掌編|【ちーちゃん】ちーちゃんとおかーさん
おかーさんは、
ちーちゃんのお義母さんだ。
けれど、
「うちの嫁」なんて
死んでも言わないだろう、
そんな女性だ。
「近頃、疲れやすくなってきたの。
一万歩歩くと、疲れるわ。」
そう言いながら、ふーちゃんを連れて、
けろっと、高尾山にも登ってしまう。
ちーちゃんは、
半ば呆れながら、
彼女の話に耳を傾ける。
「好奇心がなくなったら、私じゃないの。」
「そうでしょうねぇ。」
マンホールの蓋の由来を調べて
ワクワクするなんて、
きっと、おかーさんくらいだわ。
ちーちゃんは、呑気に
お義父さんが淹れてくれた
コーヒーを口に運ぶ。
夏休みになると、おかーさんは
孫たちを連れて
夜のお散歩に行く。
みんなでパジャマで
街を探検する。
「すごかったのよ。蝉が羽化していて。
行きには、ちゃんといたのに
帰りには、もういなくなってたの。」
孫たちの誰よりも
目をキラキラさせて
おかーさんは語る。
ちーちゃんは、
おかーさんの大好きな
しっかり冷やした桃を
切りながら、
ふふっと笑う。
食卓に運ばれた桃に
次々に手を付ける
子どもたちを見ながら
「そうだったんですねぇ。」
と相槌を打つ。
まだまだ続く
おかーさんの冒険譚は、
みんなの食卓の上を
ゆっくりと、愉しげに流れていく。
そうして、また
今年の夏の夜も
緩やかに更けていく。
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