データ活用|前工程は「整える作業」ではない——現場と合意に載せて通す仕事
材料・化学の現場で、モデルやツールの話の前にデータの話が続くことがあります。ここで言う前工程とは、実験表のつなぎ方や指標の定義など、解析や導入の手前にある話です。
結論から言います。前工程を、本番の前に片づける整える作業に落とすな、ということです。 モデルや画面が本番に見えやすいぶん、手前は後回しにされやすい。でも手前を軽くしたまま後ろを厚くしても、現場は変わりにくい。手前を現場と合意に載せ、案件の進め方ごと通すところまでが、データに関わる実務の仕事だ、というのが本稿のメッセージです。
読み手として想定しているのは、実験を回す研究者本人というより、解析やツール導入を現場に届ける側です。データサイエンティスト、カスタマーサクセス、社内のデータ担当、場合によってはDX推進——肩書きは分かれますが、現場と数字のあいだに立つ人です。自分もその側にいます。
なぜ、前工程は後回しになりやすいか
後ろのほうが「本番」に見えやすいからです。モデルの精度、ツールの画面、生成AIの答え。届き方が派手です。一方で、「表のつなぎ方がおかしい」「部署ごとに収率の意味が違う」といった手前の話は、地味で後回しにされやすい。
でも手前を軽くすると、後ろがいくら賢くても壊れやすい、というのが現場の実感です。SQLは通るのに会議の数字が合わない。きれいな表なのに収率の意味が部署で違う。ツールを入れても、入力されない。その繰り返しを、何度も見てきました。
だから「先に整えてから始めよう」だけでは弱いです。整える作業として下に置くと、優先度が落ち、説明しても軽く扱われがちです。通したいのは掃除ではなく、この案件の進め方だと思っています。
「通す」で、何を言うか
自分のなかでは、だいたい三つです。会議でここを揃えられるか、という感覚です。
分け方
いま見ている1行は、実験なのか、測定なのか。表をつなぐ(JOINする)と行が増えたり、失敗した実験が消えたりする——それが起きうる、と先に言葉にできるか。
載せ方
Excel でも、読める形に整えておくのは前提です。そのうえで、毎回シートや CSV を読み直して集計するのか、一度データベース(たとえば SQLite)に載せて SQL で問い合わせるのか。載せ方が定まっていると、同じ条件の問い合わせを繰り返せる、という話です。
読み方
同じ列・同じ指標名でも、「何を分子・分母にするか」「失敗や欠測を入れるか」が違うと、会議の数字が合いません。同じデータをどう読むかの前提を一文で言えるか、です。たとえば収率なら、成功だけ見る読み方と、失敗も入れる読み方。
ホワイトボードだけだと概念で終わりやすいので、短い実物で見せるのが効きます。コードや SQL の細部は Zenn に分けました。JOIN と粒度、Excel を SQLite に載せて聞く、同じデータでも指標の読み方で数字が合わなくなる例です。
誰が、どこまでやるか
歩み寄りは両側の話です。研究者側がモデルやデータの読み方に寄る必要もある——以前その側も書きました。本稿で厚くしたいのは、もう片方です。解析や導入を届ける側が、前工程をどう扱うか。
ここを「研究者のマインドセット」だけに預けると、弱いです。現場の研究者にも歩み寄りは必要ですが、届ける側が手前を下請けに落とした瞬間、優先度は落ちます。
整理されたデータを、渡された範囲で扱う分には、すでに十分にできることが多い。足りないのは、ファイルが揃っていないままのデータでも一度まとめきり、「このままだと使えない/こう揃えると使える」を見せて、前工程を進め方として合意に載せることです。マネージャーやDX推進が後押しする場面もあります。それでも最初に手を動かし、会議で壊れ方を見せられるのは、多くの場合、データに近い実務の側です。自分の仕事でも、そこを厚くしたいと思っています。
以前、「データを現場とつなぐ力」としても書きました。本稿で足したいのは、その力の中心がスキル名ではなく、前工程を進め方として通せるかだ、ということです。
短い実物があると、何が変わるか
基盤の主担当になる必要はありません。まず足りるのは、同じデータを前に、壊れ方を共有できる短い実物です。分け方を誤ると平均が歪む。載せ方が定まっていないと、同じ条件で問い合わせられない。読み方が揃っていないと、会議の数字が合わない。
ここが腹落ちすると、ツールやモデルの話に入る前に、「いまのデータのままだと使えない」を現場の言葉で置けます。説明だけでは動かない場でも、提案が概念だけで終わらなくなります。少なくとも、自分はそうしたいと思っています。
おわりに
メッセージは単純です。前工程を整える作業に落とすな。現場と合意に載せ、進め方ごと通すところまでが、データに関わる実務の仕事だ。
手前を軽く扱ったまま後ろを厚くしても、現場は変わりにくい。だからこそ、自分は通す側の仕事として書き続けたい。
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材料研究×データ活用の実務的な話は、「データ活用の実務」マガジンにまとめています。
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