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「思考」を残すと、仕事はもっと速くなる

会議をしていると、みんな本当によくメモを取ります。誰かが話し始めると、カタカタとキーボードを打つ音が聞こえてくる。話が長くなると、追いつこうとするように入力も速くなります。ときには、発言をほとんど一字一句残しているのではないかと思うくらい、ずっとメモを取っている人もいます。最近は、AI議事録を使っている人も多いのではないでしょうか。

あのメモって、あとで何に使っているのでしょうか。過去の議事録を読み返して、「3か月前の会議でAさんはこう発言していた」と確認することは、実際どれくらいあるのでしょう。私自身、仕事をしていて、会議中の発言を一字一句確認したくなったことはほとんどありません。

以前、「言った・言わないになると困るので、記録しておくんです」と聞いたこともあります。なるほど、と思う一方で、また別の疑問が浮かびました。そもそも会社で「言った・言わない」の勝負をする必要があるのでしょうか。裁判なら証拠は重要です。しかし仕事で大切なのは、「誰があのとき何と言ったか」を証明することより、いま何を決め、次にどう進めるかのはずです。

私は以前から、会議で話されたことを記録することと、自分のためにメモを取ることは、まったく別の行為だと思っています。誰が何を言ったのか、何が決まったのかを残すのは「記録」です。必要なら残せばよいですし、今ならAIに任せることもできます。

一方で、私が仕事中にメモしているのは、そこに書かれていないことです。分かったこと、分からなかったこと、そして、そこから自分が考えたことです。

教科書を読んでいるとき、本文をそのままノートへ書き写すのではなく、余白に「これはこういう意味か」「ここが分からない」「前に読んだ話と同じでは?」と書き込むことがあります。私にとって仕事のメモも、それと同じです。会議の発言や資料の内容は、あとから見れば分かります。しかし、その瞬間に自分が何を理解し、どこで引っかかり、何を思いついたのかは、残しておかなければ消えてしまいます。

だから、メモする価値が高いのは、そこに書いてあることではありません。そこから自分の頭の中に生まれたものです。

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メモには「保存する」と「理解する」という二つの役割がある

メモについての研究では、昔から大きく二つの役割があると考えられています。一つは、情報を頭の外に保存して、あとから参照できるようにする役割です。もう一つは、何を書くかを選び、自分の言葉に置き換え、情報同士の関係を考えることで、理解そのものを深める役割です。

会議の議事録として重視されてきたのは、主に前者でしょう。誰が何を話したのか。どんな数字が出たのか。何が決まったのか。それをできるだけ正確に保存します。

ただ、これは今ではAIがかなり得意な仕事です。録音して、文字にして、検索できる状態にしておけばよい。必要になったときに、「あの話をしていた部分を探して」とAIに聞けば見つけてもらえます。

だからといって、「AIがあるから、もうメモを取らなくていい」という話ではありません。AIによって代替しやすくなったのは、情報を保存する方のメモです。書きながら考え、理解するためのメモは別に残っています。

むしろ、発言を書き写す必要がなくなったのであれば、その分だけ会議に集中して、話を聞きながら考えた方がよいと思います。

「分からなかったこと」は、かなり重要な情報である

特に私は、「分からなかったこと」をよくメモします。仕事では、「分かったこと」ばかりが成果として扱われがちです。顧客の課題が分かった。売上が落ちた原因が分かった。この施策がうまくいかない理由が分かった。こういう話は、仕事が前に進んだ感じがします。

一方で、「この数字の意味が分からない」「なぜこの判断になったのか分からない」「AとBの関係がまだ説明できない」と言うと、何も進んでいないように見えます。

しかし、これはかなり重要な進捗だと思います。分からないことに気づいていなければ、質問することも、調べることもできません。「なんとなく分かったつもり」のまま仕事を進めることになります。一方、「ここまでは分かる。でも、この一点だけ説明できない」と分かれば、次に調べるべきことも、誰かに聞くべきことも明確になります。

つまり、「分からなかったことが分かった」とは、自分の理解がどこまで届いていて、どこから先が分からないのかが見えたということです。

東京大学の研究グループは、ノートの取り方を、単に板書や教科書を書き写すものと、自分で意味を考えながら書くものに分けて研究しています。後者には、自分の言葉への言い換えや重要な部分の選択だけではなく、「理解できなかったところ」「間違えたところ」「あとで学ぶべきところ」を残す行為も含まれています。

「?」を書くこと自体が、理解の一部なのです。

仕事でも同じでしょう。分からないことが一つ見つかったからといって、仕事が進んでいないわけではありません。次に解くべき問題を一つ見つけた、と考えればよいと思います。

会議で重要だったことと、自分に重要だったことは違う

このように考えると、会議の議事録と個人のメモを同じものとして扱う必要がないことも分かります。

例えば、会議で誰かが「最近、新規顧客の解約率が上がっています」と発言したとします。AI議事録には、この発言が正確に残ります。しかし、その発言を聞いた10人の頭の中では、それぞれ違うことが起きているはずです。

ある人は「知っている話だ」と思う。別の人は「そうだったのか」と初めて知る。「既存顧客はどうなっているんだろう」と考える人もいれば、「価格改定後の顧客だけでは?」と仮説を思いつく人もいるでしょう。あるいは、「そもそもこの会社で解約率をどう定義しているのか分からない」と気づくかもしれません。

会議で話された内容は同じです。しかし、その発言によって何を理解し、何を疑問に思い、何を考えたのかは、一人ひとり違います。

だから個人メモは、他人に見せる必要もありません。きれいに整理する必要もなければ、完全な文章にする必要もありません。「既存は?」「価格改定後だけ確認」「解約率の定義わからない」「前の○○案件と似ている」くらいでも十分です。

これは議事録ではなく、自分の思考の履歴です。

メモは会議だけで取るものではない

そして、この話は会議だけに限りません。資料を作っているときにもメモします。データを分析していて、「思っていた傾向と違う」と気づいたら書く。顧客からメールを受け取って、「この人が本当に困っているのは別のことでは?」と思ったら書く。本を読んで、「この考え方は今のプロジェクトにも使える」と思ったら書く。

仕事をしていると、小さな理解や疑問、仮説が次々と生まれます。ただ、その場では重要だと思っていても、数時間後には意外なほど忘れています。

特に困るのは、完全に忘れるわけではないことです。数日後に同じテーマへ戻り、資料を読み直して、しばらく考えたあとに「ああ、そうだった。前にもここまで考えたんだった」と思い出す。同じことを何度も考えて、同じ場所まで戻っていることがあります。

この時間は、できれば減らしたいものです。

メモは、思考のセーブポイントになる

だから私は、完成した結論だけではなく、考えている途中の状態も残しておきます。「今のところBが原因だと思う」「Aではなさそう」「Cについてはまだ分からない」「次は○○のデータを見る」といった程度です。

そうしておけば、数日後に同じ仕事へ戻ったとき、ゼロから考え直さなくて済みます。ゲームを途中でやめるときにセーブするのと少し似ています。前回どこまで進み、何が分かり、どこで止まったのかが残っていれば、そこから再開できます。

人間は、すべてを頭の中だけに覚えておく必要はありません。メモやリマインダーなどを使い、覚えておく仕事の一部を頭の外へ預けることで、その分だけ目の前のことを考えやすくなります。

仕事のメモにも同じ役割があります。メモしておけば、すべてを記憶し続ける必要はありません。そして、それ以上に大きいのが、一度考えたことを、もう一度最初から考えなくて済むことです。

メモは記憶のバックアップであるだけではありません。思考のセーブポイントでもあります。

記録はAIに任せて、自分は考えたことを残す

AI議事録は便利です。ただ、「議事録を作るのが楽になった」と喜んで終わる話でもないと思います。

そもそも、一字一句メモする仕事は、人間が会議中の注意力を使ってまでやる必要があったのでしょうか。会議なら、叩き台を用意して議論し、その場で内容を更新する。最後の数分で、決まったことや残った論点をみんなで確認する。発言の全文がどうしても必要なら、AIに残してもらえば十分です。

その間、人間は議論に参加した方がよい。話を聞いて考え、自分の認識が変わったところを残します。

分かったこと。分からなかったこと。そこから考えたこと。

これは会議だけではありません。資料を読むときも、データを見るときも、顧客と話すときも同じです。仕事をしていて、自分の理解が少しでも進んだなら、その時点の考えを残しておく。

資料に書いてあることを、もう一度自分のメモへコピーする必要はありません。

メモするべきなのは、書いてあることではなく、そこから自分が考えたことです。

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