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介護事業、賃上げ原資は「利益を増やす」より先に「現金の出口をよくみる」

みなさま、おはようございます。アイアジアの東城です。

【3,602字】


賃上げ原資は「利益を増やす」より先に「現金の穴をふさぐ」

昨日に続いて介護業界での経営について考えていきます。

介護施設で賃上げ原資を作るには、まず発想を変える必要があります。

「売上を増やしてから給料を上げる」のではなく、いま施設の中で失われている現金を、職員の給与で戻すという考え方です。

現金が漏れている場所は、意外にはっきりしています。空床、加算の取り漏れ、紹介会社への依存、離職による採用費、残業、夜勤の偏り、記録業務の非効率、介護職でなくてもできる周辺業務、食材・リネン・消耗品・光熱費の管理不足です。

この中で、特に経営者がすぐに動けるのは、加算の取り切り、空床日数の短縮、離職コストの削減、シフトと業務分担の再設計、ICTと見守り機器の実装、紹介料依存からの脱却、共同購買・共同研修・共同採用です。


第一に、加算を「取れる範囲で取る」ではなく「取り切る」

介護施設の経営者が最初に見るべきなのは、加算です。

処遇改善加算だけでなく、サービス提供体制、夜勤体制、認知症対応、科学的介護、口腔・栄養、看取り、個別機能訓練、生産性向上推進体制など、事業種別ごとに取れる加算があります。

問題は、加算を知らないことではありません。
現場では、「要件は満たしているのに算定できていない」「書類が追いつかない」「職員が忙しくて記録が弱い」「担当者が変わって請求が崩れる」ということが起きます。

経営者がやるべきことは、毎月一度、加算棚卸会議を行うことです。

現在取っている加算、取れる可能性がある加算、要件不足で取れていない加算、記録不備で取り逃がしている加算を一覧化します。

これは単なる事務作業ではありません。賃上げ原資の発掘作業です。

令和8年度介護報酬改定では、介護従事者を対象に月1万円の賃上げを実現する措置、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員への月0.7万円の上乗せ、介護職員について最大月1.9万円の賃上げにつながる措置が示されています。

つまり、制度上も「生産性向上や協働化に取り組む事業者」に原資を厚くする方向が出ています。

介護施設は、加算を事務部門の仕事として見てはいけません。加算は、職員の給与原資です。経営者が加算を取り切る姿勢を持たなければ、賃上げの原資は生まれません。


第二に、空床日数を減らす

施設系サービスで一番大きいのは、空床です。
空床は、目に見えにくい売上の流出です。

1床空いている日が続くと、食費や消耗品は少し減っても、人件費、建物費、夜勤体制、管理費はほとんど変わりません。つまり、空床はそのまま利益を削ります。

経営者が見るべきなのは、稼働率だけではありません。

退所から次の入所まで何日空いているのか。ショートステイのキャンセルを埋める仕組みがあるのか。病院やケアマネとの連携が弱くないか。入所判定が遅くないか。家族説明が属人的になっていないか。

空床を減らすことは、職員をさらに働かせることではありません。

すでに固定費がかかっている施設の収入を安定させることです。

空床を減らして生まれた粗利を、夜勤者、中堅職員、教育担当者の手当に回す。この設計が必要です。


第三に、紹介会社依存を下げる

離職が多い施設ほど、紹介会社に頼り過ぎてしまいます。

紹介会社を否定する必要はありませんが、紹介料が毎年大きく出ている施設では、そのお金が職員の給与に回っていない可能性があります。

経営者がやるべきことは、採用費を削ることではありません。

採用費を、定着費に振り替えることです。

たとえば、紹介料に使っていた資金の一部を、既存職員の定着手当、教育担当手当、夜勤継続手当、資格取得支援、再入職祝い、職員紹介制度に回します。

外から人を採用するためにお金をかける経営から、今いる人が辞めない経営へ変えるのです。

ここはかなり大切です。

賃上げ原資は、売上の増加だけで作るものではありません。辞められることで失っていた現金を、辞めないための給与に戻すのです。


第四に、介護職がやらなくてよい仕事を分ける

介護職員の給与を上げるためには、介護職員の時間を守る必要があります。

介護職が、清掃、洗濯、配膳、物品補充、シーツ交換、送迎補助、記録の二重入力、探し物、電話対応に追われている現場では、専門職としての価値が見えにくくなります。

経営者がやるべきことは、人を減らすことではありません。

介護職でなければできない仕事と、他の人でもできる仕事を分けることです。

元気な高齢者、短時間パート、障害者雇用、地域人材、外国人材の補助業務、清掃委託、配膳補助などを組み合わせ、介護職員が利用者対応、移乗、排泄、認知症対応、看取り、記録判断、家族対応に集中できるようにします。

厚生労働省の生産性向上の事例でも、インカム、記録ソフト、見守り機器の導入で離職率が17.4%から8.6%へ下がった事例、フロア巡視時間が30分から5分に短縮された事例、介護ソフトや清掃ロボットの導入で残業時間が減った事例、障害者雇用と業務分担で介護職員の負担軽減に取り組んだ事例が示されています。


第五に、ICTを入れるだけでなく、給与に返す

ICTや見守り機器は、導入しただけでは賃上げ原資になりません。

問題は、導入によって何分減ったのか、誰の残業が減ったのか、夜勤の巡視がどう変わったのか、記録時間がどう減ったのか、その効果を給与にどう返すのかです。

経営者は、ICT導入を「補助金で買った設備」にしてはいけません。

ICTで生まれた時間を、職員の賃金、休暇、教育時間、夜勤負担の軽減に返す設計が必要です。ここで重要なのは、現場にこう伝えることです。

「この機器は監視のためではない。人を減らすためでもない。あなたたちの残業を減らし、夜勤負担を軽くし、給与を上げるために入れる」

賃上げ原資をつくるICTは、現場の信頼とセットでなければ機能しません。


第六に、夜勤者と教育係に重点配分する

全職員に一律で大きな賃上げをするのは難しい場合があります。

その場合、経営者が最初に守るべきなのは、夜勤者、中堅職員、教育係、介護福祉士、外国人材の指導担当者です。

なぜなら、この層が辞めると施設が崩れるからです。

夜勤が組めない。新人が育たない。外国人材が定着しない。事故対応が弱くなる。家族対応が不安定になる。管理者が疲弊する。

したがって、賃上げの第一段階は、全員一律だけでなく、現場を支える役割への重点配分が必要です。

夜勤手当を見直す。教育担当手当をつける。外国人材指導手当をつける。

介護福祉士の資格手当を上げる。主任・副主任の職務給を明確にする。

勤続年数ではなく、役割と責任で給与が上がる仕組みにする。

これは職員間の不公平ではありません。
施設を守るための給与設計です。


第七に、共同化で固定費を下げる

単独の小規模施設では限界があります。
だから、近隣施設や法人間で共同化できるものは共同化するべきです。

たとえば、研修、採用広報、外国人材の日本語教育、通訳、生活支援、物品購入、リネン、給食材料、感染症対策用品、BCP訓練、送迎ルート、夜勤者研修などです。

共同化の目的は、単なるコスト削減ではありません。

単独施設では抱えきれない間接コストを下げ、その分を職員の給与に戻すことです。

令和8年度介護報酬改定でも、生産性向上や協働化に取り組む事業者への上乗せ加算区分が設けられています。

これは、協働化は、理念ではなく、制度上も賃上げ原資に関係する方向へ動いていることなのです。


経営者が作れるのは「月8万円」ではなく、まず「月1万円から3万円」の現実的原資

経営者の努力だけで、月8.2万円の格差を一気に埋めるのは無理です。

しかし、加算の取り切り、空床削減、紹介料依存の低下、離職防止、残業削減、業務分担、共同化を組み合わせれば、まず月1万円から3万円の賃上げ原資を作る余地はあります。

そして、その原資を賞与だけでなく、基本給、夜勤手当、教育担当手当、資格手当へ回す。
これが経営者にできる現実的な第一歩です。

記事の結論は、こうした方が強いです。

介護職員の給与格差は、国の制度だけを待っていても埋まりません。しかし、施設経営者にもできることがあります。

空床を減らす。加算を取り切る。紹介料に流れていたお金を定着手当に回す。介護職を周辺業務から解放する。ICTで生まれた時間を給与と休暇に返す。夜勤者と教育係を守る。共同化で固定費を下げる。

こうした経営改善を積み重ねて、まず月1万円、次に月2万円、さらに月3万円の賃上げ原資を作る手ごたえを感じることが大切なのです。

介護経営に問われているのは、賃上げを願うことではなく、賃上げ原資を作る経営へ変わることです。


本日も最後までお読みいただき誠にありがとうございます!

今日も一日、良い一日になりますように!



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