得意な「動詞」から始める学部選び|8年間の進路指導でわかった「好きなこと」だけでは失敗しやすい理由
「理系に来たけど、文系だったかもしれない」
「物理が好きだから理学部だと思っていたけれど、本当にこの選び方でいいのかわからない」
高校教師として8年間、生徒の進路相談に関わる中で、こうした迷いや違和感に何度も向き合ってきました。
そのたびに感じていたのは、「好きなこと」だけを手がかりにして学部を選ぶことには、見落とされやすい危うさがあるということです。
もちろん、「好き」は大切です。
けれど、「生物が好き」「物理が好き」「経済に興味がある」といった対象だけでは、その学部で求められる学び方や考え方まで見えてきません。
なぜ、従来の「好きなこと探し」では学部のミスマッチを防げないのか。
それは、多くの生徒が「好きなこと(対象)」と「学問の内容」の二点だけで相性を測ろうとし、「得意な動詞(手段)」という視点が完全に抜け落ちているからです。

本記事では、「好きなこと」だけに頼らず、生徒が後悔しにくい学部選びをするために、「動詞」から学問適性を考える方法と、面談で使える実践法を共有します。
「学問の相性」を言語化する指導法
数学に公式があるように、進路指導における「学問の相性」にもある程度整理できる型があります。私が生徒に伝えているのは、次の3つの要素の重なりです。
好きなこと(対象): 興味・関心の向かう先
学問で扱う内容: その学部で研究・学習するテーマ
得意なこと(動詞): 無意識に繰り返している思考や行動のクセ

多くの生徒は「好き」と「学問」の重なり(例:「宇宙が好きだから天文学」)だけで進路を考えようとします。
もちろん、好きなことを出発点にすること自体が悪いわけではありません。
しかし、「好き」だけで選んでしまうと、その学問で求められる考え方や取り組み方に直面したとき、「思っていたのと違う」「自分には向いていないかもしれない」と感じやすくなります。
そこで重要になるのが、三つ目の軸である「得意なこと(動詞)」です。
私は面談の中で、次のような順序で生徒の思考を整理していきます。
「得意な動詞」を抽出する: 本人が無意識に繰り返している思考や行動のクセを見つける。
「学問の動詞」と照合する: その動詞が、志望学部で求められる学び方や研究手法と合っているかを検証する。
「対象」への興味を確認する: その動詞を、その学問が扱う対象に向けたときに、面白さを感じられるかを確認する
一般的な進路指導では、まず「何が好きか」を聞き、次に「その好きなことを学べる学部はどこか」を探すことが多いと思います。
しかし、私が重視しているのは、その順序をあえて逆転させることです。

先に「何が好きか」ではなく「どのような考え方や行動を無意識に繰り返しているか」を見る。そのうえで、その得意な動詞が学問の中でどのように生かされるのかを照合する。
最後に、その動詞を向ける対象として、本当に興味を持てるかを確認する。
この順序で考えることで、「好きだから選ぶ」だけでは見えなかった学問との相性が、少しずつ言語化されていきます。
なぜ「好きなこと」ではなく「得意なこと」から見つけるのか。
その根本的な理由は、高校生の「好き」は、授業、先生、友達、SNS、進路イベントなどとの出会いによって変わる可能性があるからです。一方で、「得意」は思考や行動のクセとして、比較的長く残りやすいものです。
詳細な理由については、以下の記事で解説しています。
① 「得意なこと」を「動詞」で見つける
生徒に「得意なことは?」と聞くと、多くの生徒は「特にありません」と答えます。それは生徒が「得意=特技、実績、他人より圧倒的に優れていること」だと思い込んでいるからです。
しかし、進路選択で見るべき「得意」は、もっと日常の中にあります。見るべきポイントは、生徒の日常に潜む「思考のクセ(動詞)」です。

他の生徒なら面倒に感じることを、本人はあまり苦にせず、淡々と続けられる。そこに、その生徒の「得意な動詞」が隠れています。
「整理する」(情報を構造化する力)
「予定を立てる」(逆算してプロセスを組む力)
「改善点を見つける」(現状を疑い、最適化する力)
「人の相談に乗る」(傾聴・共感)
「ゲームの攻略法を調べる」(仮説・検証)
これらは、単なる性格や趣味ではありません。
学問の世界で求められる考え方とつながる可能性があります。たとえば、「整理する」が得意な生徒は、情報を分類したり、構造化したりする学問と相性がよいかもしれません。
この得意な動詞を言語化させてあげることが、学問との相性を考える第一歩になります。
② 学部で求める「動詞」との照合
生徒の「得意な動詞」が見えてきたら、次に考えるのは、その動詞が学部で求められる学び方と合っているかどうかです。

大学での学びの本質は知識の習得ではなく、その学問ならではの「考え方」や「問いへの向き合い方」を身につけていくものです。
たとえば、学部ごとに求められる動詞は少しずつ異なります。
経営学部:組織や資源を「動かす」「改善する」「最適化する」
工学部: 物理的な制約の中で課題を「形にする」「設計する」「検証する」
法学部: 複雑な利害関係や事象を「定義する」「解釈する」「論理を組み立てる」
ここで重要なのは「生徒が日常で無意識にやっていること」を学問の言葉に「翻訳」してあげることです。
例えば「散らかった部屋をルール化して片付けるのが得意」な生徒は、物事を分類し、ルールを作り、構造化することが得意なのかもしれません。
この「構造化する」という動詞は、さまざまな学問とつながります。理学部であれば、自然現象の中にある法則を見つけること。法学部であれば、複雑な事象を整理し、ルールや秩序として捉えること。
「その学部に入ったら、毎日どんな「動詞」を繰り返すことになるか?」
という裏側のリアルを教えてあげること。これが、手触り感のある進路選択に繋がります。
実際に学部ごとの違いをどう見ればいいのかを知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
③ 学問の内容に興味を持てるか確認する
自分の「得意な動詞」と「学部で求められる動詞」が重なったら、最後に確認するのは、その動詞を向ける対象への興味です。
たとえば、同じ「分析する」という動詞でも、何を分析したいかによって、相性のよい学問は変わります。
自然現象を分析したいのか。
社会や経済の動きを分析したいのか
データやシステムを分析したいのか
人の行動や心理を分析したいのか
同じ「分析する」が得意でも、向かう対象が変われば、学ぶ内容も、面白いと感じるポイントも変わります。

「自分の得意な動詞を使って、その対象を探究したいと思えるか?」
この順番で考えることで、「なんとなく興味がある」という曖昧な動機が、少しずつ具体的な志望理由に変わっていきます。
動詞は分かっても、面談でどう引き出せばよいのか
ここまで、学部選びでは「好きな対象」だけでなく、「得意な動詞」を見ることが重要だと説明してきました。
ただし、実際の面談で、生徒が自分から、「私は工夫することが得意です」
、「分析することに向いています」と答えてくれるわけではありません。
たとえば、
「マーケティングに興味があります」
と答えた生徒に、次に何を聞けばよいでしょうか。
そこで、生徒の曖昧な興味を、
学問キーワード
→ 関わり方
→ 中心動詞
→ 過去の経験
→ 大学で考えたい問い
の5つのSTEPで整理する面談教材を作成しました。
有料記事では、
28の学問キーワードを収録した進路ワークブック
そのまま配布できる生徒用ワークシート
次に何を聞くかを整理した教師用ガイド
STEP1からSTEP5までの面談ロールプレイ
を使い、商学部・経営学部・経済学部の仮決めから、志望理由書への接続まで解説しています。
おわりに
進路指導の本質は、単に「行き先」を決めることではありません。
生徒が、自分はどのように考え、どのように関わると力を発揮しやすいのかを知り、その力を生かせる学問のフィールドを見つけていくことです。
そのために必要なのは、「好きなことは何か」と聞くだけの面談ではありません。生徒の日常にある小さな行動や、本人にとっては当たり前すぎて見えていない思考のクセを拾い上げ、それを学問の言葉へと翻訳していくことです。
「よく整理している」
「いつも改善点を見つけている」
「人の話を自然に聞いている」
「気になったことを深く調べている」
そうした日常の中に、生徒の得意な動詞は隠れています。
【関連記事】
「実際に学部ごとの違いをどう見ればいいのか」を具体的に知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
得意な「動詞」から逆引きする学部選びガイド
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