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メディアトレーニングの舞台裏 ③準備編:準備段階でいったい何をしているのか

「日常」に落とし込むための準備

メディアトレーニングシリーズ記事の第1回第2回で、トレーニングの対象者・内容の概要と、わたしたちの考え方を紹介しました。
あらためて、わたしたちのこだわりと、それを形にするためのポイントは以下のとおりです。

  1. 危機発生時という「非日常」の備えだけでなく、「日常」に役立つ内容にしている
    → 受講する経営層本人の思考様式・価値観等をプロファイリングできる状態にする

  2. 経営層に必要な「信用・信頼獲得力」を診断する“アセスメント”の要素を含んでいる
    → 様々な角度から評価項目をチェックできるように準備する

  3. 受講する経営層だけでなく、広報担当者の育成につなげている
    → できるだけ、わたしたちが受託する範囲を狭くする(利益度外視!)

これらについて、トレーニングの準備・実施・事後講評において具体的に何を考え、何を実施しているのでしょうか。


【準備段階】

模擬記者会見の訓練用シナリオ等は、極力、お客さまに作成していただく

模擬記者会見の訓練を実施する際は、大きく、以下の資料を用意します。

  1. 訓練前の説明用資料(講義テキスト)

  2. 訓練用のシナリオ(設備トラブル、サイバー攻撃、法令違反、ハラスメント等の不祥事などテーマは様々)

  3. 訓練用の読み原稿・プレスリリース・Q&A

  4. 訓練用の記者役質問例

わたしたちは、極力、2.訓練用のシナリオと3.訓練用の読み原稿・プレスリリース・Q&Aは、広報ご担当者に作成いただくようにしています。
もちろん、わたしたちがご用意することも可能です(その方が「商売上」は得策です)。
ただ、危機管理広報の総論編でも述べているように、わたしたちはお客さまが「できるようになる」ことを重視しています。

このうち、シナリオの質は、トレーニングの成否を左右すると言ってよいほど重要ですし、シナリオの作成は非常に難易度が高いです。
というのも、作成時は以下を綿密にシミュレーションする必要があるからです。

  • 自社でどのような危機が発生し得るのか

  • その事象は本当に会見が必要なレベルか

  • 仮に会見が不要なレベルの危機でも、報道・SNSや警察発表、第三者による公表(例:ハラスメント被害者の会見)など、社会的関心が増した場合は会見が必要になりうるか

さらに、経営層に感じ取ってほしい・理解してほしい点(例:報道・社会の「いま」の関心事項等)や、変わってほしい点(例:自分たちは悪くないという驕り・傲慢さがでやすい等)を考慮し、シナリオに「落とし穴」を用意することが大切です。

こうした作業は、非常に難しいですが、ご担当者の皆さんにとって、危機事象のレベルの見極めや会見要否の判断力向上のトレーニングになります。
また、「落とし穴」をしっかりと用意しておくことで、万が一、類似事象が発生した時、経営層に「この範囲・メッセージで開示しないと、記者の追及を招いてしまいます。先日のトレーニングで炎上した会見のようになりかねません」と提言しやすくなります。

シナリオは、メディアトレーニングの質を決定づける。
だからこそ、作成プロセス自体の価値を重視し、仮にわたしたちが作成した方がよいものになりそうな場合でも、極力お客さまに作成いただくのです。

わたしたちの利益や、「一回限り」のトレーニングの質を優先に考えるならば、シナリオ作成を受託できるように誘導するでしょう。
しかしわたしたちが目指すのは、繰り返し何回も受けたくなる・受けさせたくなるメディアトレーニングにすること。
こうしたスタンスは、あえて取っていません。
ひとつの信念のようなものと言えるでしょう。


シナリオを読み解いて準備する

さて、準備の次のステップです。

お客さまの作成資料を踏まえて(調整・修正が必要な箇所はご助言します)、シナリオ等を読み解いていきます。
この読み解きの際、受講する経営層本人の思考様式・価値観等に関するプロファイリングや、アセスメント研修を兼ねることを意識しています。

そもそもわたしたちは、経営層の信用・信頼獲得力について、主に以下のようなディメンションでアセスメントを行います。

  1. 土台
    人間性・誠実性 ・・・ うそをつかない/言行一致 等
    能力・実力 ・・・ 複雑な事象の構造化/的確な判断 等

  2. 想像力
    視野・視座 ・・・ 影響の範囲や内容の認識 等
    配慮・包摂 ・・・ 影響対象を「主語」にした説明 等

  3. 増幅
    経験・実績 ・・・ 自社・他社事例の学習・教訓 等
    対話・傾聴 ・・・ 逃げない傾聴姿勢 等

  4. 阻害要因
    自己保身 ・・・ 責任転嫁・傲慢さ・他責 等

※アセスメントについては別途ご紹介する予定です。

そのため、シナリオの分析にあたっても、これらをふまえて丁寧に行います。

  • お詫びが必要な内容か、必要な場合はその範囲や対象はどこまでか?
    → 人間性・誠実性や保身の有無の評価に関連

  • このシナリオは一言でいうと何か(例:不慮の事故、偽装行為の長期隠ぺい)
    → 能力・実力(客観的説明能力)の評価に関連

  • もっとも影響を受ける人は誰で、何を感じる事象か/顧客・顧客の顧客・従業員・株主・取引先・業界全体・監督官庁などあらゆるステークホルダーに直接・間接の影響はないか
    → 想像力の評価に関連

もちろん、メディアトレーニングは、「非日常」の備えとしての担保も大事なので、その観点での準備もします。たとえば、

  • その危機事象が発生した際の「会社として求められる認識」、いわば「仮の正解」を頭に描く

  • 過去、他社を含めて似たような危機事象が発生しているのであれば、その公表・報道内容を確認する

  • 最悪のケース(ステークホルダーのダメージも会社・組織のダメージも膨らんでしまった状態)を想定する

とくに、最悪のケースの想定は重要ですね。シナリオを読み解いたうえで、最悪な状態を回避できるように、わたしたちなりに、その事象でお伝えすべきこと、言ってはならないことを整理します。

すなわち、この段階では"非日常を日常にする"こと(アセスメントへの落とし込み)+"非日常に備える"こと(いわゆる緊急会見での失敗防止)を両立させるようにしているのです。


記者役質問例の作成

シナリオ、読み原稿・プレスリリース・Q&Aをもとに、わたしたちは記者役質問例を作成します。
記者役質問例は、想定される質問をとにかくたくさん洗い出してリスト化したものです。
広報ご担当者にも事前に提供し(もちろん受講者本人には共有しません)、記者役を務める際に活用いただきます。

質問例では、まず、会見で聞かれるであろうことを棚卸します。

  • 記者の目の前にある材料から考えた質問(例:読み原稿・プレスリリースを起点に質問を棚卸する)

  • ひとの普段の会話を想定した素朴な疑問の質問(例:そもそも、なぜこんなことが起きたのか)

  • シナリオで気づいてほしい点を追及する質問

これらは一般的なメディアトレーニングでも問われるものですが、わたしたちはプロファイリングやアセスメント評価ができるようにあらゆる質問を盛り込みます。例として、

  • 困惑を招くために、意表をつく角度・突拍子もない視点の質問
    → 能力・実力や視野・視座を見るため

  • 類似する自社・他社事例について尋ねる質問
    → 経験・実績を見るため

上記のように様々な切り口・角度から洗い出した質問は、さらに整理整頓しながら、誘導尋問や落とし穴をつくって強度を調整する作業を行います。たとえば、

  • 事実関係を中心に聞いておきながら、その事実関係を認めるステップが「社会の認識とズレている」と認めざるを得ないような順番

  • Q&Aを踏まえた回答を想定しながら論点を徐々にずらしていく質問の順番

記者役質問例も、"非日常の備え"に加えて"日常への落とし込み"(=アセスメント要素の盛り込み)を意識しています(質問例の価値や重要性はなかなかわかりづらい点なので、今後はこの「見えない努力」についてもお客さまに積極的にお伝えしていこうと思います)。


最後にもういちど、わたしたちがメディアトレーニングの準備にあたり意識している点を整理します。

  1. 危機発生時という「非日常」の備えだけでなく、「日常」に役立つ内容にしている
    → 受講する経営層本人の思考様式・価値観等をプロファイリングできる状態にする

  2. 経営層に必要な「信用・信頼獲得力」を診断する“アセスメント”の要素を含んでいる
    → 様々な角度から評価項目をチェックできるように準備する

  3. 受講する経営層だけでなく、広報担当者の育成につなげている
    → できるだけ、わたしたちが受託する範囲を狭くする(利益度外視!)

いよいよ、準備万端で臨むトレーニング当日! …は、次回の記事でご紹介します。

この連載の全体像
メディアトレーニングの舞台裏①非日常の備えという認識を変えてみよう ← 2026/8/31公開
メディアトレーニングの舞台裏②経営層が何度も受けたくなるメディアトレーニングとは ← 2026/8/31公開
メディアトレーニングの舞台裏③ 準備編:準備段階でいったい何をしているのか ← 2026/9/7公開(本記事)
メディアトレーニングの舞台裏④ 当日編:トレーニング中に講師は何を考えているのか ← 2026/9/14公開
・メディアトレーニングの裏側 ⑤事後講評編:もはや執念の塊 ← 2026/9/22公開予定


耳よりニュース!

2026年9月4日、広報実務の知恵を概念化・体系化した「広報実務のバイブル 報道対応編」を公開しました。

わたしたちは、多種多様な広報実務の知恵を、「数式」によって構造化した概念モデルの策定に取り組んでいます(「広報実務のバイブル 総論編」2026年5月19日公表)。
この度公開した新たなモデルは、報道対応領域のマネジメントのあり方と、経験やセンスに依拠しがちだった「攻め」のパブリシティの獲得、「守り」の危機管理広報について、実務上の要諦を足し算・引き算・掛け算・割り算を用いた「数式」で表現するもの。
工学的な考え方で力学を表現することで、自社の広報組織や個々の広報担当者が何に強みがあるのか、何にボトルネックがあるのかを構造的に理解できるようになりました。

危機管理広報領域では、

  • ダメージ・コントロールの力学

  • ダメージ・コントロールの実現可能性を高める平時の備えの力学

を扱っていますので、メディアトレーニングにご興味のある方はぜひご一読ください。

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