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#030 AIは今日入れられる。でも、会社の過去は今日つくれない

同じAIを導入しても、企業として「できること」は同じにはなりません。個人なら、AIを使ったその日からできることが増えていきますが、会社になると話は少し違う。

その差をつくるのは、AIの性能だけではありません。
これまでの仕事をどう残し、どうつないできたのか。

企業のAI化を「会社側」から考えてみます。


余白ができた。その先へ行けるだろうか

AIで仕事が速くなると、時間が生まれる。

その時間を使って、これまで忙しくて手をつけられなかった仕事を始めてみる。過去のデータを分析したり、目の前の案件だけでなく、もう少し広い範囲を見たりする。以前なら「そこまで手が回らない」で終わっていたことも、AIによって現実的な選択肢に入ってくる。

たとえば、日々の手配に追われていた購買担当者なら、過去の調達実績を分析し、価格だけでなく納期や品質まで含めて、より良い調達先の選び方を考えられる。

自分の担当範囲なら、かなりのところまで進められる。

では、「自分の担当でできるなら、全体でやったらどうなるだろう」と考える。

そこで止まる。

発注実績は基幹システムにある。しかし見積書は別の場所に保存され、価格交渉の経緯はメールや電話の中にある。加工屋から聞いた細かな事情は担当者の記憶にしかなく、他部門が持つ情報には簡単にアクセスできない。
会社の中に蓄積されたナレッジが、AIから見れば、まだ一つにつながっていない。

時間はできた。AIもある。

それでも、会社としてやろうとすると簡単には進まない。


一人なら、かなり遠くまで行ける

生成AIは、個人から始めやすい。

文章を作り、調べ、整理し、分析する。会社全体の仕組みを変えなくても、自分の仕事の中なら今日から試せることが多い。

使い込むほど、その範囲も広がっていく。これまで時間がなくてできなかったこと、専門家に頼まなければ難しかったこと、情報量が多すぎて諦めていたことにも、一人で手を伸ばせるようになる。

AIは、一人ひとりの「できる」をかなり速い速度で広げている。

チームや部門まで範囲を広げても、目的や扱う情報がある程度閉じていれば、同じことが起こる。

たとえば開発組織なら、個人の作業を支援するだけでなく、コードや仕様、開発環境、ツールまでAIにつなげることで、組織としてできることを広げられる。購買でも、担当者をまたいだ取引実績や商品情報を使える状態にすれば、個人では難しかった分析が可能になる。

ここまでは、比較的進めやすい。

問題は、その先にある。


会社になると、途端に難しくなる

会社全体の「できる」を増やそうとすると、AIが扱わなければならない世界が一気に広がる。

営業、設計、購買、生産には、それぞれ異なるシステムがあり、データの持ち方も違う。同じ「顧客」や「商品」を扱っていても、部門によって見ている情報や意味が違うこともある。

さらに、会社の仕事はシステムの中だけに存在しているわけではない。

見積書はFAXで届き、細かな条件は電話で調整する。なぜその仕入先を選んだのかは担当者だけが知っていて、システムには最終的な発注結果しか残っていない。

こうした会社に最新のAIを導入しても、AIが突然すべてを理解できるようになるわけではない。

会社の中に情報があることと、AIから会社が見えていることは違う。

個人なら、自分が知っていることを補いながらAIを使える。小さな組織なら、共通の前提を人間同士で補うこともできる。

企業という単位になると、それでは足りない。

ここに、個人や組織のAI化と、企業全体のAI化の間にある大きな境界がある。

AI化の対象範囲

同じAIでも、「見えている会社」が違う

二つの会社が、今日から同じAIを使い始めたとする。

一方には、長年の顧客情報、商品、価格、納期、品質、取引履歴がデータとして残っている。それぞれの情報がある程度つながり、過去に何が起きたのかをたどることもできる。

もう一方では、同じ年月を仕事してきたとしても、見積はFAX、交渉は電話、重要な判断の背景は人の記憶に残っている。システムに残っているのは、仕事の一部分だけかもしれない。

使っているAIの能力は同じでも、できることは同じにならない。

AIの性能差ではない。

AIから見える「会社の世界」が違うからだ。

今のAIなら、紙を読み取れる。FAXをデータに変え、会話を文字にすることもできる。だから、これまでアナログだった会社に可能性がないわけではない。

ただ、過去に残らなかった情報や、その判断に至った文脈まで、今日から遡ってすべて取り戻すことはできない。

AIは今日から導入できても、会社の過去は今日から作れない。

ここには、企業ごとのスタートラインの違いがある。


デジタル化は、何を残してきたのか

こうしてAI側から会社を見ると、これまでのデジタル化にも別の意味が見えてくる。

紙をなくす。入力作業を減らす。業務を速くする。

もちろん、それらも重要だった。

一方で、仕事の結果だけでなく、その過程や判断の文脈までデータとして残し、情報の意味を揃え、必要なときに部門を越えてつなげられる状態を作ることには、もう一つの価値がある。

デジタル化は、仕事を効率化すると同時に、会社をAIから見える状態にしてきた。

そう考えると、企業のAI化はAIツールを導入するところから始まるとは限らない。

会社の仕事のどこがデータとして残っているのか。どこで情報が消えているのか。部門を越えたとき、同じ意味で情報を扱えるのか。

AIに何をさせるかを考える前に、

AIが会社の何を見られる状態なのか。

を知る必要がある。


すべてをAIから見えるようにすればいいのか

もちろん、会社のすべてをデータ化し、すべてをつなげればいいわけでもない。

そこにはコストがかかるし、管理すべき情報も増える。何を残す価値があり、どこをつなぐ必要があるのかは、企業によって違う。

ここで初めて、経営の選択が出てくる。

将来、会社としてどんなことをAIでできるようにしたいのか。それによって、今日から残すべき情報も、つなぐべき組織も変わってくる。

だから問うべきなのは、「AIを導入するか」だけではない。

会社として、何の「できる」を増やしたいのか。

その問いがあって初めて、AIから見えるようにするべき会社の範囲も決まってくる。


AIを入れる前に、見えているものを見る

個人では、AIを使えば「できる」が増える。

小さな組織でも、目的やデータがある程度閉じていれば、その能力を比較的速く広げられる。

企業では事情が違う。

仕事は複数の部門やシステム、人の間にまたがり、長い時間をかけて蓄積されている。AIを導入しただけでは、その世界が突然AIから見えるようになるわけではない。

だから、企業のAI化を考えるときには、AIの性能や利用率だけを見ても足りない。

AIから、自分たちの会社はどこまで見えているだろう。

データとして残っているもの、人の中にしかないもの、部門を越えるとつながらなくなるもの。そこに目を向けると、企業によってAI化のスタートラインが違う理由も、次にやるべきことも見え始める。

企業のAI化は、AIを会社に入れることではない。
会社をAIが扱える状態にすることから始まる。

会社の記憶の地層

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会社には、時間をかけて積み上げてきたものがある。
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あなたの「問い」も、聞かせてください。

仕事や組織、AI、これからのこと。
まだ言葉になっていない違和感でも構いません。


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