日本初でも最古参でもなかったMakuakeは、なぜ「クラファンの代名詞」になれたのか【新人さんのためのマーケティング講座 Season9 vol.3】

後発Makuakeが「クラファンの代名詞」になった戦略——応援購入・0次流通という言葉の再定義とPDGサイクルで顧客範囲を大手メーカーまで広げた仕組み

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season9

Season8では「機能から情緒へのドメイン再定義」を20社の事例で深掘りしました。
Season9でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。

まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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前回のKeychronは、クラウドファンディングを「使う側」の話でした。今回は、その市場を日本で「作った側」の話です。

2026年5月末、Makuake(マクアケ)でひとつの記録が生まれました。RokidのスマートAIグラスが約3ヶ月で応援購入総額6億3,673万円を集め、歴代1位を更新したのです。*1 さかのぼって2025年6月には、キリンビールの新サービス「人生を共に生きるウイスキー」が、開始からわずか4分で目標金額1億円を達成。最終的に2.7億円を超え、2026年には事業として本格展開が始まりました。*2

「クラウドファンディング=お金のないスタートアップの資金集め」というイメージからすると、不思議な光景ではないでしょうか。キリンのような大手メーカーの看板事業までもが、ここで「デビュー」しているのです。

もうひとつ意外な事実があります。日本のクラウドファンディングの最古参はMakuakeではありません。日本初のREADYFORは2011年3月、CAMPFIREも同年6月に始まっています。*3 Makuakeの誕生は2013年。2年遅れの後発でした。*4 後発だった会社が、なぜ「クラファンといえばMakuake」と呼ばれる存在になったのか。今回はその設計を解剖します。

「クラウドファンディング」という言葉を捨てた。言い換えが顧客の範囲を変えた

Makuakeの分岐点は、自らを名乗る言葉を変えたことにあります。

2013年5月にサイバーエージェントの子会社として始まったMakuakeは、2019年12月の上場をきっかけに、「クラウドファンディング」という言葉を意図的に使わなくなりました。*4 代わりに掲げたのが「応援購入」というオリジナルの言葉と、「0次流通」という市場の定義です。0次流通とは、1次流通(小売)でも2次流通(中古)でもない、商品が一般市場に出る前の「デビューの場」を指します。*4

この言い換えは、単なるイメージ戦略ではありません。顧客の範囲を変える再定義でした

「クラウドファンディング」という言葉には、寄付や支援、つまり「お金に困っている人を助ける」という響きがつきまといます。この言葉のままなら、顧客は資金調達に困る起業家に限られます。しかし「新商品がデビューする0次流通市場」と定義し直した瞬間、顧客は「新商品を出すすべてのメーカーの担当者」に広がります

ここには日本の大企業が抱える悩みへの、正確な狙いがあります。新商品の失敗が許されにくい組織風土のなかで、商品企画の担当者は挑戦的な企画を通しにくい。そこに「売れてから作れる」「先行販売の結果がそのまま市場調査になる」という仕組みを差し込んだのです。実際、Makuakeの実行者への調査では、約9割が「社内で新商品の企画がしやすくなった」と回答しています。*5 円安と原材料高が続き、価格競争ではなく高付加価値の新商品づくりが急務になっている2026年の中小メーカーにとっても、在庫リスクなしに市場の反応を確かめられるこの仕組みは、挑戦のハードルを下げる装置として機能しています。

項目 従来のクラウドファンディング Makuake
場の定義 資金集めの場 新商品のデビューの場(0次流通)
お金を出す人 支援者(パトロン) サポーター(最初の顧客)
プロジェクトの成果 集まった金額がゴール 先行販売データが次の企画の資産
主な顧客 スタートアップ・個人 大手メーカーの新商品部門も顧客

Makuakeインサイトとキリンビール応援購入事例——0次流通プラットフォームが大手メーカーの新商品デビューと先行販売データ活用を支援する仕組み

デビューの先に伸びるデータのエコシステム。副産物が第二の商品に育つ

Makuakeの収益の柱は、プロジェクトの応援購入額に応じた手数料です。しかし近年のMakuakeは、その取引から生まれる「副産物」を第二の商品に育てています

2025年に提供が始まったリサーチサービス「Makuakeインサイト」は、プラットフォーム上の新商品トレンドや顧客インサイトを可視化し、企業の商品企画から販売戦略立案までを支援するサービスです。*6 そして2026年には、新商品の企画(Plan)・デビュー(Debut)・拡販(Growth)を一気通貫で支援する「PDGサイクル」という方針を打ち出しました。デビューの場を提供して終わりではなく、企画から拡販までの循環全体に関わる構えです。*5

ここで重要なのは、応援購入のコメントや購買データが、通常のECレビューや市場調査とは質が違うという点です。応援購入のサポーターは、まだ世の中にない商品の説明を読み込み、自分の意思でお金を出した人たちです。その人たちが書くコメントは「買ってみたら思っていたのと違った」という受け身の感想ではなく、「なぜこの商品に期待したのか」「どこに惹かれたのか」という、発売前の商品への能動的な声になります。企画者にとって、これほど濃い生活者の生の声はなかなか手に入りません。

取引の場を運営するうちに自然と蓄積されるデータや声。それ自体を商品に育てる展開は、プラットフォームビジネスの定石でもあります。Makuakeは「デビューの場」という市場を定義したうえで、その場から生まれる副産物までを事業に変えつつあるのです。

MakuakeのPDGサイクル——企画・デビュー・拡販を一気通貫で支援する共創循環プラットフォームとサポーターの能動的購買データ活用戦略

サービスを何と呼ぶかで、市場の広さが決まる

Makuakeの事例が新人マーケターに教えてくれるのは、「自分たちのサービスを何と呼ぶかで、市場の広さが決まる」という視点です。

機能はほとんど同じでも、「クラウドファンディング」と名乗れば顧客は資金調達に困る人に狭まり、「新商品のデビューの場」と名乗れば新商品を出すすべての企業に広がる。Makuakeが証明したのは、市場の境界線は技術や機能ではなく、言葉の定義によって引かれているという事実です

あなたの扱う商品やサービスにも、同じ問いを向けてみてください。今の呼び名は、顧客の範囲を不必要に狭めていないでしょうか。言い換えによって、まったく別の顧客層から見える存在になれないでしょうか。

そしてもうひとつ。日々の取引から生まれている副産物、たとえば顧客の声・問い合わせ・購買データを、ただの記録として眠らせていないでしょうか。Makuakeにとっての応援コメントのように、副産物は磨けば第二の資産になります。呼び方を変えて市場を広げ、副産物を資産に変える。後発から代名詞へ駆け上がった会社の設計は、この2つの問いに集約されています。

サービスの呼び名が市場の広さを決める——Makuakeが後発から応援購入の代名詞へ駆け上がった言葉の再定義と副産物の資産化戦略

 

【本記事のまとめ】

1. 「クラウドファンディング」という言葉を捨てたリポジショニングが、顧客の範囲を変えた
2019年の上場を機に「応援購入」という言葉と「0次流通(一般販売前の新商品デビュー市場)」という市場定義に切り替えた。寄付・支援のイメージを外したことで、顧客が「資金に困る起業家」から「新商品を出すすべてのメーカーの担当者」に広がった。失敗が許されにくい日本企業の組織風土に「売れてから作る」「先行販売が市場調査になる」という解を差し込み、実行者の約9割が「社内で新商品の企画がしやすくなった」と回答している。

2. デビューの先に伸びるデータのエコシステム。取引の副産物が第二の商品に育つ
手数料収益に加え、新商品トレンドと顧客インサイトを可視化するリサーチサービス「Makuakeインサイト」を展開し、企画(Plan)・デビュー(Debut)・拡販(Growth)を循環させる「PDGサイクル」を打ち出した。発売前の商品に自分の意思でお金を出したサポーターのコメントは、受け身のECレビューとは質の違う能動的な生活者の声であり、それ自体が企業の商品企画の資産になる。

3. サービスを何と呼ぶかで、市場の広さが決まる
市場の境界線は技術や機能ではなく言葉の定義によって引かれている。自社のサービスの呼び名は顧客の範囲を不必要に狭めていないか。日々の取引から生まれる副産物(顧客の声・データ)を眠らせていないか。この2つの問いから始めよう。

よくある質問(FAQ)

「応援購入」と普通のネット通販は何が違うのですか?

最大の違いは「買う対象がまだ一般販売されていない」ことです。通常のECは完成して流通している商品を買う場ですが、応援購入は一般市場に出る前の新商品を、開発の背景やストーリーとともに先行購入する場です。買い手は商品だけでなく「この挑戦を実現させたい」という気持ちにもお金を出しており、この動機の違いが、届くまで待てること・作り手への熱量の高いフィードバック・発売前からのファン化という、通常のECにはない性質を生み出しています。Makuakeはこの違いを「応援購入」という言葉で明確にしました。

言葉を言い換えるだけで、本当に市場は広がるのですか?

言い換え「だけ」では広がりません。Makuakeの場合、「0次流通」という言葉の裏に、全プロジェクトに担当キュレーターが付く支援体制、無在庫の先行販売という仕組み、大手メーカーが安心して使える審査体制といった実態が揃っていました。言い換えの役割は、すでに持っている価値を「別の顧客から見える場所」に置き直すことです。順序としては、まず自社の仕組みが誰の悩みを解決できるかを見極め、その顧客に届く言葉を選ぶ。言葉が先で実態が後では、期待外れとして信頼を失うだけなので注意が必要です。

0次流通のデータは、通常の市場調査と何が違うのですか?

回答者の「本気度」が違います。アンケートやグループインタビューは「買うつもりがない人の意見」が混ざりますが、応援購入のデータは実際にお金を出した人の行動記録です。どんな説明文で購入を決めたか、どの価格帯のリターンが選ばれたか、どんなコメントが寄せられたか。すべてが「財布を開いた生活者」の実データであり、発売前の商品に対してこの質のデータを取れる場は他にほとんどありません。先行販売の結果がそのまま需要予測・価格検証・訴求メッセージの検証になるため、一般販売後の失敗確率を下げる市場調査として機能します。

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【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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