#27【アズのひとりごと】断るのにも、体力がいる
🌱これは“本編”とは少し違う、小話
先々週の日曜日。
日中、山田さんと、とりとめのないLINEのやり取りをしていた。
すると、お誘いがあった。
「夜、ご飯食べに行かへん?」
私はすっぴん部屋着でNetflixの
『地面師たち』を観ていた。
その日のうちに一気見するつもりだった。
冷蔵庫では、手作りのはちみつレモンゼリーが固まるのを待っている。
完全に、家から出ない体勢だった。
普通の人なら、彼氏とLINEのやり取りをしていてご飯に誘われたなら、嬉しくなって服を選び、ヘアメイクを整えるのかもしれない。
でも、その日の私は違った。
今日外に出たくない。
平日の疲れを取りたい。
肌を休ませるためにも、ノーメイクで
過ごしたい。
夜は久しぶりにUber Eatsでも頼もうかと思っていた。
※貧乏なので、月一と決めている。
つまり、私の中ではもう予定があった。
他人から見れば、ただ家でダラダラしているだけに見えるかもしれない。
でも私にとっては、立派な予定だった。
すっぴんでいる予定。
部屋着でいる予定。
手作りゼリーを食べながら
『地面師たち』を観る予定。
夜に月一のUber Eatsを頼む予定。
私には、1人時間が必要。
そして、急な予定変更は大の苦手だ。
顔も浮腫んでいる。
髪も、外出仕様ではない。
気持ちも、デート仕様ではない。
しばらく考えて、返信した。
緊張していた。
「予定があるねん。ごめんね」
嘘ではない。
私には、私の予定があった。
山田さんは、
「こちらこそごめんね。
急だったから仕方ないよ」
と返信をくれた。
私は少しホッとした。
でも同時に、申し訳なさもあった。
勇気を出して誘ってくれたのかもしれない。
せっかく声をかけてくれたのに、悪かったなと思った。
以前の私なら、たぶん行っていた。
気が乗らなくても。
顔が浮腫んでいても。
髪が外出用ではなくても。
「せっかく誘ってくれたし」
「悪いし」
「LINEしてたのに断ったら逆に不自然かも」
無理に支度して出かけていたと思う。
そんな理由で出かけたら
いつもの10倍疲れるに決まっている。
山田さんは何も悪くない。
ただ、自分の気持ちを置き去りにすると
楽しいはずの時間まで心から楽しめなくなる。
だから今回は、断った。
それは私にとって、ちょっとした練習だった。
気が乗らない誘いを断る練習。
相手を傷つけるためではない。
否定するためでもない。
自分の声をちゃんと聞く練習。
自分の気持ちを大事にする練習。
「私は、今日は出たくない」
「私は、急な予定変更はしんどい」
「私は、家にいたい」
「私」を、なかったことにしない練習。
断ったあと、しばらくドキドキした。
悪いことをしたような気もした。
不誠実な人間になったような気もした。
でも、そうではないのだと思う。
断ることと、相手を否定することは違う。
会いたくない、ではなく、
今日は出かけたくない。
嫌なのではなく、
今日は自分の予定を優先したい。
デートより『地面師たち』を観たい。
それを正当化するのは
簡単なことではなかった。
山田さんが何も言わずに
普通に受け止めてくれたことで
私は少し安心した。
変に問い詰めない。
予定とは何なのか聞きだそうとしない。
不機嫌にならない。
ああ、大丈夫なんや。
そう思えた。
私はまだ、こういうことに慣れていない。
「私」という線を引くたびに、胸がざわつく。
罪悪感がよぎる。
でも、少しずつ練習していけばいい。
その日、私は家にいた。
Netflixを観て、ゼリーを食べて
夜に月一のUber Eatsを頼んだ。
地味だけど、ちゃんと満足していた。
私には私の予定があった。
そして、予定を守れた。
それだけのことが、少し嬉しかった。
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