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宝くじと赤鉛筆

「よっしゃー」
「当たったぁ」

新聞の当選欄を指さしながら思わずガッツポーズをした。

「なに、なに?何が当たったって?」
その声に、周りにいた職場の同僚が集まってきた。

私の手には年末ジャンボ宝くじ。
4等五万円が当たってる。


宝くじは、ジャンボとロト6を楽しむ程度にたまに買っていた。
ジャンボはバラと連番を10枚ずつ。


ロト6ではよく元が取れたし、ジャンボでも五万、十万は何度か当たっていた。

高額当選は一度もなかったが、そのくらいの少額当選は珍しくないことだと思っていた。

「そんなの普通当たらんよ。一回も当たったことないよ」
と、当選した宝くじのおもてを見たり、裏にひっくり返したりしながら同僚の女性が言った。


その日は、職場のみんなが、ちょっと浮かれたようになっていて不思議だった。

私は、昼休みに近くの美味しいと評判のケーキ店に行って、ショートケーキを職場のみんなに買った。
まだ受け取ってもいない当選金はかなり減ったけれど、それで良かった。


そのケーキを美味しそうに食べながら、
「せっかく当たった宝くじなのに、悪いねぇ」
と、なぜかやたらと感心された。


私には普通のことだった。


当たったものを独り占めすると、福が逃げる。
そんな風に思っていた。



福が逃げるーーそう思うようになったのは、父を見てきたからかもしれない。


父が亡くなって、もう20年になる。
私は自宅で9年間父親の介護をした。
脳梗塞の半身の麻痺から始まり、介護度は徐々に上がっていった。


食事の支度や身の回りの世話。
糖尿病によるインスリンの注射の補助等、次第に生活のほとんどが娘である私に依存するようになっていった。


でも、長年商売人として店を複数店切り盛りしていた自負もあったのだろう、財布に関しては決して私に渡そうとはしなかった。


そんなある日、父に生活費を引き出すよう頼まれて通帳をのぞいた。

すると、二百万円が二回にわたって引き出されている。
その横に赤鉛筆で『宝くじ当選金』と父の字で書いてある。


ーー四百万円!
宝くじ当選金って。
それも入金ではなく、出金だ。


「どうしたの⁈このお金。四百万も下ろしてあるじゃん!」

「…お、当たっただ。宝くじに」

「ーーな、訳ないじゃん!引き出してあるよ」

「俺の金だ。どうしようと俺の勝手だ!」

それだけ言うと、口をつぐんでテレビに顔を向けた。
これ以上踏み入らせないと。


この時の父の顔は今でも忘れない。
高揚感と卑屈さが混じったような……。
人間ってこういう顔をするんだ。と思った。

…勝手にしろ。
私は、父の住む離れのドアを音をたてて閉めた。


お金にとても細かい父は、引き出されたお金の使い道を全て赤鉛筆で書き加えていた。

「三万円下ろしてこい」と私に言いつけて通帳とカードを渡す。
そして帰宅すると、持ち帰った現金と通帳を確認して赤鉛筆で書く。
疑われているようで、ほんとに気分が悪い。

そういう人間だった。


その父が二百万円を二回。
四百万円を引き出している。
いつのまに。
どうやって?

信金の担当者は、たまに出入りしていた。
父に言われるがままに手続きを取ったのか?

宝くじじゃなくて、何かの投資をしたのだろうか?


そのままひと月が経ち、ふた月が経ったが、当選金とやらが入った気配はなかった。


この頃になると、
私の頭にも、おそらく父の頭にも、同じ言葉が浮かんでいた。

ーー詐欺だ。


あれほど用心深くて、やり手の商売人だった父がいとも簡単に四百万円という大金を差し出したのだ。


そのことに関して、父と私の間で会話はなかった。
お互い何も言わなかった。


不思議なぐらい、私は腹が立たなかった。
可哀そうとも思わなかった。


何十円にこだわる人間が、何百万円も騙し取られた。


その数か月後に父宛ての封書が郵便受けに入っていた。
ちゃんと印刷された商業用の封書。


中を開けると、書いてあった。
「宝くじに当選しました。いついつまでにお金を振り込んでください」


私は、その場でビリビリと破って家のゴミ箱に捨てた。
そして、いつものように食事のお盆を持って離れに向かった。

「ごはんだよ」


父は、テレビを見ながら私を横目で見たが、私は黙ってお盆をベッドのテーブルに置いた。





独創的な視点と、そこかしこに垣間見える可愛らしいお人柄が素敵な未桜さんから回ってきた、エッセイしりとりバトン。
「た」から、私は「宝くじと赤鉛筆」を書きました。
次は「つ」です。

※私からのしりとりバトンの次の走者は、
ゆうの静かな探求🌿さん。

いつもコメント欄で、言葉を交わしてくださる方です。
ご家族との日常や旅などを、柔らかな文章で綴っています。
でも、ただ優しいだけの人ではありません。
社会の中で感じた違和感や、「これって本当にそうなの?」と思ったことにもきちんと目を向ける素敵なクリエイターさんです。

ゆうさん、よかったら「つ」、を受け取ってください。

※もうお一人は、ただのかくひとさんです。

いつもコメント欄で楽しくやり取りさせていただいている方です。
プロフィールには、「過剰分泌家」
そして、「前向きに生きたいと思うのですが、いびきがひどいので横向きで寝ています。」

ただのかくひとさんの記事には、日常のあれこれを少し斜めから眺めて、言葉で転がしてしまう楽しさがあります。
「つ」を渡したら何が出てくるのか。私にもさっぱり分かりません。
よろしければ、「つ」を受け取ってください。

お二人とももちろんご無理のない範囲で。
私からの「つ」、ここに置いておきます。


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