『きみの鳥はうたえる』 今更レビュー|勝手に佐藤泰志原作映画祭④
作家・佐藤泰志は芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞が叶わず、1990年に41歳で命を絶った。
だが、没後に著作は再評価の機運が高まり、函館の映画館シネマアイリスが中心となって、何本も映画化を果たすこととなる。
どの作品も完成度が高くダイナミズムが感じられるのは、表現の自由度が多い彼の原作が、監督の作家性を刺激するからか。
佐藤泰志と監督との真剣勝負ともいえる珠玉の作品群を、今更レビューしてみようと思う(このページはAmazonアソシエイトの広告を含みます)
『きみの鳥はうたえる』
公開:2018年 監督:三宅唱
時間:106分 製作国:日本
勝手に評点:★★★☆☆3.0

原作では東京の武蔵野・国立が舞台だが、映画では函館に置き換えられているとは思えないほど馴染んでいる。
流されながら自堕落に生きる<僕>(柄本佑)と、共同生活をしている失業中の静雄(染谷将太)、バイト先で知り合った佐知子(石橋静河)のひと夏の青春グラフィティ。
<僕>は、バイト先の書店の店長(萩原聖人)が従業員の女性と二人で帰るところに鉢合わせし、すれ違いざま彼女に肘を触られた気がして、しばらく秒読みしながらその場で立ち尽くす。
やがて彼女が颯爽と戻ってきて「よかった、心が通じたね」と微笑む。石橋静河の低い声が色っぽい。

二人はすぐに、貪るように唇を求めあう仲になる。裸で抱き合っている部屋に帰ってきた静雄は、気を回してそのまま外出する。
静雄は気の優しい、いいヤツなのだ。青山真治監督の『東京公園』でも染谷将太はこんな役だった。
男二人がコンビニで彼女にいろいろ買ってもらったり(ご当地名物ハセガワストア)、ビヨ~ンと口琴を鳴らしたり、ビリヤードや卓球に興じたり。
函館ロケで長い時間を一緒に過ごしたことで、自然体の楽しさがにじみ出ている。
タイトルはビートルズの『And Your Bird Can Sing』に由来する。原作には、静雄がこの曲を歌ったという記述があるが、映画では特に語られない。
三宅唱監督は音楽制作のドキュメンタリー『THE COCKPIT』で出会ったSIMI LABのHi’SpecとOMSBを本作でも音楽やラップに起用、これが見事に決まっている。
クラブのシーンは、一緒に小バコの中で音楽を浴びているようなグルーヴ感だ。カラオケで佐知子が歌うハナレグミの『オリビアを聴きながら』もいい感じ。
だが、やがて夏は終わり、佐知子の気持ちが、不誠実な<僕>から、優しい静雄に移っていく。

静雄と付き合うことに決めたと佐知子に宣言された<僕>は、出会った時のように路上で秒読みを始める。だが、今度は彼女は戻ってこない。
<僕>は全力疾走で追いかけ、「本当にあいつと付き合うのかよ」と迫る。困った佐知子が、何かを言おうとした瞬間に、映画は終わる。
最後の解釈は観客丸投げ。それでいいのか。原作を読んで愕然とする。ラスト、全然違うじゃん。
映画では静雄の母(渡辺真起子)は入院するだけだが、原作は、精神病院に入った母の姿に動揺した静雄が、母を絞殺し、逮捕されたところで終わるのだ。
ここまで描いてこその佐藤泰志らしさだろうに。
①『海炭市叙景』(2010)
②『そこのみにて光輝く』(2014)
③『オーバー・フェンス』(2016)
④『きみの鳥はうたえる』(2018)
⑤『草の響き』(2021)
⑥『夜、鳥たちが啼く』(2022)
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