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"ウォーターフォール"で設計し"アジャイル"で回す

こんにちは、白石と申します。

AIに事業案の壁打ちをさせて、返ってきた文章を読んで、何も残らない時があります。

書いてあることは間違っていません。市場の大きさも、想定する顧客も、収益の作り方も、それらしく並んでいます。ただ、読み終わっても、明日何をすればいいのかがわかりません。

そこで大抵は、指示のほうを直します。役割を与えて、前提を足して、出力の形式を指定して、もう一度投げる。

返ってくるものは、少し長くなります。中身は、殆ど変わりません。

これを何度か繰り返すと、そのうち指示を書き直す手が止まります。プロンプトの解説記事を探し始めるのは、大抵この辺りです。

新規事業の立ち上げをキャリアの全てでやってきて、今も事業づくりの相談を受けている側から書くと、ここで起きているのはAIの性能の問題ではありません。投げる前に、こちらが決めていないことがある。それが、そのまま曖昧さになって返ってきています。

今日は、指示の書き方を足す前に何を直すのか、という話をします。

指示を三回書き直しても同じ答え

壁打ちの相手としてAIを使う時、最初の指示は大抵一行です。

この領域で新しい事業を考えたい。そう投げると、5分もかからずに案が並びます。

読むと、悪くありません。ただ、どれも似ています。

そこで一回目の書き直しをします。「あなたは新規事業の専門家です」と役割を与えて、視点を上げにいく。返ってきた案は、言葉づかいが硬くなりました。並んでいる中身は、前と同じです。

二回目は、前提を厚くします。公開されている市場の情報を貼り付けて、業界の構造を説明して、制約条件を足す。今度は文字数が倍になりました。案の顔つきは、やはり変わりません。

三回目は、出力の形を指定します。表の形にして、案ごとに市場性と実現性を採点させて、比べやすくする。
きれいに並びました。採点の点数まで付いているので、一見すると判断の材料が増えたように見えます。

ですが採点の基準もこちらが決めていないので、点数のほうも同じくらい無難な所に落ちています。並んだものを上から読んでも、どれを選ぶ理由は見つかりません。この三回に、大抵15分ほどかかります。15分かけて手に入ったのは、同じ中身の三つの見た目です。

この15分が惜しいのではありません。惜しいのは、15分かけたことで「ちゃんと試した」という手応えだけが残ってしまうことです。手応えが残ると、次に同じ場面が来た時も、また指示のほうを直しにいきます。これを性能の限界だと片付けると、話がそこで終わります。ですが実際には、まだ何も試していません。試したのは、指示の見た目だけです。

一日で新規事業案を10本出せた日のことを、少し前に書きました。量は出るのに、その後で詰まる。あの時に詰まった場所と、今回の場所は、根が同じです。

指示を厚くすると、返ってくる文章も厚くなります。厚さは、精度とは別のものです。

ここを混同したまま何度も投げ直すと、時間だけが溶けていきます。

出力の曖昧さは、こちらの決め残し

AIは、こちらが決めていないことを、決めてくれません。

正確に言うと、決めてはくれます。ただし決め方をこちらが指定していないので、最も無難な所に着地させます。

無難な着地は、読めばすぐわかります。顧客は「効率化に課題を抱える中小企業」になり、課題は「業務が属人化していること」になり、収益は「月額のサブスクリプション」になる。

どれも嘘ではありません。ただ、どの業界の資料にも書いてあります。

無難な答えが返ってくること自体は、機械の側から見れば正しい動きです。決め方を指定されていない以上、最も多くの場面で外れない所を選ぶのが、一番間違いの少ない振る舞いだからです。

決めずに残した部分を、ここでは「決め残し」と呼びます。

決め残しは、指示の文面には出てきません。書いていないことは、書いていないので見えない。だからこそ、書き直す時にも直せません。そして決め残しは、必ず出力に出ます。こちらが空けた穴を、AIが平均的な答えで埋めるからです。

これは技術の話ではありません。人に頼む時と全く同じ構造です。

たとえば、若手に「この領域で新しい事業を考えておいて」と頼んだとします。一週間後に上がってくるものは、大抵ぼんやりしています。その時、頼んだ側は「考えが浅い」と言いがちです。ですが、いつまでに何を決めたくて頼んだのかを、そもそも伝えていないことがあります。

AIが返してくる薄い案は、この時に上がってくるものと、殆ど同じ顔をしています。相手が機械に変わっただけで、こちらの決め残しは何も変わっていません。

違うのは速さだけで、人に頼めば一週間かかる往復が、AIだと5分で返ってきます。

速いぶん、決め残しに気づかないまま何度も往復してしまいます。往復の回数が増えるほど、進んでいる感触だけが溜まっていきます。

人に頼んだ場合は、上がってきたものが薄ければ、頼み方のほうを疑う余裕があります。相手が機械になった途端、疑う先が道具のほうへ寄ってしまうのは、少し不思議な所です。

調整するのは入口と出口だけ

AIとのやり取りを分けてみると、動きは三つしかありません。

①情報を集めて、広げて、形にして出す。

②集める範囲を決める。

③出てくる形を決める。

①はAIがやります。しかも人よりずっと速い。②と③が、こちらに残る仕事です。

私は水道で考えています。パイプはAIが敷いて、水も流してくれます。一本道でよければ、こちらは何もしなくても水は出ます。ただし、流れてくる水の種類と純度、それに水量は、人が決めるものです。どこでパイプを分岐させて、どこにどう排出するかも、人が決めます。

断っておくと、これは正確な説明ではありません。仕組みとして語るなら、別の言い方があります。

ただ、事業をつくる側から見ると、こう見立てたほうが手が動きます。仕組みを理解してから使うのではなく、使いながら掴むほうが、この道具とは相性が良いと思っています。

決め残しが起きるのは、この二箇所です。入口と出口しかありません。

入口の話から。集める範囲を決めるというのは、実際には顧客を決めるということです。「30代のビジネスパーソン」まで絞っても、まだ足りません。その人が今どこで困っていて、その困りごとを今どう解決していて、そこにいくら払っているのか。ここまで決めて、やっと水の純度が決まります。
逆に言えば、ここさえ決まっていれば、指示が雑でも案は具体的になります。顧客が決まっていると、外せる選択肢が一気に増えるからです。

誰の課題を解くのかを先に決める話は、以前まとめました。AIを使う場合も、順番は変わりません。

入口には、もう一つ弁があります。今日の壁打ちで決めたいのは、領域なのか、顧客なのか、収益の作り方なのか。ここが決まっていないと、全部の階層を薄く撫でた案が返ってきます。領域の話と価格の話が同じ濃さで並んでいる資料は、大抵これが原因です。

新規事業の会議でも、同じことが起きます。今日は何を決める会なのかを言わずに始めると、良い議論をした感触だけが残って、何も決まりません。

決めたい階層を先に一つ選んでおくと、返ってくる案の粒度がそこに揃います。領域を決めたい日は価格の話が出てこなくなり、価格を決めたい日は領域の議論に戻らなくなります。

次が出口です。出てくる形を決めるというのは、何が出たら前に進むのかを決めるということです。

逆に、何が出なかったら今日はここで止めるのか。ここを決めておかないと、返ってきた案を延々と読み比べることになります。読み比べているうちは、まだ決めていません。

止める側の線を先に引いておくのが、実は一番効きます。線がないと、どの案にも可能性があるように見えてしまうからです。

線の引き方は難しくありません。出てきた案のうち一つも顧客の名前が具体的に書けなかったら、今日はここで止める。その程度で足ります。決めるべきなのは基準の厳しさではなく、基準があるかどうかのほうです。

事業そのものをどこで止めるかという話は、いずれ改めて書きます。今日の範囲では、一回の壁打ちにも同じ線が必要だという所まで押さえておけば十分です。

入口も出口も、AIの知識では埋まりません。パイプを敷く速さがどれだけ上がっても、弁は自分で回すことになります。

問いを直すと、指示は短くなる

決め残しに気づくと、指示は長くならずに、短くなります。

役割の設定も、出力形式の指定も、使わない場面が増えます。代わりに置くのは、決めたいことを名指しした一行です。

実際に今使っているのは、この形です。

この案について、私がまだ決めていないことを三つ挙げてください。決まっている前提と、決まっていない前提を分けて書いてください。

案を出させる指示ではありません。こちらの穴を見つけさせる指示です。
これを投げると、案の代わりに、こちらへの質問が返ってきます。

顧客の年齢は決まっているが、その人が今どう解決しているかは決まっていない。予算の上限は決まっているが、いつまでに決めたいかは決まっていない。競合の名前は決まっているが、どこで勝つ気なのかは決まっていない。

読むと、少し恥ずかしくなります。そのぶん、埋める場所がはっきりします。

返ってきた質問には、その場で一つずつ答えを書き足していきます。答えられない質問が最後に残ったら、それが今日の一番重い決め残しです。三つ埋めてから、改めて案を出させます。返ってくるものの手触りが、ここで変わります。厚さは変わりませんし、むしろ短くなることもあります。ただ、明日やることが書いてあります。

短い指示のほうが効くのは、AIが賢いからではありません。こちらの前提が減ったぶん、埋めるべき穴が減っただけです。長い指示が効かなかったのも、同じ理由の裏側です。

技法そのものを否定したい訳ではありません。決め残しが埋まっている人が技法を足すと、出力は確かに伸びます。今日はその順番の話をしています。

問いのほうを疑うという動きは、他人の起案書を読む時にも同じように効きます。数字から読み始めると、問いの間違いを見落とすという話を、昨日書きました。

自分がAIに投げる時は、その起案書を書いている側に回っています。読む側で気をつけていることを、書く側でもやるだけです。

自分の決め残しを先に埋める手順

やることは単純で、AIを開く前に、紙でもメモでも良いので一行だけ書きます。

「今日ここで決めたいのは、何か」

これだけです。書けなければ、その日の壁打ちは、まだ始められません。
書けない日は、そのこと自体が収穫です。決めたいことが定まっていない状態で、道具だけ動かしても、時間が減るだけだとわかります。その日は壁打ちをやめて、決めたいことを見つける側に時間を使ったほうが、結局は早く進みます。

書けた人は、次に三つの穴を確認します。誰に向けた案なのか。いつまでに何を決めたいのか。何が出たら前に進むのか。三つとも埋まっていれば、指示は自然と短くなります。埋まっていない場所があれば、そこを先に埋めさせる指示を投げます。

順番が大事で、案を出させてから穴を探すのではなく、穴を埋めてから案を出させます。逆にすると、平均的な案を読み比べる時間が先に来ます。読み比べは、頭を使っている感触があるので、上手くいっていると錯覚しやすい所です。
慣れてくると、時間の配分が逆になります。壁打ちそのものは10分ほどで終わって、その前に一人で決めている時間のほうが長くなる。これで正しい形です。

もう一つ。決め残しを埋める作業は、AIが速くなっても短くなりません。

ここは代われない仕事だからです。誰に売るのかも、いつまでに決めるのかも、何が出たら進むのかも、背負う人が決めます。決めた人が、その後の説明もします。道具が速くなったぶん、決める場所だけが手元に濃く残っていきます。壁打ちの往復が速いほど、この差は開きます。

だから、指示の書き方を集めるより先に、決め残しを見つける習慣のほうが効きます。前者は道具が変われば古くなりますが、後者は道具が変わっても残ります。

設計はウォーターフォール、運用はアジャイル

ここまでの手順に名前を付けるなら、こうなります。

入口と出口は、先に決めきります。上流から順に固めて、下流へ流す。ウォーターフォールの作法です。
ですが、一度で当たるとは思いません。回してみて、決め残しが見つかったら入口へ戻ります。固めたものを、自分で壊しに行く。こちらはアジャイルの作法です。

この二つを同時にやります。
固める作法と、壊す作法を、一つの作業の中で交互に使う。

矛盾しているように見えますが、実際にはこれしかありません。設計しなければ、濁った水が流れ続けるだけです。回さなければ、自分がどこを決め残しているかに気づけません。

片方だけをやる人は、わりといます。設計だけで止まると、きれいな指示を作って満足して終わります。回すだけだと、同じ薄い案を何度も受け取ることになります。

ただ、この方法にも、まだ分からない所が残っています。

入口と出口を決めきると、案が自分の想定の外へ出なくなる場面があります。決め残しを埋めるほど、思いがけないものは減っていく。弁を締めるほど水はきれいになりますが、そのぶん量は落ちます。この折り合いは、今も付いていません。

明日、AIを開く前に、一行だけ書いてみてください。
書けた日と、書けなかった日を並べてみると、たぶん見えてきます。

非エンジニアの立場からAIを使って試したことは、このマガジンにまとめています。

いかがだったでしょうか。
貴方の中に少しでも気づきを与えられていたら嬉しいです。
それでは。

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