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二十年PMが見てきた。「落ち込まない人」が強いわけではない——明石家さんまに学ぶ、生き残る構造

プロローグ

正直に言う。

若い頃の私は、強い人とは傷つかない人だと思っていた。失敗しても平気で、嫌なことを言われても平気で、いつも明るい。そんな人が強い人なのだと信じていた。だから自分も、傷つかない人間になろうとしていた。表情を消し、感情を抑え、何を言われても動じないふりをすることが、プロフェッショナルの条件だと思い込んでいた。

しかし二十年以上現場にいると、まったく違うことが見えてくる。本当に強い人とは、傷つかない人ではない。落ち込んでも、また戻ってこられる人である。そして不思議なことに、その「戻ってこられる構造」を最も体現している人物が、PMでもコンサルタントでもなく、お笑い芸人の明石家さんまさんだった。本記事では、二十年の現場経験と、さんまさんという稀有な人物の構造を重ねながら、AI時代に長く残る人間の条件を考えていきたい。

第一章 さんまさんは「悩まない人」ではない

テレビを見ていると、さんまさんはいつも明るい。元気で、楽しそうで、誰かを笑わせている。だから多くの人は、悩みなんてない人に見える、と感じる。生まれつき陽気で、何も気にしない性格なのだろう、と。

しかし長い人生のなかで、家族のこと、仕事のこと、人との別れ、語り尽くせないほどの出来事を経験してきた人である。傷つかないはずがない。人間だからだ。問題は、傷つくか傷つかないかではなく、傷ついた後にどう振る舞うかである。さんまさんは、傷を見せないのではなく、傷を抱えたまま舞台に立ち続けている人なのだと、年を重ねるごとに分かってくる。

第二章 それでも前に進める理由

昔、さんまさんは「生きてるだけで丸儲け」という言葉をよく口にしていた。若い頃の私には、意味がまるで分からなかった。もっと頑張らなきゃ、もっと成功しなきゃ、もっと評価されなきゃ、と前のめりに走っていた時期には、この言葉はむしろ甘えに聞こえた。

しかし五十代になると、この言葉の重さが少しずつ分かってくる。病気をしない日があること、家族が元気でいること、今日も仕事があること、ご飯がおいしいこと、誰かと笑えること。それだけでも十分ありがたい、という感覚である。これは諦めではない。たくさんの喜びと悲しみを通ってきた人だけがたどり着く、人生後半の境地なのだと思う。若いうちには絶対に理解できない言葉が、世の中には確かに存在する。

第三章 PMの現場も同じだった

二十年PMをやってきて、しみじみ思うことがある。一番長く現場に残る人は、一番優秀な人ではなかった、ということだ。

炎上案件に巻き込まれる。理不尽な人災に遭う。客ガチャに外れる。上司ガチャに外れる。わけの分からないことを言われ、責任だけを押し付けられる。そんなことは現場に山ほどある。優秀な人ほど、こうした不条理に直面したとき、深く傷つき、そのまま業界を去っていくことが少なくない。能力が高いからこそ、理不尽が許せないのだ。

一方で、長く残る人は違う。彼らも傷つく。腹も立てる。悩みもする。しかし翌週になると、また普通に会議に出てくる。翌月になると、また提案書を書いている。一年後には、別のプロジェクトで誰かを助けている。何事もなかったかのように、ではなく、何かを抱えたまま、それでも戻ってきている。この「戻ってくる力」こそが、十年後も二十年後も現場にいる人の共通項である。

第四章 落ち込まないことが大事なのではない

ここは誤解されやすいので、丁寧に書いておきたい。人間だから落ち込む。腹も立つ。悩む。逃げたくなる。それでいい。むしろ、それが自然である。

問題は、落ち込むこと自体ではなく、そこで人生全部を否定してしまうことだ。一つのプロジェクトで失敗したからといって、PMとしての二十年が否定されるわけではない。一人の上司に評価されなかったからといって、自分の市場価値が決まるわけではない。一度の炎上で、職業人生が終わるわけでもない。

真面目に考えることは大切だ。しかし、深刻に考える必要はない。この二つは似ているようで、まったく違う。真面目さは構造を改善するが、深刻さは自分を壊す。嫌なら別の道もある。会社も一つではない。お客様も一社ではない。人生は直線エスカレーターではなく、螺旋階段である。同じ場所に戻ってきたように見えても、確実に一段上がっている。さんまさんが何度も大きな出来事を経験しながら、それでも舞台に立ち続けてこられたのは、深刻にならない技術を持っているからだと思う。

第五章 AI時代に残る人

AIはますます賢くなっている。知識量では、もはや人間が勝てる領域ではない。資料作成も、分析も、要約も、提案書のたたき台も、AIのほうが速く正確にこなす日が来ている。私自身、三年以上AIを実務で使い続けてきて、その実感は年々強くなる一方だ。

では、人間に何が残るのか。私の答えは、失敗しても少し笑って、また戻ってこられる、そんな人間らしさである。これは簡単には代替できない。AIは落ち込まないし、戻ってもこない。そもそも傷つかない。だからこそ、傷つきながらも戻ってくる人間の存在が、チームの中で異質な価値を持つようになる。

そして、周りを少し安心させる力。「なんとかなるか」と思わせる空気。これはスキルでも知識でもなく、その人の生き方そのものから滲み出るものだ。さんまさんが何十年もテレビの中心にいられるのは、笑いの技術が高いからだけではない。あの人がそこにいると、なぜか「大丈夫だ」と思えてしまう。その安心の発生装置としての価値は、AI時代になってもむしろ希少性を増していく。

エピローグ

二十年PMが見てきた結論を、もう一度書いておきたい。

人生は、誰かに勝つ競争ではない。傷つかないことでもない。落ち込まないことでもない。転んでも、少し休んでも、また戻ってくる。そして、誰かを少し笑わせる。そんな人が、いつの間にか記憶に残る人になっている。現場でも、家庭でも、業界の片隅でも、最後まで居場所を失わない人とは、そういう人だ。

明石家さんまさんを見ていると、強さとは、気合でも根性でもなく、生きることを諦めない明るさなのかもしれないと思う。そして「生きてるだけで丸儲け」とは、成功した人の言葉ではなく、たくさんの喜びと悲しみを通ってきた人だけがたどり着く、人生後半の境地なのかもしれない。

気合や根性ではなく、構造として自分を運用する。落ち込んだ自分を責めず、戻ってくるための導線をあらかじめ設計しておく。優しいまま、壊れないこと。それが、AI時代に長く残るための、もっとも静かで、もっとも確かな戦略である。

本記事を含む一連の記事は、書籍化を視野に入れながら執筆を続けている。

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