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あなたの強みは「すでに成果が出ている仕事」の中にある 

働いていると、ときどき「この人、本当にすごいな」と思う人に出会います。

その人がプロジェクトに入ると、それまで何週間も止まっていた話が、なぜか進み始める。営業、開発、企画など立場の違う人が集まって、それぞれが自分の正しさを主張している会議でも、その人がいると、いつの間にか「誰が正しいか」ではなく「で、私たちは何を解くんでしたっけ?」という話になっている。

顧客との商談でも、製品に一番詳しいわけではないのに、相手がまだ言葉にできていなかった懸念を見つけて、提案そのものを変えてしまう人がいます。大量の情報を前にみんなが混乱しているとき、「重要なのは、この3つじゃないですか」と、急に問題を小さくできる人もいる。

こういう人を見るたびに、「これ、かなりすごい能力だよな」と思います。
ところが、おもしろいことに、本人はそう思っていなかったりします。
プロジェクトマネジメントが抜群にうまい人に「それ、かなり強みですよね」と言うと、「でも私は製品企画なので。プロジェクトマネジメントは本業じゃないです」と返ってくる。顧客との対話やプリセールスでは明らかに大きな成果を出している人が、「次は営業企画をやってみたい」と言っていたりもする。

周りから見ると「そっちに行くの?」と思うのですが、本人からすると自然なのでしょう。

たぶん、自分にとって簡単にできることは、たいしたことに見えないのです。

会議が混乱していたら論点を整理する。話が噛み合っていなければ前提を揃える。複雑な問題なら要素を分けて関係性を見る。本人としては特別な技を使っている感覚はなく、「普通に考えたら、そうするよね」くらいに思っている。

でも、その「普通」が人によってかなり違う。

考えてみれば、強みというのは少し変なものです。自分にとって大変なことほど「自分はこれを頑張っている」と認識しやすい。一方で、自分にとって自然にできることほど、その価値に気づきにくい。

努力して獲得した能力は自覚しやすいけれど、あまり努力せずに使えてしまう能力は、自分の視界から消えてしまう。

もしかすると、仕事における本当の強みは、そういうところに隠れているのかもしれません。

私も30代まで気づかなかった

私の場合、強みのひとつに、複雑なものを構造として理解する力があります。いわゆるシステム思考に近いものです。

何か問題が起こると、「この人の能力が低い」とか「この機能が足りない」といった一つの原因より、なぜその行動が合理的になっているのか、どんなインセンティブが働いているのか、誰にどんな情報が見えているのか、何と何が影響し合っているのか、ということを考えます。

今では「自分はこういう考え方をする」と分かっています。

でも、30代になるまで、これが強みだとはまったく思っていませんでした。
気づいたきっかけは上司でした。「複雑な状況を整理するのがうまい」「他の人が個別の問題として見ているものを、全体の構造として見ている」と何度も言われました。

最初は、「へえ、そうなんだ」くらいでした。

自分としては、そう考える以外の方法を知らないので、何が特別なのかもよく分からない。ところが、別の仕事でも似たようなことを言われる。何度も言われているうちに、ようやく「もしかして、これはみんなが普通にやっていることではないのか」と思うようになりました。
ここで初めて、自分を見るだけでは自分の強みは分からないのだ、と気づきました。

自分には、自分しか見えません。

自分がある問題を30分で整理したとしても、それが速いのか遅いのかは分からない。同じ会議に別の人が入ったらどうなるかも分からない。自分にとっては、自分の思考速度も、問題の見え方も、それが世界の標準です。
でも上司は違います。

いろいろな人を見ている。同じような仕事を複数の人に任せている。その結果も見ている。

「この人に任せると、関係者の多い仕事が前に進む」
「この人を商談に連れていくと、顧客との話が深くなる」
「混乱した案件をこの人に渡すと、最初に問題の構造を整理する」

本人には見えない差が、上司には見える。これって、ものすごく価値のある情報だと思うのです。

フィードバックというと、なぜか弱点の話になる

ところが、世の中で「上司からのフィードバック」というと、どうも足りないところを指摘するものだと思われがちです。

「もう少しリーダーシップを発揮してください」
「プレゼンテーション能力を高めましょう」
「次の等級に上がるには、この能力が不足しています」

もちろん、それもフィードバックです。
でも、上司からのフィードバックには、もっと重要な使い道があるのではないかと思っています。

自分では見えない強みを教えてもらうことです。

しかも、「あなたはコミュニケーション能力が高いですね」という話ではありません。これでは、ありがたいけれど何をすればいいのか分からない。

「あのプロジェクト、ずっと決まらなかったのに、あなたが論点と意思決定者を整理してから進み始めたよね」
「営業と開発が対立していたけど、あなたが顧客の課題から話を組み直したら、両者が同じ問題について話し始めたよね」
「顧客が価格の話をしていたのに、本当の問題は導入リスクだと気づいて、提案を変えたよね」

こういうフィードバックには価値があります。

なぜなら、「あなたは優秀です」ではなく、自分のどんな行動が、どんな成果を生んだのかを教えてくれるからです。

一度なら偶然かもしれない。でも、別の場面でも似たような成果が出て、また同じことを言われる。さらに別の人からも同じ指摘を受ける。

そうなると、それはもう褒め言葉というより、データです。
「自分は、こういう状況に置かれると成果を大きく変えられるらしい」という、自分についてのかなり重要なデータになります。

エニアグラムやストレングスファインダーのようなものも、自分を考える材料として役に立ちます。ただ、それらから分かる自分の特性と、「今の職場で、自分の何が実際に成果につながっているのか」は、少し違う話です。

仕事における強みを知りたいなら、自分の内面を掘るだけでは足りない。

自分が何をしたときに、現実の成果が動いたのか。

それを見ていた人から教えてもらう必要があります。
そう考えると、良い上司から受ける「成果に紐づいた率直なフィードバック」は、キャリア上かなり貴重なものです。本人には取得できない情報だからです。

もちろん上司が常に正しいわけではありません。でも、仕事を継続的に見ていて、成果も見ていて、さらに複数の人を見比べられる。この条件を満たす人からのフィードバックは、もっと大事にしていいと思います。

ところが、強みが分かっても使わない

そして私の場合、さらにおかしなことが起きました。

せっかく上司からフィードバックを受けて、自分の強みに気づいたのに、それを積極的に使おうとはしなかったのです。

「なるほど。自分はそういうことが得意なのか」

で終わりました。

今考えると、ここにも自分の性格がよく表れています。私は新しいことをやるのが好きです。すでにできることをもっとやるより、知らないこと、やったことのないことのほうに惹かれる。

だから「複雑な問題を構造化するのが強みですよ」と言われても、「じゃあ、もっと複雑な問題を扱おう」とはならなかった。それより次の新しいことをやりたくなってしまう。

でも、これは強みの使い方としては、あまり上手ではなかったなと思います。

強みには二つの問題があります。

ひとつは、強みに気づかないこと

もうひとつは、気づいているのに、その強みが成果につながる場所へ自分を置かないことです。

後者は意外と多いのではないでしょうか。

「私は製品企画だからプロジェクトマネジメントは本業ではない」と言う人も、たぶん同じです。

職種名から自分の仕事を考えると、「これは本業」「これは本業ではない」という分類になる。でも、成果の側から見ると話が変わります。
もし自分がプロジェクトを前に進めることで大きな価値を出しているのであれば、それは製品企画という肩書きとは関係なく、自分が持っている重要な能力です。

だったら、それをもっと重要なプロジェクトで使ったほうがいい。
プリセールスで顧客の意思決定を大きく動かせるなら、その機会を増やしたほうがいい。

強みを知るだけではなく、強みを使う回数を増やす

当たり前のようですが、私はこれをあまりやってきませんでした。

ドラッカーが見ていたのも「すでに成果が出ている場所」

ドラッカーは『Managing Oneself』で、こんなことを書いています。

“It takes far more energy and work to improve from incompetence to mediocrity than it takes to improve from first-rate performance to excellence.”

不得意な領域を人並みにすることに大量の資源を使うより、すでに一流の成果を出している領域を卓越させるほうに資源を使うべきだ、という趣旨です。

この言葉で私がおもしろいと思うのは、「好きなことをやれ」と言っているわけではないことです。

「自分が得意だと思っていることを伸ばせ」でもない。

見るべきなのは、すでに高い成果が出ているところです。

自分が好きかどうか。これからやってみたいかどうか。自分で得意だと思っているかどうか。

そういう自分側の認識だけではなく、「実際に、自分が入ったことで何度も成果が変わったのはどこなのか」を見る。

そして、その能力をさらに磨き、その能力を使える仕事を増やす。
こう考えると、キャリアでよく聞かれる「あなたは何をやりたいですか?」とは別に、かなり重要な問いがあるように思います。

「私が入ることで、成果が大きく変わった仕事は何でしたか?」

自分で考えてもいい。

でも、たぶんこの問いは、自分より上司や一緒に働いてきた人に聞いたほうがおもしろい答えが返ってきます。
自分にとっては「普通にやっただけ」のことを、周りの人は、ずっと前から強みとして見ていたりするからです。

もちろん、不得意なことを放っておけばいいという話ではありません。苦手なことが仕事のボトルネックになっているなら、仕事が成立する水準までは改善したほうがいい。

ただ、弱点を埋めることと、すでに成果を生み出している強みを伸ばすことは、同じ「成長」でもずいぶん違います。

私は長いあいだ、「次は何をやろう」と考えてきました。

でも、最近はそれと同じくらい、
「すでに自分が大きな成果を出せているのは、いったいどこなんだろう」
と考えることにも意味があるのではないかと思っています。

そして、その答えは案外、自分の中ではなく、ずっと自分の仕事を見てきた人の中にありそうです。


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