
中国EV輸出72.3%増、リチウム電池36.4%増――2026年1~9月、輸出構造の変化が鮮明に
[無料]中国の電気自動車(EV)とリチウム電池の輸出が、2026年も急拡大している。中国税関総署が10月14日に発表した2026年1~9月の貿易統計によると、EVの輸出額は前年同期比72.3%増、リチウム電池は36.4%増となった。
同時に、中国の輸出増加額の約9割を設備製造業が占め、輸出総額に占める中間財の比率は5割を超えた。
中国の輸出を支えるのは、完成車や消費財だけではない。自動車、電池、電子部品、機械設備など、海外の産業活動や設備投資に必要な製品の存在感が高まっている。
地域別では、東南アジア諸国連合(ASEAN)との貿易総額が前年同期比22.7%増加し、第3四半期には31.4%増へ加速した。
ただし、今回のEV輸出72.3%増は金額ベースであり、輸出台数の増加率ではない。また、ASEANとの貿易拡大が、そのまま中国製EVのASEAN向け輸出拡大を示すわけでもない。
今回の発表からは、中国の輸出構造がどのように変化しているのか、その全体像が見えてくる。
EV輸出額72.3%増、リチウム電池36.4%増
10月14日、中国国務院新聞弁公室は2026年1~9月の貿易統計に関する記者会見を開催した。
中国税関総署の王軍副署長は、輸出の成長を支える分野として設備製造業を挙げ、EVやリチウム電池などの輸出実績を紹介した。
2026年1~9月の主な関連製品の輸出増加率は次の通りである。
電気自動車(EV):前年同期比72.3%増
リチウム電池:36.4%増
風力発電設備・部品:22.4%増
集積回路:99.1%増
いずれも輸出金額ベースの増加率である。EV輸出額は前年同期の約1.72倍、リチウム電池は約1.36倍となった。
中国では完成車メーカーだけでなく、電池メーカー、部品メーカー、製造設備メーカーなどが海外事業を拡大している。
今回の統計は、その動きが完成車と電池の双方に表れていることを示している。
ただし、今回の記者会見では、EVとリチウム電池の輸出金額そのものや、輸出数量、平均輸出単価は示されていない。
そのため、輸出金額の増加が、出荷数量の増加によるものなのか、高価格帯製品の比率上昇によるものなのか、あるいは両者の組み合わせなのかは、この発表だけでは判断できない。
EV輸出72.3%増は、輸出台数72.3%増ではない
中国の自動車輸出を分析する際、特に注意したいのが、税関統計と自動車業界統計の違いである。
中国税関総署が今回公表したEV輸出72.3%増は、特定の商品分類に基づく輸出金額の前年同期比である。
一方、中国汽車工業協会(CAAM)などが発表する自動車輸出台数は、完成車メーカーの報告を基に集計されるものであり、統計対象や計上方法が異なる場合がある。
また、中国の新エネルギー車(NEV)には、一般にバッテリーEV(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)が含まれる。
税関総署が今回示した「電気自動車」という商品分類を、NEV全体の輸出と同一視することも適切ではない。
例えば、EVの輸出金額が大幅に増えていても、輸出台数が同じ割合で増えているとは限らない。
高価格帯モデルの輸出が増えれば、台数の増加率を上回る金額の伸びが生じ得る。
逆に、低価格帯モデルの比率が上昇すれば、輸出台数の増加に比べて輸出金額の伸びが小さくなる可能性もある。
今回の72.3%という数字は、中国製EVの海外販売が金額面で大きく拡大していることを示す一方、その背景にある台数、車種構成、単価の変化については追加の分析が必要である。
リチウム電池36.4%増、EVとは別の輸出産業として拡大
リチウム電池の輸出額も前年同期比36.4%増加した。
リチウム電池はEVの主要部品であると同時に、定置用蓄電システム、電子機器、産業設備など、幅広い用途に使用される。
そのため、中国のリチウム電池輸出を、海外のEV生産だけで説明することはできない。
海外の自動車メーカーが中国製電池セルや電池パックを調達する場合もあれば、再生可能エネルギーと組み合わせた蓄電設備向けに電池が輸出される場合もある。
また、スマートフォンやノートパソコンなどに使用される小型電池も、リチウム電池市場の一部を構成している。
今回の記者会見では、リチウム電池の輸出増加率36.4%が示されたものの、車載用と定置用などの用途別内訳は公表されていない。
したがって、この数字をそのまま中国製EV用電池の海外出荷増加率と解釈することはできない。
さらに、完成車として輸出されたEVには、通常、車載電池が組み込まれている。
完成車輸出額と電池単体の輸出額は、別々の通関品目として把握する必要がある。
中国の自動車・電池産業の海外展開を評価するには、完成車輸出、電池単体の輸出、海外工場への部材供給、海外現地生産を区別することが重要になる。
中国の輸出増加額、約9割を設備製造業が占める
今回の貿易統計で、EVやリチウム電池の増加率と同じくらい重要なのが、輸出全体の構造である。
中国税関総署によると、2026年1~9月の輸出増加額の約9割を設備製造業が占めた。
また、輸出総額に占める中間財の比率は5割を超えた。
中間財とは、他の製品を製造するために使用される部品、材料、半製品などを指す。
中国の輸出を考える際、従来は完成した消費財や家電製品、衣料品などに注目が集まりやすかった。
しかし、今回の統計では、設備製造業と中間財が輸出拡大の中心になっている。
自動車産業でいえば、完成車だけでなく、電池、電子部品、電装品、機械設備などが海外の生産活動を支える。
ただし、設備製造業が輸出増加額の約9割を占めたという数字は、EVやリチウム電池だけによるものではない。
半導体、機械、電力設備など幅広い産業を含むため、自動車関連製品だけの寄与率を算出することはできない。
今回確認できるのは、中国の輸出拡大が、完成品の販売だけでなく、海外の産業活動に必要な設備や部品の供給によって支えられているという構造である。
ASEANとの貿易22.7%増、第3四半期は31.4%増へ
中国の貿易相手国・地域にも変化が表れている。
2026年1~9月の中国とASEANの貿易総額は6兆8,400億元となり、前年同期比22.7%増加した。
ASEANは中国の最大の貿易相手であり、中国の輸出入総額に占める比率は17.1%となった。前年同期から0.5ポイント上昇している。
中国税関総署が公表したASEANとの貿易実績は次の通りである。
輸出入合計:6兆8,400億元、前年同期比22.7%増
中国からASEANへの輸出:23.4%増
ASEANから中国への輸入:21.4%増
第3四半期の輸出入合計:2兆5,000億元、31.4%増
第3四半期の貿易増加率は、1~9月累計の22.7%を大きく上回った。
中国とASEANの間では、完成品の輸出入だけでなく、電子部品、機械、材料などを複数の国にまたがって調達・加工する生産分業が進んでいる。
中国の自動車産業にとっても、ASEANは完成車の販売市場であると同時に、部品調達や現地生産を進める地域となっている。
ただし、今回の6兆8,400億元という数字は、あくまでも中国とASEANの全品目の輸出入合計である。
自動車関連製品の輸出額や、EV輸出のASEAN向け比率が示されたわけではない。
ASEAN貿易の拡大と中国製EVの海外展開は、関連する重要な動きではあるが、今回の統計だけで両者の寄与関係を特定することはできない。
欧州8.4%増、米国4.1%増――貿易相手の多様化も進む
中国税関総署は、2026年1~9月に180を超える国・地域との貿易が前年同期比で増加したと説明した。
主要地域との輸出入合計は次の通りである。
ASEAN:6兆8,400億元、22.7%増
欧州連合(EU):4兆7,800億元、8.4%増
米国:3兆1,800億元、4.1%増
中国以外のAPEC参加エコノミー:24兆700億元、23.9%増
また、自由貿易協定の相手国・地域との貿易総額は19兆5,500億元となり、前年同期比30%増加した。
中国税関総署によると、自由貿易協定の相手国・地域との取引が、貿易総額の増加分の7割以上に寄与したという。
これらの数字は、中国の貿易相手が幅広い地域に分散していることを示している。
一方、今回の地域別統計は輸出入の合計であり、中国からの輸出だけを示したものではない。
例えば、米国との貿易総額が4.1%増加していても、中国から米国への輸出が同じ割合で増えたとは限らない。
中国製EVの輸出先構成を分析するには、国・地域別のEV輸出金額や輸出台数を別途確認する必要がある。
中国製EVの海外進出は、完成車輸出だけでは測れない
中国自動車メーカーの海外事業を分析する際、今後さらに重要になるのが、完成車輸出と海外現地生産の区別である。
中国国内で製造した完成車を海外へ輸出する場合、その車両は中国の完成車輸出統計に計上される。
一方、中国メーカーが海外工場で完成車を生産した場合、その車両は原則として中国からの完成車輸出には含まれない。
ただし、海外工場へ中国製の電池、部品、機械設備などを輸出すれば、それらは中国の関連品目の輸出として計上される。
このため、中国自動車メーカーの海外現地生産が拡大した場合、完成車輸出だけを見ていると、中国企業の海外市場への浸透を十分に把握できなくなる可能性がある。
逆に、部品輸出が増加していても、そのすべてが中国メーカーの海外工場向けとは限らない。
海外の自動車メーカーや部品メーカーが、中国製の電池や電子部品を調達している場合もあるためである。
今回の統計でEV輸出72.3%増、リチウム電池36.4%増という数字が並んだことは、中国の自動車関連産業を完成車と部品の両面から見る必要性を改めて示している。
ただし、海外現地生産の増加規模や、現地工場向けの部品輸出比率について、今回の記者会見から直接判断することはできない。
民間企業が輸出拡大の中心に
企業の所有形態別に見ると、中国の民間企業は引き続き最大の貿易主体となっている。
2026年1~9月の民間企業の輸出入総額は22兆7,300億元となり、前年同期比19.1%増加した。
中国全体の貿易総額に占める比率は56.9%で、前年同期から0.1ポイント上昇した。
一方、外資系企業の輸出入総額は11兆6,900億元で19.0%増、国有企業は5兆4,600億元で17.8%増となった。
中国税関総署によると、民間企業による自主ブランド製品の輸出額は29.6%増加し、中国全体の自主ブランド製品輸出額の70.7%を占めた。
中国の輸出拡大が、単なる海外企業の委託生産だけでなく、中国企業自身のブランドによる海外販売の拡大も伴っていることを示す数字である。
ただし、今回の自主ブランド製品の統計は自動車に限定したものではない。
BYDや吉利(GEELY)、奇瑞(CHERY)などの自動車メーカーだけの輸出増加率として扱うことはできない。
輸出16.4%増に対し、輸入は22.3%増
2026年1~9月の中国の貨物貿易総額は39兆9,400億元となり、前年同期比18.8%増加した。内訳は次の通りである。
輸出:23兆2,000億元、16.4%増
輸入:16兆7,400億元、22.3%増
貿易黒字:6兆4,600億元
輸入の増加率は輸出を5.9ポイント上回った。
中国税関総署は、先進製造業の拡大によって重要部品や原材料の輸入需要が増加していることを、その背景の一つとして説明した。
実際、1~9月の集積回路輸入額は56.6%増、記憶装置関連部品は約150%増となっている。
中国は完成車、電池、半導体、設備などの輸出を増やす一方、国内の産業活動に必要な部品や材料の輸入も拡大させている。
これは、中国の製造業が国内だけで完結しているわけではなく、国際的なサプライチェーンと結び付いていることを示している。
また、今回の輸出入統計は人民元建てで公表されたものである。
輸出金額の増加率を評価する際には、数量や製品構成に加え、価格や為替変動の影響にも注意が必要となる。
中国EV輸出の次の焦点は、台数・単価・現地生産
2026年1~9月の貿易統計で、中国のEV輸出額は前年同期比72.3%増、リチウム電池は36.4%増となった。
同時に、設備製造業が輸出増加額の約9割を占め、中間財の輸出比率は5割を超えた。
中国の輸出構造を考えるうえで重要なのは、完成車だけでなく、電池、部品、設備などを含めた産業全体の海外展開である。
また、ASEANとの貿易が第3四半期に31.4%増へ加速したことは、中国と東南アジアの経済的な結び付きが強まっていることを示している。
ただし、今回の統計だけでは、EV輸出の台数増加率、平均輸出単価、主要輸出先、海外現地生産の寄与を確認することはできない。
今後の中国自動車輸出を評価するには、少なくとも完成車の輸出台数と金額、車種・動力別の構成、輸出先別の動向、海外現地生産の実績を組み合わせる必要がある。
中国メーカーが海外で完成車を生産する動きが拡大すれば、中国からの完成車輸出だけでは、その海外事業の規模を捉えきれなくなる。
一方、海外工場が中国製の電池や部品を調達する場合、中国の輸出構造は完成車から中間財へと変化する可能性もある。
今回のEV輸出72.3%増という数字は、中国製完成車の海外展開が金額面で急拡大していることを示す。同時に、リチウム電池36.4%増と中間財比率5割超という数字は、中国の海外展開を完成車だけで評価する時代ではなくなりつつあることを示している。
次に問われるのは、中国から何台輸出したかだけでなく、中国メーカーが海外で何台販売・生産し、そのための電池や部品をどこから調達しているかである。
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