『オーバー・フェンス』 今更レビュー|勝手に佐藤泰志原作映画祭③
作家・佐藤泰志は芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞が叶わず、1990年に41歳で命を絶った。
だが、没後に著作は再評価の機運が高まり、函館の映画館シネマアイリスが中心となって、何本も映画化を果たすこととなる。
どの作品も完成度が高くダイナミズムが感じられるのは、表現の自由度が多い彼の原作が、監督の作家性を刺激するからか。
佐藤泰志と監督との真剣勝負ともいえる珠玉の作品群を、今更レビューしてみようと思う(このページはAmazonアソシエイトの広告を含みます)
『オーバー・フェンス』
公開:2016 年 監督:山下敦弘
時間:112分 製作国:日本
勝手に評点:★★★☆☆3.5

口やかましい指導の教官(中野英樹)の下で大工仕事を学ぶ、白岩(オダギリジョー)をはじめ、年齢も経歴も様々な男たち。一見すると塀の中の懲りない面々のようだが、ここは函館の職業技術訓練校。
白岩は東京でリストラに遭い帰省し、失業保険の受給期間延長のため訓練校にきた。幼い娘を連れて実家に戻った妻(優香)とは実質関係が破綻しており、自信を喪失している。
◇
白岩を兄のように慕う代島(松田翔太)は、友人からキャバクラの経営を任される話を打診され、意識はすでに若き経営者。
原(北村有起哉)は極道から足を洗って、整備工を目指している。一番の常識人だが、シャツの下には魚の彫りもの。
いじめっ子的な若者が島田(松澤匠)。はみ出し者の森(満島真之介)はその島田や教官にいじられ続け、最後には爆発する。
高齢で孫もおり、趣味で学校に通っている勝間田。演じる鈴木常吉はセメントミキサーズのボーカル、『深夜食堂』の渋い主題歌の歌い手だ。
ここまでが訓練校仲間。
◇
ホステスのさとしは、ダチョウやハクチョウの求愛ポーズを鳴きまね付きで街中で披露。一瞬唖然とするが、クラシックバレエ素養のある蒼井優の求愛ダンスは『花とアリス』を思い出させる優雅さ。

白岩の乗る自転車は坂道や路面電車と相性よく、函館の爽やかな夏を引き立てる。さとしの求愛ダンスとともに原作にはない映画的なアレンジが、作品に独特の生命力を吹き込んでいる。
◇
さとしは白岩が気になるものの、指に光る結婚指輪や妻と別れた経緯等に不安を募らせて、精神的に追い詰められていく。
部屋に戻れば全裸でキッチンの水で身を拭き清めないと、体が腐ってしまう強迫観念。白岩を激詰めし、神経を高ぶらせる。
白岩は妻から指輪を返され、娘にも会えない。そこに未練は残るが、さとしとの新しい恋愛が始まる予感はある。
情緒不安定なさとしの言動はいつも過激だ。
自室の窓ガラスは物投げて割るわ、バイト先の遊園地で回転アトラクションに客の子供置き去りにするわ、動物園の小動物や猛禽類をみんな解放してしまうわ。
彼女についていけるかで作品の好き嫌いは分かれるだろうな。
なお、佐藤泰志の原作短編は、「黄金の服」に所収。
ラストは訓練校内の対抗試合、チャンスで白岩に打順が巡ってくる。
僕はさとしを理解できなかったけど、ソフトボールの試合で観客席から白岩を見つけ、求愛ダンスではしゃぐ蒼井優の笑顔には、やられてしまった。
白岩は豪快にスウィングする。オーバー・フェンス。迷いをふっ切るように、何とも気持ちの良い終わり方だった。
①『海炭市叙景』(2010)
②『そこのみにて光輝く』(2014)
③『オーバー・フェンス』(2016)
④『きみの鳥はうたえる』(2018)
⑤『草の響き』(2021)
⑥『夜、鳥たちが啼く』(2022)
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