あなたの勤務先に、婚活や出会いを後押しする福利厚生はあるだろうか。
そう聞かれて、すぐに答えられるだろうか。
「そもそも自社にそんな制度があるのか、考えたこともない」という方の方が、もしかすると多いかもしれない。
この記事は、福利厚生が手厚い会社は良い、ない会社は良くないという格差を煽る記事ではありません。特定のサービスをおすすめする記事でもありません。経済団体の提言資料と、実際に企業へ導入されているサービスの一次情報を、そのまま整理して紹介する記事です。
読み終えたときには、「自分の会社にあるかどうか分からない」という状態から、「そもそもどんな制度が、どれくらいの企業に広がっているのか」を具体的な数字で把握できる状態になっているはずです。
なぜこの記事を書いたか
以前、自治体が住民向けに提供する婚活支援を扱った記事や、結婚相談所とマッチングアプリを個人が自己負担で選ぶ場合のコスト比較を扱った記事を書きました。
しかし、「勤務先が福利厚生として提供する」婚活支援という切り口は、まだ扱っていませんでした。
調べてみると、経済団体からの提言と、実際に企業への導入が広がっているサービスの両方が見つかったので、今回はこの2つを整理して紹介します。
この記事で使っている情報源
この記事では、主に次の情報源を使っています。
一般社団法人関西経済同友会「西から実現。生みやすい・育てやすい企業」(2025年4月公表、少子化問題委員会提言)
一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)「少子化/人口減少の問題に関する経団連の考え方」(内閣官房提出資料、2022年12月9日)
企業専用マッチングアプリ「Aill goen」(運営:株式会社Aill)に関するプレスリリース・報道・公式サイト
経済団体の提言は「こうした方がよいのではないか」という呼びかけであり、実際の導入状況を示す統計ではありません。この記事では、提言と、実際の企業導入実績を、性質の異なる情報として分けて紹介します。
異なる調査・異なる母集団の数字を掛け合わせて新しい割合を作り出すようなことはしていません。
こんな方に向けた記事です
婚活・マッチングアプリを自分で始めるかどうか迷っていて、「会社の制度でどうにかならないか」と一度は考えたことがある方
自分の勤務先の福利厚生を漠然としか把握しておらず、他の会社ではどうなっているのか気になる方
以前書いた、結婚相談所とアプリのコスト比較の記事を読んで、「そもそも会社が負担してくれるケースはないのか」という手前の疑問を持った方
公的資料・一次情報に基づいた客観的な情報を求めていて、特定サービスの宣伝記事には抵抗がある方
逆に、「福利厚生が手厚い会社に転職すべきだ」という煽りや、勤務先による格差を強調する記事を求めている方には、この記事は向いていません。勤務先に制度があるかどうかを、優劣として扱うことはしません。
では、そもそもどんな整理から見ていくか——本編に入ります。
1. 婚活支援には3つの「主語」がある
一口に「婚活支援」といっても、誰が提供しているかによって、大きく3つに分けられます。
自治体(行政)が住民向けに提供するもの
個人が自己負担で選ぶもの(結婚相談所・マッチングアプリなど)
勤務先(民間企業)が福利厚生として提供・費用補助するもの
このうち、自治体が提供する婚活支援については、以前書いた記事で扱いました。
個人が自己負担で選ぶ場合の、結婚相談所とマッチングアプリのコスト比較についても、以前書いた記事で扱っています。
→ 結婚相談所とマッチングアプリ、結局どっちが「安い」のか?
今回扱うのは、まだ扱っていなかった3つ目、「勤務先が福利厚生として提供する」婚活支援です。
2. 経済団体からの提言——関西経済同友会
まず、経済団体側からどのような動きがあるのかを見ていきます。
一般社団法人関西経済同友会は、2025年4月に公表した提言「西から実現。生みやすい・育てやすい企業」の中で、企業への提言の一つとして、次のように述べています。
「福利厚生による出会いのサポート(従業員が利用できるマッチングアプリ等の活用、および費用負担等)」
これは、少子化問題委員会が企業に向けてまとめた提言本文4ページに書かれている一文です。同じ項目には「転勤の配慮(勤務地を選択できる制度や、隔地転勤者への手当等)」「人事制度の柔軟な運用による従業員の可処分時間の創出」も並んで挙げられています。
ここで一つ、注意しておきたいことがあります。これはあくまで経済団体からの「提言」、つまり「こうした方がよいのではないか」という呼びかけであり、実際にどれだけの企業が導入しているかを示す統計ではありません。実際の導入状況については、この後の項目で見ていきます。
出典:関西経済同友会「西から実現。生みやすい・育てやすい企業」(2025年4月公表)本文PDF p.4
3. 経団連も2022年から言及していた
実は、企業への同様の呼びかけは、これが初めてではありません。
一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が2022年12月9日に内閣官房へ提出した資料「少子化/人口減少の問題に関する経団連の考え方」には、「出会い・結婚」というカテゴリの中で、次のように書かれています。
「結婚希望を叶えるマッチングを容易にする雰囲気醸成」
こちらは2022年という、関西経済同友会の提言より2年以上前の資料です。ただし、個別企業への具体的な福利厚生策というより、社会全体への「雰囲気醸成」という、やや抽象的な表現にとどまっています。
こちらも実際の導入実績を示す統計ではなく、経済団体側からの提言・呼びかけという点は、関西経済同友会の提言と同じです。経済団体側からの後押しは、少なくとも2022年ごろから続いていた、という背景として捉えておくとよさそうです。
出典:日本経済団体連合会「少子化/人口減少の問題に関する経団連の考え方」(内閣官房提出資料、2022年12月9日)
4. 実際に広がっている「企業専用マッチングアプリ」
提言だけでなく、実際に企業への導入が進んでいるサービスもあります。株式会社Aillが運営する、企業専用マッチングアプリ「Aill goen」です。
導入企業数の推移を、複数時点の報道・プレスリリースから確認すると、次のようになります。
2023年6月末:1,000社超(上場企業・官公庁含む)
2024年4月:1,100社超
2025年7月:1,400社超
2026年8月:1,600社超
Aill goenの導入企業数は、媒体によって表記に幅があります(公式サイトの自己申告値は「約1,200社」、2026年8月の報道では「1,600社超」)。この記事では、株式会社Aillのプレスリリースで確認できる2025年7月時点の「1,400社超」を基準値とし、2026年の最新報道による「1,600社超」への拡大という形で、経年の推移として紹介します。

1,000社から1,600社超まで、3年ほどの間で拡大が続いていることが分かります。
出典:FUNDINNO(2023年6月時点)/日経ビジネス(2024年4月19日)/株式会社Aillプレスリリース・PR TIMES(2025年7月1日)/itmediaビジネスオンライン(2026年8月27日)
5. トヨタ自動車・三菱UFJ銀行が導入、先行企業の実績は
具体的にどんな企業が導入しているのか、実名の事例を見ていきます。
2025年7月1日、株式会社Aillはトヨタ自動車・三菱UFJ銀行への「Aill goen」導入を発表しました。このプレスリリースの中で、先行して導入していたNTTドコモについて、次のような数値が紹介されています。
「先行導入企業であるNTTドコモでは、退会者の約40%が『お付き合い開始』に至っており」
なお、トヨタ自動車・三菱UFJ銀行自体の個社別の成果数値は、このプレスリリースの時点では公表されていません。
この「約40%」という数値についても、一つ補足しておきます。退会理由の内訳を厳密に検証した調査ではなく、あくまで運営会社が公表しているプレスリリース上の数値です。アプリを導入したことと交際が成立したことの間に、どの程度の因果関係があるかまでは、この数値だけから断定できるものではありません。
出典:株式会社Aillプレスリリース「トヨタ自動車・三菱UFJ銀行が企業専用恋愛アプリ『Aill goen』を導入」(PR TIMES、2025年7月1日)
6. イトーキの事例——300人以上が利用、60組以上のカップルに
もう一社、具体的な数字が公表されている事例として、オフィス家具大手のイトーキがあります。
イトーキは2021年5月に「Aill goen」を導入しました。その後の利用状況は、次のとおりです。
2021年末時点:約60人が利用
2024年1月時点:300人以上が利用、60組以上のカップルが誕生

料金体系は「企業が全額負担するか、従業員が一部負担するか等、各企業が設定できる」仕組みになっているとのことです。
出典:日経ビジネス「伊藤忠・NTTなど1100社超 企業向け恋愛マッチングアプリ広がる」(2024年4月19日)
7. 導入対象には限りがある
ここまで見てきたように、Aill goenの導入は着実に広がっていますが、誰でも使える制度というわけではありません。
Aill goen公式サイトには、導入対象について次のように明記されています。
「大企業、一部上場企業、そのグループ企業、有資格士業団体、くるみんマーク・なでしこ銘柄取得企業等に限定」
つまり、現時点では一定規模以上の企業や、特定の認定を受けた企業が中心であり、中小企業も含めた社会全体に行き渡っている制度ではない、ということです。
出典:Aill goen公式サイト「ご利用企業一覧」(2026年9月7日時点)
8. なぜ企業が動いているのか
最後に、そもそもなぜ企業側がこうした制度に動き始めているのか、その背景となるデータを見ておきます。
関西経済同友会の提言のAppendixには、国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)「第16回出生動向基本調査」を出典とするデータが引用されています。結婚を希望していない20〜40歳の男女に、結婚に必要だと感じる状況を尋ねたところ、次のような結果になっています。
1位「経済的に余裕ができること」:42.4%
2位「異性と知り合う(出会い)機会があること」:36.1%
3位「精神的に余裕ができること」:30.6%
「出会いの機会」が2位に挙がっていることが、企業側が出会いの機会を提供する意義の一つとして位置づけられているようです。
同じ調査については、以前書いた記事でも別の設問を紹介しています。日本社会全体の未婚化というマクロな流れに関心のある方は、こちらもどうぞ。
また、「結婚するつもりがあるか」「交際を望むか」という、個人の意欲そのものを扱った記事もあります。
→ あなたは恋愛・婚活に興味がありますか。国の調査データと、答え合わせをしてみた
出典:関西経済同友会「西から実現。生みやすい・育てやすい企業」Appendix p.11(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」経由)
9. ここで立ち止まって考えたいこと
ここまで、経済団体からの提言と、実際に企業へ広がっているマッチングアプリの導入事例を見てきました。
大事なのは、勤務先に婚活支援の制度があるかどうかは、あくまで各企業の導入状況の差であって、そこで働く個人の価値や努力の差ではない、ということです。
導入企業はまだ大企業・上場企業等に限られており、多くの方にとっては「勤務先にはまだ制度がない」というのが実態だと思います。それは、その会社や、そこで働く人が劣っているということでは全くありません。
また、Aill goenのようなサービスが優れているかどうかを評価することも、この記事の目的ではありません。実際に導入している企業と、公表されている数値をそのまま紹介することにとどめています。
勤務先に制度がない、あるいは対象条件に当てはまらない場合は、自分でアプリを選ぶ必要があります。各社の会員数や機能を、公式発表と公的統計だけで横に並べて比較した記事も書いています。
→ マッチングアプリ、結局どれが自分に合う? 公式発表と公的統計で比較する2026年版
会社が費用を負担してくれない場合、自己負担額がどれくらい違ってくるのかについては、結婚相談所とマッチングアプリのコストを比較した記事で扱っています。
→ 結婚相談所とマッチングアプリ、結局どっちが「安い」のか?
10. まとめ:出典一覧
最後に、この記事の内容を振り返ります。
関西経済同友会「西から実現。生みやすい・育てやすい企業」(2025年4月)は、企業への提言の一つとして「福利厚生による出会いのサポート」を挙げている
経団連も2022年12月の内閣官房提出資料で「結婚希望を叶えるマッチングを容易にする雰囲気醸成」に言及している
企業専用マッチングアプリ「Aill goen」の導入企業数は、2023年6月「1,000社超」→2025年7月「1,400社超」→2026年8月「1,600社超」と拡大している
トヨタ自動車・三菱UFJ銀行が2025年7月に導入。先行導入企業のNTTドコモでは「退会者の約40%がお付き合い開始に至った」とプレスリリースで紹介されている
イトーキは2021年5月に導入し、2024年1月時点で300人以上が利用、60組以上のカップルが誕生している
ただし導入対象は「大企業、一部上場企業、そのグループ企業」等に限定されており、まだ誰もが使える制度ではない
この記事は、勤務先の福利厚生の有無で会社を評価する記事でも、特定のサービスを勧める記事でもありません。経済団体の提言資料と、企業側の一次情報を、そのまま整理して紹介することを目的にしています。
この記事で紹介したデータと出典を、一覧にまとめます。
| データ | 出典 |
|---|---|
| 「福利厚生による出会いのサポート」 | 関西経済同友会「西から実現。生みやすい・育てやすい企業」本文PDF p.4(2025年4月) |
| 「結婚希望を叶えるマッチングを容易にする雰囲気醸成」 | 経団連「少子化/人口減少の問題に関する経団連の考え方」(内閣官房提出資料、2022年12月9日)p.4 |
| Aill goen導入企業数の推移(1,000社超〜1,600社超) | FUNDINNO/日経ビジネス/株式会社Aillプレスリリース・PR TIMES/itmediaビジネスオンライン |
| トヨタ自動車・三菱UFJ銀行の導入、NTTドコモの実績(退会者の約40%) | 株式会社Aillプレスリリース・PR TIMES(2025年7月1日) |
| イトーキの利用者数・カップル成立数 | 日経ビジネス(2024年4月19日) |
| 導入対象の限定性 | Aill goen公式サイト「ご利用企業一覧」(2026年9月7日時点) |
| 出会いの機会36.1% | 関西経済同友会提言Appendix p.11(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」経由) |
異なる調査・異なる母集団の数字を掛け合わせて新しい割合を独自に作り出したり、因果関係を断定したりすることはしていません。
最後に、一つだけ聞かせてください。
あなたの勤務先には、婚活や出会いを後押しする福利厚生があるでしょうか。「ある」「ない」「分からない」、どれでも構いません。よろしければ、コメント欄で教えてください。
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

