「根回し=悪」だと思っていた私が、管理職になって気づいたこと
「管理職になって初めて分かったこと」シリーズです。
私は若手のころ、「根回し」という言葉があまり好きではありませんでした。
会議の前に関係者と話をして、本番ではすでに話が決まっている。そんな場面を見るたびに、「それなら会議で議論する意味がないんじゃないか」と思っていました。
「もっと正々堂々と、その場で意見をぶつければいいのに」
当時は、そんなふうに考えていたんです。
根回しというのは、正面から議論することを避けるもの。どこかそんな見方をしていたのだと思います。
ところが、管理職になって数年経った今は、少し考え方が変わりました。
あのころの自分に言えるとしたら、
「根回しは、逃げではなく、相手への配慮でもあるよ」
と伝えたいです。
今回は、実際に仕事をする中で私自身が感じるようになった、根回しの意味について書いてみます。
会議で「いきなり反対」された部下が失ったもの
以前、あるプロジェクトの会議で、若手のAさんがベテラン社員の提案に反対意見を出したことがありました。
Aさんの意見は、決して的外れなものではありませんでした。データも揃っていましたし、話の筋も通っていました。
ただ、その場でいきなり反対意見を出したことで、会議の雰囲気が少し変わってしまったんです。
ベテラン社員からすると、自分の提案を大勢の前で否定された形になりました。
結果として、Aさんの意見そのものよりも、「この人とは仕事がやりにくい」と受け取られてしまった部分がありました。
私はそのとき、会議室の隅で「もったいないな」と感じていました。
Aさんが悪い、と単純に言える話ではありません。
ただ、組織の中では、正しいことを言えば、それだけですべてがうまく進むわけではない。
管理職になってから、そのことを実感する場面が増えました。
根回しは「弱さ」ではなく「準備」だった
管理職になって、自分が意思決定する側に回ってみて、初めて分かったことがあります。
人は、いきなり否定されると、内容を考える前に感情が反応してしまうことがあります。
これは上司だから、部下だからという話でもないと思います。
私自身も、突然「それは違うと思います」と言われると、頭では冷静に考えようとしていても身構えてしまうことがあります。
だからこそ、事前に一言あるだけで、ずいぶん違うことがあります。
「実はこう考えているのですが、どう思われますか?」
それだけでも、相手は事前に考える時間を持てます。
会議の場で初めて聞くのと、一度聞いたことがある状態で聞くのとでは、受け止め方も変わってくる。
今の私は、根回しというのは「相手を自分の思い通りに動かすこと」ではなく、議論をしやすくするための準備なのだと考えています。
若手のころの私は、そこが見えていなかったのだと思います。
会議前に行う根回しの具体的な手順
では、実際に誰へ、何を、どのように伝えればいいのでしょうか。
私が会議前に意識しているのは、次の三つです。
まず、会議で判断や協力が必要になる人を整理します。
最終的な決裁者だけでなく、実際に作業を担当する人、反対意見を持ちそうな人、他部署への影響を受ける人も含めます。
全員に話をする必要はありません。会議で突然聞くと、判断が難しくなりそうな人を優先します。
次に、伝える内容を「結論」「理由」「確認したいこと」の三つに分けます。
例えば、設計変更を提案する場合なら、
「次回の試験では、評価条件を一部変更したいと考えています。現状の条件では実車で起きる使われ方を十分に再現できていないためです。懸念点や、事前に確認しておくべきことはありますか」
という伝え方です。
ここで大切なのは、賛成を取り付けようとしすぎないことです。
「この案で進めますので、了承してください」と言うより、
「こう考えています。気になる点があれば、会議の前に教えてください」
と伝えたほうが、相手も意見を出しやすくなります。
最後に、会議で扱う範囲を共有します。
「会議では、方向性を決めたいと思っています」
「今日は結論ではなく、論点の確認までにしたいです」
と伝えておくと、相手も準備ができます。
反対意見がありそうな場合は、次のように伝えることもあります。
「この案には、コスト面で課題があると思っています。私もまだ整理しきれていないので、会議で指摘いただけると助かります」
この一言があると、相手は反対することを攻撃ではなく受け止めやすくなります。
ただし、根回しは「会議の前に結論を決めること」ではありません。もちろん相手の意見を聞いてその場で解決する場合は会議にその話は出しません。
あくまで、会議で話し合うための材料と心構えを共有するものです。
評価する側から見える、根回しの上手い人の共通点
人事評価に関わるようになって、もう一つ気づいたことがあります。
評価される人が、必ずしも「一番いいアイデアを出した人」とは限らないということです。
もちろん、成果や専門性は大切です。
ただ、それと同じくらい、「そのアイデアをどうやって周囲と一緒に前に進めたか」を見ることがあります。
そういう人は、自然と根回しをしています。
「この話は、先に○○さんに伝えておいたほうがいいな」
「この人には、この部分を説明しておこう」
そんなことを考えて、会議の前に一言伝えている。
特別なことをしているようには見えません。
でも、結果的に物事がスムーズに進んでいくことがあります。
私は、これは政治力というより、相手の立場を想像する力に近いのではないかと思っています。
根回しが苦手なあなたへ伝えたいこと
もし今、あなたが根回しを「ずるいこと」「面倒なこと」だと感じているなら、かつての私も同じでした。
だから、無理に考え方を変える必要はないと思います。
ただ、一度だけ見方を変えてみてもいいかもしれません。
根回しは、自分の意見を弱くするためのものではなく、自分の意見をきちんと受け取ってもらうための準備と考えてみる。
次の会議で、まずは一人だけ選んでみて、
その人に、「会議で初めて聞いてもらうより、先に共有しておいたほうがよさそうなので」と前置きして、自分の考えを伝える。
そして最後に、「気になる点があれば、遠慮なく教えてください」と添える。
それだけでも、議論の進み方が変わることがあります。
おわりに
「根回し」という言葉には、今でも少しマイナスなイメージがあります。
私自身、若いころはそのイメージが強くて、根回しをすることをどこか格好悪いことだと思っていました。
でも、管理職になって仕事をする中で、少しずつ見方が変わってきました。
根回しは、相手を動かすための小細工というより、相手がどう受け取るかを考えるための、ちょっとした心配りなのかもしれません。
正しいことを言うことももちろん大切です。
でも、正しいことを、相手が受け取りやすい形で届ける。
そこまで考えて仕事をすることも、組織の中では大切なのだと思います。
もし最近、「これは正しいはずなのに、なぜか伝わらなかった」と感じたことがあるなら、一度そのときの伝え方を振り返ってみてください。
もしかすると、そこに小さな「根回し」のヒントがあるのかもしれません。
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