60代のリアル|第2幕、第57話【実録・職場の波乱】私のAI史と、2023年のChatGPTという矛盾(中編)
前回までのあらすじ
9月1日(火)の朝礼で、突如として「生成AIの業務利用を検討する」との発表がありました。
一見前向きな変化のようでありながら、私の胸に去来したのは苦いトラウマでした。
忘れもしない2025年9月24日、ChatGPTによる情報漏洩を理由に突然くだされた「AI禁止令」。周りがAIの存在すらよく知らない中、唯一業務で活用していた私は「もしかして自分が疑われているのでは?」という濡れ衣のような不安と居心地の悪さを抱えていました。
禁止から一転して解禁へ舵を切る会社を前に、ぬぐえない違和感が静かに芽生え始めていました。
▼ 前回はこちらです。
手探りで始まった、私とAIの歩み
思い返せば、私と生成AIとの付き合いが始まったのは2023年の2月頃のことでした。
2022年11月にChatGPTが公開されて世間が大いに盛り上がる中、私は少し出遅れて使い始めました。
当時はすでに日本語にも対応していたため、そのまま日本語で「こういうVBAコードを書いて」と入力し、業務の効率化に役立てていたのです。
けれど2023年の3月か4月頃、ニュースで「ChatGPTによる情報漏洩」の話題を目にしました。一気に怖くなり、私はすぐにChatGPTの使用を固くやめました。
そんな折、Googleの「Bard」(現在のGemini)が日本でも利用可能になったと耳にしました。
当時はまだ日本語未対応だったため、英語の文章をGoogle翻訳でやり取りしながら試行錯誤を開始。やがてBardが日本語に対応すると一気に使い勝手が良くなりました。
特に提示される「3パターンの回答」から、その時々に最適なものを比較して選べる点がとても気に入っていました。
しばらくはBardを重宝していましたが、業務で頻繁に使うのはやはりExcelやVBAです。
「Microsoft製品との相性を考えるならBing Chat(現在のCopilot)の方が適しているのでは」と考え、それ以来、職場ではずっとBing Chat一本に絞って利用していました。
それ以外のAIには一切手を伸ばさず、自分なりに安全な使い方を徹底していたのです。
「2023年」と「2025年」の不条理なタイムラグ
だからこそ、2025年9月24日に下された「AI全面禁止」の衝撃は、今でも忘れられません。
「ChatGPTからの情報漏洩が発生したため」という会社側の説明を聞いた瞬間、私の頭の中には大きな疑問符が浮かび、同時に冷たい違和感が広がっていきました。
(……えっ? どういうこと?)
私がChatGPTを使っていたのは、2023年の使い始めのごくわずかな期間だけです。ニュースで漏洩リスクを知ってからはすぐに使用をやめ、それ以降はセキュリティも考慮されたCopilot一本に絞っていました。
それなのに、なぜ2023年の出来事が、2年近くも経った2025年9月になって突然「漏洩」として騒ぎ立てられるのでしょうか?
正社員の方々は私がVBAの作成にAIを活用していることを理解してくれていました。
しかし、AIの仕組みやツールの違いすら分かっていない管理職の方々は、違いました。実際に私に対して「AIを使っているあの人が何かやったのではないか」という疑いの目を向けていたのです。
根拠もタイムラグの矛盾も無視されたまま向けられる、真っ直ぐな疑念。
真面目に活用し、会社のために業務効率化を図ってきたはずの時間が、一瞬にして不穏な影で覆われていくような理不尽さと悔しさが、私の胸を深く締め付けていました。
救われた一言
管理職からの疑いの目にさらされ、重い気持ちを抱える中で、何より心苦しかったのは、私がCopilotの使い方をお伝えした嘱託社員の方のことでした。
その方は以前、Copilotの使い方に興味を持たれていたため、私から「難しいプロンプトなどは気にせず、日本語でできるだけ細かく、曖昧にならないように文章を入力して聞けば大丈夫ですよ。思った回答と違ったら『〇〇を訂正してください』と伝えればいいと思います」とお話しさせていただいたことがありました。
ちなみに、私はその方にCopilotの使い方をお伝えする際、入力したデータがAIの学習に使われないよう、重要な設定についても事前にお伝えしていました。
「設定」ー「プライバシー」ー「会話アクティビティによるトレーニング」をオフにする。

この基本的なセキュリティ対策もしっかり共有した上で、その方はAIを頼もしい壁打ち相手としてどんどん使いこなされ、見事に業務効率化を進めていらっしゃいました。
それだけに、今回の突然の禁止令により、その方の仕事にも大きな影響が出てしまったことが申し訳なくてなりませんでした。
管理職からの疑惑の目も重なり、「私のせいで巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」と恐縮しながら謝罪にお伺いしました。
するとその方は、とても温かくまっすぐな眼差しでこう言ってくださったのです。
「しずるさんのせいじゃないですよ。しずるさんはChatGPTなんて使っていないんだから、情報漏洩なんてするはずがありません。」
その一言を聞いた瞬間、張り詰めていた心がすっと軽くなり、胸の奥から温かいものが溢れ出しました。
管理職の理不尽な疑念に苛まれていても、正しく安全にAIに向き合ってきた姿勢を、その嘱託社員のの方はしっかりと見て、理解してくださっていました。
お互いの信頼関係が報われたそのお言葉は、冷ややかな空気の中で、私を深く救ってくれた一筋の光でした。
🌿次回予告
突然の「AI解禁」の発表。 かつて理不尽な疑念に晒され、傷ついた記憶が蘇る中で、私はこれからのAIとの向き合い方について静かに思いを巡らせます。
現場で働く私たちが本当に必要としているセキュリティとは何か? そして、60代の今だからこそ思える、これからの働き方とAIの可能性とは――。
次回、「ただ禁止するのではなく、現場目線で考えるAIの未来」。
次回もどうぞお楽しみに!
▼ 次回はこちらです。
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