寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第5回 イタリア・ナポリ篇(14)
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(14)地中海の覇者アマルフィの聖堂と紙とレモン
ポジターノからアマルフィまでは約30分。フェリーが接岸するにつれ、海と山の間にひしめく家々やドゥーモの塔が一体となった街の景色が、生き物でもあるように怖いほどの迫力で迫ってきた。海と船と港が作る景色そのものがドラマチックだ。

アマルフィ海岸の典型的景色。切り立つ海岸ぞいにカラフルな別荘地が点々と
ここは9〜12世紀に東方貿易で栄えたイタリア最初の海洋国の中心。ヴィネツィア、ジェノヴァ、ピサそしてアマルフィと、イタリアに4つある海運共和国のうち最古で、コーヒー、紙などをイタリアにもたらした港でもあるそう。世界的リゾートであると同時に地元ナポリっ子が気軽な休暇を楽しむ近場リゾートとしても知られる。
『ナポリの物語 1』でも主人公の一人リラの、最初の夫との新婚旅行先でもあった。その後の展開に、読者は友情や成長譚だけでは語り尽くせない物語の複雑な展開にいっそう深く取り込まれていくのだけど、それはまた。

この街に初めて立った旅行者が真っ先に訪ねるのは、長く急な階段の先でどっしりと構える街の象徴ドゥオーモだ。10世紀に創建され、その時々の権力者の栄枯盛衰に合わせるように建築様式や意匠が変わり、バロック様式となった今の姿は18世紀のもの。120本の白い優美な柱が並ぶアマルフィ貴族の墓 “天国の回廊” や、アマルフィ共和国が富と繁栄にあかせて地中海じゅうから集めたお宝類を並べた聖堂とその博物館がすばらしい。山と海にはさまれ、農耕地に恵まれなかった小さな集落から、どうやってこれほど贅を極めた国に発展できたのだろう。
ドゥオーモを出て街に戻る階段の途中から、遠く輝く紺碧が見えた。この大海原に出ていくしかないという一念で海運業を発展させ、地中海に漕ぎ出した中世アマルフィ人の視界を想像し、その目で海を眺めた。
港に向かう門前町の道すがらで伝統紙の専門店を見つけて店内を見せてもらった。アマルフィペーパーの100%素材である綿を長い時間かけて木づちで叩いてペースト状にし、土地の湧き水と混ぜたものを羊毛フェルトに伸ばし、自然の風で乾かして完成させるのだそう。技術と手間、そして時間をかけて丁寧に作られるアマルフィペーパーは、特別なレターセットや結婚式の招待状などに人気だという。
旅の記念にポストカードを一枚求めたかったけれど、残念ながら、そして当然ながら予算を遥かに超える金額に諦めざるをえなかった。でも、その存在と価値を知り、実物をこの目で見られただけで十分ではないか。店の前の “地産レモン搾りたて” と書かれたジューススタンドでジュースを買って飲み、アマルフィのエッセンスを味わい尽くした気になった。


アマルフィーレモンは日本で一般的な海外産レモンより大ぶり
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