掌編|【ちーちゃん】ちーちゃんとひーちゃん
教室では、
みんなが私を
鈴木さん
と呼んだ。
でも、彼女だけは
ただ私を
ちーちゃん
と
呼んだ。
出会ってから
もう30年以上になるけれど
今でも
その柔らかい響きを聞くと
私は心底
ホッとする。
部活は別々だったから
一緒に帰ったのは
いつもテスト期間だった。
今日のこの問題を
こんな風に間違えて、悔しい
そんなことを同級生に話したのは
初めてだった。
テストが返却されるのは
楽しみの一つだった。
返される前から
点数はわかっていたので
それを確認するだけだ。
終わったテストの点数は
そんなに重要ではなかった。
父以外の大体の大人は
そこばかり、見たけれど。
でも、
そんなテストの点数を
見えるままにしておくと
「点数、見せびらかしたいんやな」
とヒソヒソ言われ、
みんなと同じように
隠すと
「隠すような点数と、ちゃうくせに」
そんなことを言われる。
そんな生活に、
心底うんざりしていた。
そんな中学生だった私が
45歳になり、
自分の文章や絵を
ネットの世界に出してみるという
なかなか大胆なことをし始めた。
それを知らせたら
彼女は
「見たよー。
ちーちゃんやな、
ってすぐにわかったわ。
柔らかくて
温かい絵やなぁ。」
電話の向こうで
のんびりと
そう言った。
遠く離れて暮らしているけれど
私の周りだけ
中学生の頃に
戻ったような気がした。
柔らかくて
温かい、かぁ。
参ったなぁ。
私は
回転椅子に乗ったまま
少しだけ
くるくると回った。
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