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「悪気がない」から一番タチが悪い。AI時代の漫画編集者が陥るコンプラのバグと、創作者に求められる契約の知恵

Xのポストにこんなぞっとする話が出てきました。

ああ~……まあ、最近では「漫画業界は小説業界に比べて編集が作家に手をかけている」みたいな話を見ましたが、手をかけすぎちゃったパターンですかね。
「ぼくのしらないひょうげんはつかわせないぞ」というやっかい小説編集に対し、
「AIがだしたほうがぼくはおもしろいとおもう」というやっかい漫画編集でしょうか。

これ、創作者側ならだれでも怒髪天抜く話なんですが、編集側としては会社から著作権コンプラ指導を受けた上で(昨今は大体どこでもうけますよね?)セーフと思ったから、悪気なくやってるんでしょうねえ、知らんけど。

その齟齬について、考えていきたいと思います。

著作権上なぜセーフと言えるのか?

現状の著作権上では、

「AIへの学習はOK(ただし有料商材使用だったり、海賊版使用だったり、特定を狙い撃ちにしたような学習方法は駄目)」

「アイデアには著作権がつかない」

「AI出力品は著作権の縛りをうけないから、どこをどのように改編してもいい(パブリックドメイン)」

ざっくりこの3点セットとなっております。だから、

「無料のネームを読ませてもAI学習だからOK」
「ネームはアイデアの段階だから著作権はつかない」
「AI出力されたネームは著作権の縛りをうけない」

という論法になったのではないかと。
まあ、だったらわからんでもない論理展開かな。
しかしだとするなら「どこまでが『アイデア』か」の線引きは必要かと。
その線引きより先のものに改変を加えるのは明らかに著作者人格権に触れる話になるでしょうし。

小説編集者が塩い理由

私は小説を書きます。その工程はだいたい以下のようになります。

①ネタ出し:メモ。「100文字くらいのコンセプトセンテンス」。設定。
②プロット:あらすじ。物語の最初から最後までの文章(これはない人もいる。その場合は即③が作成される)
③本文:本文。完全に著作物。

大まかに分けてこの3段階で「著作権がついた著作物」ができます。未完でも③までいってたら著作物です。
ただし大学論文なんかで顕著ですが著作物は「先に出版(公表)したもん勝ち」です。大作ん十年の未完作を手に、先に出版された類似作品を「盗作だ!」と訴えることはできません。創作完成はお早めに。

で、この工程で著作権がつかないのは、現行の法律で行くとだけなんですよ。①はアイデア扱い。盗まれたといっても取り合ってもらえない段階。
②は最初から最後までのストーリーが入っていたら、「言語の著作物」としてそれはもうアイデアとは言わないと個人的には思います。だって下手するとそのまま短編で出せちゃったりすることもあるし、AIで言うところのプロンプトに当たるわけですから、著作権はたぶんつく。ただし「完成した長編小説という著作物」としてではなく「短編小説という著作物」として(わかりにくいな!)。「アイデアっぽいメモ書き」の状態では微妙かもしれない。
ということは、②とか③の段階を「未完成品だし好きに改編してもいいよね」ってやってしまうと、Xのポストで出てくる「勝手にセリフがかわってる」みたいな話になる可能性はあるわけです。
それが実はあかんのですよというのは以下の記事で書きました。

勝手に手を加えたらあかんだけで、著作者との話し合いで「こうしましょう」になるなら全然かまわないんでしょうけど。
ただ小説編集さんそこまで一人一人に時間が取れる人、居なかったりするんじゃないでしょうか。絵と違って文章だから読むのにも時間かかっちゃうし。ってことで、塩くなってのではないかと。
AIが登場して「壁打ちだったらそっちですでにできるでしょ? AIにできない読者と完成原稿の表現のすり合わせはこっちでするので、最終原稿できたら見せてください」ってなってなおさら塩くなる。

そういうことなんじゃないかと思います。XのポストのTL見る限り。

漫画編集が作品をかなり深くいじくってしまう理由

では漫画はどうでしょう?
今は昔と違ってデジタル上でいろいろと完結しますから、手順が違うかもしれませんが、私が描いていた時(約30年前)の工数はだいたい以下のようなものでした。

①ネタ出し:メモ。「100文字くらいのコンセプトセンテンス」。設定。
②ざっくりとした設定画像や設定資料
③文章によるあらすじやプロット
④鉛筆書きによるざっくりとしたコマ割り(ネーム)
⑤下書き
⑥ペン入れ
⑦トーンや効果
⑧セリフ部分の写植入れ=セリフの確定

あまりに工数が多くて、だから漫画描くのやめたんだよ!!
さて、描いてた側からすれば、たぶん漫画で言うところの『アイデア』の範囲は①②③かと思います。小説のルールに従うなら①②は確定ですね。③も「言語の著作物」では著作権がつくかもしれませんが「美術の著作物」ではたぶんアイデア扱いではないかと。総合芸術は難しいですね。
ではそれ以降、特に境界となる④は? という話になります。
これ、たぶん編集側が「アイデア」扱いにする根拠は「映画やアニメのカット割」じゃないかと思うんですよね。

映画やアニメのカット割に著作権はつくのか?

現状の法解釈では「映画の個々のカット割りやカメラアングル、構図そのものには、原則として著作権(表現)は認められない」とされています。
編集者的には「ネームっていうなれば映画のカット割じゃない? それに著作権がつかないなら、漫画のコマ割り(ネーム)にもつかないはず? だったら自分(編集者)がAIで構図をいじってもセーフなのでは?」という論旨になったのではないかと。まあだとしたら、論旨はわからんでもない。

しかし実際には「映画」と「漫画」にはメディアの構造上の決定的な違いがあります。
まずまず、著作権上の分類でも「映像の著作物」「美術の著作物」で扱いは別ですしね。

漫画のコマ割りは、映画のカット割りと違って絵・セリフ・視線誘導と物理的に一体化しています。コマの大きさや配置を変えると、描かれた表現そのものが壊れてしまう。だからネームの段階ですでに「人間の創造性が不可分に付加された「表現」」ではないかと。
また漫画は読者の読むスピードと視線の流れを作者が意図的にコントロールする創作表現でもあります。映画の時間が機械的に流れるのと違い、漫画のテンポは作者によって能動的に設計されるものです。これは小説の文章や音楽のメロディと同様、作家の個性が最も強く発揮される表現の核心ではないでしょうか。
って、私個人は思います(その道のプロである弁理士さんや弁護士さんの法的見解はたぶん違うんでしょうが)。

これって小説でいうところの「てにをは」ではないでしょうか。
勝手に手を加えたらあかんだけで、著作者との話し合いで「こうしましょう」になるなら全然かまわないはず。
ただ絵は文字と違って、イメージを描けない編集が、描ける漫画家に提案という形で言語化して伝え、それを漫画家が再度描いてみるという作業でしかブラッシュアップできなかった。
だから「漫画編集は作家を育てる」とか「手をかけてくれる」と言われてた。人の在り方というより、媒体の表現方法の問題でそうせざるを得なかったのではないかと。
結果『最終的な原稿』こそが『著作物』で、あとは全て編集と練り合わせてるから「アイデア」という認識になってしまったのかな、と個人的には感じます。あと、人によっては下書きって棒人間だったりすることも一因かと。

AI食わせた漫画編集の罪

ところが意識だけは旧態なのに、AIが出てきて「タイパ」ができるようになった。
やってることは旧態と変わらないんですが、手法が変わってしまったので、結果的に作家の「同一性保持権」という著作人格権に土足で踏み込むような暴挙になってしまった。これがたぶん主罪。

もう一つは文面からは読み取れないので、一般的な企業人としての懸念なんですが、ローカルPCに作った生成AI環境だったのか、という問題があったのでは?
漫画家さんには直接関係ない話ですが、読み込ませた先が汎用AIだった場合、企業の情報管理としては問題があるのではないでしょうか。ポスト見ながら私は企業倫理として普通に気になりました。たぶんAIに原稿を食われた作家さんもそう思ってしまったんじゃないかと思います。
百歩譲ってCopilotならまだわかるんですが、その他汎用AIだった場合は、出版業界の他では確実にアウト判定の情報倫理違反になります。
だとしたらそのネーム、ただの「アイデア」だったとして、そもそもその出版社が発行する予定の「新製品」だったわけでしょ?
他の製造業的な観点からすれば、それ企業機密の漏洩に当たるんじゃないでしょうか。会社の情報漏洩管理規定ではどうなってたのでしょうか。
もし汎用AIの学習の結果、他の出版社で類似品が出力されたとき、どうするんでしょうか? 「アイデア」だったというなら著作権がつかないのでそもそも権利闘争はできないですし、そうでないとするなら「完全に情報管理違反」になりませんかね? 

こういうことですからね、汎用AIって。
「企画段階のアイデアだったから」とは言い訳できないことを結果的にしてしまったのではないでしょうか。これが余罪です。

契約がどうなっているかにもよるけど

創作者の多くが新人だろうとベテランだろうと誰しも契約のプロではなく、割と簡単に「全部お任せ」みたいな内容にサインしてる場合があります。
でもそれは契約を結んだあとで「知らなかった」では済まない話。それが大人の世界ってもんなので、契約書をきちんと読んで、何だったら弁理士や弁護士といった法律のプロをかませて、その上で著作権上の「線引き」を編集さんとすり合わせをしなければならない。
AIがあるからこそ、今後は創作者の側にそういった法的観点が必要になるのではないかなあ、と個人的には思います。

※本記事は知的財産検定3級の学習記録をもとに、著作権法の条文と各社の調査報告書を参照してまとめたものです。
法的な判断・アドバイスを提供するものではありません。

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