見出し画像

100点まで抱え込んでいた社福経理20年が、60点で相談すると決めた3つの理由

社会福祉法人で会計とICTを20年やってきた経理実務家です。

先日、提出期限が近い資料のことで「まだ半分しか揃っていないんですけど、この状態で出していいものですか」と聞かれました。私は「今すぐ、その半分の状態のまま相談してください」と答えました。答えながら、10年前の自分なら真逆のことを言っただろうな、と思いました。中途半端なものを出したら怒られる、揃えてから出すのが誠意だ、と本気で思っていたからです。

今日は、行政への提出物を「100点になるまで手元に置く」のをやめて「60点で先に相談する」に切り替えた話を書きます。例に出すのは監査が多くなりますが、実績報告でも予算のやりとりでも、私は同じようにしています。


私の結論

先に結論を書きます。

提出物は、100点で遅れるより、60点で早く相談したほうが、最後に手元に残るものが良くなります。

これは「雑でいい」という話ではなく、完成させる場所を変える話です。手元でひとりで完成させにいくのか、周りと一緒に完成させにいくのか。私は後者に切り替えました。

そもそも監査資料を私ひとりで作っているわけではありません。現場から上がってくるものがあり、他部署に依頼するものがあり、外に照会して待つものがある。監査対応は私の宿題ではなくプロジェクトで、全部を100点で握ろうとすると、止まるのは私のところだけではありませんでした。

きっかけは、期限を過ぎてから「すみません、まだできていません」と電話した日です。しかも私は、その前の一週間ずっと、間に合わないと分かっていました。分かっていて、黙って抱えていた。いちばん心証の悪い形でした。

なぜ60点で出すほうがいいと考えるようになったか、理由を3つ書きます。

理由①:抱えている期間が、いちばん重い

ひとつ目は、自分の消耗の話です。

「揃っていない資料を抱えている」という状態は、作業の負荷とは別物のしんどさがあると感じます。手を動かしている時間より、動かしていない時間のほうが重い。夜に思い出す、朝いちばんに思い出す。実際にかかる作業時間は半日なのに、一週間ぶん消耗していることがあります。

先に相談すると、この重さがほぼ消えます。事情を伝えた瞬間から、それは私ひとりの隠しごとではなく、相手と共有された段取りに変わるからです。作業はまだ残っているのに、体感はまったく違います。

若い頃の私は、これを自分の心配性のせいだと思っていました。今は違って、単に情報の持ち方の問題だったと思っています。ひとりで持っている情報は重く、共有した情報は軽い。それだけのことでした。

抱える前に、準備そのものを軽くしておく方法は、こちらに書きました。

理由②:黙っている間、相手の段取りも止まっている

ふたつ目は、相手側の事情です。

こちらが手元で粘っているとき、相手には「そのうち出てくるはず」という前提だけが置かれています。行政の担当者も監査に来る方も、こちらの分だけを見ているわけではなく、自分の内部の締切に合わせて段取りを組んでいます。

つまり、こちらが黙っている一週間は、相手が予定を組み替えられない一週間でもあります。相手にとって最悪なのは、粗い資料が早く来ることではなく、何も来ないまま期限が来ることだと思います。

これは監査に限りません。実績報告で数字が固まらないときも、予算の照会で法人としての方針がまだ決まっていないときも、私は同じ聞き方をします。決まっていないことを、決まっていないまま伝える。そのほうが、相手も「では確定したら」と段取りを返してくれます。

実際に「この数字は今の段階だと精度が6割くらいですが、それでも出していいですか」と聞くと、その粒度で構いません、あとで差し替えてください、と返ってくることがほとんどです。相手を試験官だと思っていた頃の私は、この一本の電話を弱みを見せる行為だと勘違いしていました。実際には、段取りの共有でしかありません。

行政を監視役ではなく相談先として見るようになった経緯は、こちらに書きました。

理由③:60点を見せると、残りの40点の中身が変わる

みっつ目は、成果物そのものの質の話です。これがいちばん実務的だと思っています。

手元で100点まで作り込んでから出すと、方向がずれていたときの傷が深くなります。私が丁寧に埋めた欄が、相手にとってはどうでもよかった。逆に、こちらが軽く流した一行が、いちばん確認したい論点だった。時間をかけたぶんだけ、作り直しの抵抗も強くなります。

60点の段階で見せると、相手が最初に指をさす場所が分かります。ここはこの粒度で足りる、ここはもっと細かく、この資料はそもそも不要でした。残りの40点をどこに使えばいいかが、こちらの推測ではなく相手の言葉で決まります。

私の経験では、100点のつもりで出した資料より、60点で相談して形を直してから出した資料のほうが、結果的に指摘が少なかったです。ひとりで完成度を上げる作業は、途中から自己満足との区別がつきにくくなるのだと思います。

番外:100点を求めて、現場と気まずくなった話

ここまでは行政に対しての話ですが、私が本当にこたえたのは、身内に対して同じことをやってしまったときでした。

監査で聞かれそうなところが気になって、現場から上がってきた資料に細かい直しを戻し続けたことがあります。書き方の統一、数え方の根拠、余白の説明。ひとつずつは正しい指摘のつもりでした。ただ、何度か往復したあたりで空気が変わり、それ以降、上がってくるものは頼んだ最低限になりました。「これでいいですか」と相談されることも減りました。

私が上げていたのは資料の精度で、下げていたのは現場の当事者意識だったのだと思います。監査資料は現場の仕事の写しですから、書いた人が引いてしまった時点で、書式を整えても中身は痩せます。監査本番で「これはどういう数え方ですか」と聞かれたときに、現場の言葉で答えられる人がいなくなるのがいちばん怖い。

いまは、現場に戻す指摘を「監査で説明できなくなるところ」に絞っています。それ以外の粗さは、目を通したうえで、こちらで直すか、直さずに出します。私の完成度より、チームが最後まで走れるかのほうが先だと考えるようになりました。

そのために、誰の担当で、いまどの状態かが一覧で見えているようにしています。「期限相談中」という状態を用意しているのもここです。実物は、こちらに置いています。

60点で出すときに、私が守っている3つの線

もちろん、いい加減な資料でいい、という話ではありません。60点で出すぶん、こちらで守っている線が3つあります。

ひとつ目、確定値は60点で出さない。金額が確定した申告や請求、いったん出すと差し替えの手続きが重いもの。差し替え前提で受け取ってもらえる資料と、出した時点で効力を持つ書類は、まったく別物です。前者は早く見せたほうがよく、後者は精度が命になります。

ふたつ目、目は通してから出す。60点で出すのは中身の精度の話であって、見ずに渡すという意味ではありません。誰が作った資料でも、出す前に自分の目で一度通す。ここは変えていません。

みっつ目、「今どこが60点なのか」を必ず添える。どの数字が仮で、いつ確定するのか。これを言わずに粗い資料だけ渡すのは、相談ではなく丸投げになってしまいます。私が言うのは、いつもだいたい同じです。この欄は仮置きです、確定は来週です、その時点で差し替えます。この三文があるかないかで、受け取られ方が変わります。

相手が行政でも身内でも、抱えている間が重いのは同じでした。休みに入る同僚に遠慮して、支払いの書類を手元で止めていた話です。

おわりに

100点で遅れるか、60点で早く相談するか。20年やってきて、私は後者を選ぶようになりました。仕事が雑になったかというと、そんな実感はありません。むしろ、完成に向かうスピードは上がりましたし、現場から「これでいいですか」と相談が戻ってくるようになりました。

抱えている時間には、価値がほとんど生まれていません。私がひとりで悩んでいた一週間は、誰の役にも立っていませんでした。

「間に合わないかもしれない」と気づいた日が、いちばん早く相談できる日です。次にその日が来たら、その場で電話を取ろうと思っています。皆さんは、提出物が揃わないと分かった時点で、どうしていますか。よければコメントで教えてください。また書きます。

無料のExcelテンプレも置いています

社福経理の現場で「あったら助かる」と感じたExcelテンプレを、無料で配布しています。

  • 拠点別予実管理表

  • 給付費突合せ管理表

  • 月次決算チェックリスト

  • 給与計算チェックシート

  • 資金収支予算管理表

早めに相談するためには、何がどこまで揃っていないかが自分に見えていることが前提になります。その「見える化」の道具として使ってもらえたらうれしいです。ダウンロードはnoteの記事から直接できます(登録不要)。


いいなと思ったら応援しよう!