浮世絵で旅する|江戸の五感【川開き】浮世絵で見比べる、8つの花火
江戸の夏。
夕暮れの隅田川を渡る風に誘われ、人々は涼を求めて川辺へ集まります。
橋の上は見物客であふれ、屋形船には笑い声が響き、夜空には大輪の花火。
同じ「川開き」の夜でも、絵師たちが見つめた景色は少しずつ違いました。
今回は8人の絵師が描いた花火を見比べながら、江戸の夏を旅してみましょう。
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奥行きを楽しむ、浮絵の花火
歌川豊春

出典:Wikimedia Commons
まずは、奥行きを強調した「浮絵」の世界から。
川開きとは、旧暦5月28日から8月28日まで続く納涼期間のこと。
川開きの花火の始まりには諸説ありますが、享保18年(1733)、享保の大飢饉の犠牲者を慰霊し、悪疫退散を願って八代将軍・徳川吉宗が隅田川で花火を打ち上げたのが始まりと伝えられています。
当時、花火が許されていたのは隅田川だけ。だからこそ、川開きは江戸っ子たちが心待ちにした夏最大の楽しみでした。
豊春は、西洋画の遠近法を取り入れた「浮絵」の第一人者。
橋から屋形船、そして夜空の花火へと視線が自然に導かれ、まるで川開きの賑わいをその場で眺めているようです。宇宙を思わせるような広い夜空も素敵です。
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歌川国満

出典:東京都立中央図書館
この浮絵を描いた国満は、初代歌川豊国の門人です。
豊春の花火が夜空へすっと立ち上るのに対し、国満は花火がうねるように広がる様子を描いています。
同じ場所の花火でも、見る角度、花火の広がり方で、勢いも趣きも違って見えます。
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葛飾北斎

出典:Wikimedia Commons
北斎も、「春朗」と名乗っていた若き日に、浮絵を描いていました。
3枚の浮絵からもわかるように、当時の花火は、今では和火と呼ばれる赤一色の花火です。
しかし北斎が見つめていたのは花火だけではありません。
橋のたもとに並ぶ屋台、広小路の見世物、人々の行き交う様子まで細かく描き込み、「江戸の夏の一夜」そのものを一枚に閉じ込めています。
「浮絵」について興味を持たれたら、こちらでも用語解説と画像紹介しています。
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花火より、人を描いた絵師たち
歌川豊国

出典:ColBase
変わってこちらは、豊国の花火。主役にしたのは花火ではなく、人々です。
両国橋は見物客でぎっしり。
今にも話し声や笑い声が聞こえてきそうなほどの賑わいです。花火との距離も近く、頭上いっぱいに広がり、迫力満点に伝わってきます。
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喜多川歌麿

出典:ColBase
こちらは歌麿の二枚続の続絵。
美しい着物に身を包み、思い思いに花火を楽しむ女性たち。
背景では火の粉が夜空いっぱいに散っていますが、歌麿が描きたかったのは花火そのものというより、夏の夜を楽しむ人々の表情や装いなのでしょう。思わず着物の柄や帯にも目が留まります。
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夜景の名手、広重
歌川広重

出典:ColBase
広重の最晩年の代表作『名所江戸百景』より。
大胆に夜空を広く取り、暗闇の中に咲く花火を際立たせています。橋の下を行き交う舟は小さく、影絵で描かれ、夏の夜の空気を感じさせます。
夏の夜の「動と静」が一枚の絵の中に見事に表現され、夜景の中に引き込まれます。
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文明開化を迎えた花火
昇斎一景

出典:東京都立中央図書館 1871年
文明開化を迎えても、人々は変わらず花火に心を躍らせました。
明治になると、浮世絵に化学染料であるアニリン紅が多用されるようになり、花火の赤はさらに鮮やかになります。
夜の川辺も、どこか新しい時代の華やかさを感じさせます。
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楊斎延一

出典:東京都立中央図書館 明治
こちらは三枚続の続絵です。
満月の光、夜空に枝垂れ落ちる花火、水面をゆく屋根船。
一枚では描ききれない江戸の夏の夜が、三枚続だからこその奥行きで広がっています。
まるで舟に乗って花火を眺めているような気分になります。
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8人の絵師の視点をたどると、「川開き」は一つではなく、それぞれ違う物語を持っていることに気づきます。
現代のような色とりどりの花火ではなく、江戸の和火は赤一色の素朴な花火でした。
それでも江戸っ子たちは、その一発一発に歓声を上げ、川辺や舟を埋め尽くして夏の夜に熱狂しました。
浮世絵という〈時の窓〉をひらくと、300年前の夏の夜は、遠い昔ではなく、今も私たちのすぐ隣で輝いているように感じられます。
トップ画像
歌川豊春《新版浮絵 東都両国橋繁花の図》(部分)
出典:Wikimedia Commons
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