会計監査人監査が入って苦労した社福経理20年、半世紀分の紙を遡った話3つ
社会福祉法人で会計とICTを20年やってきた経理実務家です。
私の法人が会計監査人監査(公認会計士監査)の対象になったとき、最初の打ち合わせで、監査法人の方と話がまったくかみ合いませんでした。会計監査人監査は、収益30億円超か負債60億円超の社会福祉法人に義務づけられているもので、いわゆる特定社会福祉法人が対象です。それなりの規模の法人の話ではありますが、当時の私にとっては未知の世界でした。基本金がどうこう、という話が出るたびに、私は内心で固まっていました。当時はまだ若く、基本金なんて考えたこともなかったんです。月次決算という概念すらなくて、会計は年度単位で一気に〆ていました。今思えば、会話にならなくて当然でした。
今日は、その状態からどう抜けたのか、いちばん苦労したことを3つ、私の反省として書きます。
なぜ「苦労してよかった」と言えるのか
先に結論を書きます。あのとき半世紀分の紙を遡って基本金を追いかけた苦労は、いま法人の中でいちばん効いている資産になりました。
会計監査人監査が入ると、決算書の一つひとつの数字に「なぜこの金額なのか」という根拠が求められます。特に基本金は、法人ができた頃からの寄付や施設整備の積み重ねでできていて、途中の一年だけ見てもわかりません。設立初期まで遡らないと、いまの残高の意味が説明できない。だから私は、倉庫にあった過去の理事会資料を、半世紀分ほど遡って漁ることになりました。
正直、当時は「なんでこんなことを」と思いながらやっていました。でも遡り終えた頃には、会計用語のひとつひとつが自分の言葉になっていて、監査法人とも、現場の拠点とも、まったく違う立ち位置で話せるようになっていました。
ここから紹介する3つは、その代表的な苦労です。
苦労したことベスト3
① 根拠になる紙が、そもそも残っていなかった
いちばん最初に詰まったのが、これでした。
基本金の残高を説明するには、過去にどんな組入があったのかをたどる必要があります。ところが固定資産管理の根拠資料が、ほとんど残っていませんでした。どの建物を、いつ、いくらで、どの財源で建てたのか。それを示す書類が、虫食いのように抜けている。
残っていたのは、倉庫に眠っていた歴代の理事会の紙資料でした。私はそれを半世紀分ほど、片っ端から広げていきました。データはない、だから遡るしかない。この一点に、いちばん時間を取られました。
紙をめくりながら、法人の歴史をなぞっているような感覚になったのを覚えています。
この件で学んだこと:根拠資料は「後から誰かが遡れる形」で残さないと、いつか必ず誰かが同じ苦労をします。今の私が固定資産台帳にこだわるのは、この時の反省が骨身に染みているからです。
そのこだわりを持ったあとでも、固定資産では失敗しています。その話はこちらです。
② 自分の知識が、会話に追いつかなかった
次に苦しかったのが、私自身の知識不足でした。
第1号基本金、第2号基本金。監査法人の口から出てくる言葉が、当時の私にはほとんど意味不明でした。何のためにこの組入をやらないといけないのか、そこからわかっていません。用語を知らないので、質問されても的外れな答えしか返せず、打ち合わせのたびに冷や汗をかいていました。
やったことは地味です。会計用語をひとつずつ、意味と目的まで調べて潰していく。それでもわからないところは、監査に入ってくれている公認会計士に聞きまくりました。基本金の組入がなぜ必要なのか、どういう考え方でそうなっているのか。あまりに何度も聞くので、正直、相手とぶつかったこともあります。今思えば、あれもいい思い出です。ひとつ腑に落ちると、次の用語がつながって見えてくる。その繰り返しでした。
わからない用語を、わかったふりで飛ばさない。これを続けたら、ある時期から監査法人との会話が急に楽になりました。
この件で学んだこと:用語がわからないと、そもそも土俵に上がれません。逆に言えば、用語を自分の言葉にした瞬間から、対等に話せるようになります。
監査そのものの準備を軽くする工夫は、こちらにも書きました。
③ 本業と同時並行で、体が回らなかった
3つ目は、わりと生々しい話です。
この遡り作業は、通常の経理業務を止めて取り組めるものではありませんでした。月次も年次も回しながら、片手間どころではない量の紙と格闘する。当然、本業のほうが追いつかなくなります。あちこちに遅れが出て、関係する人との関係がぎくしゃくしたことも、一度や二度ではありませんでした。正直、険悪になった時期もあります。
いま振り返ると、あれは私の段取りの問題でもありました。全部を同時に完璧にやろうとして、優先順位をうまく人に説明できていなかった。「今この作業になぜ時間がかかるのか」を先に共有しておけば、余計な衝突は減らせたはずです。
ひとりで抱えて黙って進めるほど、周りとぶつかる。これは苦い教訓として残っています。
苦労のあとに残った、3つの変化
半世紀分を遡り終えて、確かに変わったことが3つあります。
ひとつ目、会計用語が自分の言葉になったこと。基本金も組入も、意味と目的まで説明できるようになりました。
ふたつ目、監査への向き合い方が変わったこと。県の監査が来ても、公認会計士監査を経たあとは、会計の中身を指摘されることがほとんどなくなりました。根拠を自分の言葉で説明できるようになったのが大きいと感じています。
みっつ目、拠点への説得力が段違いに上がったこと。これがいちばん大きいかもしれません。
その公認会計士監査では、寄付の帰属で指摘を受けたこともあります。その話はこちらです。
それでも、あの苦労をしてよかったと思う理由
3つも苦労を並べると、会計監査人監査なんて面倒でしかない、と思われそうです。でも私は逆の結論を持っています。
バックに公認会計士がついた経理は、拠点に対してぐっと強くなる。
拠点に何かをお願いするとき、「公認会計士がこう言っています」と一言添えられる。必要なら、公認会計士に直接、拠点を指導してもらうこともできます。法人本部の一担当者が言うのと、外部の専門家の裏づけがあるのとでは、伝わり方がまるで違います。もちろん、私自身の知識が増えたからこそ、その裏づけを正しく使えるようになった面も大きいです。
苦労して手に入れた知識と、外部の専門家という後ろ盾。この二つが揃ってはじめて、経理は現場を動かせるようになるのだと感じています。
おわりに
会計監査人監査が入った当初、私は監査法人と会話にすらならないところから始まりました。半世紀分の紙を遡る羽目になり、本業と衝突し、正直しんどかったです。
それでも、あのとき逃げずに遡ってよかったと思っています。「わからないまま先送りにした苦労は、いつか必ず誰かが払う」。これは今も、私の中の変わらない実感です。
同じように、監査対応で頭を抱えている経理担当の方がいたら、この話が少しでも肩の荷になればうれしいです。また現場の話を書きます。
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社福経理の現場で「あったら助かる」と感じたExcelテンプレを、無料で配布しています。ダウンロードはnoteの記事から直接できます(登録不要)。
拠点別予実管理表
給付費突合せ管理表
月次決算チェックリスト
給与計算チェックシート
資金収支予算管理表
年度単位でしか〆ていなかった私が、月次で数字を追うようになって最初に作ったのが、月次決算チェックリストです。
