寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第5回 イタリア・ナポリ篇(4)
←イタリア・ナポリ篇(3)へ戻る
←イタリア・ナポリ篇(1)(著者プロフィールあり)へ戻る
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」マガジン topへ
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」総目次へ
←けいこう舎マガジンtopへ
(4)『注文の多い料理店』さながらの道のり
地区を貫くスペランツェッラ通りをひたすら南へ歩く。幅3mほどの一方通行の道の両側にはカフェ、バー、食料品店、衣料品店などさまざまな小売店が一分の隙間もなく建ち並ぶ。狭いわりにはクルマの通行量が多く、その音に負けじと人々が交わす声の大きさときたら! おまけにバイクやスクーターが無数の小路からふいに現れて全速力で脇をかすめていくから気が気じゃない。ああ、これぞナポリ!(なのか?)

マラドーナ(背番号10)全盛期のナポリの布陣を示すプレート
左手にケーブルカーの始発アウグステオ駅を見ながらさらに南下し、2つめの小路を右に曲がると、すぐに道幅全体が石段に変わる摩訶不思議な道の先に食堂があり、その隣の番地が目的地だった。
が、安心するにはまだ早い。マルティナのメッセージに従い、まずは建物に入るために扉脇のコード盤に4桁の数字を打ち込む。
が、何度やっても反応なし。焦る私の背後1メートルに迫る食堂客の視線が気になる。見んな、見んな、見せ物じゃないよ(映画『男はつらいよ』シリーズにおける“寅さん”の十八番せりふ)
背中に吹き出す汗を感じつつ、老眼鏡をかけてよくよくメッセージを確認すると4桁数字の前に鍵マークがあり press first symbol“鍵マーク” and then numbersと記されているではないか!
この "鍵マーク” 日本では(少なくとも私には)なじみのない形だったから、鍵を意味する単なる絵文字だと勘違いしていたのだ。コード盤を見ると確かにこのマークがあり、押してみると、ブーッ! と解錠音。
やった! 怪しい者じゃないですよー、というふうに食堂客を振り返り、意地でほほえんでから建物内へ。
マルティナ部屋は入ってすぐ右。が、そこからが第2関門。扉の横に巣箱型の箱が取り付けられ、建物とは別の4桁の数字を合わせる。今度は簡単。4つの数がカチリと合うと、巣箱の扉が開いて中に鍵がひとつ。その鍵を部屋扉の鍵穴にさしこむと…。今度こそゴール!
すでに全身汗だく。宮沢賢治『注文の多い料理店』さながらだ。


隣の食堂との距離近し!


1泊約60ユーロで予約(宿泊10ヵ月前=’23年12月早割価格で予約)
内部は写真で見ていた以上に広く、きれいで、その上オシャレ。冷蔵庫で見つけたペットボトルの水を勝手にがぶ飲みし、ソファーに崩れ落ちているとスマホがチンっと鳴り、マルティナからメッセージが届く。
「問題ない? 冷蔵庫の水は自由にどうぞ。チェックイン書類を添付するから、ひと休みしたら返信して」
パスポート情報をスマホで撮影し、画像をフォームに添付してチェックインするしくみだ。いやはやデジタルの進化は旅を画期的に楽にした一方、それになじめない人には(個人の)旅はますますよそよそしくなったといえるだろう。現実的にスマホなしでは個人旅はもう難しい。
その晩の食事は、もちろん隣りの食堂へ。旅行者あふれるナポリにあって、ここは地元客らしき人が目立つ “街の大衆食堂” であり、この手の店は大抵そうであるようにすこぶるおいしく、ここまでに体験した南イタリアのどの店よりリーズナブルで、アジア系とおぼしきテーブル係の親切が嬉しかった。弱気でクヨクヨしがちな高齢ソロツーリストにはそれが何よりありがたい。ナポリ滞在中は毎日ここに通おうと決めた。

←イタリア・ナポリ篇(3)へ戻る
←イタリア・ナポリ篇(1)(著者プロフィールあり)へ戻る
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」マガジン topへ
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」総目次へ
←けいこう舎マガジンtopへ
*このページの文章・写真の著作権は著者(寺田和代)に、版権は「編集工房けいこう舎」にございます。無断転載はご遠慮くださいませ。
もちろん、リンクやご紹介は大歓迎です!!(けいこう舎編集部)
