会議は「重要なこと」より「話せること」で盛り上がる - パーキンソンの凡俗法則
重要な案件について意見を求めても、誰も口を開かない。ところが、次の議題がオフサイトミーティングの場所になった途端、急に議論が活発になる。
「移動を考えると都内がいい」
「せっかくだから温泉があるところにしよう」
「去年の会場は食事がいまいちだった」
さっきまでの沈黙は何だったのか、と思うくらい、次々に意見が出てきます。
もちろん、会場選びにも意味はあります。ただ、事業の将来を左右する案件と、オフサイトの場所とで、経営メンバーが集まって議論する価値が同じとは思えません。それなのに、重要案件は10分で終わり、会場選びには30分かかる。
会議の時間が、議題の価値ではなく、発言のしやすさによって配分されているのです。
会議の生産性を考えるなら、「予定の時間内に終わったか」だけを見ても仕方ありません。価値のある議題に十分な時間を使い、その場で議論する価値の低い議題には時間を使いすぎない。そうした、価値に基づくタイムマネジメントが必要です。
このように、重要で複雑な問題より、誰でも意見を言える些細な問題に議論が集中しやすい傾向を、「パーキンソンの凡俗法則」と呼びます。重要な問題には知識も判断も必要ですが、身近な問題なら、誰でも自分の経験や好みを話せる。その結果、「考えるべきこと」より「話せること」に時間が使われます。
重要な議題の中でも、同じことが起きる
もっと厄介なのは、重要な議題を取り上げている最中にも、この法則が働くことです。
たとえば、新規事業の提案会議。本来、議論したいのは、事業が成立するかどうかを左右する論点です。
そもそも、お金を払ってでも解決したい顧客の課題は存在するのか。狙うべき市場はどこか。誰に、どんな価値を提供するのか。その価値に対して、いくら払ってもらえるのか。
ところが、市場選定や提供価値、プライシングの話には、なかなか意見が出てこない。代わりに始まるのが、予算の計算方法のアラ探しです。
「この費用、月割りで計算したほうが正確では?」
「この項目の端数処理はそろえたほうがいいですね」
さらに、資料に書かれた仮の商品名を見て、誰かが「この名前、ちょっと覚えにくくないですか?」と言う。そこから、全員で商品名のブレストが始まります。まだ、誰に何を売るかも決まっていないのに。
しかも、今日は商品名を決める会議ではありません。最終的に名前を決める担当者も、その場にはいない。それでも、話しやすいので盛り上がります。
会議が終わると、予算表は少し整い、商品名の候補は増えています。でも、その事業を進めるべきかどうかは、何も決まっていません。
重要なアジェンダを用意するだけでは、重要な議論は生まれないのです。
なお、予算の誤りが採算性を覆すなら、それは当然、その場で扱うべき論点です。区別したいのは、数字の話か、戦略の話かではありません。「今の意思決定を変える話かどうか」です。
説明資料だけでなく、議論の順番を用意する
では、どうすればよいのでしょうか。
提案内容を説明するだけで終わらず、何について、どの順番で議論すべきかまで整理して、会議に持っていくことです。
「新規事業について意見をください」では、市場選定も商品名も議論の対象になってしまいます。そこで、資料を次の4つの階層で組み立てます。
何を決めるのか
例:最初に需要を検証する市場を決める。何を基準に決めるのか
例:課題の切実さ、支払意思、自社の強み、検証のしやすさ。候補は何か
例:大企業、中小企業、個人事業主。候補をどう比較するのか
例:各候補を判断軸に沿って比べ、分かっていることと未検証の仮説を確認する。
これらは、たたき台で構いません。判断軸を修正してもよいし、候補を追加してもよい。資料にある案から必ず選ぶ必要もありません。
ただ、上から順に議論する。
何を決めるかを確認し、判断軸をそろえ、そのうえで候補を比較する。判断材料が足りなければ、次に何を検証するかを決めます。
今の議題を、画面に出しておく
そして、この資料は事前に配るだけでなく、会議中も投影します。今、何について議論しているのかを、全員が見える状態にしておくためです。
画面には、「最初に需要を検証する市場を決める」という議題と、その判断軸、候補、比較が表示されている。そこで仮の商品名のブレストが始まったら、こう戻します。
「商品名は今の議題ではないので、後にしましょう。まず、どの市場から検証するかを決めたいです」
狙う市場の話をしているときに、商品発表会の会場を議論しても仕方がありません。そのことを、進行役だけでなく、参加者全員が認識できるようにするのです。
話がそれるたびに、画面にある議題へ戻す。次の論点へ進むときは、資料も切り替える。
議論の順番を準備し、今の議題を見せ続け、そこへ戻す。そこまで行って初めて、会議の時間を重要な判断に使えます。
誰でも話せることは、放っておいても話題になります。だから、考えるべきことに時間を使うには、会議の前に議論を設計し、会議中も焦点を保つ必要があるのです。
あわせて読みたい
仕事を面白くする人が伸びる【有料マガジン】
仕事への小さな働きかけを、経験・学習・成長につなげる方法をまとめたマガジンです。会議の進め方を変えるように、自分から仕事を動かし、周囲を巻き込むための考え方を掘り下げています。
「理解できない」とSlackに書く前に、たぶん読むものがある
方針に意見を言う前に、その判断に至った背景を理解しているか。経営目標や過去の議論を踏まえ、漠然とした不満を具体的な質問に変えることを考えます。重要な議題に向き合うための、参加者側の準備につながる記事です。
その戦略、本当に失敗したんですか? - Disagree and Commitの重要性
会議で決めても、実行されなければ戦略の良し悪しは分かりません。決める前には反対意見を出し、決まった後は検証できるように実行する。議論を意思決定から組織の学習へつなげる記事です。
大企業病は、みんなが自分の仕事をちゃんとやると起きる
全員が担当範囲で正しいことを言っているのに、何も進まない。そんな会議の背景にある、分業と部分最適の構造を考えます。自分の持ち場を越えて、仕事を前へ進めるための視点を紹介しています。
問題解決は問題文作成が9割
「売り上げが悪い。どうするか」では、議論の範囲が広すぎます。事実と仮説を分け、判断に必要な問いを絞ることで、考えるべき解決策も明確になる。「何について議論すべきか」を整理する方法を、具体例で掘り下げた記事です。
意見が合わないのに、なぜこの人とは「話が早い」のか
議論が噛み合わないのは、説明不足ではなく、別々の問いに答えているからかもしれません。目的や判断の前提を理解し合えば、反対したままでも話は進む。「今、何について話しているのか」に戻る大切さを考えた記事です。
