ウェーベルンを聴いた後でベートーヴェンを聴いてみました

ベートーヴェンの後期弦楽四重奏とウェーベルン。二人を並べると、音楽史上の影響関係を論じるように見えるかもしれません。けれど、ここで書きたいのは系譜の話ではありません。
時代も響きも、音楽の組み立て方も違います。ベートーヴェンからウェーベルンへ一直線に音楽が進んだ、と言うつもりもありません。ただ、私が実際に聴いていると、両者に向けている耳が、あるところで同じ働きをするのです。

後期四重奏で、旋律の外へ

ベートーヴェンの後期弦楽四重奏をあらためて聴いたとき、まず感じたのは、「これは、普通の古典派の音楽とは違う」ということでした。惹かれる一方で、簡単には形をつかませないところがあります。旋律は現れても、それを気持ちよく歌わせたまま先へ進むとは限りません。流れが切れ、速度や表情が変わり、別の時間に入ったように感じることがあります。

第14番 嬰ハ短調 Op.131は、七つの楽章が切れ目なく続きます。全体はつながっているのに、同じ時間が続いている感じはしません。静かなフーガで始まり、軽やかな動きに移り、短いつなぎを経て長い変奏へ進む。曲の中で時間の質が何度も変わり、それでも最後まで一つの大きな形を保っています。

第13番 変ロ長調 Op.130の、もともとの終楽章だった《大フーガ》Op.133では、さらにその感覚が前に出ます。四つの楽器が短い音型を押し出し、受け渡し、形を変え、互いにぶつけ合う。きれいな旋律を待っていると、音の密度に押されてしまいます。しかし、短い動機がどう姿を変え、全体を動かしているかに耳を向けると、騒然とした響きの中にも、全体を支える骨組みが見えてきます。

第15番 イ短調 Op.132の第三楽章では、音楽が前へ進むというより、その場に長くとどまっているように聞こえます。そこへ「新しい力」を感じさせる部分が入り、時間の流れそのものが変わります。ここでも私が聴いているのは、旋律だけではなく、音が続く長さや、次の音に移るまでの間です。

ウェーベルンで

その後、ウェーベルンの《弦楽四重奏のための5つの楽章》作品5や《弦楽四重奏のための6つのバガテル》作品9を聴きました。ベートーヴェンとは響きも規模もまるで違います。曲は短く、音は断片のように現れ、すぐ消えます。ところが、私はそれを全く別世界の音楽とは感じませんでした。

旋律を一本の線として追う代わりに、一つの音がどこに置かれたか、どの楽器から出たか、次の音までどれほど間があるかを聴く。その聴き方は、ベートーヴェンの後期四重奏を聴くときに、すでに自分の中で始まっていたからです。

作品9は全六曲を通しても数分ですが、音が少ないから単純というわけではありません。むしろ、一音ごとの役割がむき出しになります。何となく通り過ぎる音がなく、沈黙も休止ではなく、音と音の距離として働いているように聞こえます。

作品5を聴くと、短さの中に熱を帯びた動きも感じます。表情は短い時間の中で次々に変わります。ベートーヴェンが小さな動機を押し広げながら大きな構造を作るとすれば、ウェーベルンでは、大きな構造が極端に短い時間の中へ圧縮されているように、私には聞こえました。

似ているのではなく、聴き方がつながる

もちろん、両者を同じ音楽として扱うことはできません。ベートーヴェンには調性の引力があり、長い時間をかけて音楽を押し進めます。ウェーベルンでは、その連続性自体が切り詰められ、音は遠く離れた点のように置かれます。実際に比べれば、違いの方が大きいでしょう。

それでも、短い動機や断片が全体を支えていること、音の切れ目や沈黙まで構造に含まれていること、旋律だけを追っていては曲の姿を捉えきれないこと。そうした点に耳を向けると、二人の距離は私の中で縮まります。

似ているのは作品そのものより、私の聴き方なのかもしれません。

新しい音楽から、古い音楽へ戻る

ウェーベルンを聴くようになってから、ベートーヴェンの後期四重奏は以前より異様な音楽に聞こえるようになりました。《大フーガ》の激しさだけではありません。Op.131の楽章と楽章のつながり、Op.132で時間が伸び縮みする感覚にも、以前は聞き落としていたものがあります。

これは「ベートーヴェンは現代音楽だった」という話ではありません。ベートーヴェンを、後世の音楽の先駆者という役割に閉じ込めたいとも思いません。現代音楽を聴いたことで、古い作品の中にあった異質な部分を、自分の耳が拾えるようになったということです。

私の場合、音楽を聴く道筋は年代順ではありませんでした。ベートーヴェンからウェーベルンへ進み、ウェーベルンからベートーヴェンへ戻る。すると、よく知っていたはずの作品が、以前とは違う形で立ち現れます。

私の耳の中にできた一本の線は、音楽史の系譜ではありません。新しい音楽を聴いたことで、古い音楽の聴こえ方が変わった、その往復の跡です。

この記事で触れた作品を聴く

ベートーヴェン《弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 Op.131》
https://www.youtube.com/watch?v=NdDNeMIvhIo

ウェーベルン《弦楽四重奏のための6つのバガテル Op.9》
https://www.youtube.com/watch?v=9Qrh6hKP8Ms

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