掌編|【箕面線のすぐ側で】それは、ぬるい惰性の匂い
私たちが住んでいた
刀根山のアパートの前には、
青い自販機があった。
その夏の日の夜は、
やたらとねっとりした空気が
私を包んでいた。
青い自販機は
街灯に照らされて、
光を纏って
浮かび上がっていた。
そのとき
いつものように
彼が追いかけてくれるのを
期待していたけれど、
アパートから、自販機の前までの
黒い空気は
動かないままだった。
私は、
ぬるい惰性の匂いなんて
嫌だと言った。
彼は、
まるで駄々っ子をあやすみたいに
微笑って言った。
「そこが、いいんじゃないか。」
あの日の彼は
夫となった。
彼の部屋からは
今でもときどき
あの歌が聴こえてくる。
私は、それを聴きながら
安心して、眠りに落ちる。
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あの頃の様々な夜を。
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