
奇瑞、欧州販売29.2万台・182%増――スペイン現地生産から炭素認証まで、欧州産業への組み込みを加速
[メンバーシップ限定]奇瑞汽車(Chery)が、欧州市場で急速に存在感を高めている。
奇瑞が2026年10月12日のパリモーターショー開幕に合わせて公表したところによると、2026年1~9月の欧州24カ国における販売台数は29万2,000台となり、前年同期比182%増加した。このうち新エネルギー車(NEV)は14万6,000台を超え、251%増となった。
しかし、今回の発表で注目されるのは、販売台数や新型車だけではない。
奇瑞はスペインでの現地生産、欧州研究開発拠点の整備、サプライチェーンの現地化を進めるとともに、欧州向けとして初めて2025年サステナビリティ報告書を公表した。
さらに、欧州販売車種のライフサイクル・カーボンフットプリントを算定し、中国と欧州の炭素排出データ相互認証にも取り組んでいる。
10月14日には、中国と欧州連合(EU)の自動車貿易協議の成果を支持する声明を発表し、欧州経済・社会へのさらなる融合を表明した。
中国から欧州へ完成車を輸出するだけでなく、欧州で開発し、製造し、調達し、環境基準に対応する。奇瑞の欧州戦略は、単なる市場開拓から現地産業への組み込みへと進みつつある。
欧州24カ国で29.2万台、NEVは14.6万台超
奇瑞が今回公表した2026年1~9月の欧州事業実績は次の通りである。
欧州24カ国の販売台数:29万2,000台、前年同期比182%増
うちNEV:14万6,000台超、251%増
世界累計自動車ユーザー:2,073万人超
うち海外ユーザー:739万人超
世界の事業展開:130以上の国・地域
欧州販売は前年同期の約2.82倍、NEVは約3.51倍となった。
NEVの販売台数は欧州販売全体の約半数に相当する。ただし、14万6,000台は下限値として公表されているため、正確な構成比は確定できない。
奇瑞はすでに、10月8日の英語版公式発表で、欧州24カ国における1~8月販売が23万4,000台、前年同期比193%増、NEVが11万4,000台超に達したと説明していた。
今回の1~9月実績との差分から、9月単月の販売は概算で5万8,000台、NEVは約3万2,000台となる。
ただし、いずれも丸められた累計値の差分であり、公式に公表された9月単月の確定実績ではない。
また、欧州24カ国という範囲はEU加盟国に限らない。英国などの市場を含む可能性があるため、EU域内販売台数と同一視することはできない。
それでも、欧州販売が前年の約3倍に拡大していることは、奇瑞の海外戦略において欧州の重要性が急速に高まっていることを示している。
CHERY、OMODA、JAECOOを欧州で展開
10月12日に開幕した2026年パリ国際モーターショーで、奇瑞はCHERY、OMODA、JAECOOの各ブランドを展示した。
OMODA & JAECOOは、OMODA 4をフランスで初披露し、OMODA 5も欧州初披露した。
同ブランドは2023年の市場投入以降、世界79市場、うち欧州23市場へ展開し、世界累計販売台数は約140万台に達したという。
今回の新型車には、奇瑞の第5世代SHS(Super Hybrid System)を搭載する。
一方、CHERYブランドはTIGGO 4、TIGGO 7、TIGGO 8、TIGGO 9、CHERY Qの5車種を展示した。
欧州市場向けには「For EU. For Family」というブランド方針を発表した。
奇瑞は、欧州におけるブランド別の市場展開を拡大するとともに、販売後のサービス網も整備する。
英語版の発表によると、CHERYブランドは2026年に20市場、2027年には27市場への展開を計画している。
販売・サービス拠点は2026年の687カ所から、2027年には1,143カ所へ拡大する目標である。
顧客家族数についても、2026年の約10万から2027年には約30万へ増やす計画を示した。
ここでいう20市場、27市場はCHERYブランド単独の計画であり、奇瑞グループ全体の欧州24カ国という事業範囲とは異なる。
今回のパリショーでは新型車の発表が注目されるが、販売網とサービス網を含む欧州事業の拡大計画も重要である。
スペインEBRO工場、現地雇用1,000人超
奇瑞の欧州現地化を象徴するのが、スペインでのEBRO事業である。
奇瑞はスペインのEV MOTORSと協力し、EBROブランドおよび現地生産体制の整備を進めている。
今回の発表によると、EBROプロジェクトはすでに1,000人を超える現地雇用を創出した。
これは、奇瑞が欧州で完成車を販売するだけでなく、現地の製造業や雇用にも関与し始めていることを示す。
ただし、雇用人数は生産能力や現地調達率を直接示すものではない。
欧州現地生産の実態を評価するには、完成車の生産台数、組立方式、部品の現地調達比率、電池の調達先などを確認する必要がある。
中国から完成車を輸出する場合と、中国製部品を欧州へ輸送して現地で組み立てる場合では、貿易統計上の扱いも異なる。
さらに、欧州現地で部品や材料の調達を増やせば、中国からの輸出額だけでは奇瑞の欧州事業全体を把握できなくなる。
今後の奇瑞の欧州事業を評価するうえでは、輸出台数と現地生産台数を分けて追跡することが重要になる。
欧州運営センターを4月に開設、スペイン研究院も始動
奇瑞は2026年4月、同社初の海外地域運営センターとして欧州運営センターを稼働させた。
さらに、スペイン研究院を始動し、世界的な研究開発ネットワークの整備を進めている。
奇瑞は、この体制を「1+7+N」のグローバル研究開発ネットワークと位置付けている。
今回の発表では、欧州での研究開発、製造、サプライチェーン、現地パートナーとの協力体制を一体的に拡充する方針を示した。
これは、単に中国で開発した車両を欧州仕様に変更して販売する段階から、欧州市場の需要や規制、サプライヤーとの関係を開発段階から取り込む方向への転換と考えられる。
ただし、欧州研究院がどの車種や技術の開発を主導するのか、研究開発予算や人員がどの程度配置されるのかについては、今回の発表だけでは明らかではない。
現地研究開発の実態は、今後の欧州向け新型車の開発体制や技術採用によって評価する必要がある。
欧州向け初のサステナビリティ報告書を公表
今回のパリショーに合わせた発表で、特に重要なのがESGに関する取り組みである。
奇瑞は10月12日夜、EU地域を対象とした初の「2025年サステナビリティ報告書」を公表した。
この報告書は自主的な開示として作成され、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)と欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を参照している。
報告書では、企業活動が環境や社会に与える影響と、環境・社会問題が企業経営に与える財務的影響の両面を評価する「ダブルマテリアリティ評価(DMA)」を実施した。
評価対象には、自社事業だけでなく、上流・下流のバリューチェーンも含まれる。
また、従業員、サプライヤー、販売店、業界団体、ユーザーなどの意見を取り入れたという。
主な対象分野は、気候変動、資源利用と循環経済、生物多様性、従業員、持続可能なサプライチェーン、製品・データのプライバシーと安全、地域社会への貢献などである。
重要なのは、奇瑞が欧州での事業拡大に合わせて、製品だけでなく企業活動やサプライチェーン全体の環境・社会情報を開示し始めたことである。
ただし、今回の報告書はCSRD・ESRSを参照した自主的な開示であり、EU法に基づく法定報告義務への完全準拠を意味するものではない。
奇瑞によると、主要な環境・社会指標については、第三者機関TÜV NORDが限定的保証を実施した。
限定的保証は、合理的保証よりも保証水準が低いものであり、報告書全体のすべての情報が全面的に保証されたという意味ではない。
欧州販売全車種のカーボンフットプリントを算定
奇瑞は今回、欧州で販売する全車種について、ライフサイクル・カーボンフットプリントの算定を完了したと説明した。
自動車のカーボンフットプリントは、走行時の排出量だけではなく、原材料の調達、部品製造、完成車生産、使用、廃棄・再利用などの工程を含めて評価する。
EVやPHEVの場合、車載電池の製造に伴う排出量や、使用時に充電する電力の排出係数なども重要になる。
奇瑞はJAECOO 7 SHSについて、DEKRAによる中国と欧州のカーボンフットプリントデータ相互認証証書を取得したと説明している。
欧州向け英語資料では、JAECOO 7 SHSのライフサイクル排出量として120.40gCO₂e/kmという数値も公表されている。
ただし、この数値を他車種と比較するには、想定走行距離、使用時の電力・燃料条件、製造工程の算定範囲などが一致している必要がある。
今回の発表だけで、JAECOO 7 SHSが欧州の競合車より環境性能で優れていると結論付けることはできない。
それでも、中国メーカーが欧州で販売する車両について、ライフサイクル全体の炭素排出量を算定し、第三者認証を取得する動きは注目に値する。
価格、性能、装備に加え、製品の製造から廃棄までの環境負荷を提示することが、欧州事業の一部になりつつある。
