掌編|たんぽぽが咲いていた
「たんぽぽ、咲いとうなぁ。」
入試会場に向かいながら、
足元のたんぽぽに気づいて、
馬鹿みたいに呑気に、そう言った。
本当に、馬鹿みたいだった。
思いがけず受けることになった
大阪大学の後期試験は、
何の対策もできていなかった。
先生に言われて、仕方なく過去問を解こうとした。
赤本には、こんな問題が載っていた。
「現存するモニュメントの形状と
その存在意義について、4000字で述べよ」
放課後の教室に、西日が差し込む。
五時間の間、時が止まっていた。
「書いてくれへんかったら、
添削しようがないやないか。」
先生を困らせてしまった。
特別に時間を設けてくれたのに。
机に向かって、泣くしかなかった。
涙が、ぼろぼろとこぼれた。
「もう、試験、受けません。」
そう言った私に、別の先生が言った。
「座っとくだけでええわ。
とりあえず、座りに行け。」
「座るだけ、なら。」
入試会場へ向かった。
問題用紙が配られる。
軽く目をやる。
目を見張った。
「勝った。」
帰りの電車の中で
揺れに身を任せて、
目を瞑った。
帰宅した私の顔を見て、
母は、台所に駆け込んだ。
重い鞄を下ろした。
カウンター越しに
母が見えた。
静かに泣いていた。
「千春が、笑った。」
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