする。単純に足せば、一日50時間。月20営業日なら、約1,000時間になる。

では、その1,000時間によって、会社は何ができるようになったのだろう。

実際には、一人ひとりの仕事の中に30分ずつ散らばっている。そのまま既存業務の処理量が増えることもあれば、残業やコストの削減につながることもある。新しいことを試す時間として残る場合もある。

数字の上では1,000時間が削減されていても、会社の能力がどのように変わったのかは、その数字だけではわからない。

生産性向上を経営の視点から見るなら、もう一つ先を見る必要がある。


削減のあと、何を動かしたのか

仕事が速くなることには、それ自体に価値がある。

同じ人数でより多くの仕事を処理する。残業や外注を減らしてコストを回収する。個人に時間を残し、学習や改善、顧客との対話へ使う。複数の人の余力を束ね、新しい仕事を担う人を生み出す。

どれも、生産性向上の使い方になり得る。

重要なのは、同じ1,000時間を削減しても、その後に会社が手にするものは同じではないということだ。

削減によって、それまで既存業務へ向けていた人や能力の一部を、別の場所へ向けられるようになる。

つまり、生産性向上によって変わるのは、時間の量だけではない。

組織能力をどこへ向けるかという、配分の選択肢が増える。


その能力を、何に使うのか

ここで先に決めるべきなのは、余力を集めるか、個人に残すかではない。

何をできる会社にしたいのか。そのために、どんな仕事が必要なのか。

新規事業のように継続的な集中が必要なら、既存業務を縮小・移管・自動化し、一部の人を専任化する方法がある。

一方、顧客理解や小さな改善、新しいアイデアの探索を広く生み出したいなら、一人ひとりに能力を残す方法もある。共通のAIや情報基盤によって、それぞれの発見や試行錯誤を横につなげれば、組織を切り分けずに新しい活動を成立させることもできる。

集約するか、分散するかは目的ではない。

必要な仕事によって、必要な能力の置き方が変わる。


仕事から、組織を考える

会社には戦略があり、それを実現するための仕事がある。その仕事を成立させるために組織能力が必要になり、人や組織、仕組みが配置される。

構造として捉えるなら、

戦略
→ 必要な仕事
→ 必要な組織能力
→ 組織・役割
→ 人・AI・仕組み


という関係になる。

AIによる可能性の変化



もちろん現実には、今いる人の能力や制度、文化、既存顧客との関係など、多くの制約がある。組織能力を無視して、戦略から一方向に設計できるわけではない。

それでも、何を起点に考えるかで、見える選択肢は変わる。

現在の業務を起点にAI活用を考えれば、「この仕事をAIでどれだけ速くできるか」という問いになる。一方、戦略から必要な仕事を考えれば、「AIを含め、使える手段が変わった現在、この会社にはどんな仕事が必要なのか」という問いになる。

前者が今ある仕事の改善を考えるのに対して、後者では、今ある仕事そのものが検討対象になる。


仕事を成立させる条件が変わった

AIが変えているのは、既存業務に必要な時間だけではない。

これまで人が担っていた工程をAIへ移せるようになる。専門家に集中していた仕事の一部を、より多くの人が扱えるようになる。調査や準備をAIが担えば、人は判断や対話へより多くの能力を向けられる。

さらに、以前は時間やコストがかかりすぎて実施できなかった活動が、新しい仕事として成立することもある。

ここまで条件が変われば、現在の業務構成をそのまま前提にする必要はない。

残す仕事。縮める仕事。やめる仕事。AIへ移す仕事。人がより深く担う仕事。そして、新しくつくる仕事。

生産性向上によって生まれた能力をどこへ配分するかは、この仕事の組み替えとセットで考える必要がある。

「空いた時間を何に使うか」だけでなく、戦略から必要な仕事を捉え直し、そこへどの能力を配分するかまで考える。

そうすると、生産性向上は単なる効率化ではなく、会社が持つ仕事の構成を変える入口になる。


組織は、そのあとに動く

必要な仕事が変われば、それを成立させる組織能力も変わる。

継続的な集中が必要なら、能力を集約する。その結果として、専任チームや新しい組織が必要になるかもしれない。

現場から多くの探索を生み出したいなら、能力を分散させたまま、共通AIや情報基盤でつなぐ方が適しているかもしれない。

既存業務を少ない人数で担うなら、仕事の再配置や標準化も必要になる。

だから、組織を分けることにも、分けないことにも、それ自体に正解はない。

必要な仕事を成立させるために、どんな組織能力が必要なのか。その能力をどこへ配置するのか。

その選択の結果として、組織・役割・人・AI・仕組みの配置が変わる。

AIは、その設計を決める主語ではない。

使える手段が変わったことで、これまで固定されていた仕事と能力の組み合わせを、選び直せる範囲が広がっている。


「AIで年間1万時間を削減した」。

それがコスト削減として回収されたなら、明確な成果になる。既存事業の処理能力を高めることが戦略なら、そこへ使うことにも意味がある。

ただ、新しい顧客価値をつくる、現場の探索を増やす、新しい事業を生み出すといった目的を置くなら、削減時間を集計しただけでは成果はまだ見えない。

見るべきなのは、その先にある。

何時間減ったのか。

だけではなく、

どの組織能力を、どこへ再配分したのか。

そして、その結果として、

会社は何ができるようになったのか。

同じ1万時間を削減しても、その能力をどこへ向けるかによって、会社に生まれる変化は違う。

だから、削減時間を確認したあとに、もう一つ見る。

その時間によって動かせるようになった組織能力は、今、どこへ向かっているだろう。

組織能力の行き先


生産性向上の成果は、削減した時間ではなく、
再配分した組織能力に現れる。


次に読むなら

AIで時間を生み出すだけでは、組織の力が増えたとは限らない。では、そこで働く人が持つ知識や経験は、「会社の能力」になっているのでしょうか。

次は、個人に宿る知と、組織の能力の違いを考えます。

このテーマをもう少し広く読むなら


あなたの「問い」も、聞かせてください。

仕事や組織、AI、これからのこと。
まだ言葉になっていない違和感でも構いません。


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