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ブランドを支える「ファン」の存在。見えないファンを評価するには?社内体制や評価指標の工夫が鍵|フルファネルラボ

フルファネルマーケティングを4領域にわけ、それぞれの専門家にインタビューして考えを深めていく企画の第3弾。今回は「ファン化」領域。フルファネルラボメンバーとの対談を実施しました!

❝ファンは単なる「再購買をする存在」ではなく、新たな認知を生む循環の起点。
ファン化した顧客はブランドの語り手となり、UGCやクチコミを生み、他人への推奨を行ない、新規顧客を連れてくる。❞
と、フルファネルラボではファン化設計の真価を提示しています。

ブランドを支えるファンを増やすには、何がカギになるのでしょうか?

今回は、ファン化の専門家であり、SNSを活用したファンづくりを中心に、EC・D2C領域全般で企業支援をしてきた野口 陽介のぐち ようすけに、フルファネルラボの主席研究員亀ノ上 忠昭かめのうえ ただあき中村 太一なかむら たいちが、インタビューしながらファン化に関する議論を深めます!


「認知~購入~ファン化」を一連の流れで考えるフルファネルマーケティング

フルファネルマーケティングは一つの「手段」にすぎない


亀ノ上:「ソウルドアウトが考えるフルファネルマーケティング」は、「認知~購入~ファン化」が1本のストーリーとなって連鎖するような構造をしています。野口さんはこの構造をみたときに率直にどのようなことを感じられましたか?

野口:「認知~購入~ファン化」を一連の流れで考えることは、非常に本質的な視点だと感じました。

これまでのソウルドアウトは、どちらかというと「購入」、つまり獲得領域に特化して、部分最適で考えていたところがあったと思うんです。しかし、購入を促す施策だけを行なっていると、ニーズが顕在化している人の数は徐々に減っていき、全体としては縮小傾向になってしまう。だからこそ、ニーズが顕在化していない潜在的な層へアプローチするような「認知」の部分も並行して取り組む必要があります

また、「認知」と「購入」各領域の施策が断絶していると、生活者にそれぞれで異なる印象を与えてしまい、違和感につながることもあります。同じ組織や人が、一貫して手がけるほうがスムーズだと思いますね。

そしてもう一つ大切なのが、購入後の体験です。購入して終わりではなく、実際に生活者が商品・サービスを体験する「購入したあと」が大切だと考えています。よりよい体験をしてもらうための設計を行なうことで、はじめて「買ってよかった」という実感が生まれ、「ファン化」へとつながっていきます。

亀ノ上:購入後の「体験」がまさにファン化につながる部分ですよね。

野口:そうです。
また、忘れてはいけないのが、フルファネルマーケティングはあくまで一つの「手段」にすぎないということです。前提として、商品・サービスの完成度や体験価値が高まってこそ、真に機能します。

商品化したからといって必ず売れるわけではありませんし、お客さまに共感してもらうための理念や、しっかりとしたコアアイデアが欠かせません。

そして、実際にサービスを使った結果「いいな」と思える体験があってこそ、「次も使いたい」「人に勧めたい」という気持ちが生まれます。これはテクニックだけではどうにもならない部分です。

安売りすれば一時的には売上は伸びるかもしれませんが、カスタマーサポートが雑だったり、商品自体にがっかりしたりすれば、どんなに丁寧なフォローがあってもリピートにはつながらないでしょう。まずは商品・サービスそのものの価値を磨くことが何よりも重要だと考えています。

Gデジタルマーケットデザイン本部
Gロイヤリティループデザイングループ
グループ長
野口 陽介


ロイヤルカスタマーとファンの役割を明確にわけて定義


亀ノ上:これまで様々なブランドのファン化に携わってきた野口さんが、私たちフルファネルラボが定義する「ファン化」領域で特に共感する部分があれば教えてください!

野口「ロイヤルカスタマー」と「ファン」をわけて定義している点です。

昔から「ロイヤルカスタマー」という言葉はあって、RFM分析(※)で上位にくるお客さまを優遇する取り組みが多くの企業で行なわれてきました。一方で、購入金額が小さかったり、購入回数が少なかったりしても、ブランドの理念や哲学に共感し、その想いを周囲に広めてくれる「ファン」がいます。これまでは、そうした「ファン」の存在はあまり注目されてきませんでした。

「ファン」は必ずしも収益貢献度が高いわけではありませんが、推奨度が高く、ブランドの熱量を広げる存在です。そう定義することで、「ファン」がブランドを支える欠かせない存在だと、より明確になります。

「ロイヤルカスタマー」は数値で把握しやすい一方、「ファン」は数値だけでは見えにくい。だからこそ、コミュニティをつくったり、お客さまとの接点を丁寧に設計したりして、見えない「ファン」の価値をどう可視化していくかが重要だと思います。

※RFM分析:「Recency=最終購入日(直近いつ買ったか)」「Frequency=購入頻度(どのくらいの回数買っているか)」「Monetary=購入金額(どれだけ使ってくれているか)」の頭文字。「最近いつ・どれだけ・いくら買ったか」で顧客を評価する手法。

亀ノ上:「ロイヤルカスタマー」と「ファン」は優劣ではなく、それぞれが異なる役割をもちながら、どちらもブランドにとって重要な存在だということですね。


「ファン化」を成功させるには

ファンづくりの土台は、お客さまの声を聴くこと


亀ノ上:それでは、購入後のお客さまにファンになってもらうために、小さく始めるとしたら、どのような施策から着手されますか?

野口:まずは「ファン化の土台づくり」が重要だと思います。

たとえばお客さまの声を集めて、関係を少しずつ深めていくこと。インタビューやアンケートは、すでにお客さまがいればすぐにでも始められますよね。リアルな声を聞くことで、「なぜ購入したのか」「どこを好きになってくれたのか」「どこを改善すべきなのか」といった気づきが得られます。そうした声を拾う仕組みをつくっておくことが、第一歩です。

この土台があると、ブランドへの信頼感にもつながるかもしれません。「インタビューが丁寧だった」「直接話せてうれしかった」と感じてもらえるだけでも、距離がぐっと縮まります。まずは、そうした接点を増やしていくことが大切です。

亀ノ上:ファンづくりの第一歩は、まずはお客さまの声に耳を傾けることなんですね。

野口:ファン化の施策といえば「コミュニティづくり」という話になりがちで、いざ実際に取り組もうとすると、「どれだけ売上につながるのか?」といった議論になってしまうんですよね。

ですが、まずはお客さまとコミュニケーションをとること。そうした小さな一歩の積み重ねが、結果的にファンづくりにも、売上にもつながっていくのだと思います。


ファン化の施策は数字に表れにくく評価されづらい


亀ノ上:では、企業が「ファン化」に踏み出す際に、どのようなハードルがあると感じていますか?

野口:常につきまとう課題は、成果が見えづらいことだと思います。そのため、ファンづくりに取り組んでいる担当者は、社内で評価されにくいんです。

この課題は中小企業に限らず、大手でも同じです。たとえば以前お話を伺った大手の食品メーカーでは、工場見学などファン向けのイベントを熱量高く企画している担当者がいました。外からみると成功しているように思えても、社内の営業部門からは「その取り組みで売上はいくらになるの?」と問われたり、上司から「売上につながらないならやめたほうがいい」と言われたりすることもあるそうです。ファンづくりを販促活動として捉えられてしまうと、どうしても評価が難しくなってしまうんですよね。

そういったときには、経営層や評価者、または営業など他組織の方にもイベントの現場に足を運んでもらうといいと思います。イベントに参加し、参加者の声を聞いてもらうことで、取り組みの意義を体感してもらう。そうした実体験が、社内理解のきっかけになると思います。

亀ノ上:社内の関係者に参加してもらい、気づいてもらうことが大切ですね。

Gデジタルマーケットデザイン本部
本部長
亀ノ上 忠昭

野口数字の面では「ロイヤルカスタマー」は重要ですが、数字には表れない「ファン」の声が人の心を動かすことも多いんです。普段は数字ばかりに目が行きがちの方にも、そうした体験をしてもらえるといいと思います。


顧客満足度や推奨度を指標にする


亀ノ上:評価しづらい「ファン化」の取り組みですが、成功している企業はどのような指標設計をしているのでしょうか?

野口:よく聞くのは、NPS(※)ですね。顧客満足度やブランドへの愛着度を測定するための指標で、顧客が商品やサービスをどれだけ他者に推奨したいと思っているのかを数値化したものです。

たとえば、イベントに参加した人の推奨意向がどのくらい高いのか、前回と比べてどう変化したのか、参加した人とそうでない人にどれほど差があるのか。そういった観点で評価します。

売上に近い指標では、LTV(顧客生涯価値)や継続購入率を重視するケースもあります。もちろん、ファンはロイヤルカスタマーより数値的には低い傾向にありますが、イベントに参加した人のほうが、継続購入率が高いことは多いですね。

※NPS:Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)の略。顧客ロイヤルティ(信頼や愛着)を測るための代表的な指標。
「この商品・サービスを、友人や同僚にどのくらいおすすめしたいですか?」という質問に対して、0〜10点で答えてもらい、その結果から顧客ロイヤルティを数値化する。

亀ノ上:なるほど。イベント以外の場面でも、計測する方法はあるのでしょうか?

野口:あります。たとえば、SNSのフォロワーを対象にアンケートを実施し、NPSを測定する方法です。

最初はフォロワー数など量的な指標をみますが、次第に「フォロワーの感度がどう変化しているのか」といった質的な分析に発展していくケースも多いです。

亀ノ上:たとえばアンケートの結果、NPSが9や10と非常に高いとき売上継続率も高い、といった形で、一つ先の指標と結びつけることもあるのでしょうか?

野口:それが理想的ではありますが、NPSを信頼できる形で取得するには、ある程度のデータ量が必要です。ECのみを展開している企業では難しいケースもありますね。

一方で、実店舗とECでデータを連携できる企業であれば、購入時にSNSアカウントとIDを紐づけて分析するなどして検証することは可能だと思います。


SNSをきっかけに生まれた「ファン」の概念とその現在地

商品・サービスの価値を磨いたうえでファン化に取り組む


亀ノ上:前提に立ち返る質問になりますが...そもそも「ファン化」の取り組みが必要な商品・サービスとはどのようなものだと考えていますか?

野口「差別化」が難しい商材ですね。スペックや価格だけでは勝負しにくく、情緒的な価値などで差別化するしかない、そういった商材こそ、ファン化を意識したほうがいいと思います。

また、リピートが前提のビジネスも同様です。繰り返し購入してもらうモデルでは、ファンになってもらうことが継続の鍵になります。

また近年では、顧客獲得単価が上がり続けていることも背景にありますね。広告頼みではコストが膨らみ、競合も増える。だからこそ、既存顧客のファン化がますます重要になってきています。

亀ノ上:逆に言えば、差別化が明確にできていれば、ファン化の取り組みは不要ということでしょうか?

野口:もちろん、どんなtoC商材でもファン化に取り組むに越したことはありません。ただ、「ファン化せざるを得ない」商材というのは、先ほども申し上げたような、情緒的な価値でしか差別化できない商品です。

たとえばクラフトビール。一般的なビールが200円前後で買えるなか、クラフトビールは500~800円。それでも「飲んでみたい」と思う人がいる。それは「味」が好みなのは大前提ですが、、作り手の想いやストーリーに共感しているからなんですよね。

亀ノ上「おいしさ」や「機能」を超えた別の価値で戦うときこそ「ファン化」の考え方が必要だということですね。

野口:そうですね。ですが、どんなに想いがあっても、商品やサービスの本質的な価値が伴わなければ、ファン化は成立しません。

サステナビリティを掲げた商品では、まさにその難しさがあります。理念は共感してもらえても、機能や体験が伴わなければ支持は続きませんサステナビリティの理念は大切ですが、「使う理由」や「機能的な価値」そして「適正な価格設定」がなければ、選ばれ続けることはありません。

たとえば、スイスのスニーカーブランド「On(オン)」。環境に配慮した素材で知られていますが、最初に評価されたのは、デザイン性と履き心地でした。その後「実はサステナブルなんだ」と知ってファンになる人が増えていったんです。

パタゴニアも同じで、「着ているとかっこいい」という感覚から入り、そこに「一生修理してくれて、長く使える」「環境に優しい」といったストーリーが重なっていった。そうやって、語りたくなるブランド体験が生まれていくんです。

商品・サービスのコアな価値があってこそ、ファン化は成立します。「何を伝えるのか」というコアアイデアまで設計できていなければ、どれだけ発信してもファンは生まれません。


SNSの登場によって生まれた「ファン化」の歴史は今


中村:「ファン化」は、「認知」や「購入」と比べると、その必要性が言語化されて語られるようになってからの歴史が浅い印象があります。もし黎明期、成長期、変革期があるとすれば、それぞれどのような事象が当てはまるのでしょうか?

Gデジタルマーケットデザイン本部
Gストラテジックプランニンググループ
スペシャリスト
中村 太一

野口:黎明期は、SNSの登場が大きなきっかけだったと思います。

昔からお客さまと直接会って関係を築く企業はありましたが、SNSによって、会わなくても、よりライトに声を聞けるように民主化されました。mixiコミュニティやFacebookページなどですね。「北欧、暮らしの道具店」や「よなよなエール」がその代表例です。お客さまとコミュニケーションを取り、「いいね」などの反応が売上につながる、という成功事例が出てきました。

その流れをビジネスのメソッドとして体系化したのが、ファンベースカンパニーの佐藤尚之(さとなお)さんだと思います。2018年に刊行された著書『ファンベース』が話題になり、黎明期の次の成長期において「ファンマーケティングってすごくいいよね」というブームが起こるきっかけになりました。

中村:そこから現在はどのようなフェーズにあるのでしょうか?

野口:今は落ち着いてきた印象です。その理由は、「ファン化が本当に売上につながっているのか」「続ける意味はどこにあるのか」という問いに、まだ明確な答えが出ていないからだと思います。

一方で、成功している企業の共通点は、経営者がコミットしていることです。ファン化の活動を経営に組み込み、トップ自らが大きな声で意思表示をしている。その姿勢が社内外に伝わり、ファン化の基盤になっているのだと感じます。

中村:なるほど…今は迷走期といえるような状況なのでしょうか?

野口:そうですね…感覚的には横ばい、という感じです。

SNSマーケティング市場でみると右肩上がりですが、ファンマーケティングの盛り上がりが加速しているわけではないですね。支援会社は増えていますが、実際に成果が出ているケースはまだ多くない印象です。

結局のところ、ファン化は、社内の人が熱量をもって取り組まなければうまくいきません。外部に委託しても、コストがかさみ、費用対効果が問われて続かなくなることがほとんどです。一方、社内で担当者が動き、経営層がコミットしていれば、熱量を保ったまま継続できます。

中村:今はまさに「ファン化」をこの先どう伸ばしていくのか、という分岐点にあるわけですね。


AIと人がファンマーケティングを加速させる時代


亀ノ上:生成AIが「ファン化」の領域に組み込まれると、どのような変化が起きると思いますか?

野口:まず、オペレーション面は各段に楽になると思います。たとえば、ECカートシステムのShopifyにAIが搭載されて、お客さまのデータをもとに「こういう施策を試してみては?」と提案してくれるようになる。これまで人の手で行なっていた分析をAIがサポートしてくれることで、施策へのハードルが一気に下がるはずです。

それから、動画やSNSコンテンツの制作もぐっと手軽になると思います。これまで発信のボトルネックだった「コンテンツ制作」がAIによって効率化されることで、コスト面でも大きな改善が期待できます。

一方で、リアルな体験はAIでは代替できません。お客さまの声のトーンや表情、空気感といった温度のある部分は、やはり人でしか感じ取れませんし、人が向き合うべき部分だと思います。

亀ノ上:これからのファンマーケティングは、AIと人が手を取り合いながら進化していくのかもしれませんね。

亀ノ上・中村:ファン化についての理解が深まりました。今日はありがとうございました!


編集後記
SNSが広がり、AIが進化しても、「ファン化」領域においては、テクニックや仕組みではなく、誠実な対話と一人ひとりの生活者に真摯に向き合う姿勢が大切である。今回の対談では、そんな「ファンづくりの原点」なるものを知ることができました。

【執筆・編集:みやたけ(@udon_miyatake)】


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