『海炭市叙景』 今更レビュー|勝手に佐藤泰志原作映画祭①
作家・佐藤泰志は芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞が叶わず、1990年に41歳で命を絶った。
だが、没後に著作は再評価の機運が高まり、函館の映画館シネマアイリスが中心となって、何本も映画化を果たすこととなる。
どの作品も完成度が高くダイナミズムが感じられるのは、表現の自由度が多い彼の原作が、監督の作家性を刺激するからか。
佐藤泰志と監督との真剣勝負ともいえる珠玉の作品群を、今更レビューしてみようと思う(このページはAmazonアソシエイトの広告を含みます)。
『海炭市叙景』
公開:2010年 監督:熊切和嘉
時間:152分 製作国:日本
勝手に評点:★★★☆☆3.5

佐藤泰志原作の映画化が本作から始まったことは、その後に作品が続くきっかけになったように思う。けして分かりやすくはなく、取り留めのない短編がいくつも連なって一つの映画として成立している。
舞台は北国にある架空の町・海炭市。ロープウェイや路面電車のある風景から、そこが函館だと誰もが分かっているのに、違う地名が与えられたことで、不思議な感覚が生まれる。
原作は18本の短編で構成され、冬から春が描かれている。その後に夏、秋と書き進む予定だったが、道半ばで途絶えてしまった。年末年始の設定は、寂しいエピソードが多いこの作品に似合う。
監督は、『私の男』の紋別、『658km、陽子の旅』の青森と、寒い舞台でひときわ冴える熊切和嘉、音楽はジム・オルーク。カメラは、本作以降も函館三部作を撮り続ける近藤龍人。
◇
造船所海炭ドックが閉鎖され、大規模な人員削減で仕事を失ってしまうが、大晦日の夜に手持の小銭を集め、初日の出を見に山に登る兄(竹原ピストル)と妹(谷村美月)。

産業道路沿いの地域開発予定地に建つ古い家に住み、市役所勤めの孫(山中崇)の立ち退き要請にも応じず動物たちと暮らす老婆(中里あき)。
派手な格好に厚化粧で夜の仕事に出かけ客と浮気する妻(南果歩)と、それをクルマで尾行し雪道で泣き崩れるプラネタリウム勤務の夫(小林薫)。
旧友(伊藤裕子)と夫との不倫に気づき、夫の連れ子を虐待する妻(東野智美)と、ガスボンベを足の指の上に落とし大けがをする、プロパンガス店社長の夫(加瀬亮)。

仕事のため地元に帰ってきているのに、父親と会おうとしない息子(三浦誠己)と、それを車窓から見つける路面電車のベテラン運転手の父(西堀滋樹)。
◇
ドック閉鎖の不況に喘ぐ海炭市にふさわしい、暗鬱な日常風景。独立しているエピソードが終盤にほんの少し重なり合う。
ベテラン運転手の路面電車に、プラネタリウムの夫妻、その脇にはガス会社の社長父子が座っている。電車が通り過ぎた道路には、ロープウェイで山頂に向かう兄妹の姿。みんな、この町で大晦日の時間を共有しているのだ。
寂しい者同士のほのかな優しさ。だが佐藤泰志の視点は常に冷徹だ。金欠から妹だけをロープウェイで下山させた兄、その遺体発見のニュースが流れる。思いつめての確信犯か、ただの事故死か。
それでも、人は前を向いていて生きていく。婆さんのもとには、いなくなった猫が懐妊して戻ってくる。海炭市に、新たな生命が生まれようとしている。
①『海炭市叙景』(2010)
②『そこのみにて光輝く』(2014)
③『オーバー・フェンス』(2016)
④『きみの鳥はうたえる』(2018)
⑤『草の響き』(2021)
⑥『夜、鳥たちが啼く』(2022)
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