メンタルヘルス職場対策実務ガイド-まとめ
iCAREの山田です。
連載シリーズのまとめとなります。
誰向けの記事か
この記事は、職場のメンタルヘルス対策に関わる経営者、人事責任者、管理職、産業医、産業保健看護職の方に向けて書いています。
全5回の連載で伝えたかったこと
これまで5回にわたり、職場のメンタルヘルスについて書いてきました。
第1回では職場環境改善、第2回ではラインケア、第3回ではメンタルヘルス不調者への対応、第4回では精神障害の労災認定、そして第5回では若い世代のメンタルヘルスを取り上げました。
私がこの連載を通して伝えたかったことは、メンタルヘルス対策を、「不調になった個人をどう支えるか」という話だけにするのではなく、「働くひとの環境をどう仕組みとして作り上げ、対応から予防にできるのか」考える必要があるということです。例えば、本人の症状に気づくことも良いのですが、仕事で負担が高くなっているときにどう対応するのかを職場のルールとして決めておきたいところです。
ストレスチェックは、組織の健康診断である
第1回で取り上げたのは、職場環境改善です。
ストレスチェックの集団分析を見ると、「この部署は高ストレスだ」「この部署は上司の支援が低い」といった結果が表示されます。
ここで、高ストレス部署の管理職を呼び出して、「もっとコミュニケーションを増やしてください」と伝えても、職場はなかなか変わりません。
高ストレス部署は、「会社で処理できていない課題」が、強く流れ込んでいる部署なのです。
事業の急成長、人員不足、顧客からの要望、部門間の調整、頻繁な方針変更、役割の不明瞭さ、不十分なマネージャーとの意思疎通など様々あります。
ストレスチェックは、組織のどこに無理が生じているかを知るための健康診断であり、数値を見て終わるのではなく、「なぜ、この結果になったのか」を現場と一緒に考える。その対話が、職場環境改善の始まりとなります。
第1回:職場環境改善とは何か—ストレスチェックに映る「組織の歪み」をどう直すか
職場環境改善は、個人のストレス耐性を高めるだけでなく、負荷が生まれやすい職場構造を変える活動として位置づけることが重要であり、仕事そのものや職場の構造そのものに積極的にPDCAをまわしていく設計が最も効果的です。もちろんその分だけ、とても難しいのですが。
ラインケアは、いつもの違う症状だけをみるのではない
第2回では、ラインケアについて書きました。
ラインケアというと、「いつもと違う部下に気づく」「最近、元気がない人に声をかける」と言われることが多いと思います。それは間違いではないのですが、それだけでは不十分です。
マネージャーに見てほしいのは、「いつもと違う部下」だけではなく、「いつもと違う仕事の状態」です。
マネージャーが「最近疲れていない?」と声がけをすることは大切ですが、もっと大切なのは「仕事の状態のおかしさに気づいて行動する」ことです。
顧客からのクレーム対応が長時間続いている。プロジェクトが遅れ、担当者が社内外の調整を一人で抱えている。大型案件を失注し、その後処理まで営業担当者に集中している。こうした状態では、誰であっても消耗します。
誰が顧客対応を支援するのか。業務量を減らせないか。責任が一人に集中していないか。追加の人員や判断者が必要ではないか。
ラインケアとは、気遣いの言葉をかけることではなく、仕事の中にある負荷を発見し、必要な業務上の介入を行うことです。
第2回:ラインケアで本当に見るべきもの—部下の異変と、仕事の中にある負荷
マネージャーには、部下ごとに異なる負担感が存在することを理解しつつ、職種ごとに異なる負荷のかかり方を理解することが求められます。
マネージャーを「診断者」にしてはいけない
第3回では、メンタルヘルス不調者への対応を取り上げました。
部下の遅刻や欠勤が増え、仕事のミスが目立つようになると、マネージャーは悩みます。
「うつ病なのではないか」
「働かせ続けてよいのか」
「休ませた方がよいのか」
「どこまで配慮すべきなのか」
これらをマネージャーひとりで判断させてはいけません。マネージャーが確認すべきなのは、診断名ではなく、「職場で起きている不都合な事実」です。
遅刻が何回あったのか。締め切りの未達があったのか。通常では起きないミスが発生したのか。周囲の支援がなければ業務が進まない状態なのか。これらは「規律・安全・成果」という3つの視点で整理できます。決められたルールに従えていない、仕事の進め方に危険性がある、気合されている成果の半分以下の状態。
仕組みが出来ていなかったり、責任と役割とが曖昧な会社では、マネージャーが医学的判断と労務判断の両方を背負うことになります。その結果、対応が遅れたり、マネージャー自身が疲弊したりします。
良いメンタルヘルス対策とは、マネージャーの属人性に頼ることではなく、誰が事実を確認し、誰に相談し、誰が就業上の判断を行うのか、困ったときに迷わず動ける制度をつくることです。
第3回:メンタルヘルス不調対応とは何か—マネージャーを判断者にしない制度設計
マネージャーを「判断者」ではなく、職場で起きた事実を伝える「報告者」として位置づけることが、制度設計の重要なポイントです。
労災認定の結果だけを見てはいけない
第4回では、精神障害の労災認定を扱いました。
労災申請が行われると、企業は「認定されるのか」「会社の責任が問われるのか」と考えます。労災認定は、補償の対象となるかを判断する制度です。認定されなかったからといって、職場に改善すべき問題がなかったことにはなりません。
ハラスメントとは認定されなくても、繰り返しみんなの前で本人圧が強いと感じるような業務上の注意が繰り返されていたかもしれません。重要なのは、個人の性格や弱さに原因を求める前に、仕事の原因を調べることです。
同じ業務を担当する別の部署では、なぜ不調者が少ないのか。特定の時期に問題が集中していないか。管理職への支援は十分だったのか。
第4回:精神障害の労災認定対応—関わる人が知るべき調査と対応プロセス
労災認定の有無(手続き的)と、職場に改善すべき課題があるかどうか(本質的)は、分けて考える必要があり、組織内にそれを改善する叡智が必ず生まれているものです。
若い世代を、世代論だけで語らない
第5回では、若い世代のメンタルヘルスについて考えました。
若手社員について、「打たれ弱い」「すぐに辞める」「何を考えているかわからない」と語られることがあります。若い社員が「大丈夫です」「特に困っていません」と答えていても、仕事で困っていないわけではありません。
マイナス評価や失敗を恐れて、出来上がるまで相談できない。上司に質問するタイミングがわからない。同期や友人には話せても、職場には相談できない。会社が求める完成基準が見えず、仕事を抱え込んでしまう。
仕事の任せ方はがそもそも明確でシンプルだったのか。途中で相談できる機会を自分たちから作っていたのか。上司以外の相談先があったか。
若い社員に必要なのは、特別扱いではなく、役割分担を明確にしながらも期待する成果をシンプルにし、途中経過を確認し、困ったときに相談できる関係をつくることです。それは若い世代だけでなく、すべての社員に必要なマネジメントだと思います。
第5回:Z世代の職場メンタルヘルスとは何か—若手の「大丈夫です」を見逃さない実務
私が考える、これからのメンタルヘルス対策
私はこれまで、産業医や心療内科医として多くの働くひとと面談してきました。同時に、経営者として事業を成長させる中で、社員の不安や不調にも向き合ってきました。
その両方の立場から感じるのは、本人と会社を対立させても問題は解決しないということです。
本人の健康だけを見れば、仕事を減らすという判断になりやすい。会社の成果だけを見れば、もっと頑張ってほしいという判断になりやすい。しかし、本当に考えるべきなのは、その間にある仕事の状態です。(逆U字です)
仕事には、人を成長させる力があります。挑戦し、成長し、感謝しながら、できることを増やしていく。失敗しながら回復し、周囲から感謝され、自分の役割を実感する。私は、そこに仕事の大きな価値があると思っています。
一方で、負担が長く続き、回復する余白がなくなれば、挑戦ではなく消耗がひどくなってしまいます。重要なのは、負担をなくすことではありません。人が挑戦しながらも、日々回復できる状態(上司や同僚からの支援も含む)をつくることです。
だから、これからのメンタルヘルス対策は、不調者が出た後の対応だけでは足りません。仕事の量、役割、目標、責任の偏り、相談のしやすさを、不調が起きる前から見直していく必要があります。ストレスチェックも、ラインケアも、産業医面談も、労災調査も、そのためにあります。ただの法令遵守や手続きではなく、働くひとの環境や仕組みづくりを促進するために存在します。
健康を守ることと、事業を成長させることは、相反するわけではありません。企業の持続的な成長は、そこにいる社員が、成長感をもちながら健康的に働き続けることで、日々の成果を出し続け、やがて大きな成果へとつながりもたらされるものです。
これが、今回の連載を通して、私が最も伝えたかったことです。
5本の記事を改めて読む
職場環境改善とは何か—ストレスチェックに映る「組織の歪み」をどう直すか
https://note.com/yotayamada/n/n7335f07c239fラインケアで本当に見るべきもの—部下の異変と、仕事の中にある負荷
https://note.com/yotayamada/n/nde79aaedf0cdメンタルヘルス不調対応とは何か—マネージャーを判断者にしない制度設計
https://note.com/yotayamada/n/n685bfc4752f7精神障害の労災認定対応—関わる人が知るべき調査と対応プロセス
https://note.com/yotayamada/n/nb1852405c96fZ世代の職場メンタルヘルスとは何か—若手の「大丈夫です」を見逃さない実務
https://note.com/yotayamada/n/nc9cee4a5348d
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著者プロフィール
iCARE代表取締役CEO。産業医・労働衛生コンサルタント。健康管理総合ソリューションCarelyで、健康管理システム、産業保健DX、健診管理、ストレスチェック、メンタルヘルス対策、健康経営・人的資本経営を支援。
iCAREについて
iCAREは、「働くひとの健康を世界中に創る」をPurposeに掲げ、15年以上にわたり産業保健・健康管理の領域で挑戦してきました。健康診断、ストレスチェック、面談、就業判定などの健康データを集め、価値ある形で活用することで、企業が健康課題を主体的に解決できる仕組みを届けることを目指しています。
