寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第5回 イタリア・ナポリ篇(2)
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(2)昔ながらの風情残す下町の貸し部屋へ
4泊予約した貸し部屋は、ディープなナポリといわれるスペイン地区(クアルティエーリ・スパニョーリ)のほぼ真ん中。
ナポリらしさとは、にぎやかな下町、複雑な路地、人なつこい人々、喧騒、おしゃべりや歌、頭上にはためく洗濯もの……。その昔は貧しく塵あくたでスリやひったくりも多く、旅行者が立ち入るのはタブーとされた地区。今では世界中のツーリストがナポリで最も魅力的なエリアの一つに挙げる。

(作図:三月社 https://sangatsusha.jp/)
私にとってナポリの原点は20代終りにリバイバル上映で観た映画『イタリア旅行』(1954年)だ。イギリスに住む離婚寸前の夫婦が、所有する別荘を処分するためにいやいや2人でやってきたナポリの数日間。もはや一緒にいることも苦痛で、別々に観光するそれぞれの行き先がナポリ旅行者にとって心躍るガイドになっていた。妻を演じたイングリッド・バーグマンの完璧な優美さが、繊細な演技とともに35年近くたった今もありありと蘇る。
敬愛する作家、須賀敦子の名と作品に出合ったのも同じ頃。彼女の初エッセイ『ミラノ 霧の風景』は、ライターとして2度目の海外出張先イタリア(1990年当時の出版界は駆け出しの無名ライターを海外出張させてくれたほど景気がよかった)行きの道中に初読し、全身に激震が走って以来、その御名はライターとして目指す遥かな巨星になった。同書所収の「ナポリを見て死ね」も一筋縄ではいかないこの街の重層的な魅力をありありと伝えている。
さらに、この街が2017~19年に邦訳版刊行時に寝食を忘れて読み耽った全4作の長編小説『ナポリの物語』の舞台だったことも。ともに成長した幼なじみのように感じる登場人物たちを育み、彼らが愛憎劇や離別を織りなしたナポリ下町の空気を5日間の滞在とはいえ感じてみたかった。
(『ナポリの物語』訳者の飯田亮介さんも同著あとがきで、ナポリが感じられる作品のひとつに「ナポリを見て死ね」を挙げておられる)
◆ナポリ歩きのお供に選んだ3冊◆
エレナ・フェッランテ『ナポリの物語』1〜4 飯田亮介訳、早川書房
須賀敦子「ナポリを見て死ね」(『ミラノ 霧の風景』所収)、白水社
パトリシア・ハイスミス『リプリー』佐宗鈴夫訳、河出文庫
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