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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第5回 イタリア・ナポリ篇(15)

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(15)この食堂のおかげでナポリがいっそう好きに


 ナポリ港に戻ると街にはすっかり夜のとばりが降りていた。すでにヌウォーボ城も王宮も閉館。夕闇のプレビシート広場でしばらく黄昏の風情を味わったあと、地区に戻ってマルティナ部屋の周囲300m圏内をぶらついた。街の空気や光景、人々の喧騒を五感に沁み渡らせたくて。

ナポリいち広いプレビシート広場
(マルティナ部屋から徒歩5分)

 街角のミニスーパーの明かりにふと足をとめ、親切な店主のシルエットを遠くから眺めた。たどたどしい私のイタリア語の挨拶に、旅行者? どこから? と笑顔で応じてくれた人だ。もちろんそんな人ばかりじゃない。別の店ではレジを待つ私を無視してわざと別の客と話し込むふりをされたり、あとで来た客を優先されたことも。どこの国どこの街にも、温かな人もいれば差別心をむき出しにする人もいる。だから余計に、見知らぬ人の親切に大げさでなく人生を祝福されるような気持ちになる。

夕暮れの街角でしみじみ眺める近所のスーパー。親切にしてくれてありがとう


たった4日の滞在だったけど、角から猛スピードで現れるバイクや、道を挟んで延々世間話をし続ける住人たちの大声にさえ、ああナポリ、と呼びかけたい懐かしさを感じる自分がいる。

 いったん部屋に戻ってリュックをおき、ポケットに少しのお金をつっこんでナポリ最後の夕食を食べに隣の食堂へ。すっかり顔なじみになったアジア系のテーブル係が、おかえり、というふうに笑顔で迎えてくれ、なににする、と訊く。大好物の、そして一昨日食べたおいしさが忘れられないシーフードのパスタを再び頼むと、前回とは微妙に違う魚介の組み合わせにパスタは幅3㎝ほどもある幅広パッパルデッレで出てきた。手打ちの幅広パスタに魚介の濃厚ソースがしっかり絡んで、食べ終えるのが惜しいほど美味しかった。

 勘定をしながら「明日は定休日だよ」と、おそらく夕食を食べる場所を案じて教えてくれた彼に、明日は帰国します、と答えると、それは残念、最後までナポリを楽しんで、と握手の手を差し出してくれた。
その手をにぎり返しながら、ありがとう、この店のおかげでナポリがもっと好きになった、と伝えて席を立った。

旅の終わりにいつも感ずるさみしさと切なさ、過ぎゆく人生への哀惜のような思いが胸にどっとあふれて視界がかすみ、4日前に初めてマルティナ部屋に入るためのパスワードを押した時のように、建物扉のボタン操作をまた間違えてしまった。

ナポリ最後の夜、個人史上最高においしかったパッパルデッレの海の幸パスタ



 

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