自分の準備を節約したら、みんなの一日が消えた
会議の画面には「進捗」「課題」「今後の進め方」の三行。担当者が話し始めると、「そもそも、これは何のためでしたっけ」「いつまでに必要なんでしたっけ」と質問が続きます。ようやく事情が分かったころには、残り五分。「では、次回までに整理します」。次の会議の日程だけは、驚くほどすんなり決まった。
一時間、ちゃんと話した。質問も出た。なんとなく仕事をした気はします。
でも、私たちはいったい何に、この一時間を使ったのだろう。
カレンダーには値札がついていない
「資料を準備するのに、そんなに時間はかけられない」。そう思う気持ちは分かります。目の前には仕事が積まれている。ひとまず集まって話せば、詳しい人がいい感じに整理してくれるかもしれない。私も、ついそう期待したくなる。
ただ、その「いい感じ」を引き受ける人も忙しいのです。マネージャーや専門家の時間は、多くの案件が必要とする希少な資源です。その人の三十分の助言で、チームの数日分の手戻りを防げることもある。会議に呼ぶときには、その時間でできたはずの仕事も、いったん止めています。
4人で一時間の会議を2回開けば、合計8時間。ひとりの一日分です。年間労働時間を1,600時間と置けば、その0.5%。ちょっとした相談を二度しただけで、なかなかのお買い上げである。カレンダーに金額が表示されなくてよかった、と思ってしまう。
『High Output Management』のレバレッジの考え方は、ここで役に立ちます。自分の活動が、他の人やチームの成果にどれだけ影響するか。よい助言が仕事を進めるなら、正のレバレッジが働く。準備不足でキーパーソンの時間を使い、その判断を待つ仕事まで遅らせれば、負のレバレッジが働きます。
自分が少し楽をするために、組織全体ではずいぶん高い代金を払っている。そう考えると、「とりあえず集まりましょう」が、少し気軽に言いにくくなった。
会議の前に、ひとりで4時間
先ほどの会議なら、自分が4時間準備して、開催を一回に減らしてもよさそうです。準備と会議を足せば、全員の合計時間は同じかもしれません。それでも、マネージャーや専門家の一時間が空く。次回を待たず、その日から実行にも移れます。
しかも、準備している間に、自分の頭も整理される。「何に困っているのか」を書こうとして、問題を説明できないことに気づく。案を比較して、好みだけで選んでいたと分かる。調べてみたら、そもそも相談する必要がなくなることさえあります。会議の予定が一つ消えた。これは、けっこう立派な成果だと思う。
準備が進めば、参加者は事情の聞き取りを早く終え、重要な指摘や助言に時間を使えます。判断の質が上がり、担当者も理由とリスクを理解して動ける。会議の短縮、その先の意思決定、さらに実行まで、効果が続きます。
だから、準備は会議に提出する宿題というより、自分の仕事を進めるための検討なのです。そこに時間をかける価値がないなら、会議の目的から見直したほうがよいのかもしれません。
文章を整えたり、図表を作ったりする作業にはAIを使えます。中身も一緒に考えてよい。ただ、書いてあることは100%理解し、根拠も弱点も、自分の言葉で説明できるようにする。見栄えは立派なのに、資料を読み上げている担当者も初耳。そんなサプライズは、避けたい。
「相談です」は、まだ相談になっていない
では、何を準備すればいいのでしょう。私はまず、会議で得たいものを三つに分けて考えたい。
一つ目は、どの案で進むかを決める会議です。問題と判断基準を整理し、複数の案を比べ、自分の推奨案と理由を持っていく。重大な判断なら、少なくとも三案は考えたいところです。それぞれに選ぶ理由がある案を用意し、失敗したら何をきっかけに見直すかまで考える。数合わせの案を作っても、比較の意味がありません。
二つ目は、現状の理解や今後の計画を確かめる会議です。「進捗を共有します」から、もう一歩進める。「私は遅延の原因を仕様変更だと考えていますが、見落としはありませんか」「この要員で期日を守れるという見積もりは妥当ですか」。欲しい助言を具体的な問いにし、背景、事実、自分の解釈、今後の計画を書く。
例えば、「開発遅延。日程を相談」では、聞き取り調査が始まります。「追加機能の開発で二週間遅れる見込みです。私は追加機能を次回に回す案を提案します。顧客への約束に反しないか、確認したいです」なら、参加者は考えるべきことが分かります。文章でも箇条書きでも、この水準まで説明があればよい。
三つ目は、部署をまたいで優先順位を決める会議です。何のために、誰の協力を、いつ、どれだけ必要とするか。相手のどの仕事が後回しになるのか。協力を得られなければ、どう進めるのか。そこまで並べ、自分の提案を出します。「うちの案件は重要です」だけでは、重要案件どうしの大声大会になってしまう。
どの会議でも、案件を進める担当者が実行責任者です。周囲の知見を受け取り、自分の理解や計画を更新する。意見は根拠と論理で評価し、決定権が別の人にあるなら、誰が何を決めるかを明らかにしておきます。
これは定例でも1on1でも同じです。相談する側も受ける側も、確認したいことや前回の約束を準備する。報告も、その結果を見て何を続け、何を変えるかまで考える。「今の計画を続ける」も、立派な判断です。
最後には、決めたこと、理由、誰がいつまでに何をするかを残す。次回の会議の予約より先に、次の行動を決めたい。残り5分になったら、強制的に次の行動を決めにいくことが何よりも大切です。
私はこれまでも、会議の準備は、参加者の時間を生かすための仕事だと考えてきました。自分が考え、調べておくことで、周囲の知見を引き出し、判断と実行を前に進める。ここにレバレッジを効かせたい。招待ボタンを押すのは一瞬ですが、その一瞬で何人もの時間が予約できてしまう。ずいぶん強力なボタンです。だからこそ、押す前に自分の頭をしっかり働かせておきたいのです。
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