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電子帳簿保存法とは|義務なのは1つだけと、費用をかけない満たし方

    メールに添付されて届いた請求書のPDFを、印刷してファイルに綴じ、元のPDFは残していない。
    通販サイトからダウンロードした領収書を、印刷したあとに元のデータを消している。

    この2つは、いまは認められません。
    ただし、対応そのものは思われているほど大きな話ではありません。

    電子帳簿保存法という1つの名前の中には、性格の違う制度が同居しています。
    そのうち義務なのは1つだけです。
    その1つも、費用をかけずに満たす道が条文の側に用意されていて、基準期間の売上高が5,000万円以下なら検索の要件そのものが外れます。
    この記事では、何が対象で、何をすれば足りるのかを、国税庁の一問一答の最新版から順に確かめていきます。

    この記事は、電子帳簿保存法とその施行規則の条文、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月)、リーフレット、パンフレットをもとに、2026年9月時点の内容にしています。


    電子帳簿保存法には、性格の違う制度が同居している

    語尾が違う

    まず、話を混乱させている原因を取り除きます。

    国税庁の「電子帳簿保存法の概要」は、この法律の制度を大きく4つに分けて説明しています。
    帳簿書類の電磁的記録による保存等、COM(マイクロフィルム)による保存等、スキャナ保存、そして電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存です。
    実務でよく言われる3つの区分は、このうちCOMを除いた3つにあたります。

    見分け方は、条文の語尾です。

    帳簿書類を電子で保存する制度(法第4条)とスキャナ保存(同じく法第4条)は、いずれも「その電磁的記録の保存をもって、その帳簿書類の保存に代えることができる」と書かれています。
    代えることが「できる」ので、やらなくても構いません。

    これに対して電子取引は、法第7条です。
    国税庁の「電子帳簿保存法の概要」は、こう書いています。

    所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、一定の要件の下で、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととされています(電子帳簿保存法7)。

    「保存しなければならない」。
    ここだけが義務です。

    「うちは紙でやっているから関係ない」は成り立たない

    この違いを混同すると、紙で経理をしている会社は関係ない、という誤解が生まれます。

    そうではありません。
    紙で処理している会社でも、メールで請求書を1通でも受け取っていれば、その1通は電子取引の対象になります。
    逆に、帳簿を会計ソフトで作っていても、その保存方法を電子にするかどうかは自由です。

    義務があるのは、入口が電子だったものだけです。

    紙をデータ化する義務はない

    もう1つ、安心してよい点があります。

    郵送で届いた請求書をスキャンして保存する、というのがスキャナ保存です。
    これは法第4条の制度で、語尾は「代えることができる」でした。
    つまり任意です。

    「電子帳簿保存法が始まったから全部スキャンしないといけない」という説明を受けたことがあるかもしれませんが、義務の範囲はそこまで広くありません。
    紙で来たものは紙のまま保存して構いません。

    自社の負担を見積もるときは、まず紙の書類を対象から外してください。
    それだけで、対象はかなり絞られます。


    何が「電子取引データ」なのか

    書類の種類ではなく、やりとりの方法で決まる

    電子取引の定義は、法第2条第5号にあります。
    国税庁の概要は、こう説明しています。

    「電子取引」とは、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。)の授受を電磁的方式により行う取引をいい、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)、インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引等が含まれます。

    読みどころは、判断の軸が「書類の種類」ではなく「やりとりの方法」だという点です。

    同じ請求書でも、郵送で届いた紙は電子取引ではありません。
    メールにPDFが添付されて届いた請求書は、電子取引です。
    何を受け取ったかではなく、どう受け取ったかで決まります。

    受け取ったものだけでなく、送ったものも

    定義の中に「受領し、又は交付する」と書かれています。
    交付、つまり自社が発行して送った側も対象です。

    受け取った請求書ばかり気にして、自社が送った控えを保存していない、という状態は片手落ちになります。
    販売管理システムから請求書を出力してメールで送っている会社であれば、システムの中にデータが残っているはずですので、まずそこを確認してください。

    クレジットカードの利用明細も対象になる

    見落とされやすいのが、集約された明細です。
    一問一答は、次のように書いています。

    事業に関連するクレジットカードの利用明細データを受領した場合のように、個々の取引を集約した取引書類のデータを授受した場合には、クレジットカードの利用明細データ自体も電子取引の取引情報に該当することから、その電磁的記録の保存が必要です。また、その利用明細データに含まれている個々の取引についても、請求書・領収書等データ(取引情報)を電磁的に授受している場合には、クレジットカードの利用明細データ等とは別途、その保存が必要となります。

    条件が付いている点に注意してください。
    個々の取引についても保存が必要になるのは、その請求書や領収書をデータで授受している場合です。
    紙の領収書しか受け取っていない取引は、そもそも電子取引ではありません。
    逆に、明細も個々の領収書もデータで受け取っているなら、明細を保存すれば個々の領収書は不要、とはなりません。
    カード明細で経費精算を回している会社は、ここを確認しておく価値があります。

    メールの受信箱に置いたままでは足りない

    一問一答には、実務でいちばん多い運用への言及もあります。
    対象となるデータは検索できる状態で保存する必要があるため、そのデータが添付された電子メールについて、メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えない、という趣旨のことが書かれています。

    受信箱に残っているから大丈夫、ではないということです。
    なお、このあとで見るとおり、検索の要件は会社によっては外れます。
    ただしその場合も、税務職員のダウンロードの求めに応じられる状態にしておくことが前提になるので、どこに何があるか分からない受信箱のままでよい、という結論にはなりません。

    書面が正本なら、書面だけでよい場合がある

    例外もあります。
    一問一答の問16です。

    電子データと書面の内容が同一で、書面を正本として取り扱うことを自社内等で取り決めている場合には、その書面の保存のみで足ります。
    ただし、書面で受領した取引情報を補完するような取引情報が電子データに含まれているなど、内容が同一でない場合は、書面と電子データの両方が必要になります。

    紙の請求書と同じPDFがメールでも届く、という取引先がある会社は、社内で正本をどちらにするかを決めておくと整理がつきます。

    保存期間は、紙の書類と同じ

    保存期間について、電子帳簿保存法が独自の年数を決めているわけではありません。
    それぞれの税法で定められた期間です。

    法人の場合は帳簿・書類とも原則7年です。
    青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度などは10年になります。
    個人事業者の青色申告者は、帳簿・決算関係書類・現金預金取引等関係書類が7年、請求書や見積書などその他の書類が5年です。
    消費税の課税事業者が仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等と、インボイス発行事業者が交付した適格請求書の写しなどは、これにかかわらず7年です。

    なお、バックアップデータの保存は法令上の要件ではありません。
    ただし一問一答は、保存期間を通じて適切に保存がなされるためには、バックアップデータを保存することが望まれる、としています。


    印刷して紙だけ残す方法は、もう使えない

    廃止と、その後の2段階

    以前は、電子で受け取ったものを印刷して紙で保存する扱いが認められていました。
    この措置は令和3年度の税制改正で廃止されています。

    ただし、そこから2段階の経過措置がありました。
    令和4年1月1日から令和5年12月31日までは「宥恕措置」があり、出力書面だけを保存する方法でも認められていました。
    この宥恕措置は令和5年12月31日の到来をもって廃止されています。

    代わって、令和6年1月1日以後に行う電子取引には「猶予措置」が置かれました。
    これは「要件を満たせない場合の猶予措置」の章で扱いますが、先に結論だけ書いておきます。
    猶予措置では、出力書面だけを保存する対応は認められていません。

    印刷そのものは禁止されていない

    誤解されやすいので、はっきり書いておきます。
    印刷してはいけない、という制度ではありません。

    一問一答の問31は、電子データを保存要件に沿って保存したうえで、それを書面に出力して他の書類と一緒に整理することは問題ない、と明言しています。
    社内で回覧するために印刷することも、経理が確認のために出力することも自由です。

    問題になるのは、印刷したから元のデータを消してよい、という運用のほうです。
    綴じた紙は、データに代わる保存物としては認められません。

    消費税だけは、いまも書面出力が認められている

    ここは知っておくと迷いが減ります。
    一問一答の問29です。

    所得税と法人税に係る保存義務者については、令和4年1月1日以後、電子取引の取引情報を書面に出力して保存する措置が廃止されました。
    一方、消費税法令において保存することとされている電子データについては、その保存の有無が税額計算に影響を及ぼすことなどを勘案して、令和4年1月1日以後も引き続き、書面に出力して保存することが認められています。

    つまり、同じ電子インボイスでも、消費税の側から見れば紙でもよく、所得税・法人税の側から見ればデータで残さなければならない、という二重構造になっています。
    実務では厳しいほうに合わせることになるので、結論は変わりません。
    ただ、社内で「消費税の本には紙でよいと書いてあった」という話が出たときに、どちらも間違っていないと分かります。


    改ざん防止は、4つのうち1つでよい

    条文が求めている4つ

    保存の要件は、真実性の確保と可視性の確保に分かれます。
    前者、つまり改ざん防止として求められているのは、次のいずれかの措置です。
    一問一答の問18に載っている表から引きます。

    一 タイムスタンプが付された後の授受
    二 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
    三 データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用して、授受及び保存を行う
    四 訂正削除の防止に関する事務処理規程を定め、備付け、運用する

    4つのうち、いずれか1つを満たせば足ります。
    すべてをやる必要はありません。
    そして上の3つはシステムに依存しますが、いちばん下の1つはシステムを必要としません。

    なぜこうなっているかというと、電子データは紙と違って書き換えた跡が残らないからです。
    紙の請求書の金額を修正液で直せば誰が見ても分かりますが、PDFの金額を書き換えて上書き保存しても見た目には何も起きません。
    書き換えられないようにするか、書き換えたことが分かるようにするか、書き換えないという約束を組織として持つか。
    制度はそのいずれかを求めています。

    タイムスタンプ(1つ目と2つ目)

    タイムスタンプは、そのデータがその時刻に存在し、それ以降変更されていないことを証明する仕組みです。

    1つ目は、取引先がすでにタイムスタンプを付けたデータを送ってくる場合です。
    これは自社では選べません。
    相手次第です。

    2つ目は、受け取ったあとに自社で付ける場合です。
    速やかに付与することが求められますが、括弧書きのとおり、取引情報の授受からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合には、その通常の期間を経過したあとに速やかに付与する扱いも認められます。

    付与には時刻認証業務の認定を受けた事業者のサービスを使うことになるため、費用がかかります。
    取引件数が多く確実性を優先したい会社には向いていますが、月に数件しか電子取引がない会社が最初に選ぶ方法ではありません。

    訂正削除の履歴が残るシステム(3つ目)

    3つ目は、システムそのもので担保する方法です。
    経費精算サービス、電子契約サービス、請求書の受領サービスなどには、この要件に対応していることをうたっている製品があります。

    すでにこうしたサービスを使っている会社は、実は要件を満たしている可能性があります。
    新しく何かを入れる前に、いま使っているサービスの機能を確認してみてください。

    ただし条文は「利用して、授受及び保存を行う」と書いています。
    サービスを使っているだけでは足りず、そのサービスの中でデータを授受し、その中に保存し続けることが前提になります。
    サービスからダウンロードして共有フォルダに移し、サービス側のデータを消してしまえば、履歴は残りません。

    事務処理規程(4つ目)

    多くの中小企業にとって現実的なのが、4つ目です。
    訂正削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付け、それに沿って運用する。
    これだけで真実性の要件は満たせます。

    国税庁は、この規程のサンプルを公開しています。
    法人の例と個人事業者の例の2種類があり、一問一答の問33に全文が載っているほか、特設サイトの「参考資料(各種規程等のサンプル)」からダウンロードできます。

    法人の例は、目的、適用範囲、管理責任者、電子取引の範囲、取引データの保存、対象となるデータ、運用体制、訂正削除の原則禁止、訂正削除を行う場合の手続き、という構成です。
    個人事業者の例はさらに短く、訂正削除の原則禁止と、やむを得ず訂正削除する場合の手続きが中心の1ページほどのものです。

    一問一答は、規程を作ることそのものよりも運用を重く見ています。
    規程に沿った運用を行うためには、電子取引情報を扱う従業員やそのマネジメントを行う管理者を対象に、規程の内容を周知することが重要だとされ、業務ソフトに内蔵されたワークフロー機能でそうした運用を確保しても差し支えない、とも書かれています。

    とはいえ、多くの会社では、そもそも受け取った請求書のPDFを書き換える機会などありません。
    やっていないことを、やらないと文書に書く。
    それだけの話だと考えれば、身構える必要はないと思います。

    書類ごとに使い分けてよい

    一問一答の問32は、複数の改ざん防止措置が混在しても差し支えない、としています。
    データの格納先を複数に分けることも同様です。

    電子契約サービスで結んだ契約書はサービス内で保存し、メールで届く請求書は事務処理規程で対応する。
    こうした併用は認められています。
    ただし、検索して表示するときに整然とした形式と明瞭な状態で速やかに出力できるよう、管理しておく必要があります。

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    探し出せる状態にしておく

    3つのうち、2つは多くの会社で問題にならない

    もう1つの柱が、可視性の確保です。
    問18の表では3つ挙げられています。

    1つ目は、電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付けです。
    ここには「自社開発のプログラムを使用する場合に限ります」という括弧書きが付いています。
    市販のソフトを使っている会社や、共有フォルダに保存しているだけの会社には、この要件はかかりません。
    なお自社開発の場合でも、オンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能に同等の内容が組み込まれていれば、備え付けられているものとして扱われます。

    2つ目は、見読可能装置の備付け等です。
    ディスプレイとプリンタなどを備え、整然とした形式と明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくことを指します。
    ここで一問一答の問20が、はっきりしたことを書いています。
    ディスプレイやプリンタ等の性能や設置台数等は、要件とされていません。
    さらに、税務調査等があった時点でプリンタを常設していなくても、近隣の有料プリンタ等で税務職員の求めに応じて速やかに出力するなどの対応ができれば、常設していないことのみをもって要件違反として扱うことはない、ともされています。

    つまり、市販のソフトや共有フォルダで運用していて、パソコンとディスプレイがある事務所であれば、この2つは考えなくて構いません。
    自社開発のプログラムを使っている場合だけ、1つ目が残ります。
    問題は3つ目です。

    検索に求められる3条件

    検索機能として求められているのは、次の3つです。

    • 取引年月日、取引金額、取引先で検索できること

    • 日付または金額について、任意の範囲を指定して条件を設定できること

    • 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること

    2つ目は「4月1日から4月30日まで」「10万円以上50万円以下」といった幅のある指定、3つ目は「取引先が株式会社Aで、かつ金額が10万円以上」といった複合条件です。
    共有フォルダだけでこれを満たそうとすると、確かに面倒です。

    ダウンロードの求めに応じられるなら、2つが消える

    ところが一問一答は、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、範囲を指定して条件を設定できる機能と、2つ以上の記録項目を組み合わせて条件を設定できる機能は不要になる、としています。

    ダウンロードの求めに応じるとは、調査の際にデータそのものを提出できる状態にしておくということです。
    共有フォルダに保存していれば、コピーして渡せます。

    つまり多くの会社にとって、残る要件は1つ目だけです。
    日付、金額、取引先の3つで探せればよい。

    基準期間の売上高が5,000万円以下なら、検索要件そのものが不要

    さらに大きな免除があります。
    一問一答は、次のように書いています。

    個人事業者については電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間の売上高が、法人については電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度の売上高が、5,000万円以下の場合又は電磁的記録を出力した書面を取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものを提示・提出できるようにしている場合には、検索機能の確保は不要です(その場合には、保存しているデータについて、税務調査の際に、税務職員からのダウンロードの求めに応じることができるようにしている必要があります。)。

    一問一答は別の箇所で、この基準期間を「通常は2年前です」と補足しています。
    今年の売上ではなく、2年前を見ます。

    この基準に当てはまる会社は、少なくありません。
    その場合、検索できるように整理する義務はなくなります。
    ただしダウンロードの求めに応じられることが前提です。
    データがどこにあるか分からない、という状態では応じられません。
    検索要件が不要になることと、どこに保存したか分からなくてよいことは別の話です。

    なお、令和5年度の税制改正前は、この基準額は1,000万円でした。
    古い解説を見ている場合は、そこも変わっています。

    書面で整理してあるという道もある

    上の引用にもう1つ入っていました。
    電磁的記録を出力した書面を、取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理して提示・提出できるようにしている場合も、検索機能の確保は不要になります。

    印刷した書類を日付順・取引先ごとに綴じてあるのなら、それを見せられる状態にしておけばよい、ということです。
    「印刷して紙だけ残す方法は、もう使えない」の章と矛盾するように見えるかもしれませんが、両立します。
    データは電子のまま保存したうえで、検索の代わりに紙の整理を使ってよい、という話だからです。
    紙だけを残してデータを消してよい、という話ではありません。

    すでに紙のファイルを几帳面に作っている会社にとっては、いまの運用がそのまま活きる道になります。

    ファイル名と索引簿

    3項目での検索が必要な場合も、新しいソフトは要りません。
    一問一答の問19は、特別なソフトを使っていない個人事業主の質問に対して、具体的な方法を示しています。

    1つは、請求書データのファイル名に規則性をもって内容を表示する方法です。
    示されている例は、2021年1月31日に株式会社霞商店から受領した110,000円の請求書について「20210131_㈱霞商店_110000」とするものです。
    これを取引の相手先や各月といった任意のフォルダに格納して保存し、事務処理規程を定めて運用する。
    それで要件を満たすとされています。

    もう1つは索引簿です。
    受領したデータのファイル名には連番だけを付け、内容は表計算ソフトの一覧表で管理します。
    国税庁のリーフレットに載っている作成例は、連番、日付、金額、取引先、備考の5列です。
    索引簿のサンプルも国税庁からダウンロードできます。

    どちらを選ぶかは件数によると思います。
    月に数件ならファイル名だけで足りますし、数十件を超えるようなら索引簿のほうが早くなります。
    大事なのは、どちらも新しいソフトを買わずに始められるという点です。
    まず始めて、回らなくなってからシステムを検討する。
    その順番で問題ありません。


    要件を満たせない場合の猶予措置

    データと書面の両方を出せること

    ここまで読んで、うちは何もやっていない、もう手遅れではないか、と思った方がいるはずです。
    手遅れではありません。

    令和6年1月1日以後に行う電子取引について、要件に従って保存することができなかったことに相当の理由があると所轄税務署長が認め、かつ税務調査等の際に税務職員の求めに応じて次の2つができる場合には、保存時に満たすべき要件にかかわらずデータの保存が可能とされています。

    • その電子データを提示または提出できるようにしていること

    • その電子データを整然とした形式および明瞭な状態で出力した書面を、提示または提出できるようにしていること

    誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。
    猶予措置は、電子データを保存しなくてよいという制度ではありません。
    一問一答は、令和5年12月末までの宥恕措置では出力書面のみを保存する方法が認められていたが、令和6年1月以降の猶予措置では出力書面のみで対応することは認められていない、と明記しています。
    猶予されるのは改ざん防止措置や検索機能といった要件のほうで、データそのものを残す義務は残ります。

    「相当の理由」に何が入るか

    相当の理由について、一問一答の問93は、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、要件に従って保存を行うための環境が整っていない事情がある場合が含まれる、としています。
    検索機能の要件を満たす準備が間に合わない場合も同様です。

    国税庁のリーフレットは、もう少し踏み込んで書いています。

    事前届出は不要で、「人手不足」「システム整備の資金不足」「システム整備が間に合わない」なども相当の理由として認められます。

    一方で、通らない場合も条文解釈のレベルで示されています。
    問93は、システム等や社内のワークフローの整備が整っていて要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足等の理由がなく、要件に従って保存していない場合には、猶予措置の適用は受けられない、としています(取扱通達7-12)。

    できるのにやっていない、という状態だけが外れる、という構造です。

    事前の申請は要らない

    この猶予措置の適用を受けるにあたり、税務署への事前申請等の手続は必要ありません。
    一問一答にもリーフレットにも書かれています。

    承認を待つ必要はなく、申請していないから使えない、ということもありません。
    判断されるのは調査が入ったときで、そのときにデータと書面を出せるかどうかが問われます。

    それでも、寄りかからないほうがよい

    とはいえ、猶予措置を前提に運用を組むことはおすすめしません。
    理由は2つあります。

    1つは、相当の理由があるかどうかを決めるのが自社ではないことです。
    もう1つは、猶予措置を使っても、データと書面の両方を出せる状態を作る手間は結局かかることです。

    それなら、「改ざん防止は、4つのうち1つでよい」と「探し出せる状態にしておく」の2章で見た要件を満たすほうが、作業量としてはむしろ軽くなります。
    事務処理規程を1本作り、ファイル名の付け方を決める。
    それだけで、多くの中小企業は要件を満たせます。
    猶予措置は、そこにたどり着くまでのあいだ違反状態にならないための橋だと考えるのが実際に近いと思います。


    2026年9月時点の最新状況

    一問一答は令和8年7月版が最新

    国税庁の「電子帳簿保存法一問一答」は改訂され続けています。
    2026年9月時点で最新なのは令和8年7月版です。
    電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係、スキャナ保存関係、電子取引関係の3種類があり、それぞれ変更箇所に下線を引いた版も同時に公開されています。

    古い版を社内資料の根拠にしている場合は、番号がずれていることがあります。
    問番号で引用するときは、版を確認してください。

    電子取引データがからむ隠蔽・仮装は、重加算税が10パーセント重くなる

    義務の話をするときに、罰則側もあわせて見ておきます。

    電子取引データは、紙の書類等を保存する場合に比べて複製・改ざん行為が容易で、その痕跡が残りにくいという特性があります。
    これを理由に、電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為については、重加算税を10パーセント加重することとされています。
    国税庁のパンフレットに、その趣旨がそのまま書かれています。

    保存していないこと自体に対する罰則ではありませんが、データを触って辻褄を合わせにいくと、通常より重い扱いになるということです。

    令和7年度改正で「デジタルシームレス保存」が新設された

    2025年(令和7年)4月に国税庁が公表したパンフレットによると、令和7年度税制改正で、請求書等のデジタルデータを自動で保存し帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が、電子帳簿保存法に新設されました。

    この制度で求められる要件は3つです。

    • 改ざん防止の確保。データの送受信と保存を、訂正削除履歴が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムで行う

    • 記帳の適正性確保

    • 電子帳簿との相互関連性確保。電子帳簿との関連性を相互に確認できるようにしておく

    加えて、国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使う必要があります。
    その基準に適合するシステムとは、デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイス(JP PINT のうち Invoice JP PINT または JP Self-Billing)か、預貯金口座における決済データのいずれかについて、新設された要件に従って保存できる機能を持つシステムを指します。

    デジタルインボイスの仕様であるJP PINTについては、この連載の別の記事で扱いました。
    そこでは「JP PINTのデータをやり取りするだけでは仕入税額控除の要件を直ちに満たさない」というデジタル庁の説明を紹介しましたが、今回の新設制度は逆方向の話で、税制上の優遇を受ける入口としてJP PINTが名指しされた形になります。
    リンクは記事末に置きます。

    青色申告特別控除は75万円になる

    この新設制度の効果は2つです。

    1つは、その電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為について、重加算税の10パーセント加重の適用対象から除外されることです。
    令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用されます。

    もう1つが個人事業者向けで、青色申告特別控除です。
    2026年(令和8年)6月に国税庁が公表したパンフレットには、青色申告特別控除75万円と書かれています。
    括弧書きは「65万円から75万円へ引き上げ」です。
    令和9年分以後の所得税について適用されます。

    適用の条件は、「優良な電子帳簿」または「デジタルシームレス保存」のいずれかの要件を満たしたうえで、電子申告をすることです。
    加えて、事業所得または不動産所得を生ずべき事業の帳簿書類を備え付け、日々の取引を正規の簿記の原則に従って記録し、作成した貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して提出期限までに提出することが前提になります。

    届出はいつまでに出すのか

    これらの優遇措置には、あらかじめ届出書の提出が必要です。
    猶予措置とは逆で、こちらは手続きが要ります。

    「あらかじめ」がいつを指すのかについて、令和8年6月のパンフレットは、適用を受ける年分(事業年度)の法定申告期限までに提出すればよい、としています。
    示されている例は、個人事業者が令和8年分から優良な電子帳簿による過少申告加算税の軽減やデジタルシームレス保存による重加算税の加重措置適用除外を受けたい場合、令和9年3月15日までに届出書を提出する、というものです。

    青色申告特別控除75万円については令和9年分からの適用で、電子申告が必要になる点も、あわせて案内されています。
    所得税の青色申告承認申請手続も別途必要です。


    では、何から手をつけるか

    ここまでの内容を、着手の順番に並べ直します。

    • 自社の電子取引を洗い出す。メールに添付されて届く請求書、ダウンロードする領収書、電子契約、通販の購入明細、カードの利用明細。受け取るものと送るものの両方

    • 保存する場所を1か所決める。共有フォルダで構わない。担当者ごとのパソコンやメールの受信箱に散らばっている状態をやめる

    • 国税庁のサンプルをもとに、事務処理規程を作る。これで真実性の要件が満たせる

    • 基準期間、つまり通常は2年前の売上高を確認する。5,000万円以下であれば検索要件は不要になる

    • 5,000万円を超えるなら、索引簿か、日付・金額・取引先を並べたファイル名の運用を決める。出力した書面を日付・取引先ごとに整理して見せられる状態にしてあるなら、その道でもよい

    • 決めた内容を、経理以外の人にも伝える。営業がメールで受け取った見積書も対象になるため、経理だけで完結しない

    最後の項目が、実務ではいちばん難しいところだと思います。
    制度の話は経理部門に届きますが、電子取引データが発生するのは、たいてい現場です。

    もう1つ付け加えるなら、保存場所を決めたあとに、そこが壊れたときのことを考えておくことです。
    バックアップは法令上の要件ではありませんが、保存期間は法人なら原則7年、欠損金が生じた事業年度なら10年です。
    7年分のデータが1台のNASの中だけにある状態は、制度以前の問題として危うい。
    バックアップの記事は記事末にリンクを置きます。


    まとめ

    • 電子帳簿保存法には性格の違う制度が同居していて、条文の語尾が「代えることができる」なのが任意、「保存しなければならない」なのが義務。義務は電子取引データの保存だけ

    • 対象は、データでやりとりした取引情報。判断は書類の種類ではなく、やりとりの方法で決まる。受け取ったものも、送ったものも入る。紙で受け取ったものをデータ化する義務はない

    • 電子で受け取ったものを印刷して紙だけ残す扱いは、令和6年1月以降認められない。ただし印刷そのものは自由で、データを残したうえで紙に出して整理するのは問題ない。消費税法令の側では、いまも書面出力による保存が認められている

    • 改ざん防止は4つのうち1つでよい。事務処理規程なら費用はかからず、国税庁が法人用と個人事業者用のサンプルを公開している。書類ごとに使い分けてもよい

    • 可視性の3要件のうち、システム概要書は自社開発の場合だけ、見読可能装置は性能も台数も要件になっていない。検索機能も、ダウンロードの求めに応じられるなら範囲指定と組み合わせが不要になり、基準期間の売上高が5,000万円以下なら要件そのものが不要になる。出力した書面を日付・取引先ごとに整理して提示・提出できる場合も、売上高にかかわらず検索要件は不要になる

    • 何より先に、電子で受け取った書類の置き場を1か所に決める。免除に当たる会社でも、ダウンロードの求めに応じられる状態は前提として残る

    • 要件を満たせない場合の猶予措置には事前申請が要らず、人手不足や資金不足も相当の理由に挙げられている。ただし認めるのは所轄税務署長であり、データと出力書面の両方を出せることが条件で、データを残す義務は消えない

    • 令和7年度改正で新設されたデジタルシームレス保存は、義務ではなく取りにいく側の制度。効果は重加算税の10パーセント加重の適用除外(令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税)と、青色申告特別控除75万円(令和9年分以後の所得税)。どちらもあらかじめ届出書が必要で、75万円のほうは電子申告と所得税の青色申告承認申請も要る

    この制度が会社に求めていることは、突き詰めれば「電子で受け取った書類の置き場を決めて、消さないでおく」に尽きます。
    改ざん防止措置も検索機能も、その置き場をあとから信頼できるものにするための条件です。

    そして、置き場が決まっていない会社は、電子帳簿保存法があろうとなかろうと、必要な書類を探すのに時間を使っています。
    義務だから仕方なくやる作業の中では、見返りの分かりやすいほうだと思います。

    皆さんの会社では、電子で受け取った書類の置き場が、1か所に決まっているでしょうか。


    参考・引用元

    法令

    国税庁(一問一答)

    国税庁(制度の概要・リーフレット)

    国税庁(改正・優遇措置)


    実務で使う書式について

    この連載の内容を、社内でそのまま使える書式にまとめたものを、別のマガジンで公開しています。
    規程のひな形、対応フロー、チェックシート、報告書式などです。

    実務で使う書式・キット
    https://note.com/yunta_fukurou/m/mfc25857fab40


    関連する記事

    デジタルインボイスの仕様であるJP PINTと、Peppolの仕組みは別の記事で扱っています。
    今回の新設制度が名指ししているのがこの仕様です。
    導入が義務ではないことと、電子帳簿保存法との違いもまとめています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/nd073723cd005

    消費税の側から見た請求書の話は、こちらです。
    2割特例のあとの選択肢と、2026年10月に経過措置が8割控除から7割控除へ変わる点をまとめています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n7f4ecbeb1cb7

    保存したデータを戻せるかどうかは、置き場を決めたあとの話になります。
    3-2-1ルールの出どころと、戻せるかを年1回で確かめる方法はこちらです。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/nacbfdb5577fd

    共有フォルダやNASに置く場合、暗号化されると保存義務ごと止まります。
    NASが狙われる理由と、設定でどこまで防げるかはこちらで扱っています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n3da1f48b059c

    検索できる形で残す前に、そのデータが壊れていないことが要ります。
    ExcelでCSVを開くと値が変わる理由は、別の記事で扱っています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n8bb215311d9d

    税務署への提出方法のほうは、別の記事で扱っています。
    法定調書を電子で出す義務の基準が30枚に下がることと、判定に使うのが前々年の枚数であることをまとめています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/nc0a6133dea27

    受け取った請求書の控除割合が2026年10月1日から7割に下がる話は、別の記事で扱っています。
    帳簿に書いている「80%控除対象」をそのままにしてよいかも、そこで書いています。
    https://note.com/yunta_fukurou/n/n23e9c709e00d

     
     
    Digital Workplace Architect|社内外のIT・AIの導入と運用 IT・AI・セキュリティと周辺機器の「今さら聞けない」を一次情報で解説。書式・キットも。 Amazonのアソシエイトとして、梟 〜GLEANINGS〜は適格販売により収入を得ています。

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