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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第5回 イタリア・ナポリ篇(3)

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(3)欧州で最も美しい地下鉄駅トレド


 ナポリ中央駅構内はすさまじい混雑だった。東京都心各駅の雑踏ぶりが世界に喧伝されて久しいけど、ナポリもどうして。途方に暮れてつっ立っていようものなら人波に押し倒されそうで、壁ぎわにのがれて気持ちと呼吸を未知の街になじませつつ、ポケットから手書きノートを取り出して部屋への道順を指先確認する。
この旅で初めてスマホにe SIMをセットしたアナログおば(あ)ちゃん旅行者、街のどこでもグーグルマップを使えるようになってはいたけれど、パニクった時は自分の字で記した旅ノートを見るのが正気に還るいちばんの近道なのだ。

“バスターミナルからナポリ中央駅構内を通って地下に降り、2経路ある地下鉄のうちline1で4つ目のトレド駅下車徒歩10分”と。
混みに混む広い構内を、天井の案内板だけを頼りにLine1ホーム方面に進む。英語併記の案内板が頻繁に設置されているおかげで、なんとか進行方向を見極められるものの、目指すホームがあまりに地下深く、つづら折れのエスカレーターを延々下る途中の踊り場では、あれほど多かった人が途絶えた瞬間があって今度はそれに恐怖を感じたほど。

頭上の楕円形から緑から青に至るさまざまな光がこぼれるトレド駅エスカレーター


 降車駅トレドは“欧州で最も美しい駅”として知られる。地下深いホームから地上出口に向かう長いエスカレーターでその理由がわかった。天井の大きな楕円形の窪みから、青から緑へとゆっくり色調を変える光が漏れ出し、乗降客はまるで太陽光が届くぎりぎりの深海にたゆたうような錯覚に。そのせいか、せかせかと人を追い越す“危険行為”をする人は見た限り一人もいない。これぞ美と機能を兼ねた公共設備だ。

 地上出口を出たところでWhatsApp(※)に貸し部屋主のマルティナから着信がある(※WhatsAppはLINE同様のコミュニケーションアプリ。欧州の小さな宿や貸し部屋でオーナーと客とのコミュニケーションに使われることが多い。この旅でも、予約したすべての宿主から事前にインストールしておくよう言われていた)メッセージには「膝を痛めて部屋に行けません。悪いけどセルフチェックインしてください」とあり、入室方法が箇条書きされている。

 ドキッ! 大丈夫かな。対面チェックインなら問題ないけれど、セルフの場合、運が悪いと家主独自のややこしいプロセスが待っているのだ。

トレド駅を出てすぐのトレド通り。東京でいえば青山通り!?(個人の印象)


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