掌編|【箕面線のすぐ側で】踏切だけが鳴る夜
あの頃、私は眠れなかった。
一人っきりのワンルーム。
踏切の音が、静かな夜の住宅街に響く。
踏切が鳴らなくなっても、
眠れない夜が来る。
誰からも遠ざかる
そんな深夜を一人で過ごす。
貴方の記憶が、
少しずつ、輪郭を失くしていく。
メントールの混じった煙草の匂いも、
笑いを含んだ低い声も。
夏の海での笑顔も、
マフラーを渡してくれた手の温もりも。
何一つ、忘れたくないのに。
何一つ、覚えていたくない。
貴方はもう、すっかり忘れただろう。
なのに、私は、捨てられない。
レールの上を電車が走る音。
また朝が来る。
身体をひきずり
大学へ行く。
もう、わからない。
朝なのか、昼なのか、夜なのか。
壊れて泣いたって
もう、貴方は、見ていない。
もう、貴方には、届かない。
そして、また一人の夜が来る。
踏切の音だけが、今夜も耳に残る。
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あの頃の夜を、もう少し。
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