リーダーは、決める人ではなく、仕事を前に進める人
会議室の空気が、だんだん重くなっていくことがあります。重要な案件で問題が起きている。期限は迫っている。でも、何を決めればいいのか、誰に確認すればいいのか、そもそも何から手をつければいいのかも整理されていない。
こういうとき、なぜか会議だけは増えます。問題は止まっているのに、カレンダーは元気いっぱいです。人間は困ると集まる習性でもあるのでしょうか。
そこで、一つ考えてみてください。
あなたが責任者を務める重要なプロジェクトで、大きな問題が起きたとします。期限は迫り、何を決めるべきかも、誰を動かすべきかも整理されていません。
ところが、あなたは明日から1週間、このプロジェクトから完全に離れなければなりません。
これまで一緒に仕事をしたすべての人の中から、一人だけ代わりに入ってもらえるとしたら、誰を選びますか?
誰か浮かんだでしょうか。
その人は、一番役職が高い人でしょうか。一番頭がいい人でしょうか。プレゼンが上手な人でしょうか。人当たりがよく、誰とでも仲良くできる人でしょうか。
たぶん、必ずしもそうではありません。
「あの人なら、状況を把握して、本当の問題を見つけて、必要な人に働きかけ、決めるべきことを決められる状態にして、何とか前へ進めてくれる」
そんな人を思い浮かべたのではないでしょうか。
その人に期待しているものこそ、リーダーシップの本体です。
リーダーシップは、いろいろな能力と混ぜられている
伊賀泰代さんの『採用基準』には、「さまざまな概念と混同されるリーダーシップ」という章があります。
これは本当にその通りで、リーダーシップについて話し始めると、いつの間にか別の能力の話になっています。
役職に就いている。部下を管理している。大きな決断をする。最後に責任を取る。人を巻き込む。説明がうまい。みんなの意見をまとめる。カリスマ性がある。
どれも仕事では大切です。でも、どれもリーダーシップそのものではありません。
ここで分けたいのは、役割とプロセスです。
部長という役職には、予算権限や評価責任が付いているかもしれない。プロジェクト責任者には、最終判断を下す役割があるかもしれない。これは組織設計の話です。
一方、リーダーシップは「誰がその役職にいるか」ではなく、目的に向けて何が動いたかというプロセスに現れます。
人事異動の辞令一枚で権限は渡せます。しかし、リーダーシップまで自動インストールできるほど、人事システムはまだ高性能ではありません。
「決める人」ではなく、「決められる状態を作る人」
たとえば、重要顧客への提案期限が来週に迫っているとします。ところが価格が決まっていない。提供条件も曖昧。関係部署から必要な回答も来ていません。
担当者Aさんは、「経理からまだ回答がありません」と報告します。
Bさんは、「経理さん、急ぎでお願いします」と催促します。
Cさんは、こう考えます。
「来週提案するには、木曜日までに価格を決める必要がある。決めるために足りない情報はこの三つだ。私が今日中に集めよう。そのうえで二つの案に整理して、明日の会議で責任者に判断してもらおう」
Cさんは価格を決める権限を持っていないかもしれません。管理職でもない。誰かに命令したわけでもない。
それでも、止まっていた仕事を前へ進めています。
ここには大事な区別があります。
意思決定権を持つことと、意思決定を前進させることは違う。
誰が最終的に決めるかは、役割と権限によって定められます。しかし、必要な情報を集め、選択肢を整理し、論点を絞り、決定者が判断できる状態を作ることは、権限がなくてもできます。
リーダーシップとは、自分ですべてを決めることではありません。
自分に決定権がないなら、決定できる人が決定できる状態まで持っていく。
これも立派なリーダーシップです。
なぜ、こんなに誤解されるのか
では、なぜリーダーシップは役職や決断力、コミュニケーション能力と混ざるのでしょう。
理由は単純です。
リーダーシップそのものが見えにくいからです。
役職は名刺を見れば分かります。誰が決裁したかも記録に残ります。会議でよく発言する人も目立つ。人望がある人も分かりやすい。
一方で、「この人の働きかけによって、集団がどれだけ目的へ近づいたか」は簡単には見えません。
そこで私たちは、見えないものを、見えるもので代用します。
部長になったからリーダーシップがある。会議を仕切ったからリーダーシップがある。大きな決断をしたからリーダーシップがある。人を説得したからリーダーシップがある。
つまり、測りにくい本体を、測りやすい代理指標で評価しているわけです。
しかし代理指標には罠があります。
会議をたくさん仕切っても、仕事は止まったままかもしれない。大きな決断をしても、必要な情報が欠けていれば単なる大胆さかもしれない。人をうまく説得しても、向かっている方向自体が間違っているかもしれない。
リーダーがよく持っている特徴と、リーダーシップそのものは同じではない。
ここを混ぜると、リーダーシップの評価は簡単に「それっぽさコンテスト」になります。
リーダーシップは「人を動かす力」でもない
以前は、私もリーダーシップを「人を動かす力」にかなり近いものとして捉えていました。
でも、これも少し違います。
目的を前進させるために人の協力が必要なら、人に働きかければいい。一人でできるなら、一人でやればいい。専門家が必要なら聞けばいい。上司の判断が必要なら、判断材料を揃えて持っていけばいい。
人を動かすことは目的ではありません。
目的を動かすために、必要なら人にも働きかける。
順番はこちらです。
だから、コミュニケーション能力はリーダーシップの重要な手段にはなりますが、本体ではありません。話が上手でも目的が進まなければ、それは話が上手な人です。
逆に、社交的でなくてもリーダーシップは発揮できます。大勢を率いていなくてもいい。部下が一人もいなくてもいい。
反対に、百人の部下がいても、報告を待ち、判断を先送りし、問題が自然消滅することを静かに願っているだけなら、肩書はリーダーでもリーダーシップを発揮しているとは言いにくい。祈祷は、少なくとも標準的なプロジェクト管理手法には入っていません。
リーダーとは、前進を作る人である
リーダーシップは、こう捉えると一番分かりやすくなります。
リーダーシップとは、目的に向かって自分から働きかけ、物事を前進させるプロセスである。
目的を見る。どこで止まっているのかを見つける。前進に必要な情報、判断、人、資源を特定する。自分で動かせるものは動かす。自分で決められなければ、決められる人へつなぐ。そして結果を見て、次の行動を変える。
重要なのは、「全部自分でやること」ではありません。
むしろ優れたリーダーシップほど、自分が動くことと、他者が動ける状態を作ることを使い分けます。
だからリーダーシップは、役職者だけの能力ではありません。正式な権限を持たない人でも発揮できますし、一つのチームの中で複数人が場面ごとに発揮することもできます。
最初の問いに戻ります。
明日から一週間、重要なプロジェクトを離れなければならない。今まで一緒に働いたすべての人から、一人だけ連れてこられる。
そこで思い浮かべた人は、おそらく「一番偉い人」ではありません。
「あの人が入れば、止まっているものが動き始める」と思える人です。
リーダーとは、大勢の先頭に立っている人ではありません。
目的に向かう前進が止まったとき、自分から前進を作れる人です。
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