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闇 670(ゾク自称俳優編)

闇 670(ゾク自称俳優編)

2026/09/04 fri
※この作品は反骨精神の塊。商業受けなど考えず、人気など気にせず、俺が書きたい事を書いているだけ。最高にロックだ。
前回の章


二千二十四年五月七日中間、火曜日先勝。

新宿警察署を出てから少し歩く。

歩きながら各銀行へ電話を掛けた。
しかし一向にコールだけで出る事はない。

あれ、視界が歪んでいる。

朝から新宿警察署へ行き、刑事とずっと調書を取りながらだったので非常に精神的に疲れて果てていた。

心筋梗塞のカテーテル手術以降、痺れた右脚はずっとそのまま。
肉体的にも精神的にも無理をし過ぎたかもしれないな。
何せ昨日の夜から仕事して、寝ずにここまで動いていたのだから……。

もう五十二歳の身体なのだ。
リングの上で戦っていた若い頃とは違う。

ちょっと休憩しよう。
ガードレールに腰掛ける。
外聞や見栄よりも、自分の心臓と身体を労われ。

心を休めると、一気に暗い気分が襲い掛かってくる。
駄目だ…、誰かヤケ酒に付き合ってくれよ……。

岡部さんに電話をした。

「智一郎、どうしたの?」
「詐欺に遭い、百四十万を失いました……」

「え? 詐欺?」
「今、新宿警察署から出てきたところです」

「そっか……」
「それで岡部さん、良かったらヤケ酒を一緒に飲みたいなと」

「付き合ってやりたいけど、今さ、俺は仕事で横浜なんだよ」

「……。ですよね…。無理言ってしまい、すみませんでした……」

じゃあ坊主さん…、いやゴールデンウイーク明けの平日だぞ?
仕事に決まっている。

とりあえず裕子さんへ電話をしておこう。
詐欺に遭ったと……。

「え、どうしちゃったの、智くん?」

事情を説明したが、先ほど新宿警察署のイガラシ刑事にした事と同じ説明をするようなので、話していると辛くなってしまう。
要約して話し、手短に電話を切った。

「……」

石川雅之は…、一緒だって。

あいつ、横浜だぞ?
きっと忙しいよ。

電話を掛けるも留守番電話に切り替わる。

斉藤弘一…、馬鹿だな……。

何年前に亡くなっているんだって……。

代わりに山下哲也に…、馬鹿かって!
あんな屑に電話したところでどうする?
もう縁を切ったはずだろ。
こんな事ぐらいで、自身の矜持を曲げるなよ。

あ、篠ヤンだったら平日休みかも……。

最近の同級生じゃ、一番仲良くしているもんな。
彼だったら、ひょっとして。

「あ、篠ヤン?」
「岩ヤン、どうしたのよ?」

「実は詐欺に遭っちゃってさ……」
「はあ? いくら?」

「ひゃ、百五十万」
「うわー! ヤバい金額じゃん。どうすんの?」

「一応新宿警察署には行ってきた」
「で?」

「多分金は駄目だろうと」
「だよね……」

「それで良かったら、ヤケ酒付き合ってくれないかなあなんてさ……」
「付き合ってやりたいけど、俺、これから仕事向かうところなんだよ。ごめんよ」

「いやいや、俺のほうこそつまらない電話しちゃってごめんね」
「岩ヤン!」

「ん?」
「また飲もうな!」

「あ、ありがと……」

馬鹿、泣くなよ。
天下の往来で大の男が簡単に涙を流すなって。

ゴールデンウイーク明けの平日の昼間じゃ、誰も酒を飲むなんて無理だよね……。

セブンスターに火をつける。
タクシーでも拾うか。

馬鹿タレ!
自分のミスで金を失って、この期に及んでまだ贅沢を考えるのかよ?
歩け!
俺のようなドジで屑は、自分の足で歩いて帰れ。

しかし何でこんな遠くに新宿警察署はあるの?
歩けない距離じゃないけどさ、ギリギリ人の心を潰す長さじゃねえか。

新宿駅が見えてきた。
電車で帰ろう……。

馬鹿、俺のような馬鹿は、反省も含めて歩いて大久保まで帰れ。
たった一駅なんだから。

何でこんな様々な考えが脳みそに出てくるんだよ?
ジキルとハイドモードは、自称俳優だけでたくさんだろ?

あー、酒飲みてえよ。
でも、一人で店に入るのは嫌だ。

とてつもなく辛い。
何て表現したらいいのか分からない辛さ。

小滝橋通りをトボトボ歩く。
ひたすらゆっくり歩いた。

銀だこ?
いいねえ、たこ焼き。
食べたいよ。

でもさ、一人じゃ絶対入らねえ!

道端へしゃがみ込み、セブンスターに火をつける。
今回はさすがにダメージデカ過ぎだ……。

五十歳になってコロナワクチン打った翌日心筋梗塞なって。
馬鹿な俺はそんな事も知らず、我慢していたら一週間後に二度目の心筋梗塞で死に掛けて……。

九死に一生を得たと思ったら、山下哲也が快気祝いをしたいと呼び出され、毎回俺が何故か驕り、金まで貸す始末。
八回会って、六回貸した。
しかもご馳走した翌日「ご馳走様でした」も無し。
人間的に嫌いじゃなかったけど、あいつと一緒にいたら駄目になると感じた。
だから縁を切ったのだ。

確かに山ゴネスに連絡を入れれば、すぐにでも来そうだ。
しかしそんな事はしてはいけない。

俺は俺である為に…、あの馬鹿と会うぐらいなら一人で孤独に過ごそう。

「……」

最近餃子専門店増えたね。
美味しそうだね。
食べたいけどさ…、一人で入ってもおかしくない店だけど…、今日だけは嫌だ!

職安通りに差し掛かる。
真っ直ぐ行けば、大久保駅南口の飲み屋街。

歩きながら昼から経営している飲み屋もあり、挫けそうになる。

あ、大明飯店!
あそこなら俺一人で入ってもいい。
おじいちゃんとおばあちゃんが温かく迎え入れてくれるはず。

ちょっと足取りが軽くなってきたぞ?
思えば河本マンションから、自称俳優マンションの引越しコンボで、すっかり足も遠のいてしまった。

まだ二時だし、ギリギリランチタイムはやっているはず。

カレーライス食べて、餃子頼んで、よし、味噌おでんも頼んじゃおう。
それからカボスサワー…、これはあまり美味しくなかったからいつものお茶ハイ?
うん、グレンリベットだけがお酒じゃないさ。
今の負け犬全開の俺のような人間は、薄い焼酎でも飲んでりゃいい。

飲み屋通りを闊歩する。
そこのけそこのけ岩上智一郎が通るぞ。

大久保駅南口の小さなガード下を潜り、さらに道沿いに真っ直ぐ進む。
もうちょっとで大明飯店、るるんぶ。

とてもじゃないが、今日だけは自分の作った料理なんて食いたかないね。
豚肉の細切り味噌炒めもいっちゃおうか?
シンプルに麻婆豆腐も捨てがたい。

「ガビーン……」

楳図かずおの『まことちゃん』のような声が出た。
まだゴールデンウイークで連休中?
そんなバナナ……。

その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

ちょっとヤバいぞ?
ヒットポイントが現在三ポイントまで激変している。

ホイミもケアルも戦士には使えない。
どうすんだよ?
何でまだ開いてねえんだよ?

うわー、ヤケ酒飲みてえよー……。

「……」

こんな時でも絶対暇をしている人間を俺は一人だけ知っている。

「……」

でも、嫌だなあ…、それでも一人で酒など飲みたくない……。

もう一人では堪えられない。
禁断の果実…、いや、褒め過ぎ。
禁断の屑を誘うしか道はなかったのかよ……。

俺は若菜龍平へLINE電話を掛けた。

「どうしました、岩上さん」

「実は詐欺に遭いまして……」
「詐欺? え、詐欺って?」

「まあ詳しくは後で言いますよ。ただ、今新宿警察署から出てきたんですけど、ヤケ酒飲みたいなと。若菜さん、時間あったりします?」
「ええ、自分は大丈夫ですよ! ただ、ちょっと持ち合わせが……」

「……」

そうだ、コイツ無職で万年日照り状態じゃないかよ。
百四十万被害に遭ったばかりで、コイツに驕るの嫌だなあ……。

でも声を掛けたのは俺のほう。
どうする?
考えろ?

絶対にコイツには酒をご馳走したくない。
あの時一緒に飲んだ時の中華苑での本当に嫌だったひと時。

去年だっけ?
あの時は今思い出してもイライラしてくるわ。

中華苑に入ると、店のおばさんから「お兄さん、あと三十分で閉店なの」と言われたが、そこまで時間取らせないのでと説明し、先に料理も酒も頼む。
「何ならお金も先に会計してもいいですからね」
そう言うと、おばさんも笑顔で了承してくれた。
遅れてきた自称俳優。
「あ、とりあえずここ三十分で閉店ですので、俺が適当に酒と料理注文してしまいましたからね。若菜さん、ハイボールでいいんですよね?」
「あ、ありがとうございます」
まるで料理に手をつけようとしないので、とりあえず割り勘になるだろうから勧める事にした。
「若菜さん、料理適当に頼みましたけど、つまんで下さいよ」
「ゴチになります」
「……」
え、この人、俺をいきなり呼び出しておいて、はなっからご馳走になる気満々なのか?
じゃないとそんな言葉出ないよな?
ハイボールを一気に飲み干すと、大きな音を立ててテーブルに置く。
店のおばさんが来ないと、不機嫌そうに「お代わり!」と龍平はぶっきらぼうに言った。
何とか入れてもらったのに、何でこの人ここまで偉そうな態度できるんだろう?
普通にお願いすればいいのに。
「今日はですね? いい話というのはあのマンションに岩上さんみたいな人に入ってもらったほうが、うちとしても心強いと」
「……。別にもう俺は現役の格闘家でも何でもない五十を過ぎた男に過ぎませんよ」
「いえいえ、そこでですね? 自分がうちの不動産を説得して、家賃交渉をしているところなんですよ」
「……」
この人、具体的な金額も決まっていないのに、俺を呼び出したのか?
こっちは仕事終わりで疲れているのに。
「まあもう少し時間は掛かりますが、できる限り家賃は抑えるよう説得していますんで、大船に乗ったつもりで待っていて下さい」
「いや…、他の不動産にも物件探してもらっているところなんですよ」
「でも、うちのマンションの家賃が下がれば、岩上さんもそのほうがいいじゃないですか。早いところ河本のところを出たいんですよね?」
「ええ、それはそうですね」
確かに現実問題で考えると、河本マンションは俺にとって有害な毒なだけ。
何故タウンハウジングのマーが間に入っただけで、光熱費がいきなり半額になるのか?
あの胡散臭さを比べたら、斜め向かいにある龍平のマンションへ引っ越して、実際の光熱費を比べてみたい気持ちはあった。
荷物を運ぶ時も近くだから楽。
利便性や状況を考えると、そう龍平の提案も悪くないような気がしてくる。
再びグラスを叩きつけるように置き、お代わりを促す龍平。
中華苑のおばさんが「もう閉店時間なので」と言うので、とりあえず追加の一杯分も入れた会計を頼んだ。
ずっと饒舌に喋り続ける自称俳優。
彼の口から関ヶ原や龍が如くの名前は何度も出てくるが、進撃の女人や高校教授の事は一つも出てこない。
正直元々芸能界に興味無い為、どうでもいい話題ばかり。
しまいにはゴミ外人、ゴミ政治家、ゴミケバブ屋と、またいつもの調子で同じ事を話し出す。
「若菜さん、もうそれは何度も聞いていますんで……」
「あ、すみません。うちは元々先祖を辿ると、岩倉具視の系列に当たるみたいでしてね」
「え? 岩倉具視って旧五百円札の人じゃないですか!」
「何でもそう言われた事があります」
ちょっとおかしくないか?
岩倉具視は幕末から明治時代初期にかけて活躍した公家出身の政治家。
京都で生まれ、下級公家である岩倉家の養子となり、維新の十傑の一人に数えられている。
そもそも岩倉具視が大久保の土地と関係あったか?
薩摩藩出身の大久保利通という歴史的なイメージが非常に強いから、何か勘違いしているんじゃないの?
血統の良さをアピールしたいと思うが、少しこの人浅はかだろ……。
そろそろ出ないともう三十分過ぎている。
それは龍平だって分かっているはずなのに、一向につまらない話が止まらない。
俺は立ちながら早く出ようと促すが、構わず龍平は気持ち良さそうに話を続ける。
そんなゴミ外人とかどうでもいい話題はいいって。
早く出ないと迷惑だろ……。
おばさんが泣きそうな顔で近付いてくる。
「お客さん! 私、帰る電車無くなっちゃう!」
「あ、すみません。本当に申し訳なかったです。すぐ出ますから」
それでも席を立とうとしない龍平。
コイツ、頭に蛆虫でも湧いているのか?
金も払っていないくせに、何故そこまで偉そうにふんぞり返れる?
自称俳優はおばさんを一瞥したあと、タバコに火をつけながら口を開く。
「それはあなたの都合でしょ?」
さすがに俺は彼の腕を掴み、強引に店から連れ出した。
話が通じない相手に何を言っても無駄。
始めから強制的に連れ出せばよかったのだ。
出る際、俺は何度も頭を下げ、非礼を詫びる。
おばさんは視線すら合わせてくれない。
当たり前だよな……。
外へ出ると「ゴチになります」と笑顔で頭を下げる龍平。
何かこの人、本当に嫌だ。
人間性がおかし過ぎる。
黙って河本マンションまで歩くと、まだ呼び止めてどうでもいい話をしてきた。
「あの、若菜さん…、俺、明日は朝から心筋梗塞の定期健診で病院へ行くようなんですよ。悪いけどもう帰ります」
「あ、忙しいところ呼び止めてしまってすみません。今日はご馳走様でした。不動産の件、もう少し待って下さいね」
俺は返事もせず、部屋へ向かう。

「あー、ムカつくわー」

思わず出てしまう独り言。
龍平を連れて行くのは、知り合いじゃない店でも、一緒に行くのは絶対に嫌だ!

「岩上さん? どうしました?」
「あ、すみません。出先で電波悪かったみたいです」

あ、そうか。
部屋で安い焼酎でも飲ませればいいか。

「じゃあ若菜さん、俺の部屋で飲みますか?」
「いいですね!」

「まだ警察署出て間もないんで、大久保駅に着いたら連絡入れますよ」

通話終了。
げ、あんな屑と二分も時間を無駄にしてしまったのかよ。

『通話時間 1:56 岩上14:32』

さて、同じ道をUターンするのも嫌だな。
俺は古巣アスクルームの前の道を通り、新大久保駅前に出る。
あとは真っ直ぐ大久保通りを歩けば北口到着だけど…、何で俺は龍平などに声を掛けてしまったんだ?
あの男、尋常じゃないヤバさの持ち主なんだよ?
俺って馬鹿なの?
うん、馬鹿だ。
だから百四十万詐欺に遭うんだよ。

自問自答がここまで自身の心をエグるとは思いもしなかった……。

駄目だ。
立っていられない。
ちょっと休もう。

あー、龍平と会うの嫌だ。
顔を見るのも嫌だ。
何故俺はあの屑に声を…、おい、堂々巡りじゃないか。

サッと飲ませて、サッと帰らせる。

おい、イガラシ刑事にも言ったじゃないか。
詐欺師の証拠を警視庁メールに送ると。
しっかりせいよ。

『北口到着しました。 岩上14:39』

俺が連絡してんだから、とっとと返せよボケナスが。

『一度部屋に戻りますね。 岩上14:39』

『了解です。 若菜龍平14:39』

了解ですじゃねえよ、屑野郎。
まずは情報を整理して、若香のパスポートに、LINE履歴、それとグループLINEの叔父を含めたトーク履歴。
これらを添付して、警視庁宛てに証拠のメールを送る。

2024/05/07 自称俳優マンション 岩上智一郎Gmail警視庁アドレスへ送信14:46

あ、馬鹿の存在すっかり忘れていたよ。
仕方ない。
連絡してやるとするか。

『若奈さんの都合で部屋までどうぞ。 岩上14:47』

『今行きます。 若菜龍平14:47』

2024/05/07 LINE 若菜龍平

ローストビーフのサラダ、そしてクラッカーにクリームチーズを塗り、簡易的なつまみを作る。

※ここで一瞬だけ現在に戻ります。

駄目だ…、先に結果を言ってしまおう……。

俺はぶっちゃけると詐欺に遭った事よりも、このあと起こった事のほうがよっぽど疲れたよ!
「詐欺で百四十万の被害に遭い、今新宿警察署を出たところなんですが、酒飲みたい気分なんで良かったら来ませんか?」なんて、何故俺はあの屑俳優に電話などした?
今思えばこの時の自分を俺は呪う。
本当にもっとね、人間見る目養えよ、ボケ!
だから詐欺とか変な奴とかばかり、色々寄ってくるんだよ!
そう、自身を罵倒したくなる。

※回想シーン終わり。

若菜龍平が俺の部屋へ到着。

お邪魔しまーす

案の定手ぶら。
コイツは相手に悪いから何か手土産持ってくるとかそういった気遣いも何もないのかよ……。

あ、無職で金が無いから、タカる事しか頭にないもんな。

「若菜さん、烏龍ハイか、お茶割りだとどっちがいいですか?」

何故かジッとテーブルの上に置いてある俺の愛しのグレンリベットが凝視する自称俳優。

おいおい、その酒はおまえのような下賤な者が飲むような代物じゃないんだよ。
俺がここへ引っ越した時、坊主さんと裕子さんが引っ越し祝いだと送ってくれた思い出の酒だから、まだ封だって切っていない。
あまり見つめるのは辞めろ。

2024/05/07 自称俳優マンション 3F自室

「岩上さん、自分…、ウイスキーがいいんですが」

「……」

内心ゲッと思った。
何を言ってんのコイツ?
タダで酒が飲めるんだから、大人しく焼酎飲んでいろって、屑。

テーブルの上に飾ってあるグレンリベット十二年は坊主さん夫婦からの。
十八年は忌々しい神田の妻となった美恵が、気持ちでくれたものなんだぞ。

岡部さんと別れると、そのまま目白へ向かい神田の家へ行く。
本当なら顔も見たくない神田。
今回だけだと懸命に嫌悪を示す感情を押し殺し、インターホンを押す。
「おう、岩ヤン、上がりなよ。美恵が渡したいものがあるって」
祝儀の一件など何一つ悪びれる素振りのない様子。
何も期待するなって、この男はこういう性格だろ。
作り笑顔をしながら靴を脱ぐ。
これまで悪意がないから質が悪いと思っていた神田。
ところが悪意満載なのだ。
祝儀を人によって振り分けたり、彼女の舞台公演の際、俺だけ入場料を徴収したりと……。
柴犬パンがおしっこを垂らしながら、俺の周りを駆け回る。
ポンポンと頭を撫でながら、この子の相手をするのも今宵で最後かと思う。
「岩上さん、本当に披露宴ではあのような金額を包んで頂き、ありがとうございまいました」
深々と頭を下げる美恵。
そこには舞台女優としての驕りも何もなく、一女性としての深い感謝が見える。
「地元の…、ほら、年末餅を買った先輩のところで、草餅や饅頭、あと餅も貰ってきたから美恵ちゃん食べるでしょ? これ、全部どうぞ」
驚嘆の声をあげながら喜ぶ美恵。
隣りで神田は「俺の同級生は大したものだろ」と得意がっている。
死ね、小悪党神田。
美恵は包み紙を取り出し、俺の前へ差し出す。
「岩上さん…、こんなものしか用意できなかったんですけど、引き出物だけでなく、良かったらうちのから聞いていたお好きなお酒を貰って下さい」
俺の大好きなスコッチウイスキー、グレンリベット十二年ではなく…、一つ上のグレードの十八年。
皮肉なものだ。
また因縁の別れの前に、こうして十八年ものをもらうとは……。
前回は俺が自己犠牲呪文メガンテを唱えるべくして成敗した店長の橋本からもらったもの。
今回は神田をこれより切る前に、奥さんの美恵からのグレンリベット十八年。
「ありがとね、美恵ちゃん。有難く頂戴します」
気遣いのできるいい嫁を貰えたな、神田。
だが、俺が好きなのはあくまでもグレンリベット十二年。
高ければいいってもんじゃねえんだぜ……。
もういいじゃないか。
俺は十万をあげた。
美恵はそれを粋に感じ、お礼をしてくれた。
神田は猪口才な小細工を嫁にまで黙っていた。
これだけの事なのだ。
何故こんな男と結婚した?
その疑問について答えは簡単である。
神田の持つ資産…、つまり金銭的な目的が第一だろう。
でも、こうして俺に気遣いの心を見せてくれた美恵まで悪く思いたくない。
「岩ヤン、二次会の前、平沼さんや遠藤さんとかのコーヒー代まで全部出してくれたんだろ? あとから聞いてさ。お礼言っといてくれと言われてね」
「目出度い席の話だろ。もう過ぎた事だ。気にしないでいい」
「そうか、悪いな岩ヤン」
だが、俺のお人好しもここまで。
本当にこれでさよならだ、神田。
「じゃあ、美恵ちゃん。申し訳ないけど、明日からまた仕事あるし、俺はこれでおいとまするね、ありがとう」
「何だよ、もう行っちゃうのかよ?」
「ああ、明日仕事あるし」
玄関で靴を履いていると、神田まで靴を履きだす。
「ちょっと神ちゃん! どこ行くの?」
「岩ヤンを駅まで見送りに。軽く一杯くらい引っ掛けるかもしれないけど」
「いやいや、道順は分かるから見送りはいいって。それより新婚なんだ。傍に居てやれよ」
「何だよ、ちょっとぐらい……」
「神ちゃん! あんた、いい加減にしなさいよね」
本当なら言いたい事も文句も山ほどある。
でも、こう静かに去るのがいいのだ。
今後俺の人生とは関わらない男。
これは悪…、あくまでも俺にとってではあるが、それを自分の人生から完全に切り離すだけ。
サイレントビジランテ。
あとは勝手に好きに生きてくれ。
俺はセブンスターに火をつけて、目白駅までの道をゆっくり歩いた。

自称俳優が飲むような代物の酒ではない。

その大切なウイスキーをこの人に飲まれるの、何か嫌だなという気持ちが正直あった。
いつもハイボールか、チューハイしか飲まなかったよな……。

そこで俺は「炭酸水無いんですよ」と遠回しに断りを入れた。

「水道水で構いませんよ」

この野郎…、グレンリベット十二年を水道水で飲むつもりなのか……。

あー、四リットルくらいの安いウイスキー買っておけば良かったよー。
本当に図々しい奴だな。

仕方なく空いている飲み掛けのグレンリベット十二年を相手にも出す。
さすがに水道水という訳にもいかず、ミネラルウォーターも一緒に。

するとタダ酒だからペースの早い事早い事。
あっという間に俺のリベットは空いてしまった。
本当にコイツは図々しい。
ふざけんなよな。

「若菜さん、つまみもせっかく作ったんだから食べて下さいよ」
「あ、ゴチになります」

俺は十八年をストレートで飲みながら、龍平に食べ物を勧めるとガツガツ食べ出した。

2024/05/07 自称俳優マンション 3F自室

「岩上さん、先日の焼きそば…、味は旨いんだけど、味が濃過ぎー!」

はあ?
コイツ、今何て抜かした?
酔っぱらってんのか?

ふざけんなよ、この屑野郎!

ぶっちゃけね、一円だってもらってないんだから、出されたものに文句抜かす黙って食えよと思うほどの殺意を覚えた。

よく作った料理を余らせて捨てるのは嫌だったので、龍平にはあげていた。
アメリカンクラブハウスサンドを作る回数が多いのも、コイツから岩上さんのサンドイッチかなり好評なんですよと遠回しにサンドイッチ作れと何回も催促されたり、まあ俺が食材買い過ぎて処分に困ってあげたりという場合もあったけど。
回数にして二十回はあげている。

出されたおかずを黙って食ってろ。
おまえに選択権なんて、存在しねえんだよ。

「あ、岩上さんすんません。氷もうちょっともらっていいすかね?」

「……」

氷の消費も早いんだよ……。

あーあ…、また沸騰して覚ました水を入れて、氷を作るようだ。
面倒臭いなあ。

「あ!」

俺が氷を整理していると、龍平は勝手に坊主さん夫婦から頂いたグレンリベットの封を開けて飲み出していた。

「あ、ボトル空いちゃったんで、こっちゴチになってます」

「……」

おまえ、本当に殺すぞ、この野郎……。

LINEにメッセージが届いているのに気付く。
若香に、グループLINEで叔父。

「……」

命拾いしたな、龍平。
物事には優先順位がある。

『若香は昼に一眠りした。 目が覚めたばかりです。 朱婧瑶15:02』

若香のメッセージを見てからグループLINEへ入った。


【グループLINE】

『データチームは今日の午後、良い相場取引がないことを知らせた。みんなゆっくり休んでください。相場があるとき、先生はみんなに知らせます。 Zhu Min 15:46』

何抜かしてんだ、この詐欺師。

『はい。叔父。どうもありがとうございます。お疲れ様でした。 朱婧瑶15:47』

おまえもおまえだ。
まあ駄目元で探ってみるか。

「岩上さん、この間ゴミ外人のゴミケバブ屋がですね」
「若菜さん! 悪いけど、ちょっと黙っててくれ!」

「いや、あのゴミ外人が……」
「黙ってろ!」

あー、何でこんな馬鹿を部屋に入れちゃったんだよ。
こんな奴放っておけ、集中しろ。

『すみません、出金の件でサポートがおかしな事を言い出しているんですが……。 岩上16:14』

「でも岩上さん、昨日ゴミ外人が……」
「若菜さん! 今、俺は詐欺師共とやり取りしてんですよ! 少しいいから黙って酒飲んでてくれ」

「あ、す、すみません……」

本当に邪魔ばかりしやがって。

『千七百ドルの現金の通過両替費が掛かるとか言われたんですけど、どういう事なんですか? 岩上16:16』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

『通貨換算費用ですか? Zhu Min 16:17』

何が通貨換算費だよ、しらばっくれやがって。

『出金手続きで、こんな出費するなら、今やっている事すべて意味なくなると思うのですが。 岩上16:17』

『学生の引き出し金額が少ないと、料金の割合が高くなります。私たちの取引はあと数日しか残っていません。取引が終わって稼いだお金が多くなると、両替費の割合が低いです。 Zhu Min 16:18』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

まだ取り戻せるか?

『私たちは安定してたくさんのお金を稼いで、手数料を少し払って出るのも普通です。 Zhu Min 16:20』

最初の出金の時は、そんなものなかっただろうが!

「岩上さん、先日ゴミ外人がですね」
「若菜さん! 今、本当に大事なところだから!」
「あ、すんません」

本当に殺すぞ、この野郎。
いや、もっと殺したい奴が今、目の前にいる。

何でこんな阿鼻叫喚のような図式になってんだよ?

落ち着けって!
コイツらは、俺が詐欺に気付いたと思っていない。
まだ金を取り戻せるかもしれないんだ。
針の穴より小さい希望だけど、望みを捨てるな。

『ですから一度出金してみて、友人も興味を覚えているから入金しようと思っているのに、サポートがおかしな事を言うので混乱しています。 岩上16:20』

深呼吸しろ。
ゆっくり息を吸え。
大きく吐き出せ。
落ち着け、冷静に処理しろ。
まだ終わっていないんだ。

『友達はとても興味がありますか? Zhu Min 16:21』

ほら、食いついてきたぞ。

『あるからこちらも動いているんです。 岩上16:21』

おかしな点を指摘し、サイトからまず金を払わせないと。
言葉遣いは今まで通り丁重に。

『ただ、出金するのに前と全然違った対応されて、私はどうすればいいのですか? 岩上16:22』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

『私の姪はどうしたのですか。どうやってデータを他の人と共有するのですか? Zhu Min 16:22』

何でここで姪が出てくるんだよ?
テメーが俺を色々誘導したんだろ?

『今やっているLBMAの対応を言っています。 岩上16:23』

「岩上さん、タバコ吸わないんすか?」

あー、この屑俳優。
本当にウゼーな。

「ベランダに出れば、灰皿置いてあるから勝手に吸って下さいよ!」

あ、叔父から何か来たぞ。
集中集中……。

『FRBの対外政策の変動により、現在金融に大きな変動が現れている。だから私たちの残りの取引は数日しかありません。お金をたくさん稼いでから、お金を引き出す時に両替する割合は少なくなります。 Zhu Min 16:24』

『イチローさんは何を言っていますか? 「若香」は大体の意味が理解できなかった? 朱婧瑶16:24』

理解しろよ!
サイトの対応を批判してんだろ!

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

若香まで必死だな。
詐欺師陣営大パニック発生。

『ですから出金できないのに、このサイトの取引で数字を増やしたところで意味があるのですか?と言っています。 岩上16:24』

もう無理か。
金は諦めよう。
その代わり、コイツらを死ぬほどビビらせてやる。

「岩上さん、ちょっとこっちいいですか?」
「何ですか! 忙しいって言ってんじゃないですか」

龍平は椅子から立つと、キッチンへ歩いて行く。
人の部屋で何をやってんだよ、コイツ……。

換気扇を勝手につけると、タバコに火をつける龍平。

「……」

おまえ、何をいきなりしてんの?
ヤニで汚れるから、家主の俺でさえ、タバコは絶対にベランダで吸っているんだぞ?

「こうすればここでもタバコ大丈夫ですよ」

龍平はそう言ってニヤリと笑う。

あー、詐欺師から返事来てるだろ、まったく。
馬鹿を放って携帯電話を見る。

『もちろん出金できますよ。出金できなければ、私たちは取引をして何をしますか。どのように言ってもとても混乱しています。 Zhu Min 16:25』

取引して何をする?
詐欺だろ。

『できてないから、今言っています。 岩上16:25』

『先生の頭はあなたに気絶したと言われました。 Zhu Min 16:25』

はあ?
気絶?
馬鹿なのか?

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

意味不明な事抜かしてんじゃねえよ。
メダパニ効いて混乱しているなら、メガンテも食らわせてやるよ!

いや、ちょっと待て、メガンテは違う。
自己犠牲呪文じゃねえか。

落ち着け!
冷静に!
とことん追い込んでやるからな。

「岩上さん、タバコ吸わないんすか?」

龍平がタバコを持ったまま部屋に来る。

「若菜さん! 部屋の中で吸わないで!」
「あ、すんません」

集中させろよ。
あ、メッセージ来た。

『あなたがこの話をすると私は不愉快になります。数字だと言ったら。 なぜ私はこんなに多くの投資をしているのか。そして叔父は苦労してデータを研究しています。こんなことを言う時恥ずかしくないですか? 朱婧瑶16:26』

このブス、よく恥ずかし気もなく口挟んでそんな台詞言えたもんだな。

『学生は今どんな状況に遭遇しましたか? Zhu Min 16:26』

『ここで言わないでください。私たちは単独で言います。 朱婧瑶16:26』

ウゼーな!
とっとと金返せ。

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

いつまで白を切るつもりだ、コイツら?
核心を言え。
ぐうの音が出ないものを。

『出金するのに、どうして二十六万の現金を払わねばならないのか? さすがにおかしいと思います。 岩上16:26』

『問題をはっきり言ってください。オンラインサポートは、なぜ二十六万円を支払うのかと言っていますか。 Zhu Min 16:27』

2024/05/07 偽サイトLQM オンラインサポート履歴

面倒臭いので、LBMAならぬ、偽サイトLQMのオンラインサポートの履歴をそのまま見せる。

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

『分かりません。 岩上16:28』

プライベートで若香からメッセージが届く。



ウザいな、このアマ。
チョロチョロすんな、ブス!

『イチローが言ったのはどういう意味ですか? 朱婧瑶16:27』

『若香さんに言いましたよ、俺は。 岩上16:27』

何なんだ、コイツは?
いつもでもしらばっくれているんじゃねえよ!

『何を言ったの。 朱婧瑶16:28』

ここまで泥仕合をして、初めて気付く。
それでも言え。
まだ望みが……。

クレジットだけ引かれて金が下ろせないとさっきから何度も言ってんだろ、馬鹿。

『事をはっきり言うのか? 朱婧瑶16:28』

『知人が興味を覚えたから、一度出金してみて、それから入金するつもりだと。 岩上16:28』

コイツを説得したところで、もう金は戻ってこないんだろうな……。

『あなたの友達はあなたに興味がありますか、それとも投資に興味がありますか。分かりましたと言ってください。そしてあなたがグループの中で言ったどの言葉はどういう意味ですか。私に疑問を持っているのか叔父に疑問を持っているのか。何か問題があれば直接言います。 朱婧瑶16:30』

『こっちでなく、向こうでまとめて言ってください。 岩上16:31』

あれ、急に黙った。
もう俺が詐欺に気付いていると、みんなでミーティングか?

「岩上さん、この間馬鹿本がですね……」
「若菜さん! 悪いけど、ちょっと今話し掛けないでくれ!」

何でこんな奴らばかりしか近くにいねえんだよ!

おっとグループLINEでも何か叔父が熱弁しているな。
俺は返事をしながら、プライベートの若香へ攻撃する。

もういいや…、この状況じゃ、金は無理……。

『ひょっとして、若香さん、俺を騙したんですか? 岩上16:51』

2024/05/07 LINE 若香

さあ、何て答える?
どう見苦しい言い訳をする?

『私はあなたをだましてあなたとビデオを撮ります。自分のパスポートを見せます。あなたがこのような考えなら。叔父に言いました。後の取引はあなたは参加しません。一度に二度も私を寒さにさせた。あなたは本当にひどいです。 朱婧瑶16:54』

ビデオを撮る?
若香のパスポート提示?
偽物を見せてどうする?
本当に馬鹿だな、コイツ。

そんなのいいからとっとと金返せ。
さっきからそこだけは絶対に触れないもんな。

もう何でもいいから金返せよ……。

『酷いのどちらですか? 岩上16:55』

『今はどちらも重要ではありません。あなたの話し方から。あなたがこのように不思議で友達がいないと思います。あなたを信じている人を傷つけた。 朱婧瑶16:59』

2024/05/07 LINE 若香

どの口がほざいているんだ?
もうこの馬鹿女は黙らせよう。

『あなたのパスポートも刑事に証拠で渡してあります。 岩上17:01』

もう本当にいいや……。

積み木崩しドーン!
俺は先ほどの新宿警察署の写真を若香へ送った。
少しはこれ見てビビッて黙っとけ。

さて、今度は叔父か。
覚悟しろよ?


【グループLINE】

『オンラインカスタマーサービスの意味はドルと日本円の手数料を払わなければならないということです。これは仕方ありません。通貨を変換するにはもちろん費用がかかりますから。取引所は無料で変換してくれないので、私たちが自分で負担する必要があります。 Zhu Min 16:29』

『ですから手数料引いて、何故その上にまだ二十六万も現金で払わねばならないのですか? 岩上16:30』

『私たちは通貨の両替費用を支払うからです。 Zhu Min 16:31』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

よくも抜け抜けとこんな嘘がベラベラ出てくるもんだ。
さすが詐欺師。

『両替にはお金がかかります。 Zhu Min 16:31』

『最初に出金手続きした時は、そんなものありませんでした。 岩上16:31』

ほら、どう誤魔化す?

『この問題については、学生はオンラインサポートに聞く必要があります。 Zhu Min 16:32』

『いきなり出金は二十四時間に入る→ 入っていない。ゴールデンウィークだからできない→ 平日になっても入っていない。 岩上16:33』

ほら、答えてみろ。

『学生がオンラインサポートに聞きに行く。そして物事をはっきりと解決する。 Zhu Min 16:33』

何急に逃げてんだよ、クソ野郎。

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

だからその偽物サイトも、おまえらの詐欺グループなんだろ?
IQM…、もっと早くURLの段階で気付いていればな。

『先生はあなたの意味を完全に理解していません。 Zhu Min 16:34』

じゃあしっかり言ってやるよ。

『聞いたら通貨両替費が二十六万掛かると、後付で言われ、おかしくないですか。 岩上16:34』

うんざりしてきたな。
ここまで来たら、もう金は完全に無理だろう。

『私たちがお金を引き出すたびに、相応の費用を支払う必要があります。しかし、お金を取れば取るほど、支払う割合は少なくなります。 Zhu Min 16:35』

本当に疲れてきた……。

『ですから出金がちゃんとできるなら、こんな事言ってないです。 岩上16:35』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

ほら、百四十万早く払え。
払えじゃないか。
とっとと人の金を返せ。

『叔父は既に私たちをたくさん助けてくれた。取引所のことはオンラインサポートに相談して解答すべきだ。今ここで何を問い詰めているのですか? 朱婧瑶16:38』

何を助けたんだ?
金を騙して人から奪っただけだろ?

『サポートに連絡しての現状だから今ここでこうして伝えています。 岩上16:38』

本当にヒステリック起こしやがって。

『このLBMAのサイト、正式なものなんですか? 岩上16:49』

ほら、これについてどう答える?

『顧客サポートは要求通りに完成すればいいと言っています。今は円安がこんなに速い。一定の割合の転換もあるに違いない。シンガポールの通貨で入金するのもドルを転換する必要があります。 朱婧瑶16:52』

円安とかそういうの、どうでもいいから。
はよ、金返せ。

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

『学生の言うことはおかしいですね。姪っ子これは何の友達ですか? Zhu Min 16:53』

出た。
苦しい言い逃れ。

『ですならそれなら何故最初の出金でそれがないのですか? 岩上16:53』

『オンラインサポートに聞いてね。 Zhu Min 16:53』

あ、タメ口で逃げだした。
もうここで一気にビビらせておくか。
詐欺師危機一髪。

もうコイツ、ビビらせよう。

『ちなみに、現在三時間くらい前から警視庁の中で、刑事に囲まれながら、この文面を打っております。 岩上16:54』

どうだ?
凍り付いたろ?
もうとっくに自称俳優マンションの自分の部屋の中だけど。

『百四十万失いましたが、いい勉強させて頂きました。 岩上16:55』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

『先生は学生が何を言っているのか全く分かりません。 Zhu Min 16:56』

俺もあんたが何を言っているのか、まったく分からないよ。

『学生はどんなことに遭遇しましたか? 警察に囲まれましたか? Zhu Min 16:56』

ウゼーな、若香。

『もう誤魔化さないでいいのよ、非常に見苦しい。俺が百四十万の詐欺に遭った。そういう結果なだけです。この程度の小銭でせいぜい人生エンジョイして下さい。 岩上16:58』

『先生は学生が何を言っているのか全く分からない。学生は誰に騙されましたか? Zhu Min 16:58』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

おまえ、まだ言うか。
詐欺師が先生なんて、自分で抜かしてんじゃねえよ。
作家である俺の言葉だろ、先生は。
俺が誰に騙されたって?

『あなたです。 岩上16:58』

さあ俺のターン到来だ。

『刑事たちはこれ見て、あなたたちを重要視しています。覚悟しといて下さいね。 岩上17:00』

『頭が悪いなら。病院に行って検査します。ここでは女性のようにしないでください。男らしさは少しもない。少しのことはここで何を言っていますか。女性よりもいいです。 朱婧瑶17:01』

えーと…、若香に写真送って、もうこっちも知っているよな……。

ほれ、今日撮ったばかりホヤホヤの新宿警察署の写真だ。
恐れおののけ。

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

会心の一撃だ、オラッ!

『適当な言い分はすべて警察の前でお願いします。 岩上17:01』

『あなたは本当におかしいです。これで何が証明できますか? 朱婧瑶17:02』

『警察が解決するでしょう。 岩上17:02』

2024/05/07 グループLINE 若香&ZhuMin

あれ?
グループLINEを追い出されたぞ?
若香が俺を退室させたのか。



もうグループLINEに入る事はできない。
いや、正確にはこちらからコメントを書く事ができなくなっていた。

プライベートで詐欺師馬鹿一代からLINEが届く。

『もちろんいいですよ。いつでも警察に来てもらう。それを恐れない。 朱婧瑶17:04』

何が恐れないだよ。
詐欺師が無頼漢を気取るな。
汗まみれになって醜く逃げるだけの分際が。

警視庁メールへ打たないとね。
国民の義務として。

『最後の悪党のあがきです。 岩上智一郎17:05』

2024/05/07 自称俳優マンション 岩上智一郎Gmail警視庁アドレスへ送信17:05

よし、送信完了っと。

『何か私に言いたいことがあります。叔父を巻き込むな。叔父は年をとったから。 朱婧瑶17:06』

2024/05/07 LINE 若香

いやいや、叔父を巻き込んだ張本人はおまえだろ。
詐欺をする奴に、年齢関係あるか。

『何か問題があります。直接言います。 朱婧瑶17:06』

コイツ、頭の中に蛆虫でも湧いているのか?
とりあえずフェイスブックで注意を促そう。


みなさん、この人に気を付けて下さい

2024/05/07 自称俳優マンション Facebook岩上智一郎

詐欺師です



注意喚起終了。
これで騙されても、あとは知らねえぞ。

さて、若香に説教タイム。

『生きてて恥ずかしいとか無いんですか? 岩上17:10』

俺相手に人間を説くか。
本当に脳みそ空っぽだな。

『あなたが生きていて退屈しているのか、それとも何か。毎日自分を偉大なように例えている。実はあなたは何も本当ではありません。あなたは私にあなたがかわいそうだと思わせた。あなたを助けることは間違っています。あなたは誰一人としてふさわしくない。 朱婧瑶17:13』

『日本語をもっと勉強しましょう。まるで意味不明です。 岩上17:14』

2024/05/07 LINE 若香

ここまで見苦し過ぎる人間も珍しい。

『私はずっと日本語を勉強しています。何か変なことがある。私は英語ができる。しかし、あなたは日本語が一つしかできないのに何が誇りに思うのですか? 朱婧瑶17:18』

英語ができても人を騙して詐欺をしてちゃ駄目だろ。

『人を詐欺行為にハメて何が誇りですか? もっと人間の勉強しましょう。 岩上17:19』

目の前にいなくてよかったな。
今の俺は、首の骨を平気でへし折れるぞ。

『これはあなたが騙されたと思っていることです。もし香もあなたをだましたことがない。あなた自身がどこから定義したのか分からない理由。信じないことを選択した場合。私もあなたに前期の投入を強要していませんよね? 朱婧瑶17:20』

2024/05/07 LINE 若香

『あなたが紹介したサイトがインチキなの、まだわからないんですか? 岩上17:21』

おまえが俺に散々強要したんだろうが。

『俺は、百四十万円の金をおかげで失っているんですよ? 岩上17:22』

『嘘ですか? どうやって嘘をついたの。お金がなくなったのですか、それともプラットフォームが閉じたのですか? それとも私が消えたのか 言っていることは少しも実質的ではない。 朱婧瑶17:23』

ウザい女だな……。

『LBMA、これの文字がサイトにまったく無いサイトが何を証明できるんです? 岩上17:23』

さて、警視庁へどんどん証拠を送ろうか。
LBMAを語る偽サイトLQMのスクリーンショット添付完了。

2024/05/07 自称俳優マンション 岩上智一郎Gmail警視庁アドレスへ送信17:25

警視庁、俺がこうやって引き延ばしている間、とっとと動いてコイツら捕まえてくれよな。

『世界中のウェブサイトが増えました。そして事実で証明すると、あなたが既存の出金がないことを提出し始めたのです。そして問題はあなたが疑問に思っていることです。叔父に逆に質問する。何を根拠に。親切に助けてあげる。憎しみも出てきた。あなたはキツネですか? 朱婧瑶17:26』

2024/05/07 LINE 若香

助けたじゃなく騙しただろ。
キツネ?
俺はどちらかといえばタヌキだろ。

あの刑事、動いているんだろうな?
あ、偽サイトのURLを送らないと解析しようがないか。

『詐欺LBMAのURLです。 岩上智一郎17:32』

2024/05/07 新宿警察4F刑事課取調室 岩上智一郎Gmail警視庁アドレスへ送信17:32

そうだ。
肝心のこの女の電話番号を聞いておくか。
絶対言わないだろうけど。

『電話番号教えてもらえますか? 以前若香さんの教えてくれて住所、お城の住所でした。 岩上17:39』

あれ、返事なくなった。
直接電話を掛けよう。

『不在着信 岩上17:41』

2024/05/07 LINE 若香

出る訳ねえか。
もう必死だな、コイツ。

『自分がおかしいと思いませんか? あなたはパスポートを警察に引き渡しました。電話番号も教えますか? 朱婧瑶17:41』

『ええ、教えてください下さい。 岩上17:41』

絶対に言わないんだろうけど。
次はどんな詭弁を言う?

『今あなたと話すことができます。あなたに教えることです。お金は取ることができる。あなたが取り出してから私たちも終わります。少なくとも私はあなたに何の借金もありません。 朱婧瑶17:42』

はいはい、千の嘘はいらないから、一つの真実を頼むよ。
埒明かないな、電話しよう。

『不在着信 岩上17:50』

2024/05/07 LINE 若香

出ないか。
もう一丁。

『不在着信 岩上17:51』

うん、逃げているね。

『電話出ないですね? 岩上17:51』

『私は働いていますか? 私は暇だと思いますか? 朱婧瑶17:52』

暇人でしょ、誰がどう見ても。
これまで全部のLINEの記録残っているんだから。

この後に及んで、何をまだ抜かしているんだ?

『思います。何故電話に出ないのですか? 岩上17:53』

ほらほら、言い訳を考えろ。
いつか小説のネタにしてやっから。

あ、でもこんなハチャメチャな状況書いて、誰が信じるんだ?

『私は働いています。そして私はどうして電話に出るのですか。あなたは私の誰ですか? それとも私のリーダーですか? 朱婧瑶17:56』

リーダー?
俺が好きなのは赤でなく青だ。
試合のコスチュームも、黒と青だろ。
馬鹿じゃねえの。
はい、怒涛の精神苦痛攻撃お見舞いするよ?

『暇じゃないなら、電話に、出て証明して下さい。 岩上17:57』

2024/05/07 LINE 若香

ほら、考えている。
涎垂らして醜く取り乱せ。

『あ、都合が悪くなると対応しなくなった。 岩上18:21』

出涸らしだね、ありゃあ。

「あ、岩上さん!」

龍平を無視してベランダへ向かう。
大きく息を吐き出してから、セブンスターに火をつける。

今頃詐欺集団大慌てってところか。
インチキサイトも、履歴も、すべての証拠は警察へ渡した。

あとはもう警察の領域だよね。
俺一人孤軍奮闘したところで、金など戻ってくる訳じゃないし……。

若菜龍平がベランダへ出て隣りに来る。
タバコを吸いながらゴミトークを始めた。

駄目だ…、怒鳴る気力もないや。
適当に相槌を打ちながら、若香へメッセージを送る。
あのブスに八つ当たりしよう。
少しは役に立て。

『おーい。 岩上19:01』

『どうしたの。用事があって言います。 朱婧瑶19:06』

あ、まだ対応するんだ?
ある意味根性あるね。

部屋へ戻ると、龍平は俺の大事なグレンリベットをすべて飲み干していた。

「……」

え、何なのコイツ?
坊主さんからもらった大事な酒を全部飲みやがった。

「あ、岩上さん、このウイスキー美味いっすわ」

「……」

顔面を思い切り蹴り上げてやろうか?
おまえ、よくも大事な酒を…、坊主さんと裕子さんから頂いた大切なものを……。

落ち着けって!
この馬鹿を蹴るのは簡単。

でもそしたらこのマンションにいられなくなる。
金を失い、家まで失うつもりか?

深呼吸しろ。
細胞を落ち着かせろ。

まず身体中にある空気をすべて吐き出せ。
それから全身に行き渡るよう大きく息を吸い込め。

少しだけ冷静になれたぞ。

「……」

まあこのお馬鹿を誘ったのは俺なので、当然文句は言えない。
酒を飲んでもいいと許可をしてしまったのだから。

「岩上さん、そちらのお酒もできれば一舐めしたいのですが」

龍平はグレンリベット十八年を指す。
何が一舐めだよ。
冗談じゃない。
俺はショットグラスへ注ぎ、一気に飲み干した。

「すみません、もうこっちは少なかったので」
「あー、残念すね。ひと舐めしたかったなあ……」

自分で働いて買え!

大事な大事なグレンリベットが、全部空になってしまった……。

俺は冷凍庫からグラスに氷をぶち込み、焼酎をそのまま入れて飲んだ。
あげなきゃ良かった、龍平なんかに。

半ばヤケクソで焼酎を飲む。

ボトルもほとんど無くなると、龍平は「大将のところ行きませんか?」と誘ってきた。

確かに詐欺師とLINEや、こんな自称俳優相手に部屋で酒を飲んでいるより、こなもんマスターのところへいるほうが全然いい。

時計を見ると、十九時になろうとしていた。
あ、心筋梗塞の薬を飲まないと。

「岩上さん、行かないんすか?」
「行きますよ! 薬ぐらい飲ませて下さいよ」

不機嫌そうに言い、水で薬を飲み干す。

あー、女抱きてえよー……。

こなもんの帰りに、洗体エステの『ラブリーハート』に寄って、久しぶりにリオでも抱こうかな。
あの中国人女をヒーヒー言わせて、何回でも逝かせてやる。

「若菜さん! 室内でタバコ吸わないで下さいよ!」
「あ、すんません」

はあ…、何でこんな奴部屋にいれちゃったんだろ……。

龍平を追い出すように外へ出す。
俺たちはマンションを出て、こなもんへ向かった。





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