闇 648(XAUUSDゴールド編)
闇 648(XAUUSDゴールド編)

2026/08/22 sat
※多分この時代に岩上智一郎という人間がいたという証明をしたかったから、この作品を自分の為に書いているのだろう。
前回の章

二千二十四年四月十五日、月曜日友引。
インカジ『レディ』の業務中、合間を縫って若香へおやすみのLINEを打つ。
『おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね。 岩上0:44』
彼女が六月末という事は、今日であと二ヶ月半で会えるという事。
期待で胸が膨らむ。
できる限り連休を取り、若香の来日に対し備えたい。
俺ってこんな恋愛体質だったのか?
妄想だけがどんどん大きくなり、傍にいたらすぐ抱き締める事ができるのに、それができないもどかしさに悶々とする。
いい歳をして恋煩い。
これは一種の依存に近いものだろう。
自覚しながら、現状を打破したかった。
業務中も暇があれば若香との今後を考える。
そんな状況の中、仕事を終わらせ彼女へLINEを送った。
『おはようございます。仕事終わって、これから帰るところです。 岩上6:51』
そういえば夜の暗いゴジラホテルの写真で見えづらかったから、朝の明るいのを送ると昨夜伝えていたよな。
俺はホテルギャラクシーを撮影し、若香へ送る。
自称俳優マンションへ戻ると、風呂に入りすぐに眠った。
目を覚ますと昼の二時近く。
俺にしては結構眠れたようだ。
若香からLINEが届いている。
『はははは。夜は知らない通りすがりの人がびっくりするのではないでしょうか。 朱婧瑶8:57』
やっぱり昨日の夜の写真では、ゴジラの姿を認識できなかったようだ。
知らないでこのホテルを見れば、みんな始めは驚くだろう。
『よくが観光客(特に外国人)が写真撮ってますよ。 岩上13:53』
『イチローは目が覚めましたか。 先に何か食べるべきだ。 朱婧瑶14:49』

『おはようございます。 岩上14:49』
インカジ『レディ』で、仕事終わる前にかど平の日替わりランチ食べたばかりだもんな。
ふとビストロ岡田のマスターの料理であるデミグラスソースのロールキャベツを思い出す。
去年の九月、先輩の松永さんに続き、マスターの訃報と立て続けに襲った悲しみ。
あの時俺は勝手に思ったのだ。
あのロールキャベツは、俺が継承してやると……。
『朝方、仕事中に出前取って食べたんですよ。今日はロールキャベツ作ろうかなと思って、ちょっとしたら買い物へ行こうと思ってます。 岩上14:50』
『ロールキャベツはどのようなものですか。食べたことがない。その時、イチローは若香に見せてもいい。会社は午後、高齢者のブロックチェーン学習を手配する。 朱婧瑶15:18』
彼女は知らないのか。
シンガポールには無い料理なんだな。
とりあえず俺が以前に作ったレシピを見せておこう。
『あとで作ったらもちろん若香さんに見せますけど……。 岩上15:41』
『前に俺が作ったロールキャベツです。 岩上15:41』
高齢者のブロックチェーン学習って何だろ?
迷惑メールのブロック設定の講習でもするのかな?
ボランティアといい、本当に心の優しい子だよね。
『若香さん、仕事頑張って下さいね! 岩上15:41』
『ずっと仕事を頑張っています。でもイチローとのおしゃべりには影響しません。暇な時は返事をします。 朱婧瑶15:43』
またまた嬉しい言葉を。
彼女は俺と会った時も、『イチロー』と呼ぶのだろうか?
まあそれはそれで面白い。
『仕事に影響しないようお願いしますね。若香さんの気持ち、とても嬉しいですが。 岩上15:56』
着替えを済ませ、買い物に出る。
『イチローは若香と話をする。香の一日の気持ちはとてもいいですね。 朱婧瑶16:09』
仕事をしながらなので、若干のタイムラグはあるものの、俺に対しいつも気遣ってくれる若香。
『俺も若香さんから連絡あると、ホッコリして心が温かい気持ちになります。 岩上16:11』
数軒の店を周り、料理の食材を買い集めた。
『私たちはお互いの光です。暗闇の中でお互いを探す道を照らす。寒い天気でお互いを暖めている。 朱婧瑶16:17』
日本語不得手と言いつつも、よくこんな言葉を思いつくものだ。
若香なりに色々勉強しているんだろうな。
『若香さんとこうしてやり取りするようになって、日々の幸せを感じれるようになりました。 岩上16:18』
先ほど言っていたブロックチェーン学習の動画を送ってくる彼女。
『今日は私に代わって現場教育の仕事を監督する。これは豊隆グループが定期的に開催する訓練班です。これは無料の業務です。 朱婧瑶16:38』
料理をしながら目を細める。
『色々と若香さん大変そうだけど、充実具合が分かります。 岩上16:48』
本音をいえばこういう固い映像よりも、彼女自身を映したものがいいんだけどな。
だけどあまり幼稚な返答をするのも、真面目に頑張っている若香へ失礼だ。
『俺の方はある程度仕込み終わりました。 岩上16:48』
ロールキャベツにピーマンの肉詰めをデミグラスソースへ入れた写真を撮り、彼女へ送る。

『いいですね。辛くないですか。 朱婧瑶16:54』
料理ブログを書いている途中、LINEが届くも、構わず続けた。
辛くないですかというのも変な質問だな。
でもロールキャベツを食べた事ないんじゃ、色合いだけ見れば辛そうに思ったのだろう。
デミグラスソースのロールキャベツ&ピーマンの肉詰め&ハンバーグサンド

デミグラスソースのロールキャベツとピーマンの肉詰め。

まず人参、玉ねぎ、エリンギを切って、バターで炒めます。

ジャガイモも入れて炒めます。

トマトホルダー入れます。

各スパイスと調味料入れ、よく混ぜます。
ここまででミネストローネスープになっていますね。

使った調味料は、パセリ、オレガノ、ローズマリー、ダイム、塩胡椒、ブイヨン、レッドチリペッパー、ナツメグ。

ある程度煮込んだらビーフシチューの素を入れ。

よく混ぜて再び煮込みます。

次にハンバーグを作るような感じで、牛豚ひき肉、玉ねぎ微塵切り、小麦粉、パン粉、卵、各種スパイス入れて。

よく練ります。

キャベツは芯の固い部分に包丁を入れ、一枚ずつ丁重に剝がします。

最初に軽く茹でて柔らかくするのがポイント。

キャベツで肉を乗せ。

こんな感じで包み込みます。

デミグラスソースの中へそっと入れましょう。

ピーマンも余っていたので、半分に切って肉を詰め、ピーマンの肉詰めです。
これも一緒に煮込みましょう。

蓋をしてあとはゆっくりコトコト弱火で煮込みましょう。

一時間ほど煮込んだら。

形を崩さぬよう注意しながら向きを変えて、煮込みます。

普通ロールキャベツと言えば、コンソメだったりトマトソースだと思うんですが、去年亡くなってお店が閉店してしまった埼玉県川越市のビストロ岡田のマスターが作るロールキャベツがデミグラスだったんですよね。

サーモンクリームコロッケと一緒に出てきて、本当に美味しかった料理でしたね、フォークとナイフもありましたが、箸で簡単に食べられるくらい柔らかいんですよ、ロールキャベツ。

だからね、俺は微力ながらこのロールキャベツを受け継ぎたいんです。

岡田夫婦と最後に会ったのが、俺が定期健診で行く赤心堂病院だったので、お店に行けなかったのが残念です。

当時はね、蔵造りの中央通り、仲町の信号を曲がってすぐのところに後輩の親父さんが経営するトンカツの早川。
家庭用フレンチのビストロ岡田。

一軒置いて餃子のいづみ食堂。
この三店舗が仲町…、いや川越が自慢するべきお店だったんですよね。

餃子がほんと美味しくて。

焼きそばが太麺使ってて、当時焼きそばと言えば、川越工業裏手にあった山利軒、第一小学校のところにあったみどりや、初雁球場のところにある焼きそばやが有名でしたよね。

当時俺は本川越駅前で岩上整体を経営していたので、いづみ食堂もそうですが、様々なお店100店舗くらいにこの広告貼ってくれ、川越のみなさんには色々協力していただきましたね。

さて料理記事からかなり脱線しましたが、残った肉を使い、ハンバーグを作ります。

フライパンで両面しっかり焼いてから、デミグラスの中へ入れて煮込ましょう。

こんな感じでハンバーグサンド完成。

前回のコンビーフチーズを使ったデニッシュトーストも。

そしてデミグラスソースロールキャベツ完成!
俺が二十代から三十代に掛けて、当時本当にお世話になった仲町の三軒の飲食店。
古き良き時代を振り返りつつ、幸せだったあの頃を感謝しながら記事を書き終えた。
『辛くないですよ、デミグラスソースで煮込んでいます。 岩上16:57』
『真っ赤に見える。味はいいでしょう。中にはどんな料理が入っていますか。 朱婧瑶17:01』
若香も、料理には興味を持ってくれるので有難い。
『中がハンバーグの肉をキャベツで包んだロールキャベツ、それにピーマンの肉詰めです。 岩上17:02』
『味はいいでしょう。イチローさんは本当に料理が上手ですね。 朱婧瑶17:08』
所詮素人料理に過ぎないけどね。
それでも真心は込めて作っているつもり。
『若香さんが気に掛けてくれるから、普段より格好つけているだけです。 岩上17:08』
『現場では多くのおじいさんとおばあさんが真剣に勉強していて、本当に彼らの精神に敬服しています。これらのおじいさんとおばあさんは経営幹部企業が退職した管理人材で、今でも自分の人生に価値を生み出し続けています。 朱婧瑶17:09』
真面目な社会で懸命に生きるって、彼女のほうな生活を現すのだろう。
『イチローさんはいつもかっこいいです。かっこいいという意味は外見ではありません。もっと自分の気質に現れる。 朱婧瑶17:10』
『俺はおじいちゃん、おばあちゃん子だったので、老人を敬い、若香さんのように関わり合うって、とても重要で素晴らしい事だと思います。 岩上17:11』
これまで適当に人生を生きてしまった自身の生き方を後悔した。
俺は中途半端なだけで、彼女のように誠実に生きてきていない。
『内面をそう若香さんに見て頂き、本当に俺は幸せ者です。 岩上17:11』
『そうだな。今、高齢者は新しいものの理念にも熱中していますね。子供であろうと老人であろうとスタートラインに負けない。 朱婧瑶17:37』
いい転換期が来たのかもな。
まず自分の内面を変える上でも。
『要はやる気と熱意、それに伴って一緒に指導や協力する人たちがいれば、ある程度の事は色々できますからね。 岩上17:39』
『イチローさんの言う通りだと思います。一つ目は新鮮なものを受け入れたいということです。あとは、気になる人と一緒に勉強したほうがモチベーションが上がります。心の中で好きなことかもしれません。 朱婧瑶17:44』
モチベーション…、おそらくこの言葉は若香という存在があるからこそ、今の自分があるのだ。
『俺は若香さんにいい格好したいという思いが、自身のスキルの向上に繋がっていると思います。 岩上17:50』
俺は先ほど作ったハンバーグサンドの写真を送る。
『肉がちょっと余っていたのでハンバーグサンドも作りました。 岩上18:06』
そして完成したロールキャベツの画像も見せた。
『ロールキャベツの完成です。 岩上18:18』
金行?
若香は銀行のような建物の画像を送ってくる。
『仕事が終わってこの金店の装飾店を通る。近年、国際的な動乱が起こり、突発的な事件が頻発している。金の価格は絶えず上昇して、今日の一グラム当たりの金の価格は七十五ドルぐらいです。こんなに多くの人が急いで購入している。 朱婧瑶18:29』

『金、ほんと価値がどんどん上がってますよね。気を付けて帰って下さいね。 岩上18:30』
若香へ、先ほどの料理記事を見せる。
『はい。イチローの料理は素晴らしいです。まずそれを選んでみます。 朱婧瑶18:34』
彼女はブレスレットの画像も送ってきた。
『ブレスレットですか? 岩上18:55』
『自分でブレスレットをプレゼントに選んだ。イチローはこのブレスレットが私に似合うと思いますか? 私自身は本当に好きです。私はいろいろな実物の金を収蔵するのが大好きです。 朱婧瑶18:56』

女性は本当にこのような貴金属が好きだよな。
『似合うに決まってるじゃないですか! できればブレスレットと一緒に写る若香さんの写真も見たい。 岩上18:57』
若香は俺の要望通り、自分の写真を撮って送ってくる。
「……」
美人といえば美人であるが、俺の好みでは正直なんだよね。
いやいや、何を贅沢言っているんだ。
この子の性格が自分とピッタリ合っているんだろ?
充分だろ、これだけの容姿を兼ね備えていれば。
つまらぬ考えは、いずれ罰が当たるぞ。
『買い終わった。今から車で家に帰ります。 朱婧瑶19:08』
『とても美しい若香さん、気を付けて帰って下さいね。 岩上19:08』
自分で作った食事を食べてから、ベランダへ出てセブンスターに火をつける。
あと数時間もすればまた仕事。
こんな生活を繰り返していけば、数ヶ月で若香と会えるのだ。
『申し訳ありませんが、XAUUSDゴールド注文取引を行ったばかりなので、すぐにお返事できませんでした。今取引が終わって、叔父の指導のもとでいい利益を得ました。とても楽しかったです。イチローと一緒にこの喜びを分かち合います。 朱婧瑶19:57』

ゴールド…、金の取引。
俺にはまるで縁のない事なので、興味がない。
ただそれでも彼女が関わるものなら、否定はせず寛容な気持ちでいたいので、差しさわりない返事をしておくか。
『俺は取引全然分からないけど、若香さんの利益になったなら良かったです。 岩上20:00』
『イチローさんは若香が取引で何ドル稼いだか知っていますか? 朱婧瑶20:00』
何かの表のような画像を送ってくる若香。
利益のところにプラスで二千八百八十ドルと記載されている。
『二千八百八十ドルですか? 岩上20:01』
『イチローは素晴らしいですね。その通りです。三万六千ドルの資金でロンドン金取引を行う。百八十秒で二千八百八十ドルを稼いだ。四十四万円ぐらいの収入に相当します。 朱婧瑶20:03』

先ほどのグラフに赤枠を加えたものを送ってくる彼女。
こういうのより、普通に愛を語り合いたいんだけどな。
それでも若香の機嫌を損ねるのが嫌なので、適当に褒めておこう。
『凄いですね! 若香さんは優秀だ。 岩上20:03』
『すごいのは若香ではない。やはり叔父の指導に頼っている。香がこんなに簡単にお金を稼ぐことができるなら。 朱婧瑶20:04』
さすがに叔父の話はもうどうでも良かった。
『叔父さんも凄いけど、それに殉じてやったからこその結果なので、やっぱり若香さんも優秀なんですよ。 岩上20:08』
それでもつい調子を合わせてしまう俺。
実際に会う前までは、できれば気まずくなるような状況は避けたい。

『イチローさんは本業以外の投資をして自分の収入を増やしていますか。今、単一の収入では将来のリスクにうまく抵抗できません。 朱婧瑶20:10』
『俺は仕事して、たまに競馬やって負けてるくらいですよ。 岩上20:11』
投資なんて俺がした事ある訳ないでしょって。
ただの裏稼業で働く従業員に過ぎないんだから。
『競馬ですか? それも馬を見る品種のようですね。香がロンドンの金を取引した場合。イチローはロンドンの金を知っていますか? 朱婧瑶20:13』
『全然分からないです。 岩上20:13』
そろそろ話題を変えたいな。
『ロンドン金は金取引の一つで、非現物金取引に属し、最初はロンドンから始まって命名された。 朱婧瑶20:14』
『若香さんがこっち来た時、手取り足取り教えてもらいます。 岩上20:15』
それでも若香から送られてくるLINEは、金取引の事だった。
『実はロンドン金とはロンドンの金銀市場で取引されている金のことです。ロンドン金は世界で最も重要な金価格基準の一つであり、国際で最大の金市場の一つでもある。その価格はロンドン金銀市場協会が市場需給状況に応じて価格を設定する。ロンドンの金の取引量は莫大で、世界各地から投資家と取引業者を惹きつけている。ロンドン金価格は金市場に重要な影響力を持ち、国際金取引の参考価格として広く使われている。 朱婧瑶20:16』
「……」
ここで違う話題にするのも変だよね……。
とりあえず褒めておくか。
『博識ですね! 俺は全然知らなかった事です。 岩上20:16』
『もちろんです。叔父は金融分野でとても権威がある。叔父は金融専攻を卒業し、博士号を取得し、二十年以上投資資産管理金融業界に従事し、非常に博学で、人間関係が広く、様々な投資モジュール、株式、先物、基金、外貨などを分析するのが得意です。 朱婧瑶20:21』
いや、若香…、だからもう叔父の話はいいよ。
ゲップが出るほど聞いたから。
『そして今、金市場は上昇の段階にある。金は備蓄物資に属することも不可欠ですね。 朱婧瑶20:22』
『凄い経験と経歴ですね。若香さん自慢の叔父さんですね。 岩上20:22』
返信をしつつ、俺は自分というものがないのか情けなくなってくる。
『だから叔父が若香に助けてくれたのは大きいですね。そして昨日叔父に時計を買いに行ったのも、ずっと若香の世話をしていたからですか。 朱婧瑶20:24』
相変わらずちょっと変な日本語。
『とても楽しかったです。はははは。イチローは夜何を食べますか。 朱婧瑶20:25』
『若香さん色々悩んで決めてましたからね。プレゼントはもう発送したんですか? 岩上20:25』
さっき料理ブログを見せたんだから、ロールキャベツしかないだろ。
『夜はさっきロールキャベツ食べたので、もう食べないですよ。 岩上20:25』
『うん。叔父に郵送しました。叔父も長年出張していたからです。私は彼の家に郵送します。 彼が家に帰ったらきっと着くだろう。まだ何時ですか。 夜、イチロー君は出勤するときっとお腹がすくよ。 朱婧瑶20:31』
今の職場はある意味至れり尽くせりだもんな。
まあ簡易的に説明しておくか。
『叔父さんの喜ぶ姿が何となくだけどわかります。一応職場にはカップラーメンもあるし、出前も取れるし、お腹空いたとしても問題ないですよ。若香さんご心配ありがとうございます。 岩上20:33』
『イチローも若香のことを気にしているからです。若香も何をするにしてもイチローのために考えるよ。どんな感情でも本気で払うのが一番正しいですね。 朱婧瑶20:38』
早く会って、この女を抱いてみたい。
『若香さんからそんな風に言われたら、幸せ過ぎて舞い上がってしまいます。 岩上20:40』
そういえば彼女の誕生日は六月だし、末に会うとしたらプレゼントを用意しておこうかな。
『あ、二十三日、地元の川越行くんですが、その時若香さんの誕生日プレゼントも買っておきますね! 岩上20:40』
『最高の贈り物はイチローさんに出会ったのではないでしょうか。実は若香は誕生日をあまり過ごしません。周りには友達が一人か二人いるだけで食事をします。あと、誕生日に一歳年を取ったことですね。 朱婧瑶20:46』
俺と会うのが最高の贈り物?
さすがに持ち上げ過ぎだ。
『そんな風に言って頂き素直に嬉しいです。仲のいい友達とゆっくり時間を過ごすのが一番ですよ。 岩上20:50』
『どんなにいい友達にも自分の家庭がありますね。そして若香は二人の女性の友達です。異性の友達は今イチロー一人です。同僚は友達ではありません。仕事以外は話せる。仕事が終わって連絡が少ない。 朱婧瑶20:52』
お互いすべて本当の事を言っている訳ではないだろうけど、ある意味パーフェクトウーマンな彼女。
異性の友達が俺一人というのは明らかな嘘だろう。
嫉妬に近い妙な感覚。
それでもこれだけの時間を掛けて、お互いやり取りを毎日のようにしている。
これを考えると、彼女の言葉を信じてあげたい自分もいた。
『仕事中の若香は厳しい。 朱婧瑶20:53』
『では俺はできる限り、若香さんを大切に接して時間作るようにします。仕事中は仕方ないですよ。 岩上20:53』
俺は本当に甘いからなあ。
この甘さが自身を苦しめたのは、二度目の横浜のインカジ『ハッピー』の時じゃないか。
あれで俺は休みがまったく見えず、誰かの穴を埋める形で酷い時は四十四時間勤務をこなし、身体の限界が来るまで働き続けた。
しかし待っていたものは、身を挺して庇った俺に対し、数々の裏切りだけ。
クソみたいな思考の人間に対し甘やかしたところで、結局感謝も何もなく、平気で手の平を返してくるものなのである。
『私は前にイチローさんに言っておきます。そしてイチローは自分が何日休めるかを事前に知ることができますね。若香はまず大阪に行って祖母の誕生日を祝うからです。そして自分の時間が支配することです。 朱婧瑶20:55』
『俺もできるだけ若香さんとの時間を確保するよう努めますね! おばあさん、喜ぶでしょうね。 岩上20:57』
今俺が望むのは、この女と会って足が立たなくなるほど逝かせ、朝までセックスをしたいというだけ。
『若香は毎年大阪に帰りますからね。祖母は若香にもいいですね。 朱婧瑶20:58』
湧き上がってくる性欲をひたすら押さえ、真面目な文面を打つ。
『大阪は行った事ないですが、若香さんいるなら是非とも行ってみたいですね。 岩上21:00』
無性に女を抱きたくなった。
時刻を確認すると九時。
今から洗体エステのリオのところに行くと、仕事へ間に合わなくなってしまう。
『大丈夫ですよ。 もし香が祖母に誕生日を過ごしたらイチローを探しに行ってもいい。ちょうど新宿で数日遊んでいます。川越に行ってみましょう。 朱婧瑶21:08』
俺の地元の地名を覚えていてくれたのか。
リオを抱きたいという邪な気持ちを抱き、罪悪感を覚えた。
『若香さんと一緒なら、どこでも嬉しいです。幸せ過ぎて心臓がドキドキ爆発しないか心配です。 岩上21:10』
『はははは。イチローさんの言うことは大げさでしょう。若香のために取っておいたほうがいいよ。 朱婧瑶21:11』
俺は常に不安定で中途半端な男だ。
ずっと孤独に生きてきて、それまで堪えてきた薄い防波堤のような壁が、若香の出現によって容易く壊れようとしている。
『若香さんが嬉しい事ばかり言うので舞い上がってしまうのです。 岩上21:12』
『イチローさんも毎日、若香さんと楽しいことを話したり、美味しい食べ物を分かち合ったりしているからではないでしょうか。若香は一日中気分がいいですね。 朱婧瑶21:13』
心の繋がり…、こんな風にときめきながら異性とやり取りするのはいつ以来?
教会の牧師妻だった望との不倫の大瀬以来じゃないか?
『俺もとても気分がいいです。すべて若香さんのおかげですね。俺は一日の内、二十三時間四十六分くらい若香さんの事を考えています。 岩上21:16』
『本当ですか。ここ数日どうしていつもくしゃみをしているのかと言いました。イチローさんは若香さんのことを想っていたと言っていましたね。 朱婧瑶21:22』
若香も俺とこう毎日やり取りを続けているから、少しは日本語の冗談も理解するようになってきたのかな。
『それはいつだって気に掛けるし、色々若香さんの事は考えますよ。俺は若香さん以上に素敵な女性を知らないし、また他の女性にまるで興味無くなりましたからね。 岩上21:26』
『私もイチローさんの毎日のことが気になりますね。どんなに忙しくてもイチローと話す時間を作る。習慣になっていると思います。 朱婧瑶21:29』
うん、俺はもうこの女だけでいいじゃないか。
『ほんと気付けばお互い習慣になっていましたね。若香さん、お風呂はこれからですか? 俺はさっき若香さんが仕事から家に戻っている間に済ませました。 岩上21:32』
『水を入れたばかりです。お風呂に入る準備をする。 朱婧瑶21:38』
若香は湯船に浸かった自分の両脚が写る写真を送ってくる。
足もいいけど、俺はおまえのおっぱいが見たいんだよ。
『気持ちいいですね。 日本の温泉がもっと快適だと思います。 朱婧瑶21:51』
でもさすがにおっぱいを見せろなんて言ったら、一気にこの関係は終わってしまうだろうな……。
『すごい綺麗な足ですね。しばらく見惚れてしまいました。 岩上21:58』

彼女と温泉か…、そういう過ごし方も幸せだな。
『若香さんと一緒に温泉行ってみたいですね。 岩上22:01』
『日本では男女が一緒に温泉に入ることができるでしょう。日本の温泉は本当に素晴らしいと思います。イチローは普段温泉に入りますか。 朱婧瑶22:05』
最近で温泉といえば、神田と行った熱海ぐらい。
あれはあれで面白かったけど、やはり旅行は女と二人でするものだよね。
『去年行きましたね、温泉は。ゆっくり浸かって癒やして下さいね。 岩上22:13』
『もう泡ができました。ベッドに横になってイチローと話をする。イチローはもう仕事の場所に着きましたか。 朱婧瑶22:18』
着替えをしながらLINEを打つ。
『俺はこれから準備して出ますよ。 岩上22:18』
『夜の天気はどうですか。寒くないでしょうか。 朱婧瑶22:19』
このぐらいの季節がちょうど過ごしやすい。
季節は春でも、彼女が日本へ来るのは夏前になるのか。
『ちょうどいい気温ですよ。春なので過ごしやすいですね。 岩上22:20』
『それはいいです。主に夜は疲れすぎます。イチローは夜の仕事が大変ですね。夜の出勤は休めませんか。 朱婧瑶22:22』
一従業員の俺がそんな勝手な事したら、もういらないでクビになるだけ。
『明日出たら休みですよ。 岩上22:24』
さて、そろそろ出ようかな。
『仕事に向かいますね! 岩上22:25』
『それはいいです。昼間は睡眠をたっぷりとってください。夜は元気ですね。夜の仕事イチローはどのくらいしましたか。 朱婧瑶22:26』
大久保駅へ到着し、電車に乗ってから彼女への返事を打った。
『今日は帰ってすぐ寝て一時過ぎに若香さんに連絡してるから、六時間は寝てますよ。 岩上22:28』
『イチローと話をする時間はいつもそんなに早く過ぎます。最も楽しい瞬間でもあります。本当に素晴らしいです。 朱婧瑶22:29』
俺も君と知り合ってから、毎日が本当に楽しいよ。
『こちらこそ若香さんにありがとうですよ。 岩上22:31』
今日は残業だから四時間プラス。
彼女にはあらかじめ伝えておこう。
『今日はまたちょっと遅くまで働きます。昼の十一時頃までです。 岩上22:32』
『こんなに遅いですね。どうしてですか。まさか残業ですか? イチローの仕事内容が何なのか、今はまだ分かりません。 朱婧瑶22:34』
前も残業あったでしょ。
まあ日本語が不安定な若香に、それを求めるのは酷か。
回りくどくても一回一回ちゃんと説明すればいい。
『残業ですね。仕事内容はパソコンを扱う仕事ですよ。監視もそうですが、デザインしたり色々やっています。 岩上22:35』
『イチローさんはまだパソコンの達人だったのですね。なぜ夜に出勤するのですか。大変だと思います。そして夜の出勤は肌に悪いです。 朱婧瑶22:37』
この辺裏稼業とは説明できないから、どうしても嘘をつく必要がある。
ちょっとだけ罪悪感を覚えた。
そんな事を考えながら歌舞伎町を歩き、インカジ『レディ』へ到着する。
『夜も監視が必要なので、シフトで交代制で夜の時間帯は働いているんですよ。だいたい二、三ヶ月で交代しますね。若香さんはゆっくり休んで下さいね。 岩上22:46』
『はい。若香も休むつもりだ。イチローさんお疲れ様でした。また明日。おやすみなさい。 朱婧瑶22:53』
引き継ぎを済ませてから、彼女へ返事を打った。
『おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね。若香さん、十七日の水曜の休み、同級生の都合が悪くなったので、二十日の土曜へ休みズラしました。 岩上23:11』
さて、十二時間勤務をこれから頑張るとしますかね。

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