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AIを「使う」から「作る」へ〜日本のAI主権と情報安全保障の確立に向けた提言〜(情報安全保障の新常識⑳【最終回】)


はじめに:AI失業の現実と日本の選択

海外では既にAIによる失業が現実的に起こっている。2025年だけでも、アメリカのテック業界では22,000人以上がレイオフされ、IT失業率は3.9%から5.7%へと急激に上昇した。Microsoft、Intel、Scale AIといった大手企業が相次いで大規模な人員削減を発表し、「AI自動化による効率化」を理由とした構造改革が加速している。これは単なる一時的な調整ではない。世界経済フォーラムの調査によると、41%の企業が2030年までにAI導入による人員削減を計画しており、Goldman Sachsは3億人の雇用がAIに影響される可能性があると予測している。

アメリカでは既に「就職氷河期」が発生している。特に22〜27歳の大学卒業者の失業率は5.8%と約4年ぶりの高水準に達し、かつて引く手あまただったコンピューター工学専攻の失業率が7.5%を記録するという衝撃的な状況となっている。これは、AIが単に補助的なツールではなく、人間の労働を直接的に代替する技術として機能し始めていることを示している。

国内でもAIによるリストラが、明言される形で行われている例が出てきた。パナソニックホールディングスは2025年度中に約1万人(全従業員の5%)の人員削減を発表し、表向きは「構造改革」としているが、同時に「AIをフル活用したSaaSソリューションへの期待」も表明している。明言されていない場合も、表向きの発表は構造改革という表現を使っているが、本質は私はAIによるリストラと推測している。日本でも120万人規模のAI関連リストラが予測されており、この波は確実に日本にも押し寄せている。

しかし、この危機的状況の中で、日本には重要な選択肢がある。それはAIを「使う」から「作る」側へと発想を転換することである。これにより、

・直接的な経済効果
・間接的な経済効果
・雇用創出効果
・技術的主権の確立による長期的効果

が生まれると考える。AIを「作る」、つまり日本の独自の企業や組織に特化したLLM(大規模言語モデル)やオンプレAIシステムの構築という新しいビジネス(=独自AIの開発)に対して企業、国、自治体は投資すべきである。

実際に私は、LLMを作る側、オンプレAIシステムの構築を第一線で行っているビジネスパーソンの立場で「日本の企業・組織における独自のLLMや、オンプレ(ローカル)AIシステム構築」に確実なニーズ(商取引の増加という事実)を感じている。

この「AIを作る」仕事には、日本文化の継承、法的リスクの大きい海外クラウドAIベンダーから日本は独立し「AI主権」を持つことの重要性が込められている。最終回は、ローカルLLMが日本のAI戦略の要諦であり、国家の情報安全保障につながる現実的な選択肢であることを論じて締めくくりたい。

クラウドAIの利用はブラックボックス:情報の流れが不明であることの深刻な問題

現在、多くの日本企業や組織がChatGPTをはじめとするクラウドAIサービスを業務に導入している。しかし、これらのサービスの利用は本質的に「ブラックボックス」であり、情報の流れが不明であることが深刻な問題となっている。

クラウドAIサービスを利用する際、ユーザーが入力したデータがどのように処理され、どこに保存され、誰がアクセス可能なのかは完全に不透明である。OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏自身が「ChatGPTに秘密をペラペラ明かさない方が良い」と発言していることからも、プライベートな相談を安易に入力している個人利用者が多いことへの警告があった。これはAI活用が増える中で、企業・組織の秘密、個人情報、政策立案に関わる機密データ、地域固有の知見など、極めて高い機密性と公共性を有する国民の「財産」情報が「ペラペラ」と入力されている可能性が高いと考えられる。

この問題は単なる情報漏洩リスクに留まらない。米国のCLOUD Actは、米国企業が保有するデータに対し、そのデータがどこに保存されていても(国外であっても)、米国の法執行機関が開示を強制できる権限を明確化している。これにより、たとえデータが日本国内のリージョンに保存されていたとしても、日本の法制度やプライバシー保護原則が、外国の国家安全保障や法執行の論理によって容易に迂回される可能性がある。さらに、FISA Section 702は、米国外の非米国居住者を対象とした監視を許可し、偶発的な通信収集や「バックドア検索」の可能性も指摘されており、日本の司法当局の関与なしに外国政府の手に渡るリスクを内包している。

金融業界では、あおぞら銀行が顧客の個人情報や取引データなど極めて機密性の高い情報を取り扱うため、セキュリティ対策としてローカルAI(LLM)を導入した。これは、クラウドAIの利用が持つ本質的なリスクを認識し、自社でコントロール可能なAIシステムを構築することの重要性を示している。

また、海外クラウドベンダーへの依存は、地政学的リスクによるビジネス継続性の脆弱性も露呈させる。海外拠点の障害、地域的な自然災害、経済制裁、紛争などは、クラウドサービスの提供体制やコストに予測困難な影響を及ぼす可能性がある。これは、単一の海外ベンダーに依存することで、日本の重要なインフラが、自らのコントロール外の要因によって、予期せぬ形でサービス停止やコスト増に直面するリスクを抱えることを意味する。

このような現状は、日本がAI活用を進める上で、「デジタル赤字」という構造的な問題に直面していることを示唆している。これは、高額なクラウド利用料を海外に支払い続けるだけでなく、自国の最も貴重な資産であるデータに対する制御を失い、国家としての情報安全保障を脅かすリスクを抱える状態を指している。

日本人がAI「使う」ことしか行わず、AIを「作る」ことを全くしないことの深刻な問題

日本のAI利用における最も深刻な問題の一つは、多くの日本人がAIを「使う」ことしか考えておらず、AIを「作る」という発想を全く持っていないことである。この思考の固定化は、日本を「デジタル小作人」の地位に追いやり、技術的主権を失わせる危険性を孕んでいる。

ChatGPTしか知らない日本人:視野の狭窄化

驚くべきことに、多くの日本人がChatGPTしか知らず、それ以外のAI技術やサービスの存在を認識していない。これは、AI技術の多様性と可能性を理解する上で致命的な視野の狭窄化を意味している。

実際には、AI技術の世界は極めて多様で豊かである。Google「Gemma」シリーズ、Meta「Llama」シリーズ、Alibaba「Qwen」シリーズ、DeepSeek「DeepSeek」シリーズなど、世界レベルでの開発競争をリードするモデルが多数存在している。さらに重要なことに、日本企業も独自のLLMを開発している。CyberAgent「OpenCALM/calm」シリーズ、Rakuten「RakutenAI」シリーズ、ELYZA「ELYZA」シリーズ、LINE「japanese-large-lm」シリーズ、rinna「rinna」シリーズなど、日本の文化や言語特性を深く理解したオープンソースモデルが国内企業によって開発・公開されている。

しかし、これらの存在を知る日本人は極めて少ない。ChatGPTという単一のサービスに依存することで、日本人は技術選択の幅を自ら狭め、多様な可能性を見逃している。これは、食事において一つのレストランしか知らずに「これが食事の全て」だと思い込むようなものである。

Hugging Faceなどのオープンソースコミュニティの存在を全く知らない日本人

さらに深刻なのは、日本人がHugging Faceなどのオープンソースコミュニティの存在を全く知らないことである。Hugging Faceは、オープンソースAIのモデルやデータセット、そしてそれらを動かすためのツールが集まる、世界最大級のプラットフォームである。2025年8月20日現在、196万以上のモデルが公開されており、これは「AIに関するあらゆる本(モデル)が収蔵され、誰でも自由に閲覧・利用できる巨大な公共図書館」のような存在である。

このプラットフォームでは、テキスト生成、画像生成、音声認識など、多種多様なAIモデルが無償で公開されている。例えば、「Stable Diffusion」はテキストから高品質な画像を生成できるAIとして世界的に有名になり、画像生成AIの民主化を象徴する存在となっている。OpenAI社がオープンソースとして公開した「Whisper」は、高精度な音声認識モデルで、多言語に対応しており、書き起こしの精度は商用サービスに匹敵、あるいは凌駕するとも言われている。

しかし、これほどまでに豊かで刺激的なオープンソースの世界が広がっているにもかかわらず、日本人の多くはその存在すら知らない。これは、技術的な可能性を自ら制限し、イノベーションの機会を逸失していることを意味している。

「使う」だけの消費者マインドセットの日本人

日本人のAI利用における最も根本的な問題は、「使う」だけの消費者マインドセットに固着していることである。多くの日本人は、AIを「与えられるもの」「購入するもの」として捉え、自らが「作るもの」「改良するもの」として考えることがない。

この思考パターンは、日本を技術的な「小作人」の地位に追いやる。小作人は土地を所有せず、地主から借りた土地で農作業を行い、収穫の大部分を地主に納める存在である。同様に、AIにおける「デジタル小作人」は、技術を所有せず、海外ベンダーから借りた技術で業務を行い、利益の大部分を海外ベンダーに支払う存在となる。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2024年に公開した調査報告書「OSS利用状況および開発動向に関する調査レポート」は、この実態を浮き彫りにしている。オープンソースソフトウェア(OSS)の開発コミュニティへ積極的に貢献している企業の割合において、日本は世界から大きく遅れを取っている。これは、日本が技術の「消費者」に留まり、「創造者」「貢献者」になることを避けている現状を示している。

この「使う」だけの姿勢は、長期的に見て日本の技術的競争力を著しく損なう。技術を「作る」経験がなければ、技術の本質を理解することはできない。技術の本質を理解できなければ、適切な技術選択も、効果的な活用も、将来の技術動向の予測もできない。結果として、日本は常に海外の技術動向に追随するだけの受動的な存在となり、技術的主権を失うことになる。

日本はデジタル赤字、デジタル小作人であり、AIにおいて更に加速している

日本は既に深刻な「デジタル赤字」と「デジタル小作人」の状況に陥っており、AI技術の普及によってこの問題は更に加速している。この構造的な問題を理解し、独自・自作のLLM/SLMを作る、オンプレAIシステム構築に転換することで、どれだけの経済効果が生まれるかを考える必要がある。

デジタル赤字の深刻化

日本のデジタル赤字は年々拡大している。クラウドサービス、ソフトウェアライセンス、デジタルプラットフォーム利用料など、デジタル技術に関連する支払いの多くが海外企業に流出している。AI技術の普及により、この流出は更に加速している。

ChatGPTの利用料金を例に取ると、個人利用で月額20ドル、企業利用では従業員一人当たり月額25ドルから30ドルの費用が発生する。仮に日本の企業で100万人がChatGPT Plusを利用した場合、年間で約288億円(1ドル120円換算)が海外に流出することになる。これは氷山の一角に過ぎない。

企業向けのより高度なAIサービスでは、利用料金は桁違いに高額になる。大規模言語モデルのAPI利用料、カスタムモデルの開発費用、専用インフラの利用料などを含めると、大企業一社だけで年間数億円から数十億円の費用が海外に流出している可能性がある。

デジタル小作人化の加速

AI技術の普及により、日本の「デジタル小作人」化は更に深刻になっている。小作人制度では、農民は土地を所有せず、地主から土地を借りて農作業を行い、収穫の大部分を地主に納めていた。現代のデジタル小作人制度では、日本企業は技術を所有せず、海外ベンダーから技術を借りて業務を行い、利益の大部分を海外ベンダーに支払っている。

この構造の問題は、単なる金銭的な流出に留まらない。技術的な依存関係により、日本企業は自らの業務プロセス、データ処理方法、さらには戦略的意思決定までも海外ベンダーの技術仕様に依存することになる。これは、経営の自主性と技術的主権の両方を失うことを意味している。

さらに深刻なのは、この依存関係が世代を超えて継承されることである。現在の若い世代が海外のクラウドAIサービスの利用に慣れ親しむことで、「技術は海外から購入するもの」という思考パターンが固定化される。これにより、将来にわたって日本の技術的依存は継続し、デジタル小作人の地位から脱却することが困難になる。

独自・自作のLLM/SLMを作ることの経済効果

では、独自・自作のLLM/SLMを作る、オンプレAIシステム構築に転換すれば、どれだけの経済効果が生まれるだろうか。この転換による経済効果は、直接的な効果と間接的な効果の両面から考える必要がある。

直接的な経済効果
まず、海外への支払い削減効果が挙げられる。現在日本企業が海外AIサービスに支払っている費用を国内に還流させることで、巨大な経済効果が生まれる。仮に日本全体で年間1兆円の海外AIサービス利用料が発生していると仮定すると、この費用を国内のローカルLLM開発・運用に転換することで、1兆円の国内需要が創出される。

この1兆円の国内需要は、AI技術者の雇用創出、データセンターの建設・運用、半導体・サーバーの調達、ソフトウェア開発、コンサルティングサービスなど、多岐にわたる産業に波及効果をもたらす。経済学の乗数効果を考慮すると、1兆円の直接投資が2兆円から3兆円の経済効果を生み出す可能性がある。

間接的な経済効果
間接的な経済効果はさらに大きい。独自のLLM/SLMを開発することで、日本企業は自社の業務プロセス、データ、ノウハウに最適化されたAIシステムを構築できる。これにより、海外の汎用的なAIサービスでは実現できない高度な業務効率化と競争優位性を獲得できる。

例えば、日本の製造業に特化したLLMを開発することで、日本独特の品質管理手法、改善活動、技能伝承などを組み込んだAIシステムが実現できる。これは、海外の汎用AIでは決して実現できない価値創造である。

また、独自のAI技術を開発することで、その技術を海外に輸出する機会も生まれる。現在は技術の「輸入国」である日本が、技術の「輸出国」に転換することで、貿易収支の改善にも寄与する。

雇用創出効果
ローカルLLM開発・運用には、多様な専門人材が必要である。AI研究者、機械学習エンジニア、データサイエンティスト、インフラエンジニア、プロジェクトマネージャー、品質保証担当者など、高度な技術職の雇用が大量に創出される。

これらの職種は、海外のAIサービスを「使う」だけでは生まれない雇用である。AI技術を「作る」ことによってのみ創出される、付加価値の高い雇用である。仮に1兆円の投資により10万人の高度技術職が創出されると仮定すると、これらの人材の年収を平均800万円とした場合、年間8,000億円の所得が創出される。

技術的主権の確立による長期的効果
最も重要な効果は、技術的主権の確立による長期的な競争力向上である。独自のAI技術を保有することで、日本企業は海外ベンダーの技術仕様や価格政策に左右されることなく、自らの戦略に基づいてAI技術を活用できる。

これにより、日本企業の国際競争力が向上し、海外市場での事業拡大が可能になる。また、技術的主権を持つことで、将来の技術動向を自ら主導し、新たな市場を創造する機会も生まれる。

このような長期的な効果を金額で定量化することは困難だが、日本経済全体の競争力向上と持続的成長に与える影響は計り知れない。独自・自作のLLM/SLMを作る、オンプレAIシステム構築への転換は、単なるコスト削減策ではなく、日本経済の構造転換と競争力強化のための戦略的投資なのである。

海外の国家AI戦略と日本の「デジタル小作人」からの脱却

日本の現状に対し、国外ではすでに多くの国が「情報安全保障」を最優先し、能動的な国家戦略を推進することで「デジタル小作人」化を防ぐ動きを見せている。これらの国際的な動向は、データの物理的所在地がそのデータの法的管轄権に影響を与えるという原則を再確認し、外国法の域外適用や地政学的リスクから自国のデータを保護しようとする国家戦略の表れである。

欧州連合(EU)のデータ主権戦略

EUのGDPR(一般データ保護規則)は、域内からの個人データ域外移転に厳格な制限を課しており、「Schrems II判決」以降、外国政府の監視からデータを保護するためのケースバイケースの評価が必須となっている。一部のEU加盟国では、公共サービスや重要インフラといった特定のセクターに対し、より厳格な国内データレジデンシー要件を課す国内法を制定し、機微情報に対しては、域内でのデータ保管を強く志向している。

これは単なる規制強化ではなく、デジタル主権を確立するための戦略的な取り組みである。EUは、米国や中国の巨大テック企業に依存することなく、欧州独自のデジタル経済圏を構築しようとしている。

英国におけるクラウド戦略の転換

英国のIT意思決定者の半数以上が、データ主権(95%)とデータレジデンシー(93%)への懸念から、米国ベースのクラウドプロバイダーからの移行を計画している。既に91%の組織が一部のアプリケーションをオンプレミスまたはコロケーション施設に回帰させるプロセスを進めており、これはコスト、パフォーマンス、制御といったビジネス上の実利と密接に結びついている。

英国のこの動きは、Brexit後の独立性確保の一環としても理解できる。政治的独立と同様に、技術的独立も国家戦略の重要な要素として位置づけられている。

カナダのソブリンクラウド投資

カナダは、米国による監視目的のデータアクセスへの懸念から、健康データのセキュリティと主権確保に向けた取り組みを強化している。これには、健康データの暗号化、カナダ国内でのデータホスティング、外国プライバシー法に対するブロッキング法規の導入、さらにはカナダ独自のソブリンクラウドサーバー開発への投資が含まれる。

カナダの取り組みは、隣国である米国との関係を維持しながらも、技術的主権を確保するという微妙なバランスを取る戦略として注目される。

中国の国産クラウドサービス限定政策

中国は、重要インフラにおいてクラウドストレージを使用する場合、クラウドサービスプロバイダーを中国企業に限定する規定を設けている。これは、国家安全保障の観点から、重要なデータが外国企業の管理下に置かれることを防ぐための措置である。

中国のこの政策は、技術的独立と国家安全保障を直結させた明確な戦略として理解できる。

オーストラリアの国内データセンター推奨

オーストラリアの重要機関は厳格なプライバシー法に従い、機密データを保護する責任があり、クラウドへのデータ移行時には、国内データセンターの利用が推奨されている。これは、地理的に離れた位置にある国として、データの物理的な所在地を重視する戦略である。

日本の対応の遅れと今後の方向性

これらの国際的な動向と比較すると、日本の対応は明らかに遅れている。日本がこの流れに逆行し、海外クラウドベンダーへの依存を続けることは、「デジタル小作人」としての地位を固定化し、長期的な国家競争力の低下を招く危険性がある。

しかし、日本には独自の強みもある。高度な製造業技術、優秀な技術者、豊富な資金力、そして何よりも独自の文化と言語を持っている。これらの強みを活かして、日本独自のAI技術を開発することは十分に可能である。

実際に、日本企業によるオープンソースLLMの開発は既に始まっている。CyberAgent、Rakuten、ELYZA、LINE、rinnaなどの企業が、日本語に特化したLLMを開発・公開している。これらの取り組みを拡大し、国家戦略として位置づけることで、日本は「デジタル小作人」から脱却し、AI技術における主権を確立できる。

ローカルLLMは日本のAI戦略の要諦:国家の情報安全保障への道筋

ローカルLLM(Local Large Language Model)は、単なる技術的選択肢ではない。それは日本のAI戦略の要諦であり、国家の情報安全保障を確立するための現実的な選択肢である。

情報安全保障の新たな定義

従来の安全保障は、軍事的脅威や物理的な攻撃から国家を守ることに焦点を当てていた。しかし、デジタル時代の安全保障は、情報とデータの保護を中心とした新たな概念に拡張されている。

国家の重要な情報が外国企業の管理下に置かれることは、それ自体が安全保障上のリスクである。政府の政策立案プロセス、企業の技術開発情報、個人のプライバシーデータなど、これらの情報が外国政府によってアクセス可能な状況に置かれることは、国家主権の侵害に等しい。

ローカルLLMは、これらの情報を国内で処理し、国内で管理することを可能にする。これにより、情報の流出リスクを最小化し、国家の情報安全保障を確立できる。

技術的主権の確立

ローカルLLMの開発と運用は、技術的主権の確立にも寄与する。技術的主権とは、重要な技術を自国で開発・管理し、外国の技術に依存しない状態を指す。

AI技術は21世紀の「石油」とも呼ばれる戦略的資源である。この戦略的資源を外国に依存することは、エネルギー安全保障の観点からも問題がある。ローカルLLMの開発により、日本はAI技術における「エネルギー自給率」を向上させることができる。

経済安全保障の強化

ローカルLLMは、経済安全保障の強化にも重要な役割を果たす。海外のAIサービスに依存することで生じる巨額の資金流出を防ぎ、国内での技術開発投資を促進することで、経済の自立性を高めることができる。

また、独自のAI技術を開発することで、その技術を海外に輸出する機会も生まれる。これにより、日本は技術の「輸入国」から「輸出国」へと転換し、貿易収支の改善にも寄与できる。

文化的アイデンティティの保護

ローカルLLMは、日本の文化的アイデンティティの保護にも重要な意味を持つ。海外で開発されたAIは、その国の文化的価値観や思考パターンを反映している。日本人が海外のAIを使用することで、知らず知らずのうちに外国の文化的価値観に影響を受ける可能性がある。

日本独自のLLMを開発することで、日本の文化、価値観、思考パターンを反映したAIシステムを構築できる。これは、文化的多様性の保護と、日本独自の価値創造の両面で重要な意味を持つ。

結論:AIを「使う」から「作る」への転換が切り拓く日本の未来

海外では既にAIによる失業が現実となり、アメリカでは「就職氷河期」が発生している。日本でも120万人規模のAI関連リストラが予測され、この波は確実に押し寄せている。しかし、この危機的状況の中で、日本には重要な選択肢がある。それは、AIを「使う」だけの消費者から、AIを「作る」創造者への転換である。

現在の日本は、クラウドAIの利用がブラックボックスであり、情報の流れが不明であることを看過している。多くの日本人がChatGPTしか知らず、Hugging Faceなどのオープンソースコミュニティの存在を全く知らない。そして、AIを「使う」ことしか行わず、AIを「作る」ことを全くしていない。この結果、日本はデジタル赤字、デジタル小作人の状況に陥り、AIにおいて更に加速している。

しかし、独自・自作のLLM/SLMを作る、オンプレAIシステム構築に転換すれば、巨大な経済効果が生まれる。海外への資金流出を防ぎ、国内での技術開発投資を促進し、高度な技術職の雇用を創出し、技術的主権を確立することで、日本経済全体の競争力向上と持続的成長が実現できる。

欧州、英国、カナダ、中国、オーストラリアなど、多くの国が既に情報安全保障を最優先とした国家戦略を推進している。日本がこの流れに遅れることは、「デジタル小作人」としての地位を固定化し、長期的な国家競争力の低下を招く危険性がある。

ローカルLLMは日本のAI戦略の要諦であり、国家の情報安全保障につながる現実的な選択肢である。情報安全保障の確立、技術的主権の確立、経済安全保障の強化、文化的アイデンティティの保護など、多面的な価値を提供する。

私は、LLMを作る側、オンプレAIシステムの構築を第一線で行っているビジネスパーソンの立場で「日本の企業・組織において独自のLLMや、オンプレAIシステム構築」に確実なニーズを感じている。この「AIを作る」仕事には、日本文化の継承、法的リスクの大きい海外クラウドAIベンダーから日本は独立し「AI主権」を持つことの重要性が込められている。

企業、組織、国、自治体は、AIを「使う」から「作る」への転換に投資すべきである。これは単なる技術的選択ではなく、日本の未来を決定する戦略的判断である。ローカルLLMとオンプレAIシステムの構築により、日本は「デジタル小作人」から脱却し、AI時代における真の主権国家として歩むことができる。

時代の転換点に立つ今、日本は選択を迫られている。海外のAIサービスに依存し続ける「デジタル小作人」の道を歩むか、それとも独自のAI技術を開発し「AI主権」を確立する道を選ぶか。この選択が、日本の未来を決定する。

AIを「使う」から「作る」への転換こそが、日本が取るべき現実的な選択肢である。

私は、日本が独立国家であり続けることを強く望む。

【終】

1.「AI主権」を考える勉強会

2.企業、組織、国、自治体の「AI主権」を支援するための会社

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① ChatGPTのその先へ!AIを「自分の手元で動かす自由」とは?
② 基礎を学ぶ: AIの「頭脳」、LLMって何?
③ あなたのデータはどこにある?AIの「拠点」戦略
④ クラウドAIの光と影:便利さの裏に潜むもの
⑤ 国内ローカルLLM事例8選
⑥ GPT‑OSS登場─本当の「オープン」AIがもたらす企業のAI基盤革命
⑦ デジタル赤字と小作人化する日本
⑧ 医療AI革命:患者データを守るローカルLLM
⑨ ローカルLLMの用語集
⑩ 機密情報の砦:企業がローカルAIを選ぶべき「深い事情」
⑪ 従業員がChatGPTを使うリスクとは?
⑫ 製造業のAI最前線:品質と効率を高める秘密
⑬ リアルタイムAIの真価:遅延が命取りになる現場とは
⑭ AIの倫理を考える:「便利さに任せた衝動」か、「責任ある未来」か
⑮ 「日本の『秘密』が売られる」ローカルLLM勉強会、始めました。
⑯ 蝉時雨のなかで、AI時代の「選択」を想う
⑰ 共有知の結晶:なぜ今、私たちは「オープンソースAI」を知るべきなのか
⑱ 自治体AIの情報管理:「地域AI主権」の確立を
⑲ 地域のAI活用と経済効果、そしてAIの「自治」とは?

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