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#018 みんな正しい。なのに、なぜ全体はうまくいかないのか

一人ひとりは正しい判断をしているのに、全体ではうまくいかないことがあります。

今回は、組織で起きる「部分と全体のズレ」について考えます。


月次の数字を見る。

営業は、売上目標を達成している。
購買は、仕入価格を下げた。
製造は、稼働率を上げた。
物流は、在庫を減らした。

それぞれの部門の報告を見る限り、悪くない。
むしろ、順調に見える。

ところが会社全体を見ると、少し様子が違う。

売上は伸びたのに、利益率が落ちている。
仕入価格は下がったのに、在庫金額は増えている。
工場の稼働率は上がったのに、納期は悪化している。

一つひとつの数字には、きちんと「○」がついている。

なのに、それらを並べても、会社全体の「○」にはならない。

誰かがサボったわけではない。
能力が足りなかったわけでもない。

むしろ、

みんな、自分の仕事をきちんとやっている。

では、何がうまくいっていないのでしょう。


複雑なものは、切り分けなければ扱えない

そもそも、なぜ会社には部門があるのでしょう。

営業。
購買。
製造。
物流。
品質。
経理。

会社という仕組みは複雑です。

顧客を見る。
商品をつくる。
仕入れる。
生産する。
品質を守る。
届ける。
お金を管理する。

これらすべてを、一人の人間が同時に扱うことはできません。

だから私たちは、複雑なものを扱える大きさに切り分けます。

会社を部門に切り分ける。
仕事を役割に切り分ける。
成果をKPIに切り分ける。
時間さえ、今期と来期に切り分ける。

そうすることで、誰が何をするのかが決まる。

責任を持てる。
成果を測れる。

そして、改善できる。

切り分けることは、組織の欠陥ではありません。

複雑な世界を、人間が扱うための方法です。


切り分けるから、最適化できる

営業には、売上目標がある。
購買には、調達目標がある。
製造には、生産性や稼働率がある。
物流には、在庫や配送効率がある。

切り分けたことで、それぞれが何を良くすればいいのかが分かります。

営業は、もっと売る。
購買は、もっと安く買う。
製造は、もっと効率よくつくる。
物流は、もっと在庫を減らす。

それぞれの領域の中では、とても合理的です。

ただし、

それぞれの「良い」が、必ずしも同じ方向を向いているとは限りません。


改善した問題は、どこへ行ったのか

たとえば購買が、仕入価格を10%下げたとします。

大きな成果です。

ただ、そのために発注ロットを大きくしたらどうでしょう。

仕入価格は下がる。

一方で、在庫が増える。

保管スペースが必要になる。
キャッシュが寝る。
需要が変われば、廃棄も発生する。

購買の数字だけを見れば、

コストを下げた。

でも会社全体から見ると、

コストが消えたのではなく、別の場所へ移っただけ

かもしれません。

同じことは、ほかにも起こります。

営業が売上を増やした結果、生産負荷が上がる。

製造が稼働率を上げた結果、急ぎ案件への柔軟性が落ちる。

在庫を減らした結果、欠品リスクが上がる。

今期利益を守った結果、来期への投資が減る。

一つの領域では「改善」。
別の領域から見ると「負担」。

部分最適は、誰かが「自分のことしか考えていない」から起こるとは限らない。

複雑な全体を切り分け、それぞれに目的を与えて最適化する。
その構造自体が、全体では望ましくない結果を生むことがある。


「どこが悪い?」では、見つからない

何かがうまくいかないとき、私たちは原因の場所を探します。

営業に問題があるのか。
購買なのか。
製造なのか。
物流なのか。

でも、それぞれを調べても、ちゃんと仕事をしている。

そんなときは、見る場所を少し変えてみます。

購買在庫。
営業製造。
製造顧客。
今期来期。

そして、

何が、どこからどこへ移ったのか。

を見る。

コスト。
負荷。
リスク。
時間。
責任。

一つの部分で生まれた「改善」は、その外側で何を起こしているのか。

問題が「間」から生まれるわけではありません。

切り分けた部分の中だけを見ていると、部分をまたいで起きた因果が見えなくなる。

だから、その「間」を見る。

部分最適の行く末



全員がもっと賢くなったら、解決するのか

ここで、AIを入れてみます。

営業には、売上を最大化するAI。
購買には、調達価格を最小化するAI。
製造には、生産効率を最大化するAI。
物流には、在庫を最小化するAI。

それぞれが人間より多くの情報を持ち、予測も正確で、判断も速い。

与えられた目的を、ほぼ完璧に最適化する。

では、会社全体も自動的に良くなるのでしょうか。

そうとは限りません。

それぞれが違うものを最適化しているからです。

目的のズレを残したまま能力だけを上げれば、

AIは部分最適を、より速く、より正確に実行する

可能性があります。

問題は「誰が正しく判断できるか」だけではない。

何を、最適化する単位として切り分けたのか。

そこにもあります。


AIは、切り分け方そのものを変えるかもしれない

ただ、AIには逆の可能性もあります。

これまで私たちは、

営業。
購買。
生産。
在庫。
物流。
顧客。

を分けて考えてきました。

一人の人間には、複雑すぎたからです。

でもAIなら、これらを同時に扱える範囲が広がるかもしれない。

営業と製造を別々に見るのではなく、

営業 × 製造 × 在庫 × 購買 × 顧客

の関係を、一つのシステムとして見る。

そうなればAIは、

切り分けた「中」をもっと賢くする技術

だけではなく、

これまで別々にしか見られなかったものを、つなぎ直す技術

になる可能性があります。

部門。
役割。
階層。
KPI。

私たちが当たり前だと思っているものも、絶対的な区分ではありません。

人間が複雑性を扱うために引いてきた線です。

AIによって扱える複雑性が大きくなれば、

どこで世界を切り分けるか、そのものが変わる。

これは、単に仕事が効率化されるよりも大きな変化かもしれません。


会社全体を見れば、本当に「全体最適」なのか

では、AIが営業も、製造も、購買も、在庫も同時に扱えるようになったとします。

会社全体を、一つのシステムとして最適化できる。
これで部分最適の問題は解決する。

……本当にそうでしょうか。

会社にとって利益が最大になる選択が、取引先へ負担を移しているかもしれない。

顧客にとって便利なサービスが、そこで働く人たちに大きな負荷を生んでいるかもしれない。

市場全体が効率化した結果、社会に別のコストを生み出しているかもしれない。

現在にとって最適な選択が、未来の世代へ問題を送っているかもしれない。

ここで、もう一度カメラを引いてみます。

部門。

その外側に、会社がある。
会社の外側に、市場がある。
市場の外側に、社会がある。
さらに時間軸を伸ばせば、未来がある。

部門から見れば、会社は「全体」です。

でも市場から見れば、会社は一つの「部分」です。

社会から見れば、市場もまた「部分」になる。

未来まで含めれば、現在の社会さえ、長い時間の中の一つの「部分」になります。

視野を一段広げるたび、
それまでの「全体」は「部分」に変わる。


「全体」は、最初から決まっているわけではない

私たちはよく、

「部分最適ではなく、全体最適で考えよう」

と言います。

でも、その言葉には一つ問いが残っています。

何を「全体」と置くのか。

会社までなのか。
顧客や取引先までなのか。
社会までなのか。
未来までなのか。

どこまでを全体として見るかによって、最適な答えそのものが変わります。

だから全体最適を考えるなら、

「もっと広く見よう」

だけでは足りない。

自分はいま、どこに線を引き、何をその外側に置いているのか。

そこを見る必要があります。


一段、カメラを引いてみる

何かを改善したとき。

コストを下げた。
効率を上げた。
仕事を自動化した。
在庫を減らした。
利益を増やした。

そこで一度だけ、問いを置いてみる。

その問題は、本当に消えたのだろうか。

それとも、

どこか別の場所へ移っただけなのだろうか。

何が、どこから、どこへ移ったのか。

その先まで含めても、まだ「改善」と呼べるだろうか。

そして、もう一段カメラを引いてみる。

いま自分が「全体」だと思っているものは、
もっと大きな構造から見れば、何の「部分」なのだろう。


人間は、複雑な世界を扱うために、世界を切り分けてきました。

AIによって、私たちが一度に扱える世界はこれから大きくなっていくかもしれません。

それでも、

何を一つの「全体」として見るのか。

という問いは残ります。

自分が引いた線で、「全体」が決まる


Layer Zero Lens

いま見ている「全体」は、どこまでか。
一段カメラを引けば、その全体もまた部分になる。
答えを探す前に、まず自分が引いた線を見てみる。


次に読むなら

「全体」の範囲が変われば、そこで得られる「正しい答え」の意味も変わります。

では、その答えは、どこまで正しいのでしょうか。

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仕事や組織、AI、これからのこと。
まだ言葉になっていない違和感でも構いません。


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