第4章:サイボーグとしての私たちの人生『思想戦争勃発、戦場からのレポート』
一方にサイボーグ化(生命の拡張)、他方に統治経済学×AI。
私たちの戦場は、ふたつの力学が出会って生まれている。
まずはサイボーグである。
サイボーグとは、サイバネティックス(制御と通信の工学)と、オーガニズム(有機体=身体)を合体させた言葉だ。
人間と機械が混ざりあう時代を予見したこの造語は、もはやSFではない。
私たちの文明はいまあきらかに、サイボーグ化のベクトルにある。
人はいつ障害者の側に入るかわからない。
また、生きていれば誰だって老いてゆく。
老いることは、漸進的に障害者の側に入ってゆくことだ。
眼鏡、補聴器、車椅子、義足、音声読み上げソフト。
重度障碍者が視線の動きでコンピュータを操作する視線マウス、
首から下の神経を損傷した人がウェアラブルロボットを装着して歩く。
あきらかに、それは希望である。
けれども、その希望こそが、障害者であろうがなかろうが、
すべての人間を「管理対象」にする方向と表裏一体なのだ。
私たちの生命はいま、血や痛みではなく、数値とログで語られる。
寿命、幸福度、免疫力、ストレス耐性。
すべてが「アップデート可能なスペック表」になった。
しかも、サイボーグ化=生命の拡張は、
経済学×AI=最適化の論理と結びついてしまった。
いま、世界の上級国民たちは「生政治の完全なアルゴリズム化」を成し遂げつつある。
フーコーが『生政治の誕生』で示した「人口の管理」は、
もはや個々の身体のリアルタイム最適化にまで到達しているのだ。
ウェアラブルデバイスは単なる健康管理ツールではない。
それは私たちの生命を経済学的に最適化するためのインフラなのだ。
想像してみよう。
渋谷の大型ビジョンに「残り寿命スコア」のCMが流れ、
カプセルホテルのロビーには「DNAガチャ」の自販機が並ぶ。
秋葉原のメイド喫茶では「がんリスク99%カット♡萌え萌えきゅん遺伝子編集キャンペーン」が始まり、
TikTokでは「今日の幸福度チャレンジ!」がトレンド入りしている。
そこでは、健康がステータスで、老化は課金対象だ。
あなたの睡眠スコアはSNSで共有され、
恋愛マッチングは「遺伝子適合率」で決まる。
病気はアップデートの遅延、孤独はサーバーの不具合として診断される。
――いまや、生命そのものがポップ管理体制下に置かれているのだ。
ハラウェイが言ったように、
私たちはもはや純粋な人間でも、ただの機械でもない。
AI、アプリ、遺伝子検査キット、スマートウォッチと混ざりあった〈サイボーグ・ポップ〉の一員である。
だがその「混ざりものの生命」を、誰が制御しているのか。
テック企業か? 国家か?
それとも、あなたの幸福スコアを計算する匿名のアルゴリズムか?
もはや「生きること」はデータの祭典、
「死ぬこと」はエラー報告である。
私たちはサイボーグとして生き、ポップ・ライフとして消費される。
だからこそ、いま、気づくべきなのだ。
私たちがすでにアンネ・フランクであり、
ナボコフが描いたロリータになってしまっていることを。
(――この連載の序曲を、もう一度読み返してほしい。)
