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寺田和代【Book Review】パトリシア・ハイスミス『リプリー』佐宗鈴夫訳、河出文庫

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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」第5回 イタリア・ナポリ篇
【Book Review】〔3〕

パトリシア・ハイスミス『リプリー』佐宗鈴夫訳、河出文庫、1993年8月


パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』(2016年に『リプリー』から改題)
佐宗鈴夫訳、河出文庫、1993年8月初刊

 
「ナポリの南にあるモンジベロという町にいるんです。息子の話だと図書館すらもないとか。ヨットに乗っているか、絵を描いているか、そのどちらかでね」(『リプリー』抜粋)

偶然と勘違いが重なった出会いを機に、富豪の造船王からこんな言葉と共に南イタリア・モンジベロで放蕩を続ける息子ディッキーを、家業を継がせるために連れ戻して欲しいと頼まれた小悪党トム・リプリー。虐待されて育ち、詐欺師として生きてきたトムは思いがけない人生の展開に導かれるように現地へ。自分とは真逆の星の下に生まれた同世代のディッキーに憧れと嫉妬を抱きつつ、友情を勝ち得ようと必死の努力を続けたものの関係は徐々に暗転。ある時、ディッキーの言葉をきっかけに衝動的に彼を殺害しまう。本人になりすまして彼の恋人マージや親友をも巧みな操作で騙し続け、さらに罪を重ね、やがて全ての嘘が決壊する破滅の時が目の前に……。

後にシリーズ化された「トム・リプリー」第一作で、映画化第一作となったアラン・ドロン主演『太陽がいっぱい』(1960年)でも知られる著者の代表作。サイコサスペンスの走りともいうべきこの作品が今なお古びないのは、選べず与えられた出自や人生への不全感から逃れようと、なりたい人間になりすます=自らを擬態させて生きるトムの姿には、時代や社会を超えて人の心の琴線にふれる部分があるからかも。
嘘と偽りにまみれつつも行きあたりばったりに行動する姿は、愛を求めすぎて常に的を外してしまう、ある種の人間の痛ましさをいやというほど見せつける。ハイスミスの恋人の一人だったモニーク・ビュフェは「リプリーはもう一人の彼女(ハイスミス)」と語っている(ドキュメンタリー映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』のなかで)。

 ナポリ、ローマ、ヴェネチア、サンレモ、パレルモ…。旅好きなら、トムが嘘と罪を重ねて転々とするイタリアの魅力的な町々の描写に心が躍り、エア旅気分に浸れるかも。同行者がサイコな人殺しであることが旅のスリルをいっそう盛り上げてくれる、かどうかはページを繰ってからのおたのしみ。

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