「30条の4」の抜け穴を狙い撃ち。日本漫画家協会が示した「契約」という武器と、AI学習を拒絶するクリエイターの反撃
昨日の裁判の話もそうですが、ここ数カ月、本当に著作権まわりの興味深い話題がいろいろと出てきてますね。
過去記事で取り上げていますので、ご興味のある方はマガジンを参照してみてください。
これも興味深い。先月の初めの話ですが。
「自作のAI学習・改変を防ぐための契約は?」 日本漫画家協会が回答(ITmedia NEWS)#Yahooニュースhttps://t.co/DtiaEY96tB
— 樋口紀信@疫神のカルテ全3巻 (@susujinkou) June 5, 2026
契約書になんて書けばいいかが載ってる!!!
注意点も助かる!
要は、常々日本漫画家協会に寄せられていた「納品した自分の作品を、クライアントに生成AIに学習されたり、勝手に改変されたりしたくないが、どうすれば防げるか?」という切実なお悩みに対する、公式のアンサーというお話です。
第30条の4の壁
この記事でも書きましたが、日本の著作権法には第30条の4という条文があります。ざっくり言うと、「AIの機械学習のような"データ分析"のためなら、権利者の許可なく著作物を使っていい」というルールです。
昨今の文化庁の議論では、「海賊版サイトなどの権利侵害物だと知りながら学習用に複製する行為」などは例外的にアウト(著作権者の利益を不当に害する)とされつつありますが、正規に納品された作品の扱いはグレーな部分が残ります。
実際、出版社に持ち込んだりクライアントに納品したりした原稿が、裏でAI学習に流用されたという噂や不安は絶えません。
「君の『ラフ』をAIに読み込ませてこっちで作ったからもういいよ。あ、代金は無しで良いよね?」
とかいう、下種の極みのセリフが珍しくないというやつ。
従来の「本件目的以外に使用しないこと」といった一般的な秘密保持(NDA)の文言だけでは、この第30条の4のパワーの前では「AI学習の禁止まで含んでいるか」が曖昧になり、力不足になる可能性があると漫画家協会も指摘しているわけです。
じゃあ、どうする?
「法律がOKと言っていても、個人間の契約でNGにすることはできる」
これが漫画家協会の示した答えだそうです。
「甲(著作者)は、乙(使用者)の事前の書面による承諾なく、本著作物を人工知能(AI)の機械学習のためのデータとして利用(著作権法第30条の4に基づく利用を含む)すること、及び人工知能(AI)を用いて本著作物を改変することを禁ずる」
という文言を契約書に盛り込む提案をしたわけです。それにしても、法律文は主語と述語の関係性がわかりにくいな!
ポイントは「著作権法第30条の4に基づく利用を含む」という一文。
法律が用意した例外規定を、わざわざ名指しで、ピンポイントに塞いでいるところが非常にリアルで強力です。
このように、権利者が他者に対して「これをしていいよ」「これはダメだよ」と条件付きで使用を認める枠組みのことを、広く「ライセンス(使用許諾)」と呼びます。
特許だけじゃない「ライセンス」
実は「ライセンス」という言葉は割と特許権周りで見られます。
特許権はそもそも「使わせるけど金をとる」性質が強いため、権利とライセンス制度がほぼ抱き合わせになっているからです。
しかし、ライセンスの本質は特許に限りません。法律の分類を見ると、
特許法・実用新案法・意匠法では「実施権」
商標法では「使用権」
と呼ばれます。これらはすべてライセンスの一種です。
そして、もちろん「他人が勝手に使うのを禁止できる権利」として著作権でもこの仕組みを利用していいのです(法律で禁止はされていません)。ただし、著作権法上の厳密な言葉としては、〇〇権ではなく「利用の許諾」と呼びます。
現状の作家周りのライセンス環境は出版社や発注側が有利になりがちですが、こういうことを著作者の側もちゃんと勉強して、もうちょっとしっかり自分たちの権利を守っていこう、というのが今回の潮流の本質なのです。
著作者達の反撃
SNS等で一部のユーザーが「人気に傷がつくこと」や「守秘義務違反」を恐れて黙っている著作者を「気弱だ」とみなし、「著作権侵害は全非親告罪化していない(=原則は親告罪である)」のをいいことに、「法律で許されてるんだから、いいんだもんね」と無断学習や絵柄の模倣を正当化する。そんな事態をここ数年で散見するようになりました。
いいんですよ、『私的利用』で外に出さないなら。
でも実際はそうじゃない。そうじゃないのにその部分の法律違反を「訴えなければセーフでしょ」と嘯いている。それがクリエイター側から見た今の現実なんですよね。
法の穴という不備を逆手に取った不遜な態度だと言えます。
これまでは著作者とファンの間に気遣いだとか礼儀があったから許されていた。それがとうとう倫理観を失ってきた世情の都合で「許さん!」という方向に向かっているという話なのです。
その際、法の穴を「契約」で縛ろうというのが、今回の漫画協会の提案ということになります。
法を守る良識ないなら金で片を付ける。
そういう方向に舵を取ろうというわけですな。
AI推進過激派が一番嫌がってることみたいです。
つまり他人のアイデアや能力を勝手に搾取・利用して対価は払わないってことね。法的に著作権使用料支払い義務を負わせよう。
— ジークフリード (@MakotoHojo1) June 13, 2026
メタ、グーグル、マイクロソフトら、生成AIの訓練に著作権使用料の支払い義務生じれば「技術開発が不可能」と反発|https://t.co/Zkoiczz8Zv @BIJapanより
CODAが「複製権違反」を使い、漫画協会が「契約」を使って30条の4を封じ込める方向に進んでいる。ドイツではじわじわと著作権保護のために判例という活動の柵が建てられつつある。
それを「窮屈だ」という意見があるのはわかります。
けれどももともとは「相手への配慮や倫理さえ守っていれば起きなかった問題なのに、それを踏み越えてライフハック―! とか言ってるバカ者」のせいなので、彼らに対して社会が自浄作用(倫理的な落とし前)を働かせない以上、ルールが厳格化し、全員の連帯責任のように息苦しくなっていくのは、真に残念ですが時代の必然なのでしょう。
社会を息苦しくさせるのは、いつの時代もどの地域でも、制度の不備ではなく「配慮と倫理と良識の欠如」なんですよね。
もし本当に「創作の自由」を謳歌したいなら、自分の部屋の中で完全秘匿する「私的利用」しかない。
そういう世の中になりつつあるのです。
※本記事は知的財産検定3級の学習記録をもとに、知的財産権の条文と各社の調査報告書を参照してまとめたものです。
法的な判断・アドバイスを提供するものではありません。
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